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摂食障害かなと思ったら(4) 経験者に聞く回復までの道のり

記事公開日:2020年09月28日

摂食障害は発症のきっかけや症状、回復までの道のりなど、人によってさまざまです。摂食障害になったあと、回復までたどり着いた人は、どのような経験をしたのでしょうか。2人の摂食障害経験者にお話を伺いながら、専門家と一緒に回復へのヒントを探ります。

竹口和香さんのケース

障害者の就職活動を支援するキャリアアドバイザーとして働く竹口和香さん。現在の職場では、摂食障害の経験を同僚に打ち明けて、働き始めました。

画像(竹口和香さん)

発症は拒食症から。高校生のときに学校で流行ったダイエットがきっかけでした。友人が徐々にダイエットをやめていくなか、竹口さんは、やめることができませんでした。

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高校2年生の頃の竹口さん

「症状は大きく過活動と食事制限の2つだったんですけど、過活動に関しては、1日の消費カロリーを自分で計算して、300から500ぐらいはちゃんと運動するように、動くようにっていうのを、毎日やっていました。なので、毎日1時間半ぐらいランニングしたりだとか、走って学校に行ったりとか。家でも、筋トレしたりとか、2時間、半身浴したりだとか、結構もう行動がカロリーを消費することに、すごく加担していたなと思ってます。食事制限に関しては、毎日、摂取カロリーを計算するような生活だったんですけど、昼が給食ではなくお弁当だったんですね。それを捨ててしまったりだとか、夜ご飯も食べて来てないのに、親に食べて来たって言ったりだとか。もうすべてが、食べたくないに寄っていて、それに対する嘘とか偏った行動とか、そういうものがありました」(竹口さん)

その後、アルバイトの送別会がきっかけで過食症へと移行します。過食、嘔吐、下剤の乱用。大学の相談室を訪ねるまでは、誰にも相談できないまま、時間が過ぎていきました。

「具体的な長さで言うと、5、6年は回復するまでにかかりました。拒食は1年で終わったんですけど、そこから過食がすごく長くって。17~18歳のときから、21~22歳のときまで続いたので、時間は5、6年とかですね。でももっと長かった気がします。今まで自分で本当は保ってなかったんだけど、保ってるって信じてた自信が全部なくなったりだとか、過食になったときに、今まで自分でできていたことできなくなったりだとか、その病気を持ってるって自覚するまでにも時間がかかりました。自覚したところで、人に開示するのも時間がかかったりとか、開示しても受け止めてくれないとか、自分も上手く話せないとか。いろんなフェーズで時間が長く感じたので、私にとって人生で考えると数年ですが、人生観もそうですし、自分自身も変わったし、周りも変わって、長かったなとは思います」(竹口さん)

現在の職場では自分をそのまま受け入れてくれたと感じています。同僚も特別扱いしたわけではなく、普通に接してくれました。

画像(竹口さんの職場の上司 伊藤さん)

「変に気をつかいすぎないっていうのは思っていたことで、別に症状があったとしても他の人とそんなに変わらずに、元気かなというのは、やっぱり誰しも気になることだと思いますし、そういったところを気をつかいながら、日頃から声をかけていました。特別な心がけというよりは、ふだんから元気かなということを気にしていた感じですね」(職場の上司 伊藤さん)

現在は結婚して、2人暮らしをしている竹口さん。摂食障害の経験は、交際前に打ち明けました。結婚式当日、夫からもらったメッセージは今も心の支えとなっています。

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夫から結婚式当日に贈られたメッセージカード

竹口さん「『強がれないときは 甘えるところ』。すべてをわかってくれてて、肯定してくれるのがうれしかったです」

夫「そうなんや」

夫は和香さんから話を聞いたとき、どんなふうに答えたのでしょうか。

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竹口さんと夫

「『そうなんや』っていうのと、何か正直、聞いたときに、摂食障害っていう病気がどういう病気が知らなくて、めっちゃ食べる病気なんかな?ぐらいしか知らなかったんですね。どんな病気なんやっけ?みたいな感じで、話を聞いた記憶ですね。そこから、摂食障害というのはこういう病気で、表面的にはめっちゃ食べたりとか、吐いたりするっていうところにフォーカスしがちやけど、実は中身の病気なんだよ、みたいな話をされて。じゃあなんでそんなつらいことがあったって話を聞いたら、彼女の昔の経験とかが出てきたので、結構つらい思いしたんだなって・・・。別に驚きはなかったですけど、大変やったんやろなって思いましたね」(夫)

その反応を受けて、和香さんはどう思ったのでしょうか。

「ちゃんと伝わるかなっていうのと、伝わった上で、受け取ってくれるかなっていうのが、すごい不安だったんですけど、良くも悪くも、そんなに気にしなくて。ああ、そうなんや、みたいな。大変やったねっていう反応だったので。何かもっと、怖いものだと思ってたんですけど、すごい安心したのを覚えてます」(竹口さん)

周囲の人はまず心からの理解を

夫からかけられた言葉に安心したという竹口さん。公認心理師で文教大学人間科学部特任専任講師の小原千郷さんは、摂食障害の人への言葉かけについて、次のようなアドバイスを送ります。

画像(公認心理師 文教大学人間科学部特任専任講講師 小原千郷さん)

「治った方に、親がしてくれてうれしかったこと、そして嫌だったことについてアンケートをとったことがありますが、そこで出てきたのが『言葉』ではないんですね。言葉以前の問題で、まず理解があるかどうかということが大事で、理解しないまま『大変だね』と言っても伝わらないし、理解してくれて『本当に大変だったね』と抱きしめてくれるだけでももう満足みたいな・・・。まずは本心から、本人の辛さを理解できるかどうかということが大切です。患者さんが嫌だったことはとにかく逐一、食事を監視して言葉かけをすること。あれ食べろ、これ食べろ、野菜のほうがいいんじゃない? 食べすぎなんじゃない? 少なすぎなんじゃない?としつこくやるのはぜひやめてください。あと体型ですね。太った・痩せたというコメントはどっちでも問題を引き起こすことが多いです。体型について毎日コメントするのもやめてほしいですね」(小原さん)

周囲の人は、まず摂食障害の苦しみを理解することが大事だと言う小原さん。竹口さんは、摂食障害のある人が家族から理解を得るまで、どう関わっていけばいいかを話してくれました。

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竹口さん

「理解されないとか、うまくいかないっていうのは本当につらい。私の経験だと、回復期とか、おさまりはじめてからやっと摂食障害だと話せました。ただ家族としては、摂食障害を理解してほしいと言っても、やっぱり理解できないところもあるだろうなと思っていたので、最低限これだけは理解してほしいっていうことだけを話していました。苦しんでることだけでもわかってくれたら、今は大丈夫なのかなって、少しずつコミュニケーションがとれました。言ってほしくない言葉なんですけど、『私の育てかたが悪かったんだよね、ごめんね』っていうようなことを言われてしまうと、もうそれ以上話せなくなりますし、弱音を吐けない。何かを原因にして責め立てるっていうのはやめてほしいですね」(竹口さん)

小野貴也さんのケース

障害のある人と企業をつなぎ、就労現場をサポートするシステムを開発。自ら会社をおこした小野貴也さんです。

画像(小野貴也さん)

起業のきっかけには、大学生のときに発症した摂食障害が深く関わっています。

強豪大学の野球部に所属していた小野さん。高校時代の恩師の訃報を受けてから、食事が喉を通らなくなりました。

画像(大学生の頃の小野さん)

「虚無感といいますか、ものすごい不安を覚えたし、自信がなくなったっていうような状態にもなったし。すっぽり穴があくってこういうことかって、人生で初めて実感しましたね」(小野さん)

次第に、小野さんは寮での大人数での食事を避けるようになります。早朝に1人でキャベツだけを食べる日もありました。

「白ご飯があんまりおいしく感じなかったりとか、1日3食決まって食べる生活リズム自体が性に合わないというか、食事そのものがすごく嫌だったりとか。野球の練習をはじめ、自分の生活の中の取り組みすべてにおいて、食事をしないほうが集中できるような、ある意味ゾーンに入るっていうような状態です」(小野さん)

画像(製薬会社に就職した頃の小野さん)

やがて過食症へ移行した小野さんは、卒業後は製薬会社に就職。充実した社会人生活の一方で、夜になると過食嘔吐を行う日々が続きます。過食費用も高額になりました。

「1食で3000円使っていました。朝はないにして、昼と夜で大体6000円から7000円ぐらい使ってるんですね。それに飲み会代とかを合わせると大体1日1万円ぐらい。これがほぼ毎日なので、給与のほとんどが自分の摂食障害で起こる食生活に消えていきました。当然、お金が足りないんですね。なので、クレジットカードで借金しながらとか、リボ払いにしながらという形で、なんとか自分の所得以上にかかってしまう食費を工面するための方法をいくつも試しながら生活してたような状況です。誰にもバレたくないっていうのは第一にありました。自分自身でも正直言って、その食生活をしてる自分が嫌いなんです。毎日、嘔吐して『もう今日で終わり』って決めながら生きてましたね。たぶん、禁酒・禁煙される方と少し境遇が似てるかもしれないですけど、『もうこれで最後』って決めて、でもダメなんですよね。翌日お昼になってくると、過食して嘔吐したいっていう気持ちが出てくる。そこでまた『これで終わりにする』って決める。でも、また夜に(過食して嘔吐したい)気持ちが出てくる。で、結局ダメだっていうのが、ほぼほぼ毎日、連続で続く。自分の意思で決めたのに、決めたことが自分で守れない。このもどかしさを感じながらも、毎日生活していました」(小野さん)

周囲に一切相談しなかった小野さんは、インターネットで偶然見つけたある自助グループに、参加します。うつ病などで悩む人たちが集まるグループでした。

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小野さん

「どこか寄りかかれるような場所を、ほぼ初めて見つけたいと思ったのがきっかけで、その自助グループに参加しました。とても複雑な悩みを抱えている方々がたくさんいるなと思ったんですよ。これが最初の大きな衝撃でしたね」(小野さん)

参加者が直面する困難に気づいた小野さん。運命のようなものを感じ、その場で起業を決意します。

「彼らの仕事でのフィールドで活躍する機会を僕自身が、人生かけて作っていきたいなと強く衝撃を受けたんですね」(小野さん)

起業へと行動を移した小野さんは、少しずつ過食嘔吐の回数が減り、やがて症状はなくなっていきました。

現在、小野さんの会社は、全国の企業や役所と提携し、新しいシステムを開発しながら成長を続けています。

それぞれの体調にあわせた働きやすさを目指す「体調可視化システム」を開発。障害の有無にかかわらず、誰もが暮らしやすい社会へ。日々奮闘中です。

回復の道のりは人それぞれ

男性の摂食障害患者として経験を話してくれた小野さん。内科医で跡見学園女子大学心理学部特任教授の鈴木眞理さんは、男性患者も潜在的にいるのではないかと指摘します。

画像(内科医 鈴木眞理さん)

「今まで日本では95%が女性で、5%が男性。私の外来では男性は1.8%です。男子校にも、成績が良い真面目な生徒、あるいは、優れたアスリートの中にもいるんですね。男性は月経が止まるっていうような兆候がないので『細いね』とか、体を絞り過ぎたかな、いうぐらいで終わったりします。摂食障害は女性の病気というイメージがあるので、『僕は』って言いにくい方もいて、潜在的には10%以上いるのではないかと私は思っています」(鈴木さん)

男性ということもあり、摂食障害であることを他人に言いにくいと想像されるなかで、小野さんはどのように生活をしていけばいいと考えているのでしょうか。

「おそらく当事者は閉じこもりたい、閉じこもらなきゃいけない、という感情になるんじゃないかなと心配していますし、そうした不安をこちらも感じます。どう生活していくかに関しては、社会と比較せずに、自分自身の人生の尺度で、専門家の先生と立てた治療計画のなかできちっと1日1日を過ごしていくことで僕はいいと思うんです。一方で、おそらく変わるべきなのは社会であると思ってます。もっともっと社会全体が摂食障害に対しての知識をきちんと正確に蓄積していく、学んでいくような仕組みが必要だと思います。たとえば会社、学校あるいはプロスポーツチーム含め、さまざまな組織でそういった病気に関する学びの機会、時間がより普及していくことが何より重要なんじゃないかと感じました」(小野さん)

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小野貴也さん

起業する以前は就職活動をし、製薬会社に就職した小野さん。ストレスがかかる就職活動にどう対応すればいいのか、経験をもとに次のようなアドバイスを送ります。

「僕の就職活動中はまさに摂食障害期間ど真ん中でした。本人が就職活動をしたい、あるいはやりたいこと、挑戦したいことがあるのであれば、摂食障害と付き合いながら挑戦していくことがいいんじゃないかなと思います。僕自身、当時は専門知識ゼロ、対処法ゼロ、自分の症状が摂食障害という疾患名ということすら知らなかったような状況でした。 一方で、症状を改善した経験からすると、環境が自分の習慣を変えると強く実感したんですね。治療のことを最優先で考えると療養は必要だと私も理解しますが、やりたいことや何か夢中になってることが就職活動に少しでもあれば、僕自身は思い切って自分の気持ちをいちばんに考えて就職活動に専念していくのはありなんじゃないか、その先に何か改善の道が見つかるんじゃないかと思っています。認めてくれる人たちが想像を超えるほどたくさんいることを信じて、改善したい、がんばってみようという意志が生まれたら思い切って1歩踏み出してほしい」(小野さん)

内科医の鈴木さんは、就職は症状にあわせていいのではとアドバイスします。

「小野さんの場合は体重もあったでしょうし、やりたいっていう気持ちもあって、就職活動はよかったと思います。でも患者さんそれぞれだと思います。なかには、ぜんぜん体重が足りなくて、きっと面接で病気が疑われて不採用になるだろうという場合は、『あなたの実力があってもダメなことあるよ』と最初に話して受けてもらうこともします。それから『本当はあんまり働きたくないんだけど』っていう患者さんもいます。社会に出るのが怖い、そういう方はあえて1年浪人もすすめますし、『本当に経済的に困ってないし、将来はお嫁さんがいいわ』という本音が引き出せればアルバイトや派遣や何かのお手伝いでもよいというふうに本音で話し合いをして、親も含めて、方針を決めています。ケースバイケースですが、一応、本音を聞きたいというのはあります。『みんなが就職するから私もしないと』というような場合は、就職で環境が変わって、本当の仕事が始まると病状が悪化することがあるので、そこは注意点だと思っています」(鈴木さん)

摂食障害を乗り越えた、竹口さんと小野さん。一方で、まだ摂食障害に苦しんでいる人もいます。公認心理師の小原さんは、回復した人の姿と自分を比較することなく、自分のことを認めてほしいと話します。

「竹口さんと小野さんの2人を見て、自分は違うって、自分を責めている人がいるんじゃないかなと気になります。竹口さんと小野さんも病気の最中は自分にはなんの価値もなくて、自分が本当にダメと思っていた時期があったと思うんですね。でも、そう思っている方も、他人から見るととても素敵なことが多いので、それをまず認識してほしいです。私がそう言っても謙虚な患者さんにはお世辞としか受け取ってもらえないことが多いのですが、本心で言っています。今の状態がすごく悪くても、自分は素敵なんだ、いいところが必ずあるんだっていうことを少しでも受け入れてもらえたらと思います」(小原さん)

摂食障害かなと思ったら
(1)摂食障害のある人に医療ができること
(2)摂食障害のある人に家族ができること
(3)家族会ってどんなところ?
(4)経験者に聞く回復までの道のり ←今回の記事

※この記事は福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(NHK厚生文化事業団・制作)「第3巻・経験者に聞く 回復までの道のり」と「摂食障害 理解と回復のために オンラインフォーラム」(2020年6月21日実施)を基に作成しました。

NHK厚生文化事業団では、福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(DVD全3巻)を無償で貸し出ししています。(送料のみご負担)

お問い合わせ NHK厚生文化事業団「福祉ビデオライブラリー係」
電話:03-3476-5955(平日午前10時から午後5時まで)
ホームページ:https://www.npwo.or.jp/video/16600 (NHKサイトを離れます)

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