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“あがるアート”(4)デジタルが生み出す可能性

記事公開日:2021年01月18日

「あがるアート」、第4回は京都府の「デジタルアーカイブ」。日本語と英語が併記されたこのWebサイトへは世界中から誰でもアクセスが可能。ナント!公開されている2500点もの高精細なアート作品には「ぜひ利用したい」というオファーが相次いでいます。デジタル化された画像データを駆使して、“バーチャル展覧会”を開催したり、絵画を拡大・縮小して壁画や商品のデザインに用いたり…さまざまな可能性が広がっています!自治体が中心となって動きはじめた障害者アーティストの支援「デジタルアーカイブ」はどのように運営されているのでしょうか!?そのノウハウに迫ります。

デジタルアーカイブが必要な理由

京都市上京区に、障害のある人のアート作品・専門のギャラリー「アートスペースコージン(art space co-jin)」があります。オープンしたのは4年前で、運営しているのは京都府が中心となって連携した美術館など25の団体です。

画像(ギャラリー「アートスペースコージン」)

ギャラリーの奥では運営スタッフがWebサイトを更新し、新しい作品を公開する作業をおこなっています。取り組んでいるのは、2年前から力を入れている「デジタルアーカイブ」です。このサイトで、14人の作家、2500点の作品を見ることができます。

画像(デジタルアーカイブされたWebサイト)

気に入った作品があれば二次利用の相談が可能。営利目的の場合は使用料が発生し、その全額が作家や施設に支払われる仕組みです。担当している京都府障害者支援課の柿木真菜さんが、この事業への思いを語ってくれました。

画像(京都府 障害者支援課 柿木真菜さん)

「障害のある作家さんの作品が保存されない、評価されない、という現状があります。福祉の施設の中だけで事業をされて、作品を作られているということがあって、(作品を)保存したり、発信したりしていくことが必要ということで事業をおこなっています」(柿木さん)

「デジタルアーカイブ」の強みは作品の保存と発信だけではありません。デジタルならではの活用法、「バーチャル展覧会」があります。

画像(「バーチャル展覧会」の様子)

それは、アーカイブの画像データを配置するだけでバーチャル空間に美術館が作れる仕組みで、障害のあるアーティストの自立を支援しているNPO法人が制作しました。しかも、ショッピング機能があるので、作品を楽しめるだけではなく実際に買うこともでき、アーティストの収入につながっていきます。

NPO法人の若尾尚美さんは、コロナ禍でリアルな展覧会が開けない今、デジタルアーカイブのおかげで作家の自立支援が継続できたと言います。

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NPO法人 若尾尚美さん

「世界中の方に見てもらえる機会を作られたので、今後もデジタルアーカイブを利用したこのようなバーチャルの展覧会の企画をしていきたいと思っています」(若尾さん)

未発表作品の発掘も大切な仕事

新しく制作される作品の公開だけでなく、過去の未発表の作品探しもデジタルアーカイブの仕事です。スタッフが福祉施設に出向いて探してみると、長年保管されていた作品が231点も見つかりました。

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未発表作品を探すスタッフ

アートスペースコージンのスタッフは、大学で美術を学んだ専門家集団です。作品を持ち帰るとまず、使われている画材や、作品のサイズを記録していきます。

作品の撮影はプロのフォトグラファーから指導を受けました。カラーチェッカーと一緒に映し込んで、もともと作品が持っている色を忠実に再現。微妙な色の違いも丁寧に補正をかけていきます。

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作品を撮影している様子

京都中の施設や個人宅を回り、眠っている作品を見つけ出してデータ化するのは地道な作業です。しかし、アーカイブ化することで作品に新たな価値が生まれるとスタッフの今村遼佑さんは考えています。

「障害のある方の作品は福祉の視点から見られがちなんですけど、美術の分野にとっても価値を持つんじゃないかなと思っていて。作家さんそれぞれの良さだったりとか、アーカイブで見えてきたりとか、新しい発見がでてきたりするとすごくうれしいことです」(今村さん)

アーカイブ化は絵画だけでなく、陶芸作品も行われています。作家の木村康一さんが粘土をこねて創り出しているのは「妖怪」。これまでにおよそ3000点のオリジナル「妖怪」を生み出してきました。

画像(木村康一さんが作ってきた「妖怪」)

木村さんは小学生の頃に水木しげるの影響で「妖怪」が好きになり、20歳頃から粘土で制作を始めます。そして2019年8月に、初めての個展が実現しました。この時に役立ったのがデジタルアーカイブ。650点を超えるデータの中から作品を厳選。年代別に特徴を把握することで展示にも工夫ができ、来場者からの評判を得ることができたのです。

作品を後世に残すことの大切さ

京都府では25年前から障害のある人のアートを支援してきましたが、大きな転機をとなったのは2011年のこと。その年、京都で開かれた「国民文化祭」で、障害のあるアーティストたちの個性的な秘蔵コレクションを大胆に展示。マネキンに履かせたパンツや、薬を包装していた大量の殻などを現代アートのように配置したところ、来場者から大好評を得ました。

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「京都とっておきの芸術祭」の展示

そこで、芸術としての価値を高められれば当事者の経済的な支援につながるかもしれないと考え、京都府は2015年に支援組織を立ち上げます。

ところが、京都の福祉施設などにある膨大なアート作品を、どのように管理・保存すればいいのかという大きな課題が立ちはだかります。それでも京都府・障害者支援課の鎌部正信さんは、作品を残すことは必要な取り組みだと考えました。

画像(京都府 障害者支援課 課長 鎌部正信さん)

「作品が誰にも評価されないまま埋もれてしまうというのが、これまでたくさんあったと思うんですね。後になってその作品の価値を見つけた時に、過去の作品がなくなってしまうということにならないように、まずはそれを『後世に残す』という形で、取り組みを進める」(鎌部さん)

悩むスタッフにヒントを与えてくれたのは、京都・亀岡にある「みずのき美術館」です。福祉施設「みずのき」には、1959年からの入所者が描いた2万点の作品を所蔵しています。美術館では作品1点1点を撮影してデジタルアーカイブで保存し、館内で閲覧できるようにしていました。そのノウハウを、美術館の奥山理子さんが京都府に提案したのです。

画像(みずのき美術館 キュレーター 奥山理子さん)

「仮に手元になくても、デジタルで記録として残っていれば今後研究も進んでいくでしょうし、活動もどんどん多様な展開が期待できると思いました。京都府が障害者の芸術活動を支援していきたいという思いをすごく感じたので、提案させて頂いたのが2015年ぐらいだったと思います」(奥山さん)

美術館の提案を受けて、さっそく京都府でもデジタルアーカイブの制作に取り掛かりました。それ以来、才能のある作家を発掘する地道な作業が続いています。

デジタルアーカイブが広げる可能性

作品をデジタル化することで、さまざまな可能性が広がっています。大阪府茨木市のJR総持寺駅では、改札を出ると高さ2.6メートルの巨大な「滝の絵」が展示されています。

画像(総持寺駅の改札前に展示された「滝の絵」)

デジタルアーカイブのメリットは作品の拡大・縮小が自由自在なこと。ちなみに原画は高さ60センチほどです。大阪・茨木市は、市民に気軽にアートを楽しんでほしいとの思いから展示を企画しました。

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地域団体スタッフ 藤本聖美さん

企画に携わった地域団体スタッフの藤本聖美さんは「滝の絵」にとても惹かれたといいます。
「構図と色と筆のタッチがすごく魅力的な作品だったのですごく印象に残っています。こんなふうに描かれているんだってことを、拡大して大きくなったことでより知ることができます。キャンバスの目まで見ることができるので、より面白く魅力が分かるのではないかと思っています」(藤本さん)

この展示をきっかけに、駅に近い商店街では原画展を開催。立体感のある筆使いなど、原画のもつ凄みに触れることができます。

魅力的な展示作品に触発され、その作者のことが気になる人もでてきました。絵を描くことが趣味という、主婦の畑中直子さんもその一人です。

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宇仁英宏さんの『滝の絵』に感銘を受けた畑中直子さん

「足が止まりましたね。静かな迫力っていうのかな。『あぁいいな。いい絵を描いてはるな』って思いましたね。」(畑中さん)

畑中さんは、滝の絵を描いた宇仁英宏(うに・ひでひろ)さんが通っている絵画教室に入会しました。そこでは絵を習うより、作者と触れ合うことに心地よさを感じています。「あがるアート」は、時に新しい出会いを生むのです。

デジタルとリアルの両輪で展開する

「デジタルアーカイブ」のおかげで、作品の画像データを加工して商品化されることもあります。作家の木村全彦さんが京都・藤森神社の伝統行事「かけ馬神事」を表した作品は、「うちわ」のデザインに起用されました。

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「うちわ」のデザインに起用された木村全彦さんの作品

今回制作した「うちわ」は5000枚。京都市内の美術館や博物館などで、来館者に無料配布されています。いまや障害のある人のアート作品は、地域の「あがるアート」になっているのです。

「京都としても、ひとつの『宝』であるのかなと感じています」(京都府 障害者支援課 鎌部さん)

デジタルアーカイブとリアルな展示の両輪でアートを身近なものにしようと考えている京都では、「あがるアート」が次々に誕生しています。2019年12月に開催された、障害のある人のアート作品を紹介する「とっておきの芸術祭」では、絵画や陶芸など662点の新作が発表され多くの来場者が訪れました。

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「とっておきの芸術祭」で展示された絵

デジタルアーカイブのスタッフたちは、毎年開かれる「とっておきの芸術祭」を新しいアーティストを発掘するチャンスだと考えています。
「これ好きなんです。微笑ましいようにも見えるんですけど、ちょっと不気味な感じにも見えたりとか。ブラックさもありつつ、見てて飽きない」(舩戸さん)

今村さんも気になる作品を見つけました。
黒を背景に細い金色の線で、にわとりやハート、星が緻密に描かれています。

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「とっておきの芸術祭」で展示された絵

「こういうスタイル持って描いてるんだろうなっていう。ひとつじゃなくてまとめて見ると、もうちょっと良さが分かるときがあるので」(今村さん)

「あがるアート」の可能性を広げる「デジタルアーカイブ」。
さあ、みなさんもアクセスしてみませんか?

画像(京都府知事賞 「びわ湖」AKIO作)

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性 ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2021年1月18日(月曜)放送「あがるアート File4. デジタルでアート革命!?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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