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摂食障害かなと思ったら(1) 摂食障害のある人に医療ができること

記事公開日:2020年08月27日

拒食症や過食症などと呼ばれる摂食障害。厚生労働省の資料(平成29年精神保健福祉資料)によると日本の患者数は20万人以上とされていますが、通院していない人も含めるとその数倍とも推定されています。その背景には、どんな治療をされるか怖いので通院に至らない、適切な医療機関がわからない、通院という選択肢を知らないという人がいると考えられます。医療の現場では摂食障害をどのように治療するのでしょうか。実際の診察事例を通して、専門家とともに“医療が摂食障害のある人にできること”を見ていきます。

拒食症の診察事例 Aさんのケース

はじめに、拒食症の診察事例を見てみましょう。

Aさんは高校2年生の女性。ダンス部に所属し、副部長として精力的に活動していたが、最近は踊れず休むことが多い。がんばり屋で、成績は良好。心身の無理がたたって痩せ始めたが、本人にその自覚はない。学校からの紹介状を持参し、母親と初診。
(身長160cm 体重36kg 無月経)

実際にAさんを診察した内科医で跡見学園女子大学心理学部特任教授の鈴木眞理さんは、拒食症の場合、命にかかわる合併症があるので、医療機関においてはまず「低体重」に対応することが必要だといいます。

画像(内科医 鈴木眞理さん)

「体を守らなければ次のステップである、カウンセリングや精神療法もできませんので、体の治療が先に行われます。受診されましたら、まず入院が必要な体重なのか、それから今の体重でどの程度の労作ができるのか判断をいたします」(鈴木さん)

そして、患者さんとの面接を重ねる中で、治療関係を作り、治療環境を整えていきます。
患者さんは、無理やり入院で体重を増やす治療をされる、などと考えて、医療者を警戒していることも多いのです。最初の初診の面接がとても大事で、病院に行ったら、痩せていることを怒られたり責められたりしなかったとか、有益な情報を得られたとか、食べるのが怖いという気持ちを理解してもらえたとか、そういう対応をして、少しでも本音を話してもらえる治療関係を作っていきます。「痩せているとなぜか安心で、体重を増やすのが怖い病気です」など丁寧に説明していきます。本人の希望にも配慮して、例えば入院しなくてよい体重、学校に行ける体重、修学旅行に行ける体重というように、目標体重を段階的に増やしていく、そういうアドバイスをしていきます。それから検査をして、検査データを説明しながら、これはどういう理由で異常になっているのか、どうすれば良くなるかという話をして、少しでも体重増加の動機を持たせる話をしていきます。ある程度、体重が増えれば思考力も良くなるので、そこで初めて、コーピングスキル(※)や認識の偏りなどの精神療法、カウンセリングも進めることができます」(鈴木さん)

※コーピングスキルとは
ストレスを適切に対処する能力。計画的に解決したり、他人の力を借りたり、趣味に没頭して嫌な気分を忘れたり、いろいろな方法を持っていて、使い分けられることが重要

Aさんには「入院したくない」「学校に行きたい」という希望があったため、一定の体重を設定し、本人が安心して食べられる食品でカロリーを確保しました。少しずつ体重が増え、栄養状態が良くなると、本人の気持ちに変化が現れたといいます。

「体重が回復してくると、重症の栄養状態では話題にもならなかった本人の本音も出てきます。『本当は今の学校が嫌だった』『進路が心配でたまらない』というふうに、自分のことを考えたり、将来に不安を感じたりします。痩せている間は感じないようにしていた感情に気付くのです。そこで学校の先生や予備校の先生の力もお借りして、適切なアドバイスもしてもらいます。すると途中で、自分から『私、実は人間関係が苦手でした』とか『なんでも真面目に考えすぎて、100%しなくちゃいけないと思っていたので、それがつらかったんです』とか心理的な課題も言い始めるんですね。もちろん、カウンセリングの先生のお力もお借りしますが、本人が自ら『以前は自分で自分を苦しめていたけれど、最近は人に頼んだり、人の力を借りたり、どうにかやっていけるようになってきました』というふうなことをみなさんおっしゃるんですね。これはまさにコーピングスキルが上がっているということです。みなさん摂食障害の治療というと、とても特殊なことのように考えられるんですけど、ごく普通にストレスに対処できるようになって、『どうにかやれるかな』と本人が思ってくるという、これをいかにみんなで応援するか、というのが治療だと思っています」(鈴木さん)

画像(診察の様子)

Aさんは高校生の女性でしたが、摂食障害になりやすい年齢や世代はあるのでしょうか。鈴木さんによると、主に思春期や青年期の女性が多いものの、最近は小学生やもっと幼い子ども、結婚・出産を経た中年の女性も増えているといいます。そうした人たちに、摂食障害に関わる情報を届けやすくすることも課題だと指摘します。

投薬治療と合併症への対応

拒食症の人で食べることに不安を感じている場合などは、薬を使った治療を行うこともあります。

「薬は使いますが、特効薬はありませんし、誰にでも効く薬はありません。それぞれの症状に適切な薬剤をつかいます。例えば、食べることが怖い方に食事の前に(不安を取り除くために)安定剤を使うとか、病気も長くなると、気持ちが落ち込んでうつ状態になれば抗うつ薬を使うとか、とてもこだわりの強い方には精神病で使うお薬が効くこともあります。また、胃の痛みや便秘のお薬も使っていきます」(鈴木さん)

摂食障害の女性の方で無月経の場合は、月経を回復させる場合のホルモン治療なども、段階的に行うことがあります。また、摂食障害による低栄養状態が続くと、骨粗しょう症や低身長になることがあるといいます。

画像(摂食障害に伴う主な合併症)

「骨のカルシウム量を見せて、こんなに下がっているけれども、このまま痩せ続けるとまた来年も下がるので、上げるためにはどうしましょう、体重を増加させることが一番の治療で、補助的にこんなお薬が少しは効きますよというお話もします。とくに成長期では、栄養が悪いと背が伸びなくなります。18歳くらいまでに伸ばしてしまわないと、背の低い大人になってしまいますから、(成長期の人には)たとえば身長の必要なお仕事に就きたいのであれば、身長は今しか伸ばせませんよ、と(治療の)動機に使えます」(鈴木さん)

嘔吐がある場合は、胃酸によって歯の表面が溶けるという酸蝕歯(さんしょくし)や、食道が傷ついて、時には出血する逆流性食道炎などが起こります。具体的な酸蝕歯の予防は、嘔吐のあとは真水で30回くらいうがいをして、嘔吐後30分以上経過してから、つまり、口の中が酸性から中性になってから、やわらかい歯ブラシと研磨剤の入っていない歯磨き粉(歯磨き剤)を使うことを指導します。嘔吐では歯の裏側が溶けるので、歯科医も気付きますから、病気を伝えて、定期的な通院を勧めます。

画像(過食嘔吐後の口腔ケア)

チーム医療でサポートする

医療の場面において、摂食障害の治療にはさまざまな立場の人が関わります。

「摂食障害はストレスの病気ですから、医者だけが治せるわけではなく、多職種の協力が必要です。たとえば医者には言えないけど、看護師には本音が言えるということもありますし、家にしか社会がない方が、唯一、外に出て話ができる他人の世界が病院であったりします。また、痩せているので栄養がとても大事で、点滴などをしないかぎり食べることだけが唯一の栄養源ですから、管理栄養士が『得意な食べ物はなんですか』とか『楽に食べられる、怖くない物はなんですか』というちょっと特別な指導で栄養指導してもらいます」(鈴木さん)

そのほか、心理面や経済面のサポートも必要です。

「公認心理師の役割もとても重要です。医者は15分から20分くらいしか話をすることができませんが、公認心理師は30~50分と時間を確保して、ゆっくり話を聞いて、『あなたが困っていることは何でしょう』とか、『どんなきっかけでこんなふうになったのでしょう』『これからどんなことを学んだり、スキルをつけると良いでしょう』ということを丁寧に話して、回復に導いてくださいます。また長くなってきますと、お仕事の面、経済面でも困る方があるので、福祉の方たちの力も借ります」(鈴木さん)

画像(チーム医療について)

公認心理師で文教大学人間科学部特任専任講師の小原千郷さんは、気楽に相談できる場として、大学の保健管理センターなど学生相談の機会を利用するのもよいといいます。

画像

公認心理師 文教大学人間科学部特任専任講師 小原千郷さん

「学生相談は、今ほとんどの大学にあって、しっかり守秘義務を守ります。命にかかわる場合などの例外を除き、誰が相談に来ているか、まして相談内容は絶対に他人に言いません。親にも言えないぐらいに本当に秘密は守るんですね。そういうところに相談するのはひとつ大事かなと思います。最近はオンラインを始めてるところもあるので、ぜひ大学のそういった資源を活用してほしいなと思います」(小原さん)

過食症の診察事例 Bさんのケース

次に、過食症の診察事例を見ていきます。

Bさんは24歳の女性で会社員。水着を着るためのダイエットがきっかけで、過激な減量から過食症へと移行。毎晩の過食嘔吐がやめられず、1~2年が経過。前の晩の嘔吐に初めて血が混じっていたことに驚き受診した。
(身長160cm 体重49~52kg 月経あり)

Bさんを診察した内科医の鈴木さんによると、Bさんの受診のきっかけとなった出血は、食道の弱いところが切れて起きたもの。大事にはいたらないことが多いのですが、これを過食症治療のよいチャンスととらえたということです。

Bさんの課題は過食ですが、そもそも過食と一般的な大食いにはどのような違いがあるのでしょうか。

「自分で抑えられない、これを過食といいます。次に、普通であれば、食べたあとは喜びも満足感もあるはずですが、過食のあとは自分を責めたり、罪の意識、とてもネガティブな気持ち、抑うつ気分になったりします」(鈴木さん) 

そのほかにもさまざまな心配なことがあるといいます。

「過食症の方は、自分の評価が体型や体重によって大いに影響を受けています。『痩せていなければ私の人生は終わりだ』とか『体型がよくなければ私に価値はない』など、そこが過食症の大きな特徴です。夜に過食するので、体重増加を阻止するために昼間はほとんど食べず、夜明けに眠りにつくという生活になります。睡眠不足になりますし、朝は気持ちも悪いし、気分も落ち込んでしまいます。よく過食とうつはセットと言いますが、抑うつ気分ですから、学校にも職場にも行けない、もしくは、約束があっても急にキャンセルしてしまう。そして、また自分はだめだと責めてしまう悪循環に陥っています。過食をするときは無意識に、人が変わったような状況で、自分の気持ちや状況を考えて食べているわけではなく、発作的にやっているんですね」(鈴木さん)

Bさんの治療はどのように進められたのでしょうか。

「最初は自分の生活や食事のモニタリングをします。病気ですから、科学的にどういう状況かを把握しなければ対策も出てきません。そこで症状モニタリング、または生活食事記録表をつけるということをします。Bさんは症状モニタリングに真面目に取り組んでくださいました。すると、今まで気付かなかったのですが、良い日と悪い日があることが分かりました。過食の方は、十把一絡げに『今日も過食しました』と言いますが、(モニタリングすると)『今日は1時間で終わりました』とか『今日は3時間もかかりました』など、そのときに必ず気持ちの変化があったことが分かります。『今日はとても嫌なことがあった』とか『こんな心配事があったらついつい3時間してしまった』とか。そういうことから自分で工夫を重ねて、趣味を持ったり、出かけたり、いろんな工夫でどんどん症状をコントロールできる状況になりました」(鈴木さん)

画像(食事・症状のモニタリングについて)

鈴木さんは過食症治療の鍵は“コントロール”だと説明します。

「過食症の問題点は、症状を自分でコントロールできないという無力感ですが、少しコントロールできるようになると、本人も自信がついてきます。今日は過食しないで済んだ、というのは、翌日もう1日頑張ろうという気持ちにもなります。反対に『今日こんな嫌なことがあったから今日だけは過食をしてもしょうがない。帰ったらちょっとするぞ、でも1時間くらいで切り上げて明日に備えて早く寝よう』と思えるようになれば、『今日はちょっと軽く飲んで、あるいは今日はたくさん飲んで、ウサを晴らすぞ』といったことと同じようなコントロール感になると思うんです。そして、どんどん自分の心が見えてきて、人に気を遣ってばかりいて、どう思われるかを気にして会社でとてもつらかったということが分かってくる。じゃあ、そうした自分でも受け入れてもらえる友だちはいるのかな・・・いました、とか。あるいは暇な時間が苦痛だったんだけれども、将来を見据えてちょっと勉強を始めようとか。そういうことをするうちに、症状をもっとコントロールできるようになって、減っていきました」(鈴木さん)

公認心理師の小原さんは、コントロールできなくなるような渦に巻かれる前に、できる対処法について教えてくれました。

「まず渦に巻かれないようにしましょう。それには『脳を飢えさせない』ことが大切です。よく3食規則正しくと言いますが、既に過食衝動が激しい方にはそれでは足りなかったりします。起きている間は4時間以上間をあけないで脳の血糖値を下げすぎないような食事をすることで生理的な過食衝動が抑えられます。まずは、十分な量でなくてもよいので、規則正しい時間に食べるようにします。これが結構効くんです。たとえば太るのが怖くて朝昼絶食して、夜に過食する方がいますが、それは脳が飢えているので当たり前なんです。まずは脳を飢えさせないことで渦を小さくすることが大切です」(小原さん)

認知行動療法とコーピングスキル・カウンセリング

摂食障害には、心理面のサポートも一助となります。

2018年4月から、認知行動療法という精神療法が神経性過食症に対して保険適用となりました。具体的にどのような治療法なのでしょうか。

画像(認知行動療法について)

「認知行動療法というのは、認識を変えると行動が変わるというものです。例えば同じものを見ても、すごく不安に思えば次の行動は萎縮しますけども、同じものをバランスよく見れば平常心でいられるわけですね。そういうことをトレーニングする治療です。20回の面談で行いますが、諸外国では約60%の方がほぼ完治か、症状がかなり少なくなったとよい結果も出ています。『認知行動療法的カウンセリング』というものが、多くの公認心理師や心理士のところで行われています」(鈴木さん)

また、カウンセリングの一環として、ストレスに対応する“コーピングスキル”について方法と使い方を教えることもあります。どのような内容なのでしょうか。

「カウンセリングのいちばん大きな目的は、ゆっくり時間をとって、その方が困っている、友だちや家族のこと、勉強のことついて、カウンセラーと一緒に相談して、話を聞いてもらって、できれば解決方法に導くこと。コーピングスキルは、パーフェクトに対処するというわけではなくて、70%どうにか対処するということなんですね。大変なことが起きたときに、よくそのことをリサーチして、計画して、対処する、という方もいますし、飲みに行って忘れちゃえ、と感情的に対処する方もいます。理想的なのは、何十種類も対応を持っていて、場合によって使い分けられるということです。ところが、摂食障害になりやすい方はとても真面目なので、とにかく我慢するか頑張るか、2つぐらいしかコーピングスキルを持っていないことが多いんです。そこで、逃げてもいいんですよとか、人に(困りごとを)振ってもいいんですよとか、多彩なコーピングの方法と使い方を教えてあげることになります」(鈴木さん)

公認心理師の小原さんは、カウンセリングで話すことの効果にも期待したいといいます。

「(話すことのできる)誰か1人目がすごく大変なんですよね。いきなり友だちに話せと言われても難しい。そういう方のために私たちカウンセラーのような専門家がいると思います。カウンセリングでグチグチと話しても何も解決しないと感じることがあるかもしれませんが、グチグチ話すっていう体験がすごく大切なんです。一度、カウンセラーや専門家に話してみると、友だちにも話せるようになり、親にも話せるようになります。まとまりなく、ちゃんと話せなくていいんです。思ってるところから、ぐちゃぐちゃのまま話すということを1度やってみると、それを他の人にもできるようになる。そういう場でもあると思って、カウンセラーを使ってみてほしいと思います。カウンセラーが摂食障害について専門性が高いことは理想ですが、そうでなくても話を聞くという訓練だけはちゃんと受けてますから。そういうのをひとつの案として選択肢として考えていただけるといいなと思います」(小原さん)

摂食障害かなと思ったら
(1)摂食障害のある人に医療ができること ←今回の記事
(2)摂食障害のある人に家族ができること
(3)家族会ってどんなところ?
(4)経験者に聞く回復までの道のり

※この記事は福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(NHK厚生文化事業団・制作)「第1巻・摂食障害かなと思ったら」と「摂食障害 理解と回復のために オンラインフォーラム」(2020年6月21日実施)を基に作成しました。

NHK厚生文化事業団では、福祉ビデオシリーズ『摂食障害 理解と回復のために』(DVD全3巻)を無償で貸し出ししています。(送料のみご負担)

お問い合わせ NHK厚生文化事業団「福祉ビデオライブラリー係」
電話:03-3476-5955(平日午前10時から午後5時まで)
ホームページ:https://www.npwo.or.jp/video/16600 (NHKサイトを離れます)

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