ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなに知ってほしい!聴覚障害のこと【悩み、困りごと、コミュニケーションの工夫】まとめ

記事公開日:2023年04月19日

音が聞こえない・もしくは聞こえにくいために、情報の取得やコミュニケーション、さらには学習や就労など、生活の様々な面で支障をきたすことがある状態を、「聴覚障害」といいます。職場でのコミュニケーションの工夫や、公的な制度として始まった「電話リレーサービス」など、周囲の人たちにも知ってもらいたい聴覚障害の基本情報をまとめました。

聞こえとコミュニケーション

聴覚障害といっても聞こえ方は人によってそれぞれ異なり、「1対1の会話はできるけれど、大人数の会議は聞き取りにくい」という人もいれば、「まったく聞こえない」という人もいて、生活の中で感じる困難さや障害と感じる程度は、周囲の環境や対応によっても変わってきます。

補聴器や人工内耳を装用し、音を取り入れて生活している人たちもいれば、手話という言語で生きている人たちもいます。あるいは、口の動きを読み取る人もいますし、筆談を必要とする人もいます。

外見上ではわかりにくいため、周囲は本人が必要とするコミュニケーション方法を尊重し、ニーズに合わせて対応することが大切です。

職場でのコミュニケーションの悩み

聞こえる人たちの中で働く「聴覚障害のある人たち」は、どんな悩みを抱いているのでしょうか。

ろう者・難聴者を雇用する企業の研修事業に力を入れている、大阪市のある会社では、およそ100社に研修を行い、職場の悩みや不満を聞き取り、改善策を探ってきました。

働く聴覚障害者から寄せられた声は・・・
「ミーティングで話の内容が分からない」
「聞こえないことを理解してくれないから、積極的になれない」
「楽しそうに話しているのに入れない」

などさまざまです。

一方、企業側も・・・
「YES-NOで答えられる指示になり、理解できているかが分からない」
「筆談では時間がかかり、業務外の話ができない」

と、戸惑いを感じていることが分かりました。

基本的なコミュニケーションがとれていないこと。そして、解決策が分からないことが、職場の働きづらさを生んでいたのです。

聞こえる人たちのなかで思うように働けないもどかしさについて、こんなデータもあります。

2020年4月に発行された、全国の働くろう・難聴者に実施されたアンケート調査。
これによると、全体のおよそ70%が「転職経験がある」と回答。「人間関係がうまくいかず転職した」「配慮の求め方が分からず、伝えられなかった」などの理由があげられています。

画像

2020年4月発行「働く聴覚障害者の仕事に関する調査報告」
兵庫県難聴者福祉協会を含む中途失聴・難聴者事業推進委員会労働部会

ろうのグラフィックデザイナー・岩田直樹さんは、職場での円滑なコミュニケーションは、働くモチベーションにつながると考えています。

岩田さん:
会社は毎日通うところです。仲間と一緒に仕事をしてチームの雰囲気をつかみながら楽しく働く。仕事が終わったあとには「お疲れさま」と言ったり、一緒にご飯を食べに行ったりする。そういう楽しみもあると思います。でも聞こえないと、コミュニティに入りにくく、つい仕事だけに集中して、仕事のためだけに通うようになり、モチベーションが下がってしまうこともある。コミュニケーションは本当に大切だと思います。
≫『どうする?新生活のコミュニケーション #ろうなん 創刊号!』の記事はこちら

職場でのコミュニケーションの工夫

1 難聴のある医師たちの場合

脳神経外科医の武地蒼太さんとリハビリテーション科医の関口麻理子さん。2人とも両耳に補聴器をつけて働く難聴者です。

画像(難聴の医師 武地蒼太さんと関口麻理子さん)

ふたりとも「読唇(どくしん)」といって、しゃべっている人の口の動きを見ながら話している内容を理解していたそうですが、コロナ禍でマスク生活になり、コミュニケーションに工夫が必要になりました。

リハビリテーション科医の関口さんが診察室で使っていたのは音声認識ソフト
集音マイクで拾った患者の声が文字でタブレット端末に表示されます。テクノロジーを駆使してマスクの壁もクリアしていました。診療がスムーズに進みます。

画像(関口さんが使っている音声認識ソフト)

一方、外科医の武地さんは脳や神経の手術を担当しています。一緒に手術を担当する仲間に手渡したのは、ワイヤレスマイクです。手術中の声をワイヤレスマイクでひろって自分の補聴器に飛ばすことで大事な情報を聞き逃さないようにしています。

画像(武地さんが使っているワイヤレスマイク)

また、武地さんは大切な連絡には必ず手書きメモを使っています。伝え違いや行き違いがなくなり、正確なやりとりができるため、聞こえる人の働きやすさにもつながっているといいます。
≫『ろう・難聴の中学生が抱く悩みや疑問に大人が真剣回答!』の記事はこちら

2 接客の仕事をする難聴者の場合

難聴のある山口トモさんの仕事は、大手コーヒーチェーンでの接客です。お店の中心的存在として、コーヒーに関する専門知識を生かしながら、聞こえるお客さんを相手にテキパキと応対しています。

画像(接客をする山口さん)

そこで、円滑に仕事を進めるために考えた3つのポイントがあります。
コミュニケーションのポイントの1つ目は「聞こえないことを伝える」。山口さんはレジに立つと、お客さんに「私は耳が聞こえませんので、指さしでお願いします」と伝えます。

画像(ポイント1 聞こえないことを伝える)

山口さん:
最初に「自分は聞こえないんです」と伝えることで、(お客さんは)「なるほど聞こえないのね」と心の準備ができる。そうなると、私たち聞こえない人と聞こえる人の距離がちょっと縮まる。そうするとコミュニケーションがしやすくなります。

2つ目のポイントは、「相手にもわかりやすいコミュニケーションを提案する」です。
専用のメニュー表を使い、カップの大きさや店内利用なのか持ち帰りかなどを、確認します。イラストはお客さんにも理解しやすく指差しでスムーズにオーダーを確認できます。
また、ミルクやシロップなど細かい注文には筆談をお願いしています。

画像(筆談の様子)

3つ目のポイントは、「確認する」です。
レジ画面をお客さんと一緒に見て確認したあとも、商品を渡すときにもレシートを見ながら確認するなど、徹底しています。
≫『コミュニケーションの課外授業 難聴の私が接客のプロになるまで』の記事はこちら

電話リレーサービスの活用

2021年7月、国の事業として「電話リレーサービス」が本格的に始まりました。
このサービスは、聞こえない人と聞こえる人が通訳者を仲介して電話できるというものです。

画像

電話リレーサービスの仕組み

職場で電話リレーサービスを活用するケースも出てきています。埼玉県庁で働く清水克彦さんは、仕事で電話が使えないことで、もどかしさを長年感じてきました。

かつて県税事務所に勤めていたとき、清水さんだけが納税の催促をする連絡を手紙で行っていたのです。清水さんは、職場で電話リレーサービスが使えるようになったことで、仕事への向き合い方に変化が生まれたといいます。

画像

清水克彦さん

清水さん:
ほかの職員は電話をして、大変な思いをしながら「振り込んでください」とお願いしていましたが、自分はその大変さが分かりませんでした。大変という気持ちを共有したかったです。今までは(同僚に)「電話をお願い」と助けてもらってばかりでした。でも自分も電話ができるようになって、逆に助けることができる。誇りを持って仕事ができ、自信を持てると感じます。これが仕事なんだ、私の仕事だと感じられるのはうれしいことです。やりがいがあるのはとても大切なことだと思いました。

電話リレーサービスを利用するには、専用の電話番号を取得するために事前の登録が必要です。詳しい登録方法や料金などは、日本財団電話リレーサービスのホームページで確認できます。
≫『広がる「電話リレーサービス」 私が登録した理由 #ろうなん5月号』の記事はこちら

情報バリアフリー

2022年5月、新たな法律「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行されました。これによって、国や自治体、事業者は、障害のある人が十分に情報を得たり利用したりできるように、さまざまな施策に取り組むことが求められています。

聴覚障害のある人にとっては、どんなときに情報が得にくいと感じているのでしょうか。誰もが一緒に安心して暮らせるためのユニバーサルデザインを広げていくアドバイスや、講演活動などを行っているろう者の松森果林さんは、緊急時の対応に不安があるといいます。

画像

松森果林さん

松森さん:
まだまだ聞こえることが前提の社会があると思います。たとえば(エレベーターなどの)非常ボタンは、ボタンを押したあと、音声でのやりとりが必要になり、聞こえないと難しい。ほかにも災害時や非常時は、駅や空港などの公共交通機関では音声アナウンスが中心です。聞こえない人は取り残されてしまうことになります。

そうしたなか、情報のバリアフリーを目指した取り組みが、さまざまな分野で始まっています。
上野駅では、駅のあらゆる音を“見える化”する実証実験が行われ話題になりました。つくば市では、どこでも使えると好評の「遠隔手話サービス」が行われています。

もっと詳しく知りたい方は…
『進む!情報バリアフリー 音の“見える化”と広がる手話通訳 #ろうなん9月号』の記事へ

 

あわせて読みたい

新着記事