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ひきこもりVR 親子対談(1)親子のコミュニケーション

記事公開日:2020年12月14日

ひきこもりについて考えていくと、本人と親との間でコミュニケーションが取れていないケースがとても多くあります。今回ハートネットTVでは、VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)の空間で、ひきこもりの子を持つ親と当事者がアバターとなり、面と向かっては言いにくいことでも自由に発言できる場を作りました。
最初に話し合うテーマは「コミュニケーション」について。“これがうまくできていればひきこもらなかった”という声もよく聞かれます。子どもと親、悩める双方が意見を交わします。

親はどうやって子どもの気持ちを知ればいい?

画像(アバターのフクさん)

今回の対談、参加者の間には実の親子関係はありません。進行係を担当したひきこもり当事者の「ぼそっと」さんは、このような集まりを「斜め対談」と呼んでいます。子どもの思い、親の思いを直接の親子関係の間ではぶつけあうことなく、本音でやりとりできる意義があるといいます。
参加者は子どもの立場から4名、当事者としてピアサポートも始めた【しもニキ】さん、20年近くひきこもっている【あつこ】さん、なんとか親から自立しようとしている【タカシ】さん、【トトロ】さんは最近父親を亡くしたそうです。親の立場からは3名、【フク】さんは長男が不登校を経て、30年以上ひきこもっているとのこと、【ローズ】さんの息子は10年間だれとも関わりをもっていない様子、【ヌヌカ】さんの三男は就活で辛い思いをし、4年ほどひきこもっているそうです。対話の場には、精神科医の斎藤環さんと、ひきこもりの取材を長年続けているジャーナリスト・池上正樹さんも参加しました。オンラインチャットでも、全国の当事者が投稿してくれました。

まずは、フクさんから寄せられた「息子がふさぎ込んで反応してくれない、どうしたら?」という悩みからスタートです。

ぼそっと:こちらはどういうお話でしょうか。
フク:いつもではないんですが、ふさぎ込む状態になることがたまにあるんです。声をかけても受け付けなくなって、何日かそれが続く。「なんかあったのか?」と聞いても顔を向けるだけで、何も言わずに自分の部屋に戻ってしまう。
そのときに我々親としてはいろんなことを考えてしまうんですね。なんかあったんだろうなと。じゃ、こんなことかなっていう。
しばらく会話がなくなってしまうと、親の我々も、本人もたぶん辛いと思うんです。でも、そのときにひと言でもいいから話してくれればと思ってはいるんですけども。
親はどう対応すればいいのかということをお聞きして、参考にしたいなと思っています。ほっといてもいいんじゃないかということもあるのかもしれませんけれども、皆さんのお考えを教えていただければと思います。
ぼそっと:ありがとうございます。フクさん、お父さまとして本人が何に悩んでいるのか、気持ちを知りたいということですかね。当事者の皆さんはどうですか。こういうときありますか。こういうときはどんな気持ちなんでしょう?
タカシ:私の場合は、親がまず話しかけてくれない家庭なので、フクさんが息子さんに話しかけていることがいいお父さんだなというふうに、僕としては思います。ふさぎ込むことがあるとのことですが、フクさんの息子さんが常にフクさんに返事をしてたら、むしろ逆に親御さんに気をつかいすぎてて、よくない状態なんじゃないかなと私は思います。話しかけたときに返事をすることもあるし、時々、数日だけふさぎ込むことがあるというのは、むしろ正常な親子関係で、人間関係でもあるのかなと思いました。
あつこ:私もいまの意見と同じで、まずお父さまから息子さんに声をかけてあげるというのがすごいなあ。うちは全くそういうことがなかったので。ふさぎ込んでいるときに、本当におっしゃったとおりだったんですけど、ちょっとぐらい答えない日もあったりするんじゃないかなっていう感じで、それぐらいの人間関係でちょうどいいんじゃないかなっていうふうに私も思ったんですけど。
ぼそっと:特に親御さんとして悩まれる必要もないんじゃないかみたいな?
あつこ:ないかなっていう。
しもニキ:私は、その逆ですね。父は威圧的な態度をとってくるので、すごく怖いんですね。言葉とか。それで父と遭遇すると何を言っていいか、頭の中が真っ白になっちゃうっていう状況になって、ずっと沈黙の状態が続いて、ついには話せなくなってしまうっていう状況が私にはあります。
ぼそっと:じゃ、しもニキさんはそっとしておいてほしいという気持ちがあったという感じですかね。
しもニキ:そうですね。
ぼそっと:ほかの親御さんはどうでしょう。このような悩みはありますか。
ローズ:息子が不登校になったときに、私がどうしても学校へ行かせたくてそういう態度をとったものですから、そこから全く口を聞かないときが7年間続きました。目も合わせない、完全無視の状態でした。1か月近く食事をとらないときもありました。これは本当に親にとって辛い時期でした。ほんとにどうしていいかわからなくて、おろおろするばかりでしたね。
ヌヌカ:うちはひきこもりになって4年ぐらいで、以前から、もともとあまりしゃべらないタイプなんで、親とのコミュニケーションがなんでもかんでもしゃべるっていうような子ではなかったので、そんなに変わらないかなっていう感じがします。必要なことは話しかけたりとか挨拶とか、そういうことはしますけど、という感じですかね。
ぼそっと:ひきこもりのケースというのはほんとに多様で、一つのご家庭に当てはまることがほかのご家庭にすぐ当てはまるということもないでしょうけれども、当事者の皆さん、親にどういうふうに接してほしいんでしょう。
トトロ:いまのフクさんのお話を聞いていて、お父さんの心中いろいろと悩みが深く、親も大変なんだなあというふうに、私は子どもの立場なので親の気持ちはわからないなあというふうに率直に感じました。
実は私、父が今年の4月に亡くなりまして、私も父との関係が厳しかったんですね。僕が当事者の一意見として言えるのは、「お父さんはこういう気持ちでいるよ」とかひと言、口で言えなかったら手紙、メモをするとか、そんなことでメッセージを出していただけるといいなというのと、きっとフクさんの思いというのが息子さんにも通じていて、わかっている部分もあって、ただ、どうしてもなかなか言えないというところもあると思うので、先ほどほかの当事者の方々が言っていましたけども、距離をちょっとあけながらやっていけたらいいのかなと。
ぼそっと:ありがとうございます。私自身も子どもの立場、当事者ですから思うことがあるわけですけども、「おはよう」のひと言だけでも、父親のほうが心を開いてくれたなっていうのは、そんときすぐ子どもが反応しなくても、子どもの側の心に残るかもしれないなというふうに思いましたね。
ほかの当事者の皆さん、いかがでしょう。
タカシ:私の親の場合なんですが、何を話しても無視したり、「たいしたことないよ」って言われちゃって、どんな悩み事を話しても、僕の状態が悪化していくような状態が続いていました。親御さんの側から話しかけることも大切だと思うんですが、息子さんが何か話したときにその言葉を受け入れるとか、一緒に考えるとか、時には涙を流すくらいの場合のほうが子どもとしては、親は自分のことを一生懸命考えてくれているんだなって思うのかなと私は思います。
ぼそっと:そうですね。コミュニケーションすればいいってもんでもないように思うんですね。私もね、親が話しかけてくればといったって、それがお説教だったら、そんなの子どもの立場としていらないんじゃないかな思うんですが。あつこさん、いかがでしょう?
あつこ:フクさんの息子さんが、ふさぎ込む時というのは、たぶん自分の中で葛藤があって黙り込むことになると思うんです。その葛藤を本当にお父さまに言う必要がないからこそ言わないのかなと思ったりして。なんでもかんでも親子で共有して悩みを解決していくっていうことがほんとに正しいのかなってたまに思うことがあります。私がそういう時にどうしてほしかったかというと、信頼感とか安心感が私はほしくて。まだこの人に言えない、まだこの人を信じられない思いがあったかもっていうのは、息子さん側の意見だとしたらすごい共感しました。
ぼそっと:誰もがフクさんの息子さん本人にはなれないわけで、私たち当事者の立場から何かこういうふうに言うときには、当事者という立場でしか言えないわけなんですが、フクさんは何かヒントが得られましたでしょうか。
フク:たぶん私がいろいろ考えているのと同じように、子どもも何か考えてるんですよね。ですから、子どもは子どもなりに、親父たち何考えているかなと思っているのかもしれませんね。ですから、つぶやきでもいいから、子どもからも親に投げかけてくるような環境を作っておく必要があるなという感じがしております。本人のつぶやき程度でもいいから、それを親が知ることによって、子どもに対して今までとは違ったことができるかもしれません。そういう観点で生活していければいいのかなというふうに思っております。

一番苦しいときは「気持ちが言葉にならない」

画像

当事者のみなさんのアバター

フクさんの投げかけを受けて、当事者からは距離感の大切さやそっとしておいてほしいケースの話が出ました。そこで司会の「ぼそっと」さんから、「一番ガチでひきこもっている時、一番苦しかった時は、親とのコミュニケーションでどういうことがあったか」という問いが投げかけられました。例えば「親が言いそうなことは全部わかっていて、すでに自分の中にあるから、改めて言われるのはいやだった」とか、「親が言うことは正論だとわかっているが、その通りにいかないから困っているんじゃないか」など、「ぼそっと」さんが当事者として思うことをほかの当事者にも聞いてみたところ――。

トトロ:私の親は特に母がすごかったんですが、なんで私がどうしても動けないこととか、やれないということをわかってもらえないんだろうというところで、怒りだったり、悲しいなと思ったり、振り返るといろんな思いがありました。
しもニキ:私の場合は、母との会話はすごく良好だったんですけど、父がガーッて言ってきて、「なんでひきこもるんだ」とか、「なんで学校に行かないんだ」とか、いま渦中にある状況のことを根掘り葉掘り聞いてくるわけですよ。私としては、そのことを聞かれても言葉にすることができなかったんですね。どんな気持ちか、どんな思いか、どんな状況にあるかというのを言語化することができなくて、ずーっとどろどろした状態を過ごしてきたんですね。「なんで」って父に聞かれても答えられないわけです。言葉化できないから、どう父に伝えていいかわからないので、ただ黙っていました。すると父が「なんで話さないんだ」とか、「ただ寝てるんじゃないか」って言ってくる。そのときはすごく悲しかったですね。
ぼそっと:そうですね。一番苦しいとき、“渦中の当事者”とか、“がちこもり”とかいろんな言い方を私たちはしますけど、一番苦しいときって言葉が出てこないんですよね。ひきこもってる理由をペラペラと説明できるぐらいならひきこもってないよみたいな、そういうことがあるので。ただ親御さんとしては、それを聞きたいということですよね。どういうご感想を抱かれましたでしょうか。
ローズ:はい。私も当初はうまく対応ができなかったんですけれども、徐々にまずは挨拶からとか声かけを通して、少しずつ短い会話というか、話ができるようになってきました。安心して話せるような状況にしてあげられなかったこと。そういう関係を築いてこれなかったことが、長い間の彼の沈黙だったんだなと思っています。
ぼそっと:ありがとうございます。

「よかれと思って追い詰めない」「距離を保つ」

画像(斎藤環さんと池上正樹さんのアバター)

対話の場には、ゲストとして精神科医の斎藤環さんと、ひきこもりの取材を長年続けているジャーナリスト・池上正樹さんも参加しました。
これまでの親子の対話をどのように受け止めたでしょうか。

斎藤:当事者の方は、親御さんとのコミュニケーションで傷ついてこられた方が多いなということを、改めて痛感しました。親御さんもよかれと思ってではあるんでしょうけども、ついついお説教、議論、それからアドバイスによって当事者の方を追い詰めてしまうことがあるんだと思います。そういったことをされると、当事者の方には“力を奪われてしまう”とおっしゃった方もいまして、まずは親が思いを少し控える、我慢をするというところが大事かなと。つぶやきの話も出ていましたけれども、何気ない挨拶とかつぶやきといった、安心できるコミュニケーションが大事かなと思います。そういったものを通じて、あまり評価をしないで、しっかりと耳を傾ける、話を聞くという姿勢をまずは前面に出していただければと思いますし、いろいろ知りたいことがあると思うんですけれども、聞き出そうというんじゃなくて、むしろ教えてもらうという姿勢が大事だと思うんですね。きょう、フクさんは当事者の方からいろんな気持ちを教えてもらったと思うんですけれども、その姿勢を家庭でも実践していただけると話しやすくなるかなと思って聞いていました。

池上:フクさんのお話は、本人の気持ちがわからないということなんですけれど、本人なりにいまの社会で頑張って生きているということを理解してもらいたいのではないかなと、私は思うんですね。例えば学校でのいじめを親には言えなかったという話、親を悲しませたくないから言えないということも、いろいろ社会に出てからもあると思うんですね。親の期待に応えられない自分というものがあって、親に対して申し訳ないし、そういう自分が情けないと思っているということがこのメカニズムの中であると思うんですけども、そこを動かそうとする意図を感じ取ってしまうと逆に警戒されて、ますます奥へと引っ込んでいくことになるんじゃないかなと思いますね。
それから、きょうも話に出てきた距離の取り方。ソーシャルディスタンスですよね。これは親子関係の中でも必要で、状況は皆さん違いますけれども、会話ができないということであれば、例えば食事は台所で用意をしたら姿を隠すとか、距離の取り方ということもそれぞれの状況に応じて考えていくということも大事です。できないことを責めるんじゃなくて、できたことをほめてあげるということを考えていくことも、必要なんじゃないかというふうに思います。

今回のVR親子対話では、会場にチャット・ボードを設けて、全国の当事者や親が対談を聞きながら投稿をしました。

チャットの中には、当事者から「(親の)心配が重圧になる」「親子といえども他人」という声もありました。

斎藤:親が心配するのは当然といえば当然なんですけれども、その心配が不安に結び付いてしまうと、その不安を解消したいという気持ちから、ついつい問い詰めちゃったりとか、アドバイスしすぎちゃったりとか起こりやすいと思いますので、まず親御さん自身が余裕を持って、会話できる態勢になるまで少し待つ余裕も大事かなと思っています。
お子さんといっても自立した個人ですから、100%理解ということはなかなか難しいと思うんですね。むしろ100%理解しようとしすぎると、先ほど池上さんがおっしゃったように距離が縮まりすぎてしまって、かえってよろしくないという場合もありますので、「わからないものを抱える同士」という距離感が大事かなと思っています。

「いい心配の仕方と悪い心配の仕方はあると思いますか」という質問に対して斎藤さんは、親の不安解消としての叱咤激励やアドバイスではなく、親自身が自分の弱さをさらけ出すつもりで「心配しているよ」と口にするほうが受け止めやすいのでは、と語りました。
VR親子対話、(2)では「人とのつながり」について考えます。

※この記事はハートネットTV 2020年12月8日放送「ひきこもりVR『親子対談』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

ひきこもりVR 親子対談
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(3)親子の悩み「働くこと」について

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