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これだけは知ってほしい!“きつ音”のこと

記事公開日:2021年01月07日

“きつ音”とは、会話の最初の音を繰り返すなど、言葉が滑らかに出てこない症状です。日本ではおよそ120万の人たちが、この症状によって生きづらさを感じています。世界が注目するアメリカ次期大統領のバイデンさんも、幼い頃から“きつ音”だったと自伝に綴っています。当事者や番組に寄せられた声とともに、“きつ音”と向き合います。

全国に120万人! きつ音の症状とは?

“きつ音”の主な症状は3つあります。

①「あああ、ありがとう」と言葉の最初の音を繰り返す“連発(れんぱつ)”
②「あーーりがとう」と音が伸びてしまう“伸発(しんぱつ)”
③なかなか言葉が出てこなくなる“難発(なんぱつ)”

画像(“きつ音”の主な3つの症状)

“連発”を気にして音をとぎらせないようにすると“伸発”になることも。さらに言葉がすっと出ず、力んで話そうとすることが“難発”を引き起こすともいわれています。

タレントの最上もがさんと一緒にきつ音のアライさんを目指すのは、お笑い芸人のキンタロー。さん。二人の周囲にきつ音がある人はいるのでしょうか。

画像

最上もがさん

「(周りにきつ音がある人は)いないですね。最初にきつ音のことを知ったのが映画『英国王のスピーチ』でした。本当にバイデンさんに近いような立場で、きつ音のある方が、人前で話すのが不得意なのを克服する映画だったんですけど、そこで知りました。日本で120万人いるというのはびっくりしました」(最上さん)

画像(キンタロー。さん)

「きつ音って言葉は、今回お仕事いただいて初めて知ったんですが、うまくしゃべることができない方が周りに2人ほどいましたね。でも詳しいことはわかりません」(キンタロー。さん)

きつ音には、具体的にどんな困りごとがあるのでしょうか。当事者で、福岡の大学に通っている大学生の亀井直哉さんにお聞きしました。

画像(亀井直哉さん)

「僕の場合だと連発、伸発、難発は全部いろいろ入り混ぜながら話していて、最初は連発の話し方が一番多くて、それを気にしだして伸発、難発の症状が現れちゃったかなって感じです。母音で始まる言葉は言いにくくて、“あいさつ”とかもたまに出にくい。子音が“イ”で終わる“いきしちにひみり”の単語も結構苦手だなって思いました」(亀井さん)

言語聴覚士で、きつ音当事者でもある横井秀明さんはこう話します。

画像(言語聴覚士 横井秀明さん)

「きつ音は特定の音とか言葉が言いづらい、特定の相手のときとか特定の場面で出やすいなど、すごく個人差が大きいところが特徴です。連発、伸発、難発と進まず、最初から難発っていうケースも結構あったりするんです。本当に個人差が大きいところなので、それぞれが自分なりの工夫というかコントロールみたいなことをして、まるで、きつ音がないかのように話せるようになっている。なので、なかなか気づかれない面もあると思います。私自身もきつ音を持っていて、言葉が出てこないなって常に感じてるんですよね。ただ年齢を重ねていく中で、なんとなくこういう感じでしゃべるときつ音が出ないなぁっていうのに気づいていって、そういうのが積み重なっていて現在のしゃべり方になってる。すごく感覚的なものですね」(横井さん)

きつ音は2歳から5歳の幼児期に発症することが多く、その割合は幼児の5%、20人に1人の幼児にきつ音が出るというデータがあります。

現在、10か月の赤ちゃんを子育て中の新米ママ、キンタロー。さんは、きつ音の情報は耳にしたことがないと言います。子育てをしている人がきつ音の情報に触れるのはどのタイミングなのでしょうか。

「最初にチェックされるのは、多くの場合は3歳児検診のことが多いと思いますね。この5%について、きつ音をどう判断するのかと言うと、100文節しゃべった中で3文節以上でつかえた場合にきつ音と見られます。幼児の5%が発症するんですけど、おおむね6歳から7歳くらいまでの間に80%くらいは治癒する、治ると言われています。基本的には3歳、4歳の場合は様子を見ましょうと言われる場合が多いですね。ただ、統計上は大半が幼児、小学校に入る前の時期なんですが、相談に来られる方の中には、中学生や高校生のときになったとか、成人してからなったというケースも結構、聞きます」(横井さん)

80%が自然と治ると言われるきつ音。しかし一方で、残りの20%は確実に治せる方法は現時点ではないものの、言語訓練によって良くなるケースもあると横井さんは話します。

「きつ音は“話し始めのタイミングの障害”と言われています。どういうことかというと、私たちがしゃべるとき、頭の中でどういう内容をどういう文章でしゃべるか考えて決めて、脳から口やのどに『こういう内容をこういう文章でしゃべりなさいよ』って命令が来るわけです。そのとき、口やのどが動き出すタイミングが微妙にズレる。スムーズに話す動作を開始できないというわけですね。ですので、そのタイミングのズレを調整する練習をする。それによって効果が出る場合もありますが、確実に治す方法はまだないんです。きつ音の根本的な原因も、まだ解明されていない状態です」(横井さん)

愛情不足? 親子の関係は? 当事者の困りごと

きつ音がある人は、どんな困りごとを抱えているのでしょうか。番組に寄せられた声をご紹介します。

・「愛情不足」
言語聴覚士に子どものことを相談したところ、「愛情不足だからきつ音と言われた」という声です。

「これに関しては誤解というか、俗説という感じですね。なぜかというと、きつ音の発症年齢はだいたい2歳から4歳くらいに集中しています。たとえば、この時期に赤ちゃんが生まれたとします。下の子を世話するために、これまでよりは構ってあげられなくなるので、この2つの時期が偶然重なっているせいで、『きつ音は愛情不足のせいなんじゃないか』と言われはじめたんですけど、科学的根拠のない話なので、現在は否定されています」(横井さん)

・「親子でも話しづらい」
この声を寄せてくれたのは、広島にお住まいの戸田祐子さん。戸田さんは二人の息子さんのお母さんです。

画像(戸田祐子さん)

次男の侃吾(かんご)さんにきつ音が出たのは3歳のときでした。その後、戸田さんは“きつ音”についての話題を避けてきたと言います。

「どういう態度で、何をきっかけに、どんな話をすればいいのかがまったくわからなかったんですよ。きつ音を話題にすることで『あなたの話し方はおかしいよ』っていうニュアンスが入っちゃうんじゃないかと思って、傷つけてしまうんじゃないかと思って」(戸田さん)

画像

侃吾さん

しかし中学3年生のとき、侃吾さんが、きつ音による生きづらさを泣きながら訴えてきました。その姿を見て、戸田さんは考え方を変えたと言います。

「本当になんの解決もね、なにも寄り添えてなかった。私自身がきつ音のことをもっともっと向き合いたい。きつ音っていう言葉が当たり前に会話の中で言えるようになりたいっていうのもありましたね」(戸田さん)

画像(きつおん親子カフェに参加する戸田さんと侃吾さん)

きつ音のある人とどう向き合ったらいいのか? 戸田さんは10年前から、同じ悩みを持つ人たちが寄り添える場所、「きつおん親子カフェ」という交流会を始めました。

もっと早く、親子できつ音のことを話せていればよかったと悔やんでいる戸田さんですが、今では、次男の侃吾さんも手伝い、他の子どもたちに「悩んでいたら抱え込まないで、話してみたら聞いてくれる人がいるかもしれないよ」と伝えているそうです。

番組には、たくさんの声が寄せられました。

・「恐怖心」
小学3年生からきつ音がある方からは「バレると変な目で見られるので恐怖心をもっていました」という声。
その他にも、

『小学生の時に委員会の発表が体育館のステージであり、自分の番になって冷や汗が止まらず、発表も難発と連発が出てしまいフロアにいた人達に笑われた』(もみゆうさん/熊本県/男性/19歳以下)

『大学生。オンライン授業は画面に他の受講生の顔が表示されるので、きつ音が出たときに、対面授業より視線をダイレクトに感じて怖い』(ゆずさん/静岡県/女性/20代)

・「アドバイスが裏目に」
『ゆっくりしゃべって』と言われても…。どもらないわけではありません。(東京都/50代/女性)という声です。

横井さんは『ゆっくりしゃべって』という言葉をどう感じるのでしょうか。

「すごく難しいところなんですけども、こういうふうにおっしゃる方って、良かれと思って言ってるのかもしれないんですよね。ただ、ゆっくりしゃべっても、やっぱりきつ音って出るときは出る。なので、やっぱり『ゆっくりしゃべって』って言われちゃうと、『そんな話し方をするな』っていうメッセージになってしまいかねないので、あまりお勧めできないアドバイスかなと思いますね」(横井さん)

亀井さんも似たような経験があるそうです。

「言葉の先取りがあって。自分が話そうとしているのに、言葉の第一声目を取られてしまうみたいな感じで。2人1組で会話していて。『提出しなきゃいけない課題は何?』って言われて、レポートって答えたいけど、違う課題のことを言われて、ということもあって。そうなると、自分は本当は言いたかったけど、もう1回言わなきゃいけない手間と、『また、どもってしまったなぁ』みたいな感じで。少なくとも自分の中で少し落ち込んでしまうので。先取りはちょっとしてほしいようで、してほしくないような感じはありますね」(亀井さん)

「これは普通の会話でもそうだと思うんですよ。普通に会話しているときに、途中からカブせられたらちょっと嫌な気持ちになるから。単純に本当に一人ひとりが『この人きつ音だから気をつけなきゃ』って思うわけじゃなくて、普通に会話をしていく上でカブせないとか、なんか相手の言葉を押しきらないとか、そういうことを意識してくれる方が増えたらいいなって単純に思いましたね」(最上さん)

カミングアウトの難しさ

聞く姿勢が安心感につながったという声も届いています。

・「安心感」
「就職1年目、300人の前で行う成果発表が不安で上司に相談したところ、常に上司の顔を見ながら発表するようにアドバイスを受けました。するとどもりが出てしまっても、うなずきながら聞く上司の姿に安心した」(愛知/20代/男性)

また、都内に住む当事者の本橋奈々さんがイラストと一緒にこんなエピソードを寄せてくれました。

画像(本橋奈々さん)
画像(本橋さんが描いたイラスト)

「(接客のバイト中に)よくどもってしまうメニュー名があって、それをキッチンの人に伝えるときに最初の一音が出なかったってことが結構あって。そのときに大きくうなずきながら、『うん、うん』って感じで相づちを打ちながら相手の方が聞いてくれたとき、すごい緊張感がとれたっていうか、うれしさとか、やっぱり安心感が広がったっていう経験がありました。それがすごく印象的で。そのバイトで、人との信頼感が大事なんだなってすごく勉強になったというか、きつ音があったとしても、別に人との信頼感が薄れるわけじゃない」(本橋さん)

本橋さんの話を聞いたキンタロー。さんは、受け止めてもらえる安心感の大切さに気づいたと話します。

「後ろの絵がオレンジ色で温かみがすごく感じられて。それぐらい温かいものを感じ取って安心して、しゃべれたんだなって思ったら、やっぱり会話のキャッチボールで、自分本位じゃなくて『相手の言っていることを聞こう』って思いが大事なんだな、って思いました」(キンタロー。さん)

カミングアウトすることで周囲の協力を得られたという声も寄せられました。

・「電話が苦手」
「電話が苦手で職場名が言えません。そこで勇気を出してきつ音を部内に打ち明けると、同僚が職場名を名乗るところまでかけてくれて、要件になったら自分に引き継ぐようになりました。最初を誰かに代わってもらうだけですごく楽です」(千葉/40代/女性)

しかし、カミングアウトは、なかなか簡単なことではないと亀井さんは言います。

画像(亀井直哉さん)

「周りは今さらとか、もっと早く言えばいいのにと思うんですけど、自分たちきつ音者の中ではカミングアウトってものすごくハードルの高いことで、今までの交友関係とかも崩れちゃうんじゃないかとか、友だちがいなくなるんじゃないかとか、明日から職場とか学校に行って周りの人がどう反応してくれるかわからないっていうのがものすごく怖くて。自分も何回もカミングアウトしてるんですけど、毎回、直前にはそういうことを思ってしまう」(亀井さん)

当事者としては、カミングアウトを受けた側はどう受け止めてほしいと思うのでしょうか?

「僕、カミングアウトするときに一番最初に『笑わずに最後まで話を聞いてください』って言うんです。その一言だけ最初に伝えるようにしてるんです。そうすると、“ちゃんと話し聞いてるよ”感っていうか、笑わずに最後まで話を聞いてくれたら、本当にそれだけでも相手がちゃんと話し聞いてくれてるんだなっていうのが感じられるのですごくうれしいです」(亀井さん)

画像(言語聴覚士 横井秀明さん)

「カミングアウトは本当に心理的なハードルが高い行為なので決して強制されてはいけないっていうことですね。でも周囲もしっかりときつ音のことを知る、理解する。そういう姿勢が大切ですよね」(横井さん)

番組ではきつ音のある人たちが抱える不安や生きづらさの一端を垣間見ることができました。きつ音のある人たちが安心して暮らせるように、そしてアライさんが増えるように、ハートネットTVではこれからもきつ音について考えていきます。

※この記事はハートネットTV 2020年12月16日(水曜)放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!“きつ音”のこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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