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新型コロナ 虐待やDVを防ぐために

記事公開日:2020年07月01日

新型コロナウイルスの影響で、長くなった家での時間。DVや虐待など、家庭内での暴力のリスクが高まっていると言われています。緊急事態宣言が解除され、今まで見えてこなかった実態が少しずつ明らかになってきました。家庭という「密室」で何が起きているのか。その実態を探り、今求められる支援について考えます。

増える夫婦間のDV 背景に経済的要因も

新型コロナウイルスの影響が大きかった4月と5月。全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は13000件余りと、前年の同じ月と比べるとおよそ2割から3割増えていました。

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出典:内閣府 男女共同参画局

都内にあるDV被害者の支援団体代表の吉祥眞佐緒さんは、外出自粛や在宅勤務が広がった3月から相談が増加したと言います。

画像(DV被害者支援団体エープラス代表 吉祥眞佐緒さん)

「コロナで1日中家にいて顔を突き合わせなければならない生活が、お互いにどれだけ負担なのか誰も想定していなかったので、もともと夫婦の関係性が対等ではない、言いたいことがお互いに言い合えるような関係ではない方々は本当にコロナの影響をもろに受けてしまって、ダメージを受けてしまっているのではないでしょうか」(吉祥さん)

これまで、1日10件程だった相談件数は、40件以上に増加しました。日常の些細なやりとりが、暴力にまで発展するケースが多いと言います。さらに、相談内容を丁寧に聞きとっていくと、「収入が減った夫が妻に十分な生活費を渡さない」「家計が苦しくても夫が怖くて相談できない」など、背景に経済的要因があるケースが増えてきていることがわかりました。

「経済的な相談はひっ迫した相談が増えてくると思いますし、お金がないことによるストレスというのはすごく大きなものになる可能性が高いので、身の危険を伴うような暴力が頻繁に起きることも増える可能性があるなと思っています」(吉祥さん)

経済的な要因がDVの背景にあるという指摘に、夫婦関係やDVなどの専門家で臨床心理士の信田さよ子さんも同意します。

画像(臨床心理士 信田さよ子さん)

「自分に経済力があることが力の根源であるという人たちが、収入が不安定になるとものすごく不安になる。おまけに四六時中顔を突き合わせるなどの要因がいくつか重なると、その経済的要因がDVにつながるリスクが非常に高まると思います」(信田さん)

そうしたなか、DVに悩む人にとって問題となっているのが、国から支給される10万円の特別定額給付金を受け取れるかどうか、ということです。

画像(特別定額給付金に必要な手続き)

特別定額給付金は、DVのため避難しているという人は世帯主でなくても、子どもなど同伴者の分も含めて受け取ることができます。そのためには避難している市区町村に「申出書」を出す必要があります。その際、婦人相談所や市区町村、民間の支援団体などが発行する証明書なども必要です。またそれとは別に給付金そのものの申請も必要になります。

しかし、加害者と同居している場合はこの手続きができません。避難した上で手続きをするか、家庭内で改めて話し合う形になります。

経済的な要因によるDV。すぐには避難できない方も多いなか、こうした事態を改善するための手立てはあるのでしょうか。

「家計をオープンにしてもらえない、話し合えない、お金で支配的な態度を取ってくるということが経済的なDVであると早めに気づくことが大切だと思います。もともとDVの関係にある夫婦は話し合いができないので、努力しても応じてもらえなかったら、早めにあきらめて迷わずに第三者専門機関などに相談してほしいと思います。夫婦関係で平等感とか勝ち負けにこだわっているかもしれないと気づいたら、ぜひ2人で話し合えるようになるまで、専門家に支援、介入してもらうのも1つだと思います」(吉祥さん)

“見えない”子どもへの虐待

子どもへの虐待についても状況が見えてきました。全国の児童相談所に寄せられた虐待の相談対応件数が、休校が始まった3月は前年に比べて12%の増加、4月は4%増加しています。この数字をどう考えればよいのでしょうか。

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出典:厚生労働省 子ども家庭局

虐待被害の研究とそのケアが専門の山梨県立大学教授の西澤哲さんは、虐待を発見する目が減っているのではと指摘します。

画像(山梨県立大学教授 西澤哲さん)

「虐待通告件数は前年度比で大体10%から20%増という形がここ数年間続いているので、それに比べると少ない。実際には増えているけれども、学校が閉まったり、保育園も自粛がかかったりして、子どもと関わる大人たちの目が減っているということが数字に反映されているのかなと思います。潜在化した問題が怖いですね」(西澤さん)

都内に住む、かおりさん(仮名・19歳)は、母子家庭で育ち、幼い頃から母親にネグレクトなどの虐待を受けてきました。4月、進学のため親元を離れたものの、実家に残してきた妹や弟のことが心配だと言います。学校や保育園が休みになり、家にこもる時間が増えたためです。

画像(かおりさん)

「ご飯を与えなかったら目に見えるように痩せていくじゃないですか。だからばれないように最低限食べさせようとか、コロナの前はそう考えてちゃんと与えてたと思うんですけど、今は食べさせなくても誰も気づかないし、生きてさえいればいいという感覚だと思うんです」(かおりさん)

かおりさんたちきょうだいは、過去に児童相談所に一時保護されたこともあります。行政による見守りの対象となっているはずですが、感染が広がって以来1度も、児童相談所から連絡はありません。しかし、かおりさんから助けを求めることも難しいと言います。

「私も中学生までは、ずっと自分が虐待されてるとかなかなか言えなくて。それはお母さんが捕まってしまうかもとか。やっぱり一番は、親と一緒にいたいとか。そういう意味も含めて言えなかった」(かおりさん)

誰にも助けを求められないなか、かおりさんは、少しでも虐待のリスクを減らしたいと、母親に金銭的な援助をすることで、家族とつながり続けています。

「もし私とお母さんの関係が悪化してしまったら、もうその家庭に介入できる人がいなくなっちゃうので。だからこそ、せめてお母さんの負担を少しでも減らしてあげて、今の関係を良好に保つ方が一番得策なのかなって思っています」(かおりさん)

かおりさんのケースについて、西澤さんはどう感じたのでしょうか。

「こういう家庭で育ったお子さんは、助けを求めてもきちんと受け止めてもらえなかったという経験を重ねている場合が少なくない。自分が苦しくても、どうせわかってもらえないんじゃないかみたいな気持ちが働いちゃって、どうしても相談できない。でも実際には、子どもが助けを求めることでお母さんを助けるんだと、このままではお母さんも助からないよっていうメッセージをしっかり伝えることがまず必要かなと思いましたね」(西澤さん)

アウトリーチ 広がる地域の見守り

新型コロナをきっかけに、地域の力で子どもたちのSOSを拾い上げようと取り組み始めた児童館があります。

6月、3か月ぶりに開館した名古屋市の中川児童館。0歳~18歳未満の子どもが誰でも遊びに来ることができますが、その中には、親から虐待を受けていたり、いじめに悩んでいたりする子どももいると言います。

職員たちは、子どもとのたわいのない会話の中からSOSのサインをくみ取ろうと心がけています。また、子どもたちが自ら助けを求められるように、カード遊びのなかで虐待について伝えるなどの工夫もしています。

画像(名古屋市・中川児童館 虐待について伝えるカード遊び)

さらに、児童館で待つだけではなく、職員たちがSOSのサインをつかむために地域に出向く「アウトリーチ」と呼ばれる活動も始めました。週に3回、公園に食料などを持って出かけ、子どもたちに声をかけています。

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名古屋市 中川児童館 地域に出向く活動

「『困ってることある?』って聞くと、子どもたちって自分から『ある』って絶対言わないんです。でも、お米を置いておくと、『俺、お米炊けるから、これ持って行っていいですか』とか、(困りごとを)言いにくいけど、そういうものを持って行くとか」(館長 根岸恵子さん)

きっかけは、名古屋市の要請を受けて児童館が休止の状態になったこと。虐待などリスクの高い子どもの様子が見えにくくなってしまいました。

児童館では今、地域の子どもに関わる支援機関に呼びかけ、ネットワーク作りにも乗り出しています。子ども食堂や社会福祉協議会など複数の大人の目によって、子どものSOSを見過ごさないようにするためです。

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地域の子どもに関わる人たちが話し合う様子

子どもたちのSOSのサインをつかむために自ら地域に出ていくアウトリーチという取り組み。西澤さんはどう見たのでしょうか。

「虐待対応の専門機関ではない児童館という場所で、今の状況の中で自分たちに何ができるだろうかということを考えてあのようなことをされている。しかも、ほかの地域の機関とネットワークを作るというのも、こういうときだからこそ何ができるのかっていう視点は素晴らしいなと思いました」(西澤さん)

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臨床心理士 信田さよ子さんと山梨県立大学教授 西澤哲さん

臨床心理士の信田さんは、虐待やDVなどで悩んでいる人に一番伝えたいことは外部とのつながりを持つことだと言います。

「外部とのつながりをどうやって持つかということが本当に分かれ目になってきます。自分が今こういうことで苦しんでいると伝えたり、イライラしたときに愚痴をこぼせたりする場所や人を家族の外に持つことが大事だと思います。愚痴を受けた人もそれは批判しないでただ聞く。それだけでも随分違うんじゃないかと思います」(信田さん)

DVや虐待で悩んでいる方、周りに悩んでいる方がいる人はぜひ、専門機関などに相談してみてください。
虐待・DVに関する相談窓口・支援団体はこちら

※この記事はハートネットTV 2020年6月17日(水曜)放送「新型コロナ 家庭内の暴力を防ぐために」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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