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【特集】施設で育った若者たちは今(1) 寄る辺なき孤独とコロナ

記事公開日:2021年02月03日

コロナ禍の都会の片隅で、人知れず苦境に立つ若者たちがいます。かつて彼らは、児童養護施設などで子ども時代を過ごしました。施設を出た後、経済的に困窮するも頼れる家族がなく、孤立を深めて生きる希望を失っていくという厳しい現実。施設出身者を支援する自助グループに密着し、家庭で育つことができない子どもたちを社会はどのように支えることができるのか考えます。

コロナ禍で追い込まれる施設の卒園生たち

児童養護施設では、親の病気や貧困、虐待などによって家庭で育つことができない子どもたちが共同生活を送っています。しかし国の法律に基づき、施設で暮らすことができるのは原則18歳まで。卒園と同時に、社会での自立を迫られます。多くの子どもたちが確かな後ろ盾がないまま、たった一人で施設を巣立っていくのです。

児童養護施設で施設長を務める早川悟司さんが制度の課題を指摘します。

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児童養護施設の施設長 早川悟司さん

「一般家庭だと、(自立に)失敗したときにもとの実家に戻るとか、実家から引き続きいろんな形で応援してもらえるけれど、児童養護施設の場合は失敗が許されない。一発勝負で自立をしないといけない実情があって、18歳で自立を求めるのは酷。制度としても課題だなと思っています」(早川さん)

今、早川さんが心配しているのは、卒園した子どもたちがコロナ禍の中でどのような生活を送っているのかということ。去年5月、施設は過去10年間の卒園生およそ80人に手紙を送り、近況を知らせてほしいと呼びかけました。すると、多くの卒園生から助けを求める声があり、懸念していた以上に厳しい現実にさらされていたのです。

収入が半分に減り、勤めていた店も休業。所持金が7000円になり、家賃も払えず退去寸前に追い込まれた。(夜の接客業・28歳)

全ての仕事がなくなり、部屋に引きこもりがちになる。夜も眠れず、精神的に不安定な状態に陥った。(内装の仕事・22歳)

職員がそれぞれ卒園生たちの自宅を訪問し、資金面の援助や就労支援を行いました。
しかし早川さんは、コロナの影響は今後さらに拡大していくことを懸念しています。

制度の狭間で孤独に陥る若者たち

国は児童養護施設に対し、18歳で卒園した後もケアを継続するよう義務づけています。しかし具体的な方策は示されず、人員の配置も不十分です。施設からの支援が行き届かないなか、卒園した若者たちは苦境に立たされていました。

児童養護施設を卒園後、一人暮らしをしているハヅキさん(21歳)です。施設に入ったのは3歳の時。母親から虐待を受け、まともに食事を与えられず放置されていたところを保護されました。

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ハヅキさん

ハヅキさんは3年前に施設を出てレストランに就職。しかし、職場での人間関係につまずき体調を崩します。仕事を辞めて精神科に通院し、1年以上の療養生活を経て居酒屋に転職しましたが、新しい職場に慣れ始めた頃、突如襲いかかったのがコロナでした。

「もともと夜の営業だったのが、夜に営業しなくなって、昼間お弁当を売るだけ。働く時間が短くなって、収入も全然減った。毎月収入が一桁(数万円)だった。一桁なんて家賃光熱費で飛んじゃう。お腹がすいたときに、ご飯を買いに行けない。水を飲むとかばっかり。普通の家で育ってたら仕送りとかあったのかなとか、一回家に戻るとかできたのかなって思うけど、結局は生きてきたのは施設だし。自分一人でやっていかなきゃいけないっていう孤独だけでした」(ハヅキさん)

この先どう生きていけばいいのか。生みの親にも、かつて育った施設にも頼れず、途方にくれる日々を過ごしました。

そんなときSNSを通して辿り着いたのが、施設出身の当事者が運営するボランティア団体の支援情報でした。

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ボランティア団体が運営するSNS

施設や里親のもとで育った若者たちに向けて、食料や衣類を無償で提供していたのです。ハヅキさんはお米や缶詰などの食料や、冬場をしのぐセーターなどを受け取り、生活をつなぎ止めることができました。

ハヅキさんに支援を行ったのは、「ACHAプロジェクト」というボランティア団体です。代表の「マコさん」こと山本昌子さん自身も児童養護施設で育った経験があり、コロナをきっかけにSNS上に当事者のコミュニティを立ち上げました。グループ名は「社会的養護の愉快な仲間たち」。

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「ACHAプロジェクト」代表 山本昌子さん

マコさんは去年の6月からSNSを駆使して寄付と物資の提供を呼びかけ、ボランティアで支援に取り組んできました。毎月、施設や里親のもとで育った若者たちおよそ30人に向けて、食料や衣類を送り続けています。

「つながっている子の90%くらいはみんな一人暮らし。(コロナで)『家にずっといてください』となったら、一人の空間で、なかには1週間誰ともしゃべってないという子もいる。家族がいない、一緒に住んでいないから、誰とも会わない空間が生まれてしまうのは独特。施設の子だったり、何か家庭に事情を抱えている子の特有の状況だとすごく感じています」(マコさん)

マコさんは18歳で自立した後、施設という拠り所を失ったことで、深い孤独を抱えながら生きてきました。そんなマコさんに救いの手を差し伸べたのは、専門学校で出会った先輩の「アチャさん」こと豊田麻子さんです。成人式に出られなかったマコさんのために振り袖を着せてくれたのです。そして、「生まれてきて良かったと思ってほしい」と声をかけてくれました。

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山本昌子さんと豊田麻子さん

自分を気にかけてくれる人がいる。一人ではないと実感できたことで、生きる希望につながりました。

この経験を機にマコさんは5年前、22歳の時にボランティア団体を設立します。その名も、アチャさんの名前を取って「ACHAプロジェクト」。施設で育った若者たちに晴れ着を着せて写真を撮り、成人を祝う活動をスタートさせました。

「私も18から22歳の時に死にたいという願望が強くてつらい時期だった。でも、『今日うれしい』が日に日に増えていった。それは自分の力でというよりは、周りの人がそうしてくれて、死にたいと思う日がなくなった。(晴れ着を着る)たった一日のことかもしれないけど、ちょっとでも、1ミリとかでもその子が元気になれるきっかけになりたい」(マコさん)

施設の存在が心の支え

マコさんが今、特に力を入れているのが若者たちの孤立を防ぐ取り組みです。毎月1回、オンラインの交流会を開催しています。マコさんのコミュニティには全国から130人を超える若者が参加。この日は、およそ20人の仲間が集まり語り合いました。
しかし参加者の誰もが人とのつながりを絶たれて居場所を失いつつありました。

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オンラインの交流会の様子

参加者のマナミさん(23歳)も、コロナによって拠り所を失ったひとりです。マナミさんにとって、かつて育った施設の存在が心の支えだったといいます。

「困ったことは、施設に気軽に帰れなくなったこと。悩みがあると施設の先生に相談してたんですけど。電話をすればいいと思うんですけど、忙しいかなとか考えちゃって。悩みをあんまり言えない」(マナミさん)

マナミさんは12歳から関西の施設で育ち、卒園後は関東で保育士として働いています。これまで年に3回は施設に顔を出していましたが、この1年、ウイルスを持ち込む恐れから一度も帰れずにいます。マナミさんはこのところ毎日のようにアルバムを見ながら、施設で育った子ども時代の日々を思い起こしています。

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アルバムを見るマナミさん

マナミさんの母親は精神疾患を抱え、子育てが難しい状況でした。そこで、中学2年生の時に自らの意志で施設へ行くことを決断します。そんなマナミさんを施設の職員は温かく迎え入れ、どんなときも応援し励まし続けました。マナミさんにとってようやく見つけることができた居場所です。

「今までは(施設に)帰ってきたことを喜んでもらったり、話を聞いてもらったり、『すごいじゃん』と認めてもらうことで頑張れていた。でもコロナで帰りにくくなって、そういう機会がなくなった。今でも手紙を読み返したり、いろいろ思い出しながら頑張れている部分もあるけど、悩んだときに施設の存在が私にとって大きい。思い出の場所というか、私にとって一番の家という感じだったので」(マナミさん)

あなたは一人じゃない

11月下旬、マコさんはSNSを通して化粧品やアクセサリーなどの寄付を集めていました。日々を生きることに精一杯な仲間たちへのクリスマスプレゼントにするためです。

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クリスマスプレゼントを準備するマコさん

「化粧品をあまり買えてない子がいる。私も個人的にクリスマスが施設にいた頃から大好きだった。クリスマスって施設を出た後、施設のみんなと楽しく過ごしていたのに『今はひとりぼっちなんだ』と、余計悲しくなることがあった。みんなにとって孤独を感じないクリスマスであってほしい」(マコさん)

半年間をかけて200人分のプレゼントを用意したマコさんは、一人ひとりに宛てて手紙をしたためます。コロナ禍の今、県外に暮らして施設に帰れず苦しんでいる人に手紙を添えてプレゼントを送り、「あなたは一人じゃない」「楽しいクリスマスになりますように」という思いを込めました。

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手紙を書くマコさん

そしてコロナ禍で迎えたクリスマスイブ。集まった仲間たちにマコさんはプレゼントを手渡します。ハヅキさんもかけつけ、マコさんからネックレスを着けてもらいました。ハヅキさんにとって施設を出て以来、初めてもらうクリスマスプレゼントです。

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ハヅキさんにネックレスを着けるまこさん

「めっちゃうれしい。自分じゃ買えないものだから。施設にいた頃を思い出す。こういうの、久しぶりすぎる。『一人じゃないんだな』って思える」(ハヅキさん)

最後にマコさんは困っている人に向けて、ためらわずに声をあげてほしいと訴えます。

「本当は困っているんだけど、SOSが届いていない子のほうがはるかに多い。SOSを出すことで誰かが動いてくれるかもしれない可能性をあきらめてほしくない。『悲しい世界だけじゃない』と、みんなに見えるように、実感として感じられるように届けたい。(マコさん)

新型コロナがあらためて浮き彫りにした、施設で育った若者たちの窮状。感染の拡大が続くなか、寄る辺なき孤独を分かち合いながら、今日も日々を懸命に生きています。

【特集】施設で育った若者たちは今
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※この記事はハートネットTV 2021年1月12日(火曜)放送「【特集】施設で育った若者たちは今(1)寄る辺なき孤独とコロナ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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