数多く寄せられる子どもの心と体に関する悩み。なかでも思春期を迎える多くの子どもたちが苦しんでいるのが「起立性調節障害」です。親子が共に悩む症状について、解決策を専門家と一緒に考えます。
「朝起きられず、遅刻ばかり」
「頭痛腹痛が頻発する」
実は多くの思春期の子どもたちが「起立性調節障害」で苦しんでいます。代表的な症状は、朝起きられない、けん怠感や頭痛などで、中学生の約1割がこの病気だと言われています。
高校1年生のカンナさんの体調に異変が現れたのは2017年の4月です。中学3年生のときに、朝起きると吐き気や腹痛を感じるようになりました。しばらくすると起きあがるのも難しくなり、無理して起きると強いめまいを感じたため、耳鼻科を受診。詳しい検査を受けたところ、起立性調節障害と診断されました。
血圧を上げる薬などを処方されましたが、今も症状は続いています。夏までは週に数回学校に通えていましたが、2学期になってからはほとんど登校できていません。
カンナさん
「週に1回、行ったか、行ってないかくらいのペースだと思います。普通に高校に行って、勉強して帰る生活を送りたいのに、ひとりだけ家で寝ている。ダラダラしていると思ってしまい、置いていかれているような気持ちになってしまうことが多いです」(カンナさん)
母親のムクドリさんは当初原因が分からず、親として戸惑いがあったと言います。
ムクドリさん
「病気だと最初分からなかったので。もうどうしていいのやら、毎日ケンカのようになってしまって。朝から、『なんで起きられないの、根性で起きなさいよ』と根性論になってしまって。高熱が出るとか咳き込むとか、分かりやすい症状があれば、『根性で起きろ』なんて言わないです。私自身も毎日眠いし、疲れて頭痛がするのは日常的なことだから、つい責めてしまうときがいまだにあります」(ムクドリさん)
一般的にまだ知られていない起立性調節障害ですが、小児科や耳鼻科などで診断可能です。寝た状態と立ち上がった状態で血圧と脈拍の数値を測り、診断します。
原因については自律神経が関係すると大阪医科大学小児科の吉田誠司さんは説明します。
「自律神経の問題と言われています。自律神経というのは、自分をコントロールしてくれる神経です。立ち上がったときに血圧が上がらないとか、そういった原因で朝起きられず、夜も寝られない。あとはけん怠感とかイライラとか、お腹の症状もあります。思春期は自律神経のバランスが崩れやすいので症状が出やすくなります。不登校になっている子の3割から4割はこの病気だと言われています」(吉田さん)
起立性調節障害の治療法は、生活習慣の改善が基本になります。
そして、できることから始めるのが大事です。
「本人はすべて元に戻したいという気持ちがあると思います。その気持ちを大事に持たせながら、最初はここから少しずつ始めようという提案がいいと思います」(吉田さん)
起立性調節障害という病気はあまり知られていないため、学校で理解してもらえないという声もあります。にんじんさんの娘のななこさんもその1人です。
現在、中学3年生のななこさんが起立性調節障害と診断されたのは、小学5年生のとき。学校が大好きだった娘が通い続けられるように、にんじんさんは担任の先生に相談したところ、クラスで起立性調節障害のことを説明してくれました。そして、クラスのみんながななこさんの病気のことを理解し、今まで通りに接してくれたおかげで登校を続けることができました。
中学になっても体調と相談しながら登校していましたが、病気のことをよく理解していない先生がいたと言います。ななこさんは、病気のことをほかの生徒にも理解してもらえていないと感じていました。
ななこさん
「体育とか、すぐに疲れてできないと言っても、『頑張ればできるんじゃないの?』と先生に言われて。私が病気だと信じている子もあまりいなくて、『学校をサボりたいから来てない』みたいに思われたことも・・・。体調が悪くて学校に行けないときは罪悪感がある。自分を責める気持ちもある」(ななこさん)
その後、体調が悪化。中学2年生の2学期からはまったく通えていません。今は症状が落ち着いてきましたが、学校に行くことにはためらいがあると言います。
「今さら行ったところで、授業についていけるかどうかも分からないし。友だちの仲とかもだいぶ変わってしまったと思うので、友だちの輪に入れるか分からないし。無理していく必要はないかなと思う」(ななこさん)
学校に病気のことを理解してもらえないと感じた場合、医師の診断書を提出するのもひとつの方法だと吉田さんはアドバイスします。
「起立性調節障害と診断が出れば、診断書を学校に提出することができます。そうすると先生に体調が悪いことが伝わりますので、ぜひ診断書は提出すべきです」(吉田さん)
カイツブリさんは、娘が中学1年生のときに診断書を提出したことで、学校の理解が得られたと言います。部活で朝練に思うように参加できなくなったときは、校長先生にも相談しました。
カイツブリさん
「転部させたいので、そのことをサポートしてくださいと申しあげました。そうしたら、転部を『サポートしましょう』と言ってくださったんです。今度は演劇部にかわって徐々に馴染めてきて、最後はすごくいい友だちができて終わりました」(カイツブリさん)
カイツブリさんの子どもは、好きなことに没頭することで症状を和らげることができました。吉田さんは居場所を作ることが大事で、起立性調節障害は治る病気なのであきらめないでほしいと語ります。
「居場所はその人が存在を認められる場所で、自己肯定感が高まります。自分はいて大丈夫なんだ、自分は人から評価されているということが積み重なっていくと、苦しい状況でも頑張ろうという気持ちにつながっていくんですね。なので、まず居場所を作ってあげたらいいと思います。環境が整えば、高校生の間に多くは治ります。しっかりと希望を失わずいてくれたらと思います」(吉田さん)
教育評論家の尾木直樹さんは、親同士がつながりを持ってほしいと希望します。
「全国に『親の会』というのがあるんです。そこで情報を共有したり、いいドクターを紹介したりとかいろいろなことがあります。とにかく親が孤立しないで、親同士がつながる、情報をもらう、励まされる。そういうことがものすごく大事だと思います。だからぜひ『親の会』でつながってほしいと思います」(尾木さん)
※この記事はウワサの保護者会 2018年11月3日放送「子どもの心身の不調」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。