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摂食障害かなと思ったら(2) 摂食障害のある人に家族ができること

記事公開日:2020年08月27日

痩せがひどくなる拒食症や、暴食・嘔吐を繰り返す過食症などの摂食障害は、患者本人だけでなく、家族など周囲の人も苦しめます。回復のためには、正しい知識と理解に基づいた対応が欠かせません。そこで、摂食障害の専門家に対応法やコミュニケーションのコツなどを伺い、家族が摂食障害のある人にできることを教えてもらいました。

摂食障害の家族に求められていること “おばけ”への対応

公認心理師で文教大学人間科学部特任専任講師の小原千郷さんは「摂食障害のある方の家族、友人、同僚などの周囲の方々にもできることはいっぱいある」と同時に、対応がすごく難しいと話します。

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公認心理師 文教大学人間科学部特任専任講師 小原千郷さん

「この病気は普通の対応をすると、大変なことになる病気なんですね。たとえば痩せ細った方が目の前にいると、家族は『食べなさい』『とにかく体重増やさないと死んじゃうよ』という対応がごく普通だと思います。でもそれが患者さんにとっていちばんして欲しくない対応だったりして、けんかになったり、どう対応していいかわからない、ということが起こってきます」(小原さん)

摂食障害は自分の意思でやっているんじゃないかと誤解されることがありますが、実際にはコントロールが難しい状態にあります。家族や周囲の人はそのことを理解し、患者をサポートし、治療に結びつけていくことが大事になります。

また、摂食障害の症状をシーツの“おばけ”に見立て、「本人」と「症状」を分けて考えることが重要だと小原さんは言います。

画像(「摂食障害」はシーツの「おばけ」)

「本人に摂食障害という症状が取りついてしまっているんですね。まずは健康なご家族の方、周囲の方、そして私たち医療スタッフが、ちゃんと本人と摂食障害を分けて考える。そしてできれば本人にも、自分自身と摂食障害の症状を分けて考えてもらう。本人の健康的な部分と家族、医療スタッフ、みんなの健康的な部分が手を組んで、この摂食障害の“おばけ”をうまく管理して、だんだん小さくしていく。そういうイメージでいければいいのかな、と思っています」(小原さん)

画像(摂食障害の家族に求められていること)

摂食障害の“おばけ”には、具体的にどのように対応すればよいのでしょうか。

「家族からよくある相談が『過食をやめさせたい。過食をしている本人にどう声をかけたらよいのでしょうと』というものです。過食をしている最中というのは完全におばけに乗っ取られた状態ですから、基本は何をやっても無駄なので、過食ではないときの本人に、きちんと接することが基本です。落ち着いているときに、「何かできることはない?」などと話をするとかですね。してはいけない対応は、おばけに餌を与えてはいけません。例えば本人が過食するからといって、過食ができるように食料いっぱい買ってきてあげるとか、『あれ買ってきて、これ買ってきて』を全部聞いてあげるとか、お金を好きなだけ渡してしまうなどです。これをすると管理しづらくなるので、本人と話して、『これはおばけに餌をやっているようなものだから私としてはしたくない。だから、どうしようか。お小遣いは今、過食代1日千円にしているけど、言われたからって渡さないで1回500円ぐらいにするね』とか、『私が管理するね』とか、そういうふうに話し合っていくといいかなと思います」(小原さん)

痩せたい気持ちを理解する

摂食障害の人は、さまざまな身体症状が出ているにもかかわらず、なぜ拒食や過食を止められないのでしょうか。

「例えば高所恐怖症の人は、東京スカイツリーに登って下を見ても、落ちないことはわかっています。でも登るなんて考えられないし、下を見るとどうしようもなく怖い。それと同じです。体重が増えることが非理論的にどうしようもなく怖いんです」(小原さん)

画像(摂食障害の患者さんの気持ち)

「痩せたほうが良い」という思い込みは影響していないのでしょうか。

「治った患者さんに聞くと、それ「だけ」が理由と言う人はまずいません。とにかく太るのが怖かった、痩せているというのは自分をコントロールできている証拠だから満足感や達成感が得られた。今までいい子で何も問題ないと思われていたのに、痩せると周りの人が親切になってくれたり、心配してくれたりした。逆に太るとまた頑張りなさいって言われたり、また見捨てられたりしてしまいそうで怖い。あるいは痩せていることで言い訳になる。もっと本当は頑張らなくちゃいけないけど、痩せているせいでできないと、自分に対して言い訳がつく。そういうようなことが挙げられます」(小原さん)

患者さんを身近で見ている家族は心配になりそうですが、家族からのサポートや介入についてはどのように考えればよいのでしょうか。

「やはり早期発見、早期治療が鉄則ですから、早い時期に介入してほしいと思います。本人はまだ健康な部分が残っているので、拒食症に関しては初期に、なるべく体重がある時期に受診をしましょうなど、体のことを話したほうが聞き入れやすいと思います」(小原さん)

一方で、自分が摂食障害であるとの自覚がなく、通院や治療を拒否してしまうような患者さんには、どのように対応すればよいのでしょうか。内科医で跡見学園女子大学心理学部特任教授の鈴木眞理さんは次のようにアドバイスします。

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内科医 鈴木眞理さん

「どの患者さんも自分を病気と思えないと言いますし、ある程度良くなってくると『あのときぜんぜん(病気だと)思えなかったです。今、見ると怖いです』って言うんです。病気の最中は前頭葉の認知が障害されていて、自分が細いとか調子が悪いとか、疲れさえも感じないんですね。大丈夫と言いながら走っていって、パタンと命を落とすなんてこともありうるので、この段階ではもう説得しようとか、わからせようというのは無理だと思います。本当に危ないときは、ご家族だけが先に受診してカルテ作りをして事情を話しておき、いざというときは、ときに救急車で連れて行って、治療をして命を救ってもらうこともあります」(鈴木さん)

家族ができる3つのサポート

では、家族ができるサポートにはどのようなものがあるのでしょうか。小原さんは主に3つのサポートがあると言います。

画像(家族にできる3つのサポート)

①治りたい気持ちの味方になる
「患者さんの中に『治りたい』という気持ちと、『でも痩せていたい、治りたくない、過食嘔吐はストレス解消法だからちょっといまは手放したくない』というような両方の気持ちがあります。そのことをまず認識して、『治りたい気持ちがあるんだよね。だけど病気のせいでできないんだよね、何かできることがある?』『何か困っているから、痩せたり、ストレスで症状が出ているんだよね。だから何が困っているの?それに対して手伝えるよ』っていうような声掛けですね。そういうふうに治りたいという気持ちの味方になるイメージです」(小原さん)

②療養の環境を整える
「とくに痩せた方に関しては、あらゆることをやって挫折して、本当にもう疲れきっているということを認識して、まず休ませる。休ませるためには、周囲の環境が大事です。たとえば、進学校で勉強ガンガンやらされているとか、大変な仕事をしているということでしたら、1回休ませるなどです。とくに若い方、学校に通っている方のご家族だと、学校と交渉するなどのサポートは必要です。あと家庭内の環境も非常に重要です。たとえば家族の中でけんかが起こっている、お父さんとお母さんが不仲でめちゃくちゃ喧嘩しているのでは、家で休まらないですよね。こういった場合はそこをまず解決することが大事ですね」(小原さん)

画像(療養できる環境を整える)

③自己肯定感を育む
「これは、ありのままの自分自身でいい、自分が好き、これでいいんだっていうふうに思える気持ちなんですね。摂食障害の人はこれが小さいことが多い。もともとの自分を認める気持ちが小さいと、なんとか自信をつけようとして何かを達成しようとします。たとえば勉強できるようにしよう、いい子になって人に好かれよう、ダイエットなど頑張って外見をきれいにしようなどです。ですが、自己肯定感が小さいので、積み上げても1個の失敗でもう『私は駄目だ』となってしまう不安定な状態なんです。自己肯定感を育てると、安定した自信になります。自己肯定感は、自分が無条件で愛されている、無条件で大切にされている、と感じることで育っていくもの、と言われています。摂食障害の人は敏感な方が多いので、まわりが普通の対応をしていたとしても、やっぱり自分だめなんじゃないか、認められてないんじゃないか、って感じやすいタイプであるんですよね。ですから、きちんと『あなたが大事なんだよ』ときちんと伝わる対応をすることが大事です」(小原さん)

一方で、内科医の鈴木さんは、患者さんがご家族を気遣って摂食障害のことをなかなか打ち明けられない場合もあると言います。

「患者さんは一生懸命隠しているつもりでも、親はおかしいなと気づいてることがあります。親のほうも聞けないでいることがあるんですね。本当に親が大好きで、いい子に見せたい、親を失望させたくないっていう方が多い。親から見ると、自分の大切な子どもがどうしてこうなっちゃったんだろうと思うでしょうから、できれば早い時期に話を聞くと、病気も長引かないかなと思います。親は親なりに何十年間の経験があるので、ビクビクしないで言ってみたらどうかなと私は思います」(鈴木さん)

コミュニケーションのコツと会話例

摂食障害のある人を回復に導くためのコミュニケーションにはコツがあります。それぞれのポイントを、具体例をもとに小原さんに伺いました。

画像(コミュニケーションのコツ)

①共感

「1つ目は共感です。なにか相談すると『ああしたらいいよ』『こうしたらいいよ』と言いたくなると思いますが、そうではなく、アドバイスよりも気持ちを理解しながら、話を聞くという感じです。『うんうん』『そうなんだ』などと相づちを打つ、聞いたことを繰り返すオウム返し、そして感情の伝え返しなどのスキルがあります。これは練習することで身につけることができます」(小原さん)


②「私」を主語にして伝える

「つい、あなたはこうしなさい、あなたは絶対アルバイト行った方がいいと思うよ、休んだ方がいいと思うよと言いたくなりますが、『どうしたらいい』と聞かれたら、できたら『私は』『お母さんは』『お父さんは』こうした方がいいと思うよと伝えましょう。たとえば門限を破って帰ってきたときに、『あなた』が主語だと、『なんであなたこんなに遅いの、若い子がこんなに遅いなんて信じられない、非常識よ』となります。こう言われると怒られてるとしか感じませんが、『私』を主語にすると、『あなたがこんなに遅くて私はとても心配していた』『私はこんなに夜遅い時間に帰るのは良くないと思う』となります。『あなたは非常識』と言われるとカチンときますけど、『私が不安だから私を安心させるために遅くなる時は電話してくれると嬉しいんだけど』と言われた方が聞きやすくなります」(小原さん)


③おばけ(症状)とけんかしない

どんな会話がおばけとのけんかとなってしまうのか、娘と母の会話例を見ながら小原さんに詳しく解説してもらいました。

〈悪い例:おばけとのけんか〉

娘:やっぱり今日病院行かない。これ以上、太らされるのは耐えられない。
母:まだガリガリじゃない。太ってなんかいないし、あなたには治療が必要なの。
娘:見てこの腕。ぶよぶよになってきた。
母:それはお肉が少ないからかえってそう見えるだけ。
娘:やっぱりぶよぶよだと思っているんでしょ。
母:そんなこと言ってないでしょ。
娘:言ったじゃん。

「ガリガリじゃないとか、ぶよぶよになってきたのはお肉が少ないから、これは正論ですよね。体型と食事に関する正論を言うと、だいたいこのおばけが出てきて、おばけと喧嘩になるということが起こります。ここで反応しちゃったのが負けという感じですね」(小原さん)

〈良い例:おばけとけんかしない〉

娘:やっぱり今日、病院行かない。これ以上、太らされるのは耐えられない。
母:病院行きたくないのね。
娘:見てこの腕。ぶよぶよになってきた。
母:そっか、それで太らされるのが怖いのね。
娘:病院に行ったら、もっとひどいことになっちゃう。
母:太るのが怖い病気だものね。
娘:うん。
母:私はあなたが病院に行く気になってくれて嬉しかったし、元気になってほしいと思っているの。私にできることはある?
娘:ママが代わりに行って。
母:わかったそうするね。まだ時間があるから行きたい気持ちになれたら一緒に行こうか。
娘:うん。

「まずはもう病院に行きたくないのねとオウム返しにして、気持ちを、本人の言ってること認めてあげている。『太らされるのが怖いのね』が気持ちの伝え返しですね。たぶん怖いとか、そういう気持ちがあるんだね、っていう不安をちゃんと伝え返してあげている。次に『病気だもんね』。これはテクニカルですが、『あなた』じゃなくて太るのが怖い『病気』が病院行きたくないんだよね。ここが(本人とおばけを)分ける対応ですね。あなたが病院に行く気になってくれて嬉しかった。だから、『あなたに私ができることはある?』というふうに聞いているんですね。あくまで話しかけているのは健康な本人で、その人はちゃんと治りたがっているんだっていう信念を持って話しかけるとこんなふうになります」(小原さん)

画像(話の聞き方のコツ)

家族や身近なところに摂食障害で苦しんでいる人がいたら、ぜひ参考にしてください。

摂食障害かなと思ったら
(1)摂食障害のある人に医療ができること
(2)摂食障害のある人に家族ができること ←今回の記事
(3)家族会ってどんなところ?
(4)経験者に聞く回復までの道のり

※この記事は福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(NHK厚生文化事業団・制作)「第2巻 家族・支援者の皆さんへ」と「摂食障害 理解と回復のために オンラインフォーラム」(2020年6月21日実施)を基に作成しました。

NHK厚生文化事業団では、福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(DVD全3巻)を無償で貸し出ししています。(送料のみご負担)

お問い合わせ NHK厚生文化事業団「福祉ビデオライブラリー係」
電話:03-3476-5955(平日午前10時から午後5時まで)
ホームページ:https://www.npwo.or.jp/video/16600 (NHKサイトを離れます)

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