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きつ音の困りごと・お悩み 支援者からのアドバイス(1)

記事公開日:2021年01月14日

さまざまな障害や疾患・特性のある人の「さりげなく味方でいられる人」=「アライさん」を目指す「#隣のアライさん」プロジェクト。第5回のテーマは120万の当事者がいると言われる“きつ音”です。「みんなの声『きつ音(どもること) 周囲との関係について体験を募集します』には当事者や家族からさまざまな困りごと、相談が寄せられました。(1)ではきつ音の臨床の現場やセルフヘルプグループについて、番組にも出演した言語聴覚士・横井秀明さんにお答えいただきます。

画像(横井さん顔写真)横井秀明さん 言語聴覚士、なるみ吃音相談室 代表
幼少期に発吃(はっきつ)。金融機関勤務を経て言語聴覚士に。きつ音の相談・対応や訓練の指導に取り組む。

きつ音の治療・緩和

ゼミの先生から受けた言葉

大学生のとき、研究内容を学会で発表することになった。私は難発なので、とにかくスムーズに言葉が出ない。何回も発表練習を重ね、言い換えの言葉も用意していた。でも、本番では詰まった。しかも難発がひどく言い換えの言葉も出ない。何とか発表を終えたものの、とあるゼミの先生からは、「君の話し方は耳障りだな」と言われた。とても、ショックを受けた。自分なりに努力して練習を重ねたのに。発表内容ならまだしも、その発言は私自身を否定されたようで、しばらく立ち直れなかった。

Yoshiさん/大阪府/男性/30代

―きつ音のある方から“決められた言葉を繰り返し練習した”という声が寄せられました。臨床の現場では実際にどのような訓練方法があるのでしょうか?

横井:きつ音が生じるメカニズムは、小児(およそ8歳まで)と成人では大きく異なると言われています。小児のきつ音は、脳からの「こういう内容を、こういう文章で話せ」という言語指令に対して、発声発語器官(話すために使われるカラダの部分)が実際に動き出すタイミングがズレているときに、そのズレが解消されるまでの間に起きる現象だと考えられています。一方、成人の場合は、主に小児期に周囲の反応などによって形成されたきつ音に対するネガティブな感情が、大きな影響を与えます。きつ音が生じそうになったとき、不安や恐怖によって発声発語器官をうまく使えなくなってしまいタイミングのズレが生じると考えられています。

成人の訓練方法は一般的に、直接法と間接法に分けられます。直接法には軟らかな発声、ゆっくりとした発話速度、引き伸ばし気味で句切れの少ない口調など、「どもりづらい話し方」を段階的に習得することを目指す「流暢性形成法」があります。Yoshiさんのように何度も読むという練習はよく行われますが、どもるときとは違う話し方の練習をしないと効果が出づらいのです。

直接法には「吃(きつ)音緩和法」という方法もあります。たとえば「きのう、りんごを食べた」と言おうとして、「りんご」の「り」が出てこないとき、「やばい、このままだとどもっちゃう。難発になっちゃう」という不安や恐怖を感じるとしましょう。この時、無理やり言葉をひねり出そうと「もがく」くと「きのう、(力みながら)りぃー、りぃー、ぃぃんりんごを食べた」といった非常に目立つ、苦しそうなきつ音になってしまうのです。それを「きのう…(楽に言えるようになるまで待って)…りんごを食べた」と、もがかずに話す練習を何度も繰り返す。つまり吃(きつ)音緩和法は、どもらないように「話し方を変える」ではなく、「どもり方を変える」ことが目標となっています。
「もがき」はまるで条件反射のように起こるので、当事者に自覚はほとんどありません。ですから「どもるという現象」と「もがくという行動」は、別ものだということを理解してもらって、「どもる」ことはともかく、「もがく」のをやめましょうとまずお伝えします。

間接法は、きつ音そのものではなく、きつ音やコミュニケーションに対する感情や思考に照準をあわせています。代表的なのは認知行動療法です。これは、主に出来事に対する認知(捉え方)や行動(対応)を変えることで、出来事によって生じたネガティブな感情の変容を目指します。
Yoshiさんは学会発表という誰もが非常に緊張しやすい場面に向けて、一生懸命練習していたようですね。もしかすると、発表などでひどくどもってしまったという出来事が過去にあったので、なおさら頑張っていたのかもしれません。しかし、それがかえって「どもらないようにしよう」という意識を強め、不安や恐怖を高めてしまったのではないでしょうか。きつ音は常に変化して生じるものなので、準備がしづらい側面があります。それならば「どもらないように」ではなく、「(どもっても)うまく伝わるように」、「話し方」ではなく「伝え方」を意識して練習したほうが効果的だったかもしれませんね。

―横井さんは臨床の場で、どの訓練方法を選択することが多いのですか?

横井:クライアントさんのきつ音に対するネガティブな意識の強さによって使い分けていますが、吃(きつ)音緩和法を使うことが多いですね。病院や私の相談室などに来るクライアントさんには、不安や恐怖が非常に強い方が多くいらっしゃいます。その場合かなり習熟していないと、流暢性形成法は使えないという問題点がありますので、不安や恐怖に起因する「もがき」行動に対してアプローチする吃(きつ)音緩和法のほうが効率的で、満足いただけることが多い印象があります。専門家の指導がなくとも「こういう風に話すと、どもりづらい」という経験則から、流暢性形成法に近い練習をされている方は時々お見かけするのですが、「どもること自体ではなく、もがくことをやめるほうが現実的だ」という吃(きつ)音緩和法の考え方は、普通に生活していてはなかなか気づくことができません。

国語の時間

私は小学生3年生~中学2年生くらいまできつ音があり、特に学校の国語の時間が嫌でした。友人にも伝えたいことが素直に言えなかったり、どもる単語で話せないので違う言葉で言い換えようと必死で言葉を探したりしていました。特に タ行 と カ行 の単語の一語目がダメでした。きつ音を克服できたのは、とにかくテレビを見てどもりながらセリフやCMの言葉をぶつぶつ話し、半年くらいしていたら、まず カ行 からだんだんひっかからないようになってきて、 タ行 も1年くらいしてからひっかからないようになりました。今では全然大丈夫です。

メンタルヘルスさん/大阪府/男性/40代/会社員

小児のきつ音の訓練方法は、言語発達の水準と実際の言語行動のアンバランスを整えることが中心となります。大まかに言うと、親御さんなど周囲の人の関わり方や生活を変えることで、できるだけシンプルな文章で、ゆっくり、落ち着いて、年齢相応の話題を話せるようになることを目指します。また、言語発達の水準と実際の言語行動のアンバランスは何らかの能力が相対的に低いことを意味するので、その低い領域を底上げするような指導をする場合もあります。また、さらにきつ音自体に対する言語訓練を導入する場合は、早くても4歳くらいではないかと思います。その際、お子さんの多くは言語訓練の必要性を理解することが難しいので、遊びの中で取り組むことになるのが一般的でしょう。
メンタルヘルスさんの声で「テレビを見てどもりながら」という部分が非常に気になりました。誰も聞いていなければ、きつ音へのネガティブな感情は生まれません。成人の場合、独り言ではきつ音は出ないか、もしくは出づらいと考えられています。中学2年生くらいまできつ音のあったメンタルヘルスさんは、おそらく小児期のきつ音の原因である「言語発達の水準と実際の言語行動のアンバランス」が何らかの理由で残っており、それが独自の練習や、ゆったりと生じた言語発達の完成のいずれか(あるいは両方)によって解消されたことによって、きつ音が治癒したのではないでしょうか。

相談できる場所と人の少なさ

様子見で

現在7歳、小学校1年生の息子にきつ音があります。今もきつ音はあります。
息子が2歳半の時、きつ音の相談をしに保健センターに行きました。
結果、さほどきつ音は見られないと判断されこのまま「様子見で」と言われました。
たった一回の30分ほどの面接では息子は大人しくしていて、あまり喋らなかったからだと思います。
様子見とはどうすればいいのでしょうか?きつ音についてオープンに話していいのか?
なんの情報も選択肢もないまま様子見と言われるのは辛いです。
誰に相談すればいいのかわかりませんでした。いつまで様子見を続けていけばいいのですか?

熊本のママさん/熊本県/女性/30代

転勤族の子どものきつ音

夫が転勤のある仕事をしています。その関係で子どもは引っ越しと転校を繰り返すことになります。
初めてきつ音が出たのは最初に転園(年少)させた時でした。それからなおることはなく波を繰り返しながら来春から小学校になりますが、2年生に上がる時には転校の可能性があります。
現在はお友達も理解してくれてとても過ごしやすい環境であるため、家族一緒に過ごす事を取るか子どもの環境を取るか悩んでいます。もっと周囲の理解が進んできつ音症でもどこへ行っても、受け入れてもらえる世の中になったらいいなと思います。また、きつ音症をみて下さる病院が少ないです。親も子もとても悩んでいます。しっかり相談できる所、「様子見で」以外の対応をしてくださる所が増えることを願います。

ぴこなさん/大阪府/女性/30代

―「様子見」と言われるのには、どんな背景があるのでしょうか?

横井:統計的にきつ音は、発症してから4年以内に8割が治ると言われています。8割は数字的には大きく感じるので、「学校に入る前くらいまでには治るから、様子を見ましょう」と言われるのだと思います。根拠のない話ではないのですが、不安を抱えて私のところに来る人が多いですね。

―ぴこなさんは、きつ音を診てくれる病院が少ないとおっしゃっています。

横井:きつ音に対応できる医療機関が少ない原因はさまざまですが、言語聴覚士を含むリハビリ専門職のマンパワーの多くが、高齢者医療に投入されているという構造的な要因が大きいと思います。高齢者には、入院時の早期リハビリや在宅リハビリが重要とされているため、言語聴覚士もこれらの領域に従事することが期待されています。結果として外来診療へのリソース配分が少なくなっているという側面は無視できないでしょう。実際、私の養成校の同級生は全部で30人ほどいましたが、多くは高齢者のリハビリをしています。
外来診療においても、特に小児の場合はいわゆる発達障害への対応が中心となっており、きつ音が十分に顧みられているとは思えません。きつ音はまだまだ社会的な認知度が低く、医療系の学生においても現職者においても、あまり関心が持たれていないという背景があるのではないかと感じています。
もちろん、きつ音は伝統的に教育領域、つまり通級指導教室(ことばの教室)によって対応されてきたことも影響していると思います。とはいえ、きつ音臨床の経験がある言語聴覚士が少ないのは大きな問題だと言わざるをえません。

―では、きつ音のことで相談したいことがあるときは、どうすればよいのでしょうか。

横井:言語聴覚士が在籍している医療機関へ問い合わせれば、何らかの対応が期待できるとは思います。さらに、医療機関に直接行くよりも47都道府県にある地域の言語聴覚士会を通して、言語聴覚士が在籍していて、きつ音に対応できるところを紹介してもらうのもいいですね。あるいは日本吃音・流暢性障害学会のような学術機関、さらに言友会(げんゆうかい)のようなセルフヘルプグループが頼りになるかもしれません。

全国にあるセルフヘルプグループ

支えが無くなった中学

私は小学生の時、ことばの教室に通っていました。そこでは「どもることは悪いことではない」と教えていただいたり、困っていた時相談させていただいたりと、とても頼りになる場所でした。しかし小学校を卒業した後、"ことばの教室"という守りが無くなってしまい、とてつもない不安に陥りました。その不安は的中し、いじめにあいました。自分に自信が無くなりました。地獄の3年間を過ごしました。在学中も卒業してからもすごく多感な時期に入る中学生の時期にもことばの教室が欲しいと切実に思いました。

むぎさん/千葉県/女性/19歳以下

―むぎさんにとって大きな心の支えとなっていたことばの教室ですが、中学校以降は通えなかったそうです。思春期に、気軽に相談できる相手や場所はあるのでしょうか?

横井:ことばの教室は、制度的には中学校や高校にも設置されてはいますが、設置校の数が少ないんです。私の住んでいる名古屋市は人口230万人ほどで、小学校の場合はそれなりの数が見られますが、中学校では数校にしか設置されていません。しかも多くは発達障害のある子どもの社会適応を促進することがメインなので、きつ音自体はあまり対象にはなっていません。ですから、中学校でことばの教室に期待するのは、確かに現実的ではないですね。
そのため、全国各地に37の加盟団体(2021年1月現在)を擁するセルフヘルプグループである言友会は、支援の担い手として期待されるところが大きいように思います。もちろん、セルフヘルプグループはあくまでも「当事者の会」であり、言語聴覚士のような専門性があるわけではありません。しかし、きつ音がありながらも、学校や職場で活躍している先輩からのアドバイスは、子どもたちにとって勇気づけられるものであることは間違いありません。私自身も「きつ音があるままでは、将来食っていけない」とすら思っていましたが、14歳の時に地元の言友会に参加し、とても衝撃を受けた記憶があります。そこには老若男女を問わず、さまざまな仕事に就いている会員さんたちが数多くいたからです。
言友会の活動はさまざまですが、きつ音に関する体験や考えを話し合う「例会」が中心となっています。ここでは、きつ音についての気持ちを分かち合うことで、次第にきつ音を直視できるようになり、「きつ音がなかったら」ではなく、「きつ音があっても」という建設的な考え方へマインドシフトすることが期待できます。また、そこで司会やスピーチなどを担当することで、これまでは「きつ音があるからできない」と思い込んでいたことが、実はそうでもなかったということに気づかされるかもしれません。

―当事者への取材を通して感じたのは、このようなセルフヘルプグループの情報があまり定着していないということです。

横井:たぶん、セルフヘルプグループのことは「知っていても行かない」というケースのほうが多いのではないかと思います。はじめは、「きつ音がある人と会って話して何になるんだ」「会って話しても治るわけでもないし」というような反発の気持ちを持つんじゃないかと。実際、セルフヘルプグループの例会では、明らかに「親に連れてこられた感満載」の子どもと出会うこともあります。ただ、そうやって連れてこられた人でも何か気づきがあると思います。自分以外のきつ音のある人の話を聞くのは、多くのお子さんにとって、初めてのことでしょうからね。言友会は基本的に成人の会なので、中学生や、それ以下の年代の参加は決して多くはありません。そのため、特に同世代とのかかわりを希望される場合は「うぃーすたプロジェクト」という、39歳以下を対象としたセルフヘルプグループを紹介するようにしています。、年齢が近い人同士で話し合うことで、よりセルフヘルプの効果を実感しやすくなる場合もあると思いますから、こちらも頼りになるでしょう。

教員の悩み

<放送後の「おたより」より>

中学校教員です。授業中に、「あれ、きつ音かも…」と思うことがあります。知らずに指名し、黙ってしまった場合、待つ方がいいのか、他の子にすぐ当てて流してしまった方がいいのか、どちらがその子にとっていいのでしょうか?

まささん/千葉県/男性

横井:大原則として、こちらが先回りして「配慮」することで、事態が好転することはあまりないと思います。ご本人に対して、率直に「ときどき話しづらそうにしているけど、大丈夫?」「自分に何かできることはない?」と聞いてみることから始めるようにしましょう。「きつ音かな?」と思ったとしても、きつ音以外の問題を抱えている場合だってあります。

もし、きつ音だった場合、「黙ってしまう」というのは、いわゆる「回避」と呼ばれる行動です。これは、話すこと自体を「避ける」「諦めてしまう」ことで、きつ音の症状の中では最も重いとされています。なぜならば「スムーズに話せない」から、さらに進んで「全く話せない」に移行してしまっているわけですから。しかも「回避」をした直後には「安心」などのポジティブな感情が一時的に生じるので、ついついそれを繰り返してしまうようになります。そうすると次第に社会適応に困難が生じるようになりかねません。
きつ音に限った話ではありませんが、本人がどうしたいのか、どうされたいのかは、非常に個別性の高いことです。たとえば、国語の音読の際に「飛ばしてほしい」と思っている子もいれば、「飛ばされたら悔しい」と思う子もいるでしょう。きつ音やコミュニケーションに対して、どのようなスタンスなのかを判別する方法なんてありません。本人に聞くしかないんです。「自分はこういうふうにしてくれると助かる」というのを本人と話し合いながら一緒に見つけていく。相手が子どもの場合は特にそうだと思います。

もちろん、きつ音に対してネガティブな感情があまりにも強いと、それを話題にすることすら拒否されるかも知れません。特に、思春期だとよけいにそうでしょうね。そのような場合、まずは信頼関係を築いていくことが重要です。もしかすると、先生自身が、自分の「弱み」を自己開示してもいいかも知れませんね。そうすることで、「この人になら話してもいいかも」と思ってくれることもあると思います。

(2)では、きつ音による“生きづらさ”について取り上げます。

きつ音の困りごと・お悩み 支援者からのアドバイス
(1)臨床の現場、セルフヘルプグループについて ←今回の記事
(2)きつ音による“生きづらさ”について

※この記事はハートネットTV 2020年12月16日放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!きつ音のこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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