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“あがるアート”(3)アートが地域の風景を変えた

記事公開日:2021年01月11日

みんなの気分を盛り上げてくれる「あがるアート」。今回紹介するのは、鹿児島にある福祉施設のみなさんが生み出したアートです。作品は海外からもクリエイティブ性が高いと絶賛され、クラフト製品と作品の年間の売り上げは1,500万円にも上ります。さらに、施設の中にはレストランやパン屋さんがあり、年間1万人もの人が訪れるテーマパークのような場所。しかし、かつての施設は鹿児島の伝統織物、大島つむぎの下請け作業を請け負い、規格通りにできない利用者に笑顔はありませんでした。「できる」の概念をひっくり返し、改革を行った施設の取り組みに密着します。

心の赴くままに手を動かせばアートになる

今回の「あがるアート」の舞台は鹿児島市。繁華街から10キロ離れた住宅街の中にある、障害者の支援センター「しょうぶ学園」です。門のない敷地に入所施設や通いのデイサービスがあり、現在70人ほどが“ものづくり”を中心にした活動を行っています。

「しょうぶ学園」には4つの工房があり、布の工房で行われている独創的な“ものづくり”は「nui project(ヌイ・プロジェクト)」と呼ばれています。その個性豊かな作品は海外でも高く評価され、2020年年6月にオープンした外資系高級ホテルのロビーにも、「しょうぶ学園」で誕生した作品が飾られています。

画像(ホテルのロビーに飾られた作品)

アメリカの第一線で活躍するインテリアデザイナーも大絶賛する数々の作品。心の赴くままに手が動く行為そのものがアートだと施設長の福森伸さんは語ります。

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施設長の福森伸さん

「目的を持たなくて縫ってる人たち。自分のハッピー、自分の手が動くままにやっている人を肯定しつつ、彼らの好きなようにさせる」(福森さん)

毎日実家から「しょうぶ学園」に通っている向井紗旗さんは、自分の気に入った布と糸を使って好きな刺繍を作っています。薄手の生地に所々、縞模様を入れ、カラフルな糸の組み合わせが得意です。

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向井紗旗さんの作品

不笠武志さんは、刺繍で余った糸を積み上げることに心地よさを感じています。工房の隅に山積みになった糸も作品のひとつ。

画像(不笠武志さんと糸を山積みにした作品)

ここでは、その人が“できる”ことを積極的に勧めているのです。

画像(野間口桂介さんの作品)
画像(記富久さんの作品)
画像(泰良茂雄さんの作品)
画像(鵜木二三子さんの作品)

「できる」の概念をひっくり返す

「しょうぶ学園」には布のほかにも、陶芸や絵画、木工製品など、あがるアートがたくさんあります。しかし、ここに至るまでにはいろいろな苦労がありました。

1973年、先祖代々の田畑に福森さんの両親が福祉施設を建てたことが「しょうぶ学園」の始まりです。福森さんは1985年に2代目として施設で働き始めます。

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設立当時の「菖蒲学園」

開設当時は、鹿児島の伝統織物、大島紬などの下請け作業をしていました。製品なので、規格通りに仕上げなくてはなりません。しかし、利用者の多くは真っ直ぐに縫うことができませんでした。

福森さんたちは、教えることに必死になっていたといいます。

「できるようになることが成長だという考えでしかなかったので。真っ直ぐ縫えないとか、傷をつけてしまうと、そうじゃないよと言っていく。何回も教えるから、できない人はしょんぼりしちゃう。言う人はいい気持ちしないじゃないですか、人の欠点を責めるのは。だから辞めたいと思ったことが何度もあります、この職業を」(福森さん)

次第にお互いギクシャクして、施設から笑顔が消えてしまいました。

そんなある日、利用者が縫った布を見た福森さんの妻・順子(のりこ)さんが、「これなんかいいと思わない?」と言い出します。ふぞろいな形で決して製品にはならないけど、美しい配色がユニークな作品に見えたのです。これを機に、福森さんは考え方をガラリと変えました。

画像(ポイント①「できる」の概念をひっくり返す)

「『できる』って一体どういうことか。例えば、真っ直ぐに縫えない人は、『面白く縫う人』、『くねくねと、すごくハッピーに曲がって縫える人』。今まで『真っ直ぐに縫えない人』が、『縫える人』になるんですね。すると、彼らは『できる人』に急になる」(福森さん)

「できる」という概念をひっくり返した「しょうぶ学園」は、規格に合わせる作業を押し付けるのではなく「好きに作っていいよ」と方針を変えました。

画像(ポイント② 好きに作っていいよ)

その後、1990年に陶芸、93年に絵画の工房も増設。利用者は自由な“ものづくり”を始めます。

それから12年後の2005年。ファッション雑誌の一般公募展で、一枚の絵が大賞を受賞したのです。

画像(ファッション雑誌で大賞を受賞した作品)

当時の審査員でファッションデザイナーの皆川明さんが振り返ります。

画像(ファッションデザイナー 皆川明さん)

「とても力強くて、無垢な勢いのようなものに惹かれて選んだんです。疑いがないことや、または何かにやらされているようなことでもなくて、自分の気持ちにそったままというか。そのようなことはいつも作品から感じられて、本当に自由さがあって、まさにその人そのものという生命力を感じますね」(皆川さん)

これをきっかけに、利用者のこだわりが込められた作品がアートとして認められるようになりました。

例えば、床一面にちりばめられた糸と細かく切った布は、よく見ると布に糸が縫い付けられています。作者の吉本篤史さんは、20年間この作業にこだわり続けてきました。

画像(作業を行う吉本篤史さんと作品)

それが美術の専門家の目に留まり、美術館での展示が実現。利用者の作品は「しょうぶ学園ブランド」として、広く世間に知られるようになるのです。

次に目指したのは「出会いを増やすこと」

自由な“ものづくり”が活発になる一方で、福森さんには気になっていることがありました。それは、「地域の人との接点を増やしたい」ということ。

「地域のためにバザーをやるとか、そういうことは一般的に行われているけど、終わってしまうとまた静かな一日に戻るんですね。誰も来ない。来るとしたら郵便配達の人と宅配便の人」(福森さん)

そこで福森さんは施設全体を変える決意をし、地域の人が気軽に足を運べる場所にするため入り口の門を開放しました。

次に思いついたのがパスタ屋さん。おいしい料理でお客を呼び込もうという作戦です。味を妥協せず、施設スタッフは生パスタの作り方をイチから学び、ソースは100回以上も試作しました。

そして2008年、施設の中に山小屋のロッジをイメージしたレストランをオープン(現在は感染予防のため休業中)。お店は利用者のみなさんが切り盛りし、厨房や接客など、できることを仕事にすることで就労にもつなげました。

画像(レストランの様子)

すると、パスタがおいしいと口コミで広がり、週末には行列ができるほどの人気店になります。さらにレストランで提供しているパンのテイクアウトを始めると、パンが焼き上がる午前11時には地元の人たちが続々とやって来るようになりました。

2011年にはおそば屋さんもオープン。鹿児島では昔から自宅でそばを打つ習慣があるので、園内にそば屋を作れば地域の人も来てくれると考えたのです。

こうして「しょうぶ学園」は、年間1万人が訪れる人気スポットになりました。

「しょうぶ学園」では、利用者の作風を活かしたクラフト製品も販売中です。なかでも、布のバッグやポーチは人気アイテムで、全国のショップにも卸しています。最近では、一般の人からも絵の注文が入るようになりました。

画像(布バッグやポーチ)

福森さんたちが巨匠と呼んでいる濱田幹雄さんは、10年以上も絵を描き続けています。濱田さんは縦や横の線を塗り重ねた作風を貫き続け、その絵は数十万円で売れたこともあります。

画像(濱田幹雄さんの作品)

今や施設の年間売り上げは、クラフト製品と個人の作品を合わせて1,500万円にもなるのです。

施設を開放したことで学園のファンも増えました。佐賀県に住む田中潤子さんも、熱烈なファンの一人。自宅のリビングには濱田さんの絵があります。

画像(田中さんの自宅に飾られた濱田幹雄さんの作品)

「濱田さんの絵は、線の中にいろんな空間があって、イメージが広がるところがいい。ワクワクする感じですよね」(田中さん)

さらに田中さんは、家族も巻き込んで学園のファンにしました。娘の詩乃さんが学園のイメージを語ってくれました。

「自分が知っている障害者施設は門があって、(入所者が)出ていかないようにしているイメージがあった。(しょうぶ学園は)門もなくて開かれた環境で、自分のしたいことを伸び伸びと楽しんでやっている印象がすごいありました」(詩乃さん)

地元にも「しょうぶ学園」ファンがたくさんいます。鹿児島市内で美容院を営む門倉健治さんは、お店のオブジェとして利用者が絵を描いた植木鉢を集めています。

画像(アルファベットが描かれた植木鉢)

「これアルファベットを描いているじゃないですか。でもよく見たら、NHKとかBSとか、TBSとか描いている。予想外というか、お客様も見て、『面白いですね』みたいになるので。そういうとことか、なんか見ててかわいいなって単純に思う」(門倉さん)

これからもあがり続ける「あがるアート」

今や地域の顔となった福祉施設。地域とのつながりは利用者の生活も変えていきました。48年前、学園の寮に入所した森節子さんは、今は自立してグループホームから通っています。

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会話する森節子さんと福森さん

福森さん:学園に来るの楽しい?

森さん:楽しい。自分の陶芸でいろいろ作れるから。

福森さん:陶芸でね。

森さん:今度はどんなのしようかなって、それを思い浮かべるのが。

福森さん:骨入れる壺を作ってくださいよ。

森さん:どっちが先に逝くか分からん(笑)

福森さん:どっちが先に天国に逝くか分からんね(笑)

さまざまな施策を行ってきた福森さんですが、まだやれることがあると考えています。

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施設長の福森伸さん

「僕らは、彼らの“ものづくり”を見ることで、彼らの“内面”が見える。人間の幅ってすごい広くて、まだまだ彼らへの支援とか、権利とか、考える余地が90%以上あるんじゃないですか。10%ぐらいしかいってないんじゃないですか。まじで」(福森さん)

「しょうぶ学園」の「あがるアート」は、これからもまだまだ“あがって”いきます。

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた! ←今回の記事
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう!
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”
(15)安藤桃子が訪ねる あがるアートの旅~ホスピタルアート~

特設サイト あがるアート はこちら

※この記事はハートネットTV 2021年1月11日(月曜)放送「あがるアート File3. アートが地域の風景を変えた!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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