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ストーカー負の連鎖を止めるには 被害者の告白

記事公開日:2020年09月11日

ある日、交際相手がストーカーへとひょう変する。鳴り止まない電話。ネットに書き込まれた罵詈雑言。そんなストーカー被害の経験をリアルに綴った1冊の本が去年出版され、話題を呼びました。著者は内澤旬子さん。実名での告白でした。いつ終わるか分からないストーカー被害を止めるために、本当に必要なことは何なのか。被害に苦しむ人を1人でも減らしたいとそのつらい体験を語ってくれました。

交際相手がストーカーにひょう変

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文筆家 内澤旬子さん

4年前、香川県小豆島で、文筆家の内澤旬子さんはストーカー被害に遭いました。
それは、別れ話のもつれから始まりました。

二〇一六年四月、遊びに行きたいという交際相手Aの要求を、忙しいからと拒否したところ、電話が鳴り止まなくなった。
最初のうちAは平謝りで、「全部自分が悪かった。お前の言う通りに直すからやり直そう」という姿勢のメールが延々続いた。
「これ以上私と接触を望み続けるならば、警察の生活安全課に相談します。」
しかしそれは決して言ってはいけない禁句だったのだ。これまで平身低頭だったAは一変して逆上した。
(『ストーカーとの七〇〇日戦争』より)

「本当に普通の別れ話をしている段階で、全然相手が言うことを聞いてくれなくて、ということが発端でした。全部自分が悪かった、とにかくやり直したいみたいな形で懇願されていくっていう・・・。これ以上こういうことがあるんであれば警察に相談しますと言った瞬間に、今度は怒り始めてしまって。『自分はストーカーじゃない』と憎悪と怒りが爆発していく感じで、お前を滅ぼす、私の生活をぶち壊すみたいな形になっていった」(内澤さん)

昼夜を問わずかかってくる携帯電話。男性Aからの連絡は1週間近く、止むことがありませんでした。

その後、男性Aから「島に行く」と連絡が入り、内澤さんはついに警察に相談。翌日、島にやって来た男性Aは脅迫罪で逮捕されました。

ようやく元の暮らしを取り戻せる。そう思ったのもつかの間、加害者Aが釈放されれば再び被害に遭うかもしれない。身柄が確保されている間に動くしかないと、内澤さんは引っ越しを余儀なくされました。

「誰にも知られないように、ほぼ夜逃げですよね。なんでこっちが、べつに悪いことしたわけではないのに、生活を全部根こそぎ奪われなきゃいけないのか、なんで自分が隠れて生きていかなきゃいけないのか。まさに理不尽ですよね」(内澤さん)

被害を訴えた内澤さんを苦しめたのは、加害者だけではありませんでした。

何度目になるのだろうか。またもやAと付き合うことになったいきさつから延々と「供述」しなければならない。
「まず、交際していたとき、Aのことをどう呼んでいましたか?」
え、なんでそんなことを聞くのだろう。思い出したくもないのに。それよりなにより昨日話したばかりのことを、またそこから全部話すの? 気が遠くなってきた。
(『ストーカーとの七〇〇日戦争』より)

「手続きをお願いする弁護士、警察の方、検察の方、そのほとんどが私の場合は全員男性で、加害者からの文言というのは全部、性的な文言が本当にほとんどを占めるわけですよ。たとえば、性的に奔放であるってことを、全然知らない赤の他人や、私の知り合いの友だちとかに言ってやるとか。それをいろんな人に見られる、もう1回見られる、またそれを説明しなきゃいけないっていうのが非常にしんどかったですね」(内澤さん)

被害を受けた内澤さんの気持ちに寄り添ってくれる人はなく、何度も傷つけられていきました。

示談成立後もネットに罵詈雑言

ストーカーとは、特定の相手に対してつきまといや待ち伏せなどの行為を繰り返す人のことを言います。過去20年のストーカー被害の相談件数は、ここ数年は年間2万件を超えています。凶悪事件に発展するケースも後を絶たず、対策が急がれています。

画像(ストーカー被害の相談件数)

出典:2019年 警察庁

ストーカー行為をし、逮捕された加害者A。その後示談が成立し、事件は一見、解決したかのように見えました。しかし、4か月が経ったころ、さらなる苦しみが内澤さんを待ち構えていたのです。

「不起訴になって、釈放されて、加害者は、『自分は悪いことしてなかったんだ』っていう考えになって、『あいつがオーバーに騒ぎ立てただけだ』みたいな気持ちになって、また再び嫌がらせが始まる。(ネットの)巨大掲示板を使って、私のスレッドを立てて、そこにいろいろ侮辱的な文言を書いていく。もう1回助けてくださいって警察の生活安全課の方に言ったときに、結構な塩対応されたわけですよね。民事不介入ですって感じで」(内澤さん)

当時(2016年)のストーカー規制法では、加害者Aによるネット上の書き込みやSNSでの誹謗中傷は、罰則の対象外でした(※2017年 ストーカー規制法改正)。そのため警察からは、書き込みがエスカレートし、名誉毀損罪などに問えるまでは逮捕できないと言われたのです。

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ストーカー規制法について

連日書き込まれる罵詈雑言は2か月近く続きました。複数の明らかな誹謗中傷が決め手となり、加害者Aは名誉毀損罪でようやく再逮捕。その後、懲役10か月の判決が下り服役しました。

加害者Aが出所したらまた被害が始まるかもしれない。この負の連鎖を止める手立てはないのか。内澤さんは自ら調べ、「ストーカー行為がやめられないのは一種の“病気”であり、治療法がある」という答えに辿り着きます。

「やっぱりって気持ちで。やめたくてもやめられないぐらい、とまらなくなっちゃうものなんだっていうのは、被害を受けてる側として、実感できました。それを治そうとする治療法ができてきてると知ったときには、これはもう(加害者に)受けてほしいと思いましたね」(内澤さん)

加害者の多くは、警察からの警告や、カウンセリングで、理性によってストーカー行為をやめることができます。しかし、一部の加害者は、相手に近づく行動を作る脳の神経活動が過剰になっており、理性で抑えることができないのです。その場合は、相手に近づく神経活動を弱める治療をすることで、ストーカー行為を止めることが可能だと言います。

ストーカー行為を繰り返してしまうのは、一種の“病気”。加害者を治療することができれば、被害を止められる。これに一縷の望みをかけた内澤さんは、1人のカウンセラーを訪ね、相談することにしました。

加害者の治療が被害者を救う

内澤さんから相談を受けたのは、カウンセラーの小早川明子さんです。ストーカー被害の相談を2000件以上受けてきました。

小早川さんは、刑務所に出向き、加害者Aと面会しました。

「彼の場合、拒絶型ストーカー。『付き合ってるのに断られた』と、最初は関係の修復を目論んだんだけど、それがうまくいかないと、今度は報復に転じるっていう典型例なんですね。なので、まず捨てられた傷つきがある。そこで自分が被害者だと思い込んでしまった。べつに内澤さんが傷つけたわけじゃないんですよ。でも傷ついたんですよ、勝手にね。その勝手にというところを理解しないのがストーカーですよね。接近欲求が止まらない、ブレーキがない、要するにエネルギーがわいてきてハンドル操作ができない、固着しちゃうみたいな。そこを緩める、そういう欲がわかなくなるっていうところを狙う。それは治療なんです」(小早川さん)

加害者治療のもう1つの目的。それは被害者の人生を取り戻すことです。

画像(カウンセラー 小早川明子さん)

「その人らしい人生を守るっていうのが当たり前だと思ってるんですよ。たとえば、ストーカーの被害者だから隠れるように生きるとか、狙われるから有名にならないようにしようとか、出世しないようにしようとか、結婚はしないようにしようとか。それはその人らしい人生じゃないじゃないですか。書きたいものは書く、生きたいように生きる。人のこと気にしないで伸びやかに自分の人生を生きるっていうことが実現できないとだめだと」(小早川さん)

「小早川先生が『被害者だからといって、これまでの生活や仕事を制限したり幸せを追求することを諦めたりするのはおかしいと思っているんです』と言ってくださって。本当にもうこの言葉には泣けますよね。救われました、ほんとに。こういうふうに言ってくださる方が誰もいない。隠れて暮らしなさいみたいなことを勧められてしまうんです。そうすると、被害者はずっと縮こまって生きていかなきゃいけない。被害者の救済にはまったくなってないでしょうっていう気はするんですけれども、そこをなんとか変えていかないと、ということなんです」(内澤さん)

その後、出所した加害者A。一度は小早川さんの説得で治療を受けると約束していましたが、結局、拒否しました。

現在、ストーカーに関しては、刑期中に受けられる更生プログラムがありません。そのため、加害者が「自分には治療が必要だ」と自覚することが難しいのです。

「せっかく逮捕されたときは、自分の固着を『これが問題だよね』って理解できていたのに、『考えてみたら、俺ストーカーじゃないじゃない』と出所されたっていうのは、カウンセラーとしては残念なこと。やったことについては取り締まって処分が下される。でも、それだけじゃなくて、プラス治療を命じられる、この2つが必要」(小早川さん)

加害者Aからの連絡は、2年前を最後になくなっています。それでも、いつまた被害が始まるかも分からない不安が内澤さんの中から消えることはありません。

今、ストーカーの警告を受けた人や逮捕された人に、警察が医療機関の受診を勧めるようになっています。ただ、強制力はないため、実際に受診に至る人は15%にすぎません。

加害者を治療につなげる仕組みを作りたいと考えた内澤さん。しかし、専門家に話を聞いたり、勉強会に出たりすると、意外な反応が返ってきました。

「被害者側から動くってこと自体が、どこでもみんな『え?』という感じでしたよね。なんでそこまで治療に結び付けたいのか分からない、みたいな。あと、加害者が治ってほしいと思うのは、『やさしいんですね』っていうふうに言われてしまうのも非常に心外でした。結局、社会に帰ってくることを拒否するわけにはいかないんですよ。社会に帰ってくるんであれば更生してもらう、そしてこちらも受け入れてく。そうでないと、社会で孤立していけば、やっぱりそれは再犯の危険が高まっていくので」(内澤さん)

画像(文筆家 内澤旬子さん)

内澤さんは、ストーカー被害の負の連鎖を止めたいと、実名での告白に踏み切りました。

「自分を守るため、自分の尊厳を守るためです。もちろん加害者治療とかの必要性を、制度を変えたいという気持ちもありました。しかも、ほんとに被害者が置いてけぼりというのが驚きが大きかったので、やっぱり書かないとっていう気持ちにはなりましたね。『私が踏んだ地雷をみなさんは踏まないでください』という気持ちでいます」(内澤さん)

原稿を読み返していると何度も燃やしてしまいたい衝動に駆られる。黒歴史なんてもんじゃない、ブラックホール級の闇歴史だ。
ただし死んではいない。パソコンを打つための手も目も動く。話すこともできる。
被害者が刺されたり死亡したりしてはじめて法改正が大幅に進むという前例を、変えていきたい。
明日は我が身と思っていただき、ストーカー事件加害者を罰するだけでなく治療につなげていく必要性を、どうかご理解いただけたらと願う。
(『ストーカーとの七〇〇日戦争』より)

※この記事はハートネットTV 2020年9月2日(水曜)放送「ストーカー負の連鎖を止めるには~被害者の告白~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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