ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動
久保修一の「障害者雇用」スパルタ塾

久保修一の「障害者雇用」スパルタ塾

記事公開日:2018年05月18日

今年4月、障害者雇用促進法が見直され、企業に求められる障害者雇用率が2.2%まで引き上げられました。初めて精神障害者(発達障害も含む)も対象になり、新たな風が吹く中で「障害者雇用をもっと実りのあるものにし、盛り上げていこう!」と始まった「ブレイクスルー2020→ 障害者雇用 もっと両思いを増やそう!プロジェクト」。メンバーの一人、久保修一さんは、障害者のための労働組合で日々労働相談に乗っています。その経験を生かし「みんなの声」に集まったお悩みに向き合いたいと名乗り出てくださいました。ちょっぴり辛口な久保さんの“スパルタ塾”を覗いてみませんか。

「合理的配慮」を誤解していませんか?

─ 「みんなの声」に集まった声、全てに目を通してくださったそうですね。その熱いお気持ち、ぜひ皆さんにもお伝えしたくて今回のスピンオフ企画を考えました。番組内で久保さんは「(障害者も企業も)もっとズケズケ言ったほうが良い」とおっしゃっていたのが印象的でした。そんなちょっと辛口な面を発揮していただきたく、題して「久保修一の障害者雇用スパルタ塾」とさせていただきました。よろしくお願いします。

久保:
「スパルタ」かどうか分からないですけどね・・・(苦笑)。仕事柄、「みんなの声」を読んでそのまま放置しておくわけにはいかないと感じてしまいまして。声を寄せてくださった皆さんが、どんな気持ちで書いたのだろう?などと想像しました。その上で、参考になるような声をピックアップしましたので、ひとつひとつ見ていきましょう。

うつ病・精神3級で、障害者雇用でパート職員として働いています。自分の苦手なことを、どういう風に周りに伝えればいいのか、悩んでいます。例えば、電話対応に強い恐怖感があります。そのため近くで電話がなってもでることができず、電話が鳴る度に、周りから出ないことを責められているように感じ、ずっとうつむいて緊張し、席を立つのもできず、仕事に集中できなくなってしまいます。周りに電話が苦手であることを伝えられれば、少しは気が楽になる気がしますが、自分でも「これは甘えではないか」と思ってしまうのもあり、伝えることができません。皆さんはどのように周りに苦手なことを伝えているのでしょうか?(うつともパパ・30代)

久保:
これね・・・「苦手なことを周りに伝える」っていう発想が、すでに間違っているんです。 あなたがもし「これが苦手です、あれも苦手です」という話を聞かされたら、どんな風に受け取りますか?

― 言い方にもよりますが、具体的に何か解決策を導きたいというよりは「ただ話を聞いてほしかったのかな・・・」などと捉えてしまうかもしれないですね。

久保:
そうなんですよ。だから、「自分が苦手なことを周りに伝える方法」ではなくて、「苦手なことをしなくてもいいよう配慮があれば普通に働けることを伝える方法」を考えるんです。

― 「これが苦手です」と言って、相手にその対応策を委ねるのではなくて、「こんな配慮があれば、働ける」というふうに、自ら対応策を提示するところがポイントなんですね。たしかに、かなり印象が違いますね。

久保:
たとえば、電話対応に強い恐怖感があるなら、「電話が鳴るだけで動悸が激しくなる。言葉遣いを間違えたらと考え極度に緊張してしまう。顔が見えない相手と話をするのが怖い」といった具体的な内容を伝え、「電話対応がなければ普通に働ける」ことを伝えるんです。

― でも「電話対応しなくてもいいように配慮してください」って、結構言いづらいような気もしますが・・・。

久保:
いえいえ、それこそが「合理的配慮」なんです。電話対応がなくても本人・周囲が嫌な思いをしなくて済むレイアウト・業務配置を考えることは会社に課された義務です。(※1 障害者雇用促進法 第36条の3)

※1 「障害者雇用促進法」第36条の3
事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りではない。

合理的配慮の伝え方について悩んでいます。物理的に出来ないことを伝えるのは容易です。例えば二週に一回通院で休む、等。ただ、私たちは、病気の症状で苦手なこともあります。例えば私の場合は、人の表情、仕草、声色等が気になります。悪化すると、嫌われ妄想で、不眠や食欲不振、反芻思考が出てきます。そのため、口頭対面指示だと、業務内容が理解しにくいです。簡単なメモでもメールでもいいので、文章中心の指示だと嬉しいです。しかし、健常者に相談すると「みんなも同じだよ?!」「みんな苦手だよ?」と言われることがあります。しかし皆が苦手なら、配慮される自分は、甘えだ。どうしたら良いのだろう?(ぺんぎん・20代)

― こちらも「合理的配慮」に関する声ですね。みなさん、結構悩んでいらっしゃる・・・。

久保:
「みんなの声」を読んでいて、多くの皆さんが誤解しているように感じたので、ここでしっかりとお伝えしておきますね。「合理的配慮」を考える際に、障害者の側が「合理的」かどうかを判断するのではないんですよ。業務をする上で、配慮してもらいたいことを具体的に求め、それが会社にとって過重な負担でなければ提供(合理的に提供できる)しなければならない、この一連の流れが合理的配慮です。

― つまり、「合理的かどうかは、会社が判断する」ってことですか・・・。なんだか突き放されたような気がしちゃいます。

久保:
でもね、大事なポイントなんですよ。「合理的かどうかは障害のある本人が決められる」と思っていると、会社にその要求が通らなければ不満ばかり募りませんか。
そうではないと分かった上で、会社が「合理的」だと思ってくれるように、どんな風に伝えたらいいかをしっかり考えるんです。

― 要求を通すためにも、きちんと戦略を立てる必要があるんですね。

久保:
ぺんぎんさんの場合、「対面指示だと、業務内容が理解しにくいです。簡単なメモでもメールでもいいので、文章中心の指示をお願いします。」と伝える。それが会社にとって過重な負担なく対応できることであれば、(合理的なので)提供する義務があります。 極端に言えば、「二週に一回通院で休む」についても、予め決まった日なら合理的配慮と解され、毎度毎度突発的で人員の穴埋めが大変なら会社に過重な負担を与えてしまい合理的ではないと解される可能性があります。

― ぺんぎんさんの場合、「どんな対応をしてもらいたいか」が具体的にわかっていらっしゃるので、実はあと一歩のところで働きやすい環境が手に入るかもしれないんですね。

「差別」には屈しない

やっぱりあるよ差別は。無視や挨拶抜きはふつう。担当者以外の人に質問したら怒られた。アルコールは飲めないからか飲み会のおさそいはなし。(2回あったけど断ったからかしら)新年会、忘年会、お食事会もなし。(ちゃんとしたレストランだからダメ)会議も研修も参加させてもらえません。もー体も精神もくたくたです。(くたくたくーちゃん・50代)

― 読んでいて悲しい気持ちになりました。これはどうなんでしょう?

久保:
まず「無視や挨拶抜き」は、障害者虐待防止法第2条8三(※2)「心理的虐待」に該当する可能性があります。労働基準監督署や役所の障害福祉課への申告で会社に調査が入り、会社が認めないまでも改善することはあります。

※2 「障害者虐待防止法」第2条8三
第二条8 この法律において「使用者による障害者虐待」とは、使用者が当該事業所に使用される障害者について行う次のいずれかに該当する行為をいう。
三 障害者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応又は不当な差別的言動その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

― おだやかな話ではないですね、それは・・・。

久保:
そうですよ。さらに新年会などに呼ばれないのであれば、パワハラ6類型(※3)「人間関係からの切り離し」に抵触する可能性があります。「担当者以外に質問したら怒られた」も同様です。障害者に対するパワハラは、そのまま障害者虐待防止法の心理的虐待になる可能性があります。

※3 パワハラの6類型(出典:厚生労働省パワハラ基本情報)
①身体的な攻撃(叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける。)
②精神的な攻撃(同僚の目の前で叱責される。他の職員を宛先に含めてメールで罵倒される。必要以上に長時間にわたり繰り返し執拗に叱る。)
③人間関係からの切り離し(1人だけ別室にうつされる。強制的に自宅待機を命じられる。送別会に出席させない。)
④過大な要求(新人で仕事のやり方もわからないのに、他の人の仕事まで押しつけられて、同僚は皆先に帰ってしまった。)
⑤過小な要求(運転手なのに営業所の草むしりだけを命じられる。事務職なのに倉庫業務だけを命じられる。)
⑥個の侵害(交際相手について執拗に問われる。妻に対する悪口を言われる。)
※①~⑥は、パワハラに当たりうる全てを網羅したものではなく、これら以外は問題ないということではありません

― 泣き寝入りせず闘う、という選択肢もあるということですね。
それはそれで勇気がいると思いますが、どうか「仕方がない」と諦めないでいただきたいです。

久保:
最も気になるのは、この「研修も参加させてもらえない」という箇所です。 これは、障害者雇用促進法第35条「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない」に違反している障害者差別です。このような就労環境を「やっぱりあるよ差別は」で済ませず、(退職させられないように)会社に是正を促す方法を考えていく必要があります。

働き続けるためのヒント

久保:
働き続ける、いわゆる「就労定着」は障害のある皆さんにとって大きなテーマです。
「みんなの声」には、働き続けるためのヒントとなるような声も届いていました。

高校生の頃に精神疾患を発症して、高校卒業後フリーターになりました。会社側にはオープンで、一般雇用の方と同じで働いていました。それでもフルタイムで働くのは厳しく、時々会社を休むことも。それから急激に病状が悪化し、退職。入退院も今までに何度も繰り返し、障害年金を受給しながら自宅療養していました。途中、作業所に行った時期もありましたが馴染めずに辞めたこともありました。昨年から、知人の紹介で、とある会社でアルバイトとして一般雇用で働いております。休むことも何度かありましたが、働くことは私の中でうまく言えませんが大事なことです。働き始めて8ヶ月になりますが、目標はとりあえず1年続けることです。(すみれ・30代)

久保:
すみれさんは、高校生から精神障害と向き合い、退職・就職を繰り返しながら、現在でも明確な目標を持っていることになります。

― きっと大変なご努力をなさってきたことと思います。

久保:
当時、フルタイムで働くことの何が厳しかったのか、病状が悪化した原因、作業所を辞めた理由はなんだったのでしょうね。このようなエピソードが、他の人の就労に役立つ情報になると思います。

― ぜひ「みんなの声」に、そのあたりも寄せていただきたいです。
すみれさんの目標は「1年続けること」だそうですが、何かアドバイスはありますか?

久保:
3ヶ月、6ヶ月という“壁”を乗り越えての今ですよね。よく頑張ってこられたと思います。
稼いだお給料で自分以外の誰か、たとえば両親に何かプレゼントする・・・そんな目標を立てておくと、くじけそうな時に踏ん張れるのではないでしょうか。「気がついたら1年経っていた」となるよう願っています。

先天性心疾患の内部障害者です。現在の会社に(障害者枠で)就職して十数年になります。内部障害者は見た目でわからない障害者です。仕事仲間は私の何をサポートすればいいのか分かりません。内部障害者は自分の障害を具体的に説明し、サポートしてほしいことを伝えるスキルが求められると思います。私は日常でも内部障害者であることを発信し、自分で体調管理とサポートしてほしいことを伝えて、十数年、勤めることができています。「助けられ上手になる」ことが大事だと思います。(りゅう・40代)

久保:
これ、最後の一文にすべてが詰まっているんです。「助けられ上手になる」。これに尽きると思っています。具体的にサポートしてほしいことを伝えられれば、十数年勤められるんです。そういう方もいらっしゃることを知っていただきたいと思っています。

― 「助けられ上手になる」って、障害のあるなしにかかわらず、仕事を続けていくうえで大切なポイントだなと思いました。この「助けられ上手」という言葉には、「こうしてください」って配慮を求めるだけではなくて、「周りの人たちも気持ちよく働けるように」考えて行動している感じがにじみでていますよね。

久保:
「過剰配慮」っていう言葉があるんです。障害者だからたくさんサポートしなきゃと「過剰に」配慮してしまう。たとえば本来やってもらわないと仕事が回らないのに、周りの人が代わりにやってしまう・・・つまり「配慮しすぎ」の状態ですね。そうなると、周りの人たちから不満が出てくるし、そもそも仕事が回らなくなってくる。これ、意外とよくあることなんですよ。でも障害者本人も、同僚も誰もハッピーになれないし、必ずと言っていいほど破綻する時が訪れます。

― 全く配慮されないのも困りますが、配慮され過ぎても上手くいかない・・・と。難しいですね。それぞれの職場事情にあわせて、「こんな配慮をしてもらえたら働ける」ということを、ひとつひとつ話し合っていくしかないんですね。「他者とのコミュニケーションが苦手」という障害特性のある方々にとっては、それ自体が大きなハードルだとも思いますが・・・。

久保:
まずはご自身の障害特性をしっかり把握され、「こういう特性があるから、こんなことが苦手です」の先にある、「こんなサポートがあったら働けます」にまで到達していただきたいのです。結果的に、あなたと企業が“両思い”に近づけるはず。

― 今回、久保さんにお答えいただいたことが、すこしでも皆さんの参考になればうれしいです。ありがとうございました。

『ブレイクスルー2020→ 障害者雇用もっと両思いを増やそう!プロジェクト』
メンバーは、それぞれ新たな挑戦をしてプロジェクトを進行させています。
今回は、「みんなの声」にあつまったご意見やご質問に対して、メンバーの一員である久保修一さんにアドバイスをいただきました。『ブレイクスルー2020→』では、今後も皆さんといっしょにプロジェクトを進めていきます。

久保修一
1965年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科中退。
日本で初めての障害者のための労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」書記長。

あわせて読みたい

新着記事