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“あがるアート”(1)障害者と企業が生み出す新しい価値

記事公開日:2020年11月23日

九州のあるアーティスト集団が話題を呼んでいます。巨大で幻想的な壁画に、おしゃれな布バッグ、ショッピングモールやカフェを彩る絵画・・・。たくさんの人を魅了する作品を生み出したのは、知的障害や自閉症、ダウン症などの障害がある人たちです。注目すべきは、企業とタッグを組み、作品をビジネスに展開しているところ。みんなのテンションを上げ、会社の利益を上げ、地域の活力を上げる。そんな「あがるアート」をご紹介します。

売れっ子アーティストも誕生! 企業と障害者がタッグ

佐賀県東部にある基山町。話題のアーティスト集団は、病院の空きスペースを利用して活動しています。
施設長の原田啓之さんに案内してもらいました。

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施設長の原田啓之さん

「ここからがアトリエがある場所になります。いろんな会社さんだとか、アパレルさんとコラボした商品を置いているので、お買い物をされる場所になっています」(原田さん)

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アトリエに置いてある商品

施設の名前は“PICFA(ピクファ)”。絵画のPICTURE(ピクチャー)と福祉のWELFARE(ウェルフェア)を掛け合わせています。

アーティストたちはみんな、知的障害や自閉症、ダウン症などの障害があります。就労支援の福祉事業所であるここで、日々アート活動をしているのです。

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ピクファで作業するメンバー

現在、メンバーは17人。デザインやグッズの販売などによる売り上げは、みんなで分配しています。ひと月の工賃は2万3000円。全国平均の1万6000円を上回っています。しかも個人の作品が売れた場合、売り上げはその本人に入るしくみです。

ピクファの活動の様子を見せてもらいました。

この日はWEB会議。相手は、長崎に本社のある大手企業の社長です。創業70周年を機に一新されるロゴのデザインの最終確認をします。

アーティストは自閉症のある本田雅啓さんが指名されました。筆1本で描いていく、複雑な幾何学模様や風景画が得意です。

画像(アーティスト 本田雅啓さん)

本田さんの作品の1つ、博多のもつ鍋店の壁画が去年の夏から話題になっています。高さ15メートル、幅12メートルの壁に描かれた巨大な絵は街ゆく人の足を止め、集客効果も上がってきたそう。

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本田さんが手掛けたもつ鍋店の巨大壁画

幻想的な作風は海外でも高く評価され、フランスでの作品展示は8回にも及びます。

今回、社長からリクエストされた新しいロゴのイメージは、雲。

そこで本田さんは実際に雲を見ながら、一気に描き上げました。できあがった5枚の図案の中から社長が選んだのは、この1枚でした。

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企業のロゴに選ばれた図案

その4日後。社長が長崎の本社からピクファを訪ねてきました。新しいロゴを発表する新聞広告用のイラストの進捗を見に来たのです。

担当するのは統合失調症のある笠原鉄平さん。笠原さんがピクファの一員になったのは2年前。好きな絵を描く仕事ができるとここにやってきました。すると、その才能がすぐに花開きます。

画像(アーティスト 笠原鉄平さん)

画材はわずか0.03ミリという極細のペン1本のみ。下書きをせずに、多種多様なキャラクターを描き分けています。今では企業とタッグを組み、タオルのデザインを手掛けるなど売れっ子になっています。

今回、新聞広告に描くのは九州の観光名所。各県で社員が頑張っている企業イメージを表現します。

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笠原さんが制作中の作品

ピクファでは、クライアントにぜひメンバーに会ってほしいとお願いしています。そしてやりとりができるメンバーには、直接、要望を伝えることを勧めています。

社長 「1人1人に、生きてる証拠が出るような感じで、ハートをちょこっと、1個ずつ入れていくと、すごくいいなあと思って。それも人だけにハートがあるんではなくて、たとえば平和祈念像にも、本当は物にもハートがあるんだよって。みんなでいろんなものがいっしょになって作られているのが見えるんで。そこ最後、お願いしたいなと思って」

笠原さん はい、わかりました。

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笠原さんの作品を見ながら要望を伝える社長

こうしたやりとりは、笠原さんにとってもありがたいことだといいます。

「僕も予想してなかったんですけど、いろんなアイデアが出てきて、なかなか面白いと思いました。それで僕も試してやってみたんですけど、こういうふうなのもいいかなと思いました」(笠原さん)

施設長の原田さんは、ピクファで仕事をする意義について、こう話します。

「彼らもできるんだよってことを知ってもらう作業が、実は仕事をとる理由でもある。お金を稼いで彼らの工賃をちゃんと作る。それによって、彼らの責任を果たしていく、社会とつながる。それを実現させるために仕事をしているといっても過言じゃない」(原田さん)

飛び込み営業で問われた“モノを売る覚悟”

原田さんが福祉の世界に入ったのは、知的障害がある2つ上の兄、敏史さんの存在がありました。

画像(原田さんの兄 敏史さん)

原田さんが大学に進学したころ、敏史さんは作業所で働いていました。

「福岡に帰ったときに、兄ちゃんに呼ばれて、大学大変やろうからってお小遣いくれるんですよ。兄貴の工賃はいくらって聞いたら、今、(月)3000円よって。3000円のうちの1000円を僕にくれるわけなんですよ」(原田さん)

障害者の工賃を増やすことはできないのか?福祉施設に就職した原田さんは、そこでアート活動に没頭している彼らにふとひらめきました。

「コーヒーカップとかがあって、それを100万円って言えないけど、そこに美しい線とか、色が入って作品ってなれば、意外と高く値段ってなる。単純にそう思ったんですよ」(原田さん)

しかし、何のノウハウもない原田さん。そこで、手当たり次第に企業に飛び込んで、どうすれば彼らの描く絵に付加価値がつけられるか尋ねて回りました。

奔走すること3年。ある大手企業を訪問したとき、衝撃的な言葉を浴びせられました。

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原田啓之さん

「そのとき『物が売れないと僕たちってね、会社潰れちゃうの。ただ、福祉って潰れないんでしょ』って言われて、ああそうかと思って」(原田さん)

売り方のノウハウよりも、そもそも“モノを売る覚悟”ができているのかと問われたのでした。

「『福祉施設で物を作ったんだったら、君はどうこう考える前にこれを売るんだ』って言われて。そのとき結構、衝撃的で」(原田さん)

そこで後日、原田さんはメンバーの作品をかき集め、再び同じ会社を訪ね、頭を下げました。

「僕たちの自信作を買ってください」

ありのままの魅力で勝負すると決めた原田さんに、企業は「そういうことだ」と10万円でお買い上げ。さらに、会社の年賀状のイラストに、1デザイン3万円で2パターンを発注。しかもピクファの営業メッセージも入れて良いというのです。

これをきっかけに仕事の依頼が舞い込みます。

原田さんはプレゼン資料を作成。メンバー1人1人の作品の個性を丁寧に説明し、あくまで作品性だけで勝負していきました。

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ホテルに飾られているピクファの作品

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新酒のラベルに使われたピクファの作品

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地域の公民館に飾られているピクファの作品

アートで障害者の人生を広げる

ピクファに、新たな仕事の依頼が入りました。クライアントは、カフェのプロデュースを手掛ける芳賀大佑さん。

芳賀さんがピクファと出会ったのは去年のこと。博多にカフェを立ち上げる際、仕事関係者が持ってきたピクファの絵にひかれたといいます。

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カフェオーナー 芳賀大佑さん

「素敵ですよね。ジャケ買いじゃないですけど、パッと見たときに『ああ、いいなあ』と思って。描いていることが楽しそう。自由に何にも縛られず、アートを描いているんだろうなって印象でしたね。みんな誇りをもってやっているんだろうなって。やっぱり僕もプロ意識をもって仕事している中で同じ気持ちを感じとれたというところですかね」(芳賀さん)

今回、芳賀さんが依頼したのは、コーヒーボトルのラベル。コロンビアの豆を使う新商品に合うデザインを、考えてほしいというものでした。芳賀さんのリクエストは、1つだけ。コロンビアをイメージさせる色で表現してほしい。図案はおまかせ、という注文でした。

原田さんの呼びかけに、6人が挑戦したいと手を挙げました。

ピクファの独創的な作品はいかにして生まれるのか。原田さんは、メンバー対して、常に心がけていることがあります。

「描く方も出し切る。描く行為に対しては僕たち何も言わないので、土台の準備をどうするかというのは常に考えています」(原田さん)

たとえば、嗅覚が過敏な人のために、匂いのある絵の具は使わない。
どの色を使えばいいの?と混乱させないように、色の種類を増やし過ぎない・・・などなど。
メンバーがストレスなく、スムーズに作業ができるようあらゆる準備を怠りません。

画像(POINT1 徹底した準備)

制作が始まりました。クライアントのリクエストは、コロンビアを感じさせる色。そこで原田さんは、ライブペイントという手法で、その色を6人で表現しようと考えました。

決して安くはない絵の具ですが、みんな好きな色をどんどん使って、思う存分、たっぷり塗ります。原田さんは、メンバーのモチベーションが落ちないよう、高い画材でもケチりません。

画像(POINT2 画材はケチらない)

6人は思い思いに、コロンビアを表現していきます。制作中、原田さんはメンバーに対してとくに何も言いません。

「描き始めたら彼らのものなので。ドキドキ、わくわくするけど、メチャクチャぜいたくな時間」(原田さん)

作業についてはすべて任せきる、それがピクファの強みです。

画像(POINT3 すべてを任せきる)

制作開始から2週間後、クライアントの芳賀さんにお披露目します。

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作品のお披露目に集まる芳賀さんとメンバー

原田さん 「コロンビアをみんなで出し合った案で1発目描いたものがこっち。じゃじゃん!」

芳賀さん 「おお~!いいですね」

メンバーから提案
があって、追加で描いた、作品もお披露目です。

原田さん 「『もう1枚いかないと』みたいな話になって。同じサイズ」

芳賀さん 「鳥肌ヤバイわ。うわ~。なるほど、なるほど。イメージが伝わってびっくりした」

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メンバーが手掛けたコロンビアをイメージした作品

芳賀さん 「これはコーヒーを伝えようとしてくれてて、こっちはコーヒーの中に森をイメージしたのもすごい合う。どっちも使いたいです。2種類で同じ味だけど、2種類つくります」

芳賀さんは、博多と東京の2店舗で、2つのデザインを使うことを決めました。
原田さんはこう話します。

「こういう仕事をいただくことによって、絵だけじゃなくて、彼らの人生が広がっていくことを知ってもらえるのと、企業の方でもそういう広げることができるっていうことを知ってもらえるチャンスが、実は僕は仕事だと思っています」(原田さん)

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長崎の企業が依頼した新聞広告

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芳賀さんが依頼したコーヒーのラベル

11月21日、本田さん、笠原さんの作品が新聞広告に掲載されました。
コーヒーのラベルも完成。売り上げの8%がピクファの収入となります。

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値 ←今回の記事
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう!
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”

特設サイト あがるアート はこちら

※この記事はハートネットTV 2020年11月23日(月曜)放送「あがるアート File1. アートが企業を動かした!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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