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パートナーシップ制度「“トランスジェンダー”の場合」

記事公開日:2018年05月16日

同性カップルを、自治体が公に婚姻に準ずる関係として証明する「パートナーシップ制度」。レズビアンやゲイなど恋愛の対象が同性のカップルにとって、新たな選択肢の一つとなっています。一方でこの制度は、体の性と心の性が一致しない“トランスジェンダー”の人にとっても、活用できる制度です。最近では、トランスジェンダーの人を想定した制度設計を取り入れる自治体も出てきました。多様な性のあり方に対応しつつある「パートナーシップ制度」の今を取材しました。


“トランスジェンダー”にとってのパートナーシップ制度とは?


「パートナーシップ制度」は、同性カップルを自治体が公に婚姻に準ずる関係として証明するものです。2015年に渋谷区・世田谷区で導入され、現在、全国7自治体へと広がっています。法的な婚姻が認められていないレズビアンやゲイなど同性愛のカップルにとって、法的な拘束力は小さいものの、その関係を行政が公に認めるという意味では意義の大きな制度となっています。

それでは、体の性と心の性が一致しない“トランスジェンダー”の人にとって、この制度はどういう意味があるのでしょうか。例えば、女性として生まれたものの、自分は男性だと認識しているFtMの人の場合。恋愛の対象は異性愛で、男性として女性を愛し結婚したいと思ったとします。ところが、戸籍上は女性のまま。好きになった女性とは同性同士のため、法的な婚姻関係を結ぶことはできません。結婚できる方法の一つは、戸籍上の性別を変更することです。2003年に「性同一性障害特例法」が制定され、戸籍上の性別を変更できることになりました。しかしそのためには、医師から「性同一性障害」の診断を受けた上で、性別適合手術を受ける必要があります。しかも、“生殖腺を永久に欠く”という国際的にも厳しい条件が課せられます。経済的にも身体的にも負担が大きいのが現実。手術を受けるのは、診断を受けた人の2割に留まっています。一方、自治体のパートナーシップ制度は、「戸籍上同性」のカップルが対象です。そのため、戸籍上は同性のままでも、2人の関係を公に認めてもらう手段として、トランスジェンダーの人にとってもパートナーシップ制度が大きな意味を持つのです。



制度に合わせて体を切るしかないのか ~地方在住の当事者の声~


香川県高松市で暮らすハナメガネさん(33)は、女性として生まれましたが、物心ついた時から、女性としての自分に違和感を覚えてきました。赤いランドセルを背負い、スカートをはかなければいけないことや、卒業旅行で女子風呂に入らなければならないなど、女の子として振る舞うことを求められる度に苦痛を感じてきました。そのストレスの正体が何なのか分からず、しんどかったというハナメガネさん。高校生の時にテレビで「性同一性障害」のことを初めて知り、救われた思いがしたと言います。

「男女に差がなく、スカートをはかなくていいから」と現在、ピアノの調律師として働いているハナメガネさん。ホルモン注射による治療や乳房切除手術を受けて体つきが男性に近づき、自分の体への違和感が減りました。交際して1年半になるパートナーは“恋人であり大親友”。今、高松市内で一緒に暮らしています。

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パートナーと一生添い遂げたいと考えているハナメガネさんは今、大きな選択を迫られています。ハナメガネさんは、戸籍上は女性のままです。パートナーと婚姻関係を結ぶためには、性別適合手術を受け、戸籍上の性別を男性に変更する必要があります。しかし、手術には複雑な思いがあるといいます。戸籍を変えるためには、今ではほとんど違和感のない体にさらにメスを入れ、子宮や卵巣を摘出するなど生殖腺の機能を完全に失う手術が必要となるからです。
「生殖腺を永久に欠く状態にしなければ、好きな人と結婚できない今の日本の制度に疑問を感じない日はありません。しかし、一生一緒にいたいと思うパートナーと、結婚(法律婚)するためには、制度に合わせて自分の身体を切る、その道しか今のところありません。」

一方で、自治体のパートナーシップ制度で、戸籍上同性のまま公の証明を得るという選択肢もありません。香川県高松市では、まだ「パートナーシップ制度」が導入されていないからです。
「もし、戸籍上の性別が同性同士だったとしても、パートナーと結婚ができたり、結婚に相当する関係だと行政や国が認めてくれたら…。僕は、もしかしたら手術しないまま結婚する選択をとっているかもしれません。今のパートナーシップ制度は、法的拘束力もなく、保証も不十分な制度であることは事実です。ですが、選択肢の一つとして、LGBの人だけでなく、僕のようなTの人にも意味のある事だと考えてます。」

ハナメガネさんは、思い悩み、パートナーとも話し合いを重ねた結果、今年の夏、性別適合手術を受けることを決めました。戸籍上の性別変更の条件が厳しく、自治体によるパートナーシップ制度の広がりもまだ限られている中、今も多くのトランスジェンダーの人が苦渋の選択を迫られていると考えられます。まもなく性別適合手術に臨む、ハナメガネさんの思いです。
「どんな人でも、好きな人と安心して暮らしたい、好きな人と一緒に子どもを持ちたい、育てたい、という人間として当たり前の感情を諦めなくていい世の中であって欲しいと願います。」


“トランスジェンダー”で“同性愛”の場合は?

ハートネットTVのホームページには、こんなメッセージも届いています。

自分はトランスジェンダーです。体は女、性自認は男です。でも、恋愛対象は男なんです。周りの人にカミングアウトしたいと思っているけど、怖くて言えません。自分を偽って生きていくのが辛いです。クリニックに相談したら、恋愛対象が男だと言ったら変だねと言われて、自分が何者なのか分からなくなってしまいました。(オリオンさん/19歳以下)

もしこのオリオンさんが男性のパートナーとの結婚を考えた場合、戸籍上は異性のため、性別変更をしないまま婚姻関係を結ぶことができます。しかし、男性として生きたいという自分のセクシュアリティーを否定しなければいけません。また、同性同士として愛し合っているのに、戸籍上は異性として結婚しなければいけないという違和感が生じます。一方で、もし自分のセクシュアリティーである男として生きたいと、性別適合手術を受けて戸籍を男性に変えた場合、パートナーの男性とは戸籍上同性になってしまうため、結婚して法的な保証を受けることができなくなります。このように、「戸籍上は異性」だけど気持ちとしては同性同士のため、法的な婚姻関係がしっくりこない、というカップルは、これまでは自治体のパートナーシップ制度の対象からも外れてきました。自治体の制度は、「戸籍上同性」のカップルを対象としてきたからです。

多様な関係性に対応するパートナーシップ制度

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最近、パートナーシップ制度を導入した自治体では、こうしたケースにも配慮した制度設計を取り入れています。2017年6月から制度を導入した札幌市と、今年4月から導入した福岡市です。これまで対象外だった「戸籍上異性」のカップルも、制度の対象に含めたのです。ただし、あくまでもセクシュアルマイノリティーの人を対象とした制度のため、カップルのどちらか一方、もしくは双方がセクシュアルマイノリティーであることが条件となっています。

こうした自治体の動きについて、金沢大学の谷口洋幸准教授(ジェンダー法)は、「トランスジェンダーの人を考慮して門戸を広げたことは、本当の意味での“性の多様性”を考えるきっかけになる」と言います。パートナーシップ制度を、“戸籍上同性の人の制度”といった特定の人たちだけのための制度ではなく、「多様な性のあり方」を次々と取り込み許容していく制度だと、捉え直すことができるからです。そのことは逆に、「これまで当たり前とされてきた制度や権利がなぜ当たり前なのか、問い直すきっかけにもなる」と指摘します。

2015年に渋谷区と世田谷区で初めて制度が導入されてから3年。パートナーシップ制度は、多様な性のあり方に合わせて、少しずつその受け皿を広げています。

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