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これだけは知ってほしい!“てんかん”のこと 前編

記事公開日:2020年10月14日

てんかんは100人に1人がかかると言われる身近な病気です。もしも周りの人にてんかんがあったら、どうすればよいのでしょうか。てんかんの患者と会ったことがないという人でも、実は気付いていないだけかもしれません。番組に送られてきた声とともに当事者と語り合い、一緒に「アライさん」(味方・理解者)を目指します。

アライさんとは

てんかんがある人たちとの「はじめまして」

あなたの周りに、こんな人はいませんか? 手や足がピクピクと動く。急に力が抜けて転ぶ。けいれんして意識を失う。もしかしたら、それは「てんかん」という脳の疾患かもしれません。
あなたは、身近な人にてんかんがあったら、どうしますか?

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てんかんの症状の一例

スタジオには、オンラインでつながっているてんかんのある方々3人と、“アライさん”を目指す評論家の荻上チキさん。

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オンラインで参加した当事者のみなさん

まずは、“アライさん”への第一歩として、お互いに自己紹介です。
「自分について知ってほしいこと」を聞きました。

幼稚園の子どもを子育て中のチョコさんは、きれいな字を書きたいと願って、最近、書道教室に通い始めたそう。
事務職のユーリンさんは、自己紹介がちょっと苦手。荻上さんが「自己紹介って怖いですよね」と応じます。
医師3年目の熊谷壇さんは、たまたま翌日が27歳の誕生日。趣味は「整理整頓」と「アクション映画の鑑賞」です。

少し言葉を交わせたところで、てんかんの基本を理解するためのクイズです。

てんかんがあると話してくれていたスズキさん。会話の途中で、突然、黙り込んでしまった。スズキさんがけいれんをおこしているのは見たことがないけど、この状態もてんかんと関係あるの?

てんかんは…
A:けいれんの発作が必ずおこる
B:けいれん以外の発作もある

答えは…B。

スズキさんが黙り込んでしまったのは、意識が短時間途切れてしまう発作のため。
そもそもてんかんは、大脳神経の疾患です。神経には電気信号が流れていて体が動くのですが、それが乱れることで発作がおきます。

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発作がおこる仕組み

てんかんには、よく知られているけいれんのほかにもさまざまな発作がありますが、3人はどのような発作があるのでしょうか。

チョコさんは現在、2種類の発作があると言います。

「私の発作はぼんやりする発作と、けいれんをして意識を失う発作の2種類あります。ぼんやりする発作は、一点を凝視して体が固まった様に周りからは見えるそうです。1分くらい続いて、その後には自然に回復してきます。発作中の私自身は全然記憶になく、会話の内容が分からなくなっていたり、周りの風景が少しずつ違っていたりするので、発作があったんだなと気がつきます」(チョコさん)

ユーリンさんは、高校時代にてんかんを発症し、現在は週に1回発作がおきています。

「複雑部分発作と言って、懐かしい記憶がザーと頭の中に流れ込んできます。その前兆とともに2分くらい意識を失って、自動症という症状が現れます。そのときにやっていた状態を、たとえば歩いてたらそのままずっと歩いていたり、何かしていたらそれをずっとしたりします。家で発作をおこしたときは、そのままだんだん気付いて家だと分かりますが、外で発作をおこしたときは気付くと全然知らない場所にいます。意識が戻るまで時間がかかるので、他の人たちにどう思われているのか、すごく心配です」(ユーリンさん)

熊谷さんは、よく知られたけいれんする発作(強直間代発作)について詳しく話してくれました。

「僕の場合は急に大きな声を出して意識を失って手足をガクガク震わせる、いわゆるけいれんです。それが5分くらい続いて意識が戻るんですけど、意識が戻ったあとも何がおこったかあまり状況が把握できないことが多いです。周りに居合わせた人とか、治療にあたってくれた先生方にどういう経過だったのかを聞いてから、やっと発作がおこったんだなと把握することが多いですね」(熊谷さん)

3人が話してくれたほかにもさまざまな種類の発作があります。まぶしい、異常な音がするなどの感覚症状。過去の記憶がよみがえる、強い恐怖や不安を感じるなどの精神症状。さらに、意識が一瞬途切れる欠神発作など。一人ひとり、悩みも必要な配慮もさまざまなのです。

画像(てんかんのさまざまな症状)

※発作がおきたときの対応などは、「#隣のアライさんクイズ」をご覧ください。

暮らしのなかで てんかんとどう付き合う?

てんかんには一人ひとり、さまざまな症状があることが分かりました。
続いては、仕事や子育てなど、暮らしのなかでてんかんとどう付き合うかを考えます。

「職場で発作をおこしてしまい、離職転職を繰り返してます。生活が不安定です。見た目は普通なので、理解してもらうのも難しいです」(きつねうどんさん・40代)

てんかんがあっても、7割から8割の人は、薬や外科手術、それに規則正しい睡眠などによって発作をコントロールすることができます。
熊谷さんは薬によって3年間、発作が起きておらず、研修医としてフルタイムで勤務。職場に自分はてんかんがあるということを伝えているので安心感があると語ります。

画像(熊谷壇さん)

「毎日薬はちゃんと飲まないといけないですし、自分の体調を気にしないといけないですけど、今のところフルタイムでほかの先生たちと同じように働けています。職業柄もありますが、自分が仕事中に何か発作をおこしたときに対応してもらいやすい環境だと思います。てんかんがあるということ自体をオープンにしやすいので、そこはすごく安心感があります」(熊谷さん)

一方、薬では発作を抑制できないユーリンさんは、職場でてんかんのことを“クローズ”、つまり隠して働いています。

画像(ユーリンさん)

「仕事中に発作がおこることが何回かありました。現在はクローズで仕事をしているので、発作をおこしたときは、申し訳ないのですがパソコンの入力作業のときは入力しているフリをしています。私の場合は発作をおこしている時間は2~3分ですが、そのあと体調が戻るのに30分くらいかかります。なので、入力作業をしている間は30分くらいして体調を整えてから仕事に戻ります」(ユーリンさん)

ユーリンさんが会社にてんかんの症状を隠しているのには理由があります。

「今までアルバイトやパートの仕事をしてきて、てんかんだと疑われると、辞めざるをえなくなったことが何回かあったので、怖くて言えないというのがあります」(ユーリンさん)

チョコさんは会社にてんかんであることを伝えて“オープン”で働いていますが、ユーリンさんの気持ちに理解を示します。

画像(チョコさん)

「仕事はオープンで働いています。ぼんやりしても安全なように背もたれつきの椅子を用意してもらったり、倒れたときにどうするかの対処方法をお伝えしているので、安全で安心して働けています。過去に(てんかんだと)伝えて働いて、発作が頻発して辞めざるをえなかったことがあるので、ユーリンさんの気持ちが分かります」(チョコさん)

また、子育てについては、自助グループの仲間のアドバイスをもらいながら、様々な工夫をしてきたそうです。

「日本てんかん協会の方々からいろいろ教えて頂いて、授乳しているときに発作がおきても、子どもに倒れこまないように、必ず何かにもたれて行うようにしていました。お風呂に子どもと一緒に入るときには、5分おきに夫から声をかけてもらうようにしています」(チョコさん)

それぞれの方法で、てんかんとともに暮らしている3人。
てんかんがあることを、どう受けとめているのか聞いてみました。

熊谷さんは、今は比較的ポジティブに捉えているそうです。

「睡眠不足や疲れがあると発作が起きやすくなるので、てんかんになってから、意識的に自分に優しくするようになりましたね。例えば仕事がきつい時には『あ、今日きついな』と意識して自分の状態を感じるようにしています。てんかんになる前は、きつい時も自分の感情をないがしろにして『いやまだまだやるんだ』と言い聞かせていましたが、てんかんになってからは『もうちょい頑張る?いや、そんなことしたらキツいよー(笑)。今日はほどほどにしよ。』みたいな感じで内心思っています。ただただ何も考えもせず、思いもせず、ぼーっとする時間もすごく大切にしていますね。ただ、大学4年で診断を受けた当初は、打ち込んでいた水泳部も(薬が効くか分からなかったので)辞めてしまったし、好きだった車の運転やダイビングもできなくなって、自分のアイデンティティだと思っていたものがどんどんむしり取られていくような気がして、かなり精神的に塞ぎ込んでいましたね。」(熊谷さん)

ユーリンさんは、気持ちが変わり始めているところだといいます。

「昔はてんかんのことを『大嫌いだ』って思ってたんですけど、最近は『付き合っていくもの』っていうくらいに思うようになりました。ただ、人間関係はずっと苦しいです。娘が小さいとき、お母さん同士でおしゃべりをしていて発作が起きると、話が分からなくなってしどろもどろになっていました。それで『天然だね』って言われて、そのキャラで通していたんですけど、本当は自分はそうじゃないのにと思いながら人と付き合うのはすごく神経を使います。倒れる発作みたいに見た目で分かりやすい発作じゃないから、説明しても分かってもらえないだろうっていう疑心暗鬼みたいなものがあって、周りに伝えることを諦めてしまっていると思います。私には私の、そういう苦しさがあるって思っているんですけど、それも、けいれんとか症状が重いてんかんのある方からしたら、『とんでもない』って思われてしまうんじゃないかなと思って、自分からはなかなか言えないです」(ユーリンさん)

チョコさんは、熊谷さんやユーリンさんともまた違う受けとめをしています。

「てんかんがあってもなくても、私は私、変わらないって思ってます。たまに、てんかんという診断名を聞くと態度が変わる方がいて、そういうときちょっとモヤっとします。『なんて言っていいのかな…』みたいに対応に困っている感じで、悲しくなります。変わらずに接してほしいです。でも、人間関係によっては、『私は変わらない』って堂々としていることができないときもあります。まだあんまり仲良くなれていない方とか。そういう関係だと、運転をしてもらったら『申し訳ない』と思ってしまったりします」(チョコさん)

後編では、てんかんがある人に制限や禁止をしたくなる周囲の人の不安や、どんな人を“アライさん”と感じるかについて考えていきます。

※てんかんについてもっと詳しく知るためのクイズはこちら

これだけは知ってほしい!“てんかん”のこと
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※この記事はハートネットTV 2020年9月23日(水曜)放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!“てんかん”のこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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