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2020年の福祉を振り返って 障害者福祉の課題と展望

記事公開日:2020年12月27日

2020年も障害者をめぐるさまざまな出来事がありました。その中から、今の日本の障害者福祉の問題を読み解くとともに、2021年の課題について日本障害者協議会代表の藤井克徳さんに話を伺います。藤井さんがキーワードに挙げたのは、「新型コロナウイルス」と「裁判」です。

画像(藤井克徳さん) 藤井克徳さん
日本障害者協議会代表。障害の種別を横断して、権利擁護に長年取り組んできた。自身は視覚に障害がある。

新型コロナウイルスの障害者への影響

―― 新型コロナウイルスは世界に大きな影響を与えていますが、障害分野ではどうでしたか。

藤井:コロナは国民生活に大きな影響を与えていますが、障害者にとっても例外ではないですね。例えば雇用でいいますと、4月から9月までの半年間に厚労省の調査で1,213人が解雇ということです。去年のデータと比較してちょうど40%多い。障害者雇用にはとても影響が大きく、この数字もまだまだ氷山の一角と言われています。

―― 事業所への影響もあるそうです。

藤井:特に福祉事業所です。例えば、就労継続支援事業B型の事業所に聞き取り調査したところ、コロナ後の4月、5月、6月の月々の工賃は、平均12,000円。コロナ前は16,000円ですから、25%、つまり4,000円ぐらい下がっている。この傾向はその後も変わりません。B型以外の福祉事業所でも、経営者の意見を聞きますと、もうまったく展望がないと。とても困っている状況が生まれています。

―― 多くの障害者団体から要望書も出されたそうですね。

藤井:ええ。この春先から今日まで、団体によっては要望書を9回、10回と重ねています。特にお願いしているのはPCR検査です。障害のある人には基礎疾患を持った人が多くいます。もし感染した場合、重症化しやすく、施設での暮らしではクラスター感染も起きやすい。こうした人たちや、支援する人たちに対して、できれば毎週、少なくとも定期的にPCR検査をしてもらいたいと、国に働きかけていますが、今なお厚労省からの答えはなく、実現もしていません。いざ感染した場合は、全員を検査してもらえるのですが、感染してない場合にはなかなか検査しづらいという傾向は変わっていません。

――医療がひっ迫してくると、人工心肺装置を誰に優先して使うかという問題もネットなどではでていました。障害者は後回しだという驚きの声もあったと聞きます。

藤井:命の選別、トリアージと言われていますが、緊急事態のときに命に序列をつけるんですね。これは外国から入ってきている情報なのですが、心肺装置や人工呼吸器といった限られた医療資源をどういう順番で使うのかということです。

実際、ルーマニアの報道によると、障害者がいちばん後回しと・・・。医療従事者、あるいは行政関係者が最初で、障害者、認知症は後回し。アメリカでは20州以上でそういったことが要綱上、法的なものに掲げられているんですね。アラバマ州では知的障害者や認知症の方は後回しという規定があったのですが、障害団体が猛烈に反対をして、これを撤回させることもあったようです。日本でもネット上では、(トリアージの)議論を始めるべきじゃないかという声もでています。今後、予断を許さないと思います。

障害者施設殺傷事件とは何だったのか

画像(収録の様子)

―― 今年は障害者に関わる重要な裁判がありました。2016年神奈川県相模原市の施設で起こった障害者施設での殺傷事件。2020年1月から公判が始まって3月に死刑判決、そして確定となりました。この事件について藤井さんは植松死刑囚に何度か面談し、裁判も傍聴なさったそうですが、何を一番知りたかったんですか。

藤井:植松死刑囚は事件を起こす前に衆議員議長に手紙を出しています。この中で「障害者は不幸しか作れない。だから安楽死させてもいいんだ」という論調ですね。報道でもこれを一貫して流していました。私は報道だけでは植松死刑囚の本当の思い、考えは伝わりにくかったと思うんです。そこで思い切って、障害者団体を代表して会ってもらえないかという手紙を出し、彼から「会いましょう」と。一番関心があったのは、「障害者は不幸しか作れない」という一言について、直に彼からその考え方と、その考えに至った背景を探りたかった。

―― 植松死刑囚は、藤井さんに何を語ったのでしょうか。

藤井:結論から言うと平行線で終わってしまった。つまり、彼の中でもそこをきちんと論理で展開できるものが、いま考えてみればなかったのではないかなと。彼自身が、どういう背景でその言葉を使ったのか、なにか借り物の考え方だったのか、それはよく分かりませんでした。最後までそこは平行線で終わってしまって。

彼のああいう考えに至った背景には、おそらく彼が育ってきた社会、平成という時代があるんではないかと。この国が一層、生産性とか、速度、効率を重んじる風潮があった時代で、それがどう影響したのか。彼の育った社会の背景と、彼が初めて就職した職場の環境という問題。こういったことを、全部は解明できなかったのですが、話の中で「あ、そういう部分があったのかな」というのをぼんやり私はつかんだつもりだったんです。

しかし裁判では、残念ながら、刑事責任能力があるかないかだけの一点で争点整理がなされました。私が面談で感じたことを、法廷でももっと解明して欲しいと願ったのですが、これはかないませんでした。結局、判決に対して控訴もせずに、死刑が確定してしまった。死刑確定は、ある面ではこの事件の封印、つまり、蓋をしてしまうという意味で、真実まではほど遠いなというのが私の実感です。

19人の犠牲者たちが本当にこれで報われたのだろうか。裁判は終わった、でも、一体あの事件はなんだったのか?私自身、今でも非常に釈然としない。なんだか、重石を引きずっているというのが今の気持ちです。

引き続き注視すべき旧優生保護法をめぐる裁判

―― 旧優生保護法(※)のもとで行われた強制不妊手術に関して、損害賠償を求める裁判もありました。強制不妊手術について、被害を受けてから20年以上たっているということで、裁判所は損害賠償請求を認めていません。

藤井:この裁判は「除斥期間」というハードルに阻まれました。仙台地裁や大阪地裁の判決では、強制不妊手術が憲法違反であることを認めながらも、手術から20年たてば時効で、訴訟する資格がないとして、国家賠償の請求を棄却するとしたのです。

しかし、手術を受けたことで当時苦しんだだけでなく、今もフラッシュバックが続いている人もいます。また、裁判を起こした人の中には、優生手術の問題や、その怖さを最近になって知ったという方もあるのです。その二つの観点からみても、時効というのはおかしいんじゃないかということです。

画像(判決を伝える様子)

―― このままだと一時金320万円の支給で終わりそうです。今後、どういった点に注目してこの裁判をみていけばよいでしょうか。

藤井:「一時金支給法」(「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」)が国会で成立したのは2019年、旧優生保護法が効力を失ってから22年と9カ月後です。つまり立法府は、この時には「時効」を問題にしなかったんです。そういう観点で見ると、時効で訴える資格がないというのはおかしい。もしそれがまかり通ると、優生手術を受けたことによる人権侵害と、「時効」による侵害、つまり、二重の人権侵害になりかねない。

今、9つの地方裁判所、あるいは地裁の支部で争っていますが、3連敗となっています。この問題は、これからの障害がある人の人権水準、あるいは障害者政策の基準値、これに影響するんではないかと思います。2021年1月の札幌地裁以降、これがどうなるかを、ぜひ注目し、見守って、可能であれば応援をするべきじゃないかな、と思っています。

※旧優生保護法 旧優生保護法(1948~1996)のもとで行われていた障害者の強制不妊手術。
関連WEB記事:旧優生保護法ってなに?

2021年の展望について

―― ここまで2020年を振り返りました。次に2021年の展望についてお聞かせください。

藤井:東日本大震災から3月でちょうど10年を迎えます。あの東日本大震災を忘れまいということを私たちが確認し合うということです。同時に、あの震災において、たくさんの障害者が亡くなりました。もう一度ここに焦点を当ててもいいんじゃないかなということですね。

さらには、この国は災害列島と言われ、災害が多く発生します。自然災害、風水害や、地震。その備えを、3.11を通してもう一度みんなで確認し合う。障害者が多数犠牲になったことを深め合う。いろんな面で、3.11から10年を、大きな節目にしていく必要があると思います。

画像(藤井さん)

―― そして、コロナの影響で延期された国連権利委員会の障害者権利条約(※)の審査が2021年に行われます。

藤井:障害者権利条約には、ただ条約を作っただけでなく、定期的にチェックするという、とても素晴らしい仕掛けがあります。

政府が提出するレポートに対して、当事者の視点から現状や要望をまとめたパラレルレポートというのがあって、これを今、日本障害フォーラム(JDF)が中心となって、日弁連のレポートと併せて準備しています。政府レポートとパラレルレポートを同じ「まな板」にのせて、国連がジャッジメントしてくれます。

※障害者権利条約 2006年に国連総会で採択された、さまざまな政策分野における障害を理由とした差別の禁止と合理的配慮を求めた条約。

―― 差別解消法の改正については、来年議論が進んでいくことになりますか。

藤井:差別解消法は2016年に施行されて、3年後の見直し規定がありました。内閣府の障害者政策委員会で改めて議論していて、来年の通常国会で提案しようといわれています。

ポイントは、民間企業への合理的配慮の義務化ですね。公的な機関には合理的配慮を義務化したのですが、民間には義務が課されませんでした。これをどう義務化できるかというのがポイントです。

また、何かあった場合の解決手段。さらには、「差別とは」という定義をどこまで明示できるか。このあたりも注視したいところです。今度の国会でおそらく改正案がでますので、これにもぜひ注目して、私たちの暮らしとつなげてみてほしいと思います。

画像(藤井さん)

―― 今年はコロナで暗くなった年でしたが、これから何が大切だとお考えですか。

藤井:感染症は必ず終わりがあると、公衆衛生の世界では言われています。私が改めてコロナ禍での過ごし方として呼びかけたいのは「待つ力」を高めていこうということです。

「待つ力」とは、きたるべきときに力を蓄えておくという意味です。この機会に、小さな学び――読書でもいいし、いろんなディスカッションでもいい、「学ぶ」ということを少ししてみませんか。

今は集まることができにくい。でも、気持ちのつながりまで断たれているわけではありません。メール、電話、あるいは仲間を思う気持ちでもいいと思うんです。人とのつながりを、意識して作っていきましょう。

加えて、きたるべき日を夢見て、いろんな夢を膨らませます。自分の地域で、職場で、家庭で「こんなふうにしていきたい」と。小さな学び、心や気持ちのつながり、そして夢を見ること、これが「待つ力」です。ぜひ年末から年始、この力を蓄えていってほしいなと考えています。

※この記事は、2020年12月27日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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