摂食障害は20万人以上が治療を受けているにもかかわらず、“食事ができずにガリガリ”“好きなだけ食べる甘え病”という認識を持っている人もまだまだ多い疾患です。タレントの最上もがさんが当事者の声に耳を傾け、摂食障害がある人の「アライさん」(味方・理解者)を目指します。
摂食障害の代表的な症状が、食事を取りたがらなくなる拒食症です。体重が減りすぎて健康を損ねることもあります。もう1つが過食症で、食事のコントロールができなくなり、食べる量が極端に増えてしまいます。現在20万人以上が治療を受けていますが、同じ症状に苦しむ人はその数倍にも及ぶと言われています。
自助グループで15年にわたって当事者の相談に乗っているなおきさんは、摂食障害は体の不調が原因なのではなく、心理的な要因で起こると言います。
「拒食は、食べることや体重がちょっとでも増えることがどうしようもなく怖くなって、このままじゃ体が危ないと頭でわかってても、そこから抜け出すことができなくなってしまいます。よくダイエットのせいだと誤解されがちですが、本当はもっと深い心の葛藤から起こってくることと言われています」(なおきさん)
最上もがさんも、思い当たることがあると話します。
「高校生ぐらいのとき、周りにそういう子が何人かいたんですけど、食べるのが怖いっていうのをよく聞いていました。当時は自分としてはどう接したらいいのかわからなかったですね」(最上さん)
拒食症と過食症を経験し、SNSなどで体験を発信している竹口和香さん。自身もダイエットの行き過ぎではなく、ストレスのはけ口として摂食障害があらわれていたと言います。
「発症当時は高校生のとき。当時は自分が拒食症である自覚はなくて、ダイエットを頑張っている美意識の高い女子高生だと自分のことを思っていました。でも心の中では体重が減っていく高揚感や自分で管理してる達成感みたいなものがあって、『痩せたい』って言っている友だちと比べて、自分は努力できてるから大丈夫とか、結果を出せている優越感みたいなものもありました。たとえば部活とか勉強とか家庭の中で、うまくいかなかったことがあったとしても、自分で改善と管理ができているとか、痩せているから人から認められるとか、そういったことがはけ口というか、自分を守る術だったと思っています」(竹口さん)
食事の量が極端に少なくなったり多くなったりする摂食障害。摂食障害の人は、体型や雰囲気などの見た目でわかるものなのでしょうか。
「マスコミなどでは極端に痩せたガリガリの状態を報道しがちですが、実際の摂食障害の人は見た目ではわからないことが多い。雰囲気も明るく元気なふりをしている場合もあるので、なかなか見た目だけでは決めつけられないと思います」(なおきさん)
見た目ではわからない摂食障害。他人には見えないところで、当事者はさまざまな苦しみと向き合っています。拒食症と過食症の経験がある増田瑞季さんはその苦しみを次のように話します。
「私もはじめは極度のダイエット、拒食の反動として、過食で普段我慢しているものを大量に食べてしまうことがきっかけでした。途中から自分でも量のコントロールができなくなってしまって、ある種のストレスのはけ口として過食をするようになっていたと感じています。仕事が忙しくなったり、人に気を遣いすぎて精神的に疲れてしまったりしたときにスイッチが入ることが多かったですね。太ることに対する極度の恐怖があったので、衝動でストレスを解消するために食べてはしまうのですが、やっぱり太りたくなくって『出せばいい』という思考になってしまっていました。私はおう吐が途中から苦しくなったので、下剤を5倍ぐらいの量で飲んで、過食のあとはすべて出すようなこともしていました。吐きだこ※ができるほどではなかったのですが、お腹は痛いですし、すごく苦しいっていう気持ちがあって、もう自分ではコントロールできない状態になっていました」(増田さん)
※吐きだこ とは
おう吐を誘発するためにのどに指を入れることで、手の甲や指などにできることがある「たこ」です。
番組にも当事者の声が寄せられています。
過食おう吐経験者です。子どもの頃から背も高いほうでした。母親が「ほんとに体ばっかりでっかくて」と繰り返すのを聞いて育つうちに、「大きい=みっともない」という図式が刷り込まれてしまったのでしょう。強い痩せ願望が根付いてしまいました。(40代 女性)
元々両親とは折り合いが悪く教育虐待をずっと受けてきたわたし。親の愛情にとても飢えていました。目に見える形でやせ細れば、私の苦しみが嫌でも伝わるんじゃないか。拒食の反動から過食へ移り、泣きながら過食をして下剤を飲む日々です。(10代 女性)
環境によるストレスが過食や拒食の引き金になったという声。一方で、竹口さんやなおきさんは、自身の摂食障害は環境によるストレスではなく、別の苦しみによるものだったと話します。
「育った環境や、そのとき関わっている人たちがすごく重要だとは思っています。ただ、私自身は虐待を受けたことがなく、一見、周りから羨ましがられるような家庭環境で育ってきたので、一概に育った環境や親のせいだとは思っていません。いま振り返ると、私は褒められることが大好きで、特別でいることにすごく高揚する子どもで、人にどう見られるかというのがすごく気になるタイプでした。スクールカーストもそうですし、親からどう見られるかとか、彼氏にどういう彼女に見られるかという、『他人ありきの自分』というのが(要因として)あったんじゃないかなと思います」(竹口さん)
「虐待やつらい経験があったという人がいる一方で、症状がまだ渦中のときは、自分の苦しさに名前をつけることがなかなかできないという場合があると思います。そうすると、『自分が悪いんじゃないか』と考えてしまう。私は割としっかりとした家の子どもでしたが、『こんなに恵まれた環境で、なんで自分だけ』と自分が悪いっていうふうに向かってしまうことがあると思います」(なおきさん)
当事者や経験者の話を聞いた最上さんが伝えたいと思ったのは「そのままのきみで」ということばです。
「自分に自信がないっていうのが、たぶん一番、摂食障害になりやすいのかなと思ったので、もし自分の身近にそういう子がいたら『そのままのきみで十分すてきだよ』ということを伝えられたらいいなと思いました」(最上さん)
後編では、一人ひとり違う「回復」のあり方や、経験者にとって「アライさん」だと思えた人とのつながりについて聞いていきます。
※摂食障害についてもっと詳しく知るためのクイズはこちら
※この記事はハートネットTV 2020年6月24日(水曜)放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!“摂食障害”のこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。