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集団感染をどう防ぐ? 障害者入所施設・現場の知恵

記事公開日:2020年06月23日

数多くの障害のある人がともに暮らす入所施設では、新型コロナウイルスによる集団感染が全国で発生しました。今も多くの施設が感染への不安と隣り合わせの日々を過ごしています。密接な介助が欠かせず、入所者が一人でも感染した場合、施設全体に瞬く間に感染が広がる可能性があるからです。
では、どうすれば集団感染を防ぐことができるのでしょうか?今回の記事では、医療物資も情報も限られる厳しい状況の中、独自の感染拡大防止マニュアルを作成した埼玉の入所施設の知恵を紹介しながら考えます。

独自のマニュアル(1)動線の工夫

埼玉県にある入所施設A(仮名)。重い身体障害や知的障害のある30人が暮らしています。
3月末。施設では入所者が感染した場合にどう対処するのかを示す独自のマニュアルの作成に取りかかりました。
きっかけになったのは千葉県の知的障害者の入所施設、北総育成園で集団感染が発生したことでした。北総育成園の場合、行政や医療機関など外部からの支援が入りました。
一方で、施設Aは北総育成園に比べ入所者の数が少なく、また民間の事業者が運営しているため外部からの支援が受けられないのではないか、という不安がありました。
そこで、施設の規模と特徴に合わせた独自のマニュアルを作ることにしたのです。

まず、重点を置いたのが「動線の工夫」です。
千葉の北総育成園の場合は、規模が大きいため、施設内をいくつかの区画に分ける「ゾーニング」をして対応していました。防護服で対応する「レッドゾーン」、念入りに消毒を行い対策本部を設置した「クリーンゾーン」、その中間で、防護服の着脱をする「セミクリーンゾーン」といった形です。しかし、施設Aの規模は、そこまで大きくありません。そのため、北総育成園のような「ゾーニング」はできないと考えました。

そこで、個室に入る際の動線を限定することにしました。平時に使用している、廊下に面した出入り口を封鎖し、ベランダから出入りすることにしたのです。そうすることで、個室に出入りする際の入居者同士の接触を避け、建物内にウイルスが蔓延することを防ごうとしました。

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マニュアルで定めた個室に入る際の動線

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動線に従って個室に入る際の手順

独自のマニュアル(2)ガウンテクニック

次に取り組んだのは、介助に使用する感染対策用のガウンなどを安全に着脱する「ガウンテクニック」の周知です。一度、介助に使用したガウンなどの表面にはウイルスが付着している可能性があります。そのことを意識せずに着脱すると、そこからウイルスを蔓延させてしまう危険性があります。ガウンテクニックは、表面には素手で直接触れず、裏側など清潔な部分だけに触れて安全に着脱する方法を示すものです。

元々、施設には防護服などの医療物資の備えはなく、ノロウイルスやインフルエンザ感染対策用のガウンを防護服代わりにしました。また、フェイスシールドは新たに手作りしました。

問題は実際にそれらを使った経験がなかったことです。
そこで、新聞やテレビ、インターネットなどで調べた情報を基に、手元にある物資を使ったガウンテクニックを明示。30名ほどの職員全員で練習を積み重ねました。

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ガウンテクニックは介助する前と後など10項目に場合分けして明示

マニュアルを中心になって作成した職員の中村さんは、すべてが手探りだったと言います。

「動線は幸いすべての部屋にベランダから入れたことで確保できました。一方、ガウンテクニックは施設にある物資が限られていたので、どう工夫すれば十分な対策になるのか悩ましかったです。正直、専門的な感染症対策から見ると不十分だと思いますが、物資も情報も限られる中ではできる限りのことをしました。」(中村さん)

入所者がPCR検査 想定外の困難が

5月中旬。施設では、実際にマニュアルに沿った対応を迫られる事態が発生しました。入所者の一人が発熱。PCR検査を受けることになったのです。

幸い、PCR検査の結果は陰性でした。しかし、マニュアルを実践すると想像していなかった困難が生じたと言います。

最も大きかったのは、知的障害のある入所者たちに、対策をする意味合いを伝えるのが難しかったことです。自分は体調が悪くないのに部屋に留まらなければならない理由が分からずストレスを感じる人がいたり、ガウンやフェイスシールドをつけた職員の姿が怖いと言って食欲が減退してしまったりしたと言います。

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ガウンやフェイスシールドをフル装備した際の姿

中村さんは、そうした困難をひとつひとつ解決しながらマニュアルを進化させていく必要があると感じたそうです。

「私自身もガウンとフェイスシールドを着けて介助した際、20年以上介助をしてきた方から怖いと言われ、がちがちに緊張させてしまいました。また、フル装備で介助するととても暑い。フェイスシールドも曇ってしまうほどで、職員の体調も心配です。これからの季節を考えると暑さ対策は解決しないといけません。」(中村さん)

さらに、想定していなかった事態が発生しました。行政と十分な連絡が取れなかったのです。
今回、入所者がPCR検査を受けたのは金曜日で、陰性が分かったのが翌週の月曜日でした。その間の週末は市や保健所からの連絡や指導はなかったと言います。

職員の間には、このまま感染が広がったら支援も得られないまま「陸の孤島」になってしまうのではないかという不安と緊張が広がっていたと言います。実際に、施設の管理者と看護師、数名の職員が泊まり込んで介助することになりました。

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入所者がPCR検査を受けた際の時系列

中村さんは、規模の小さい施設にとって、陰性か陽性か検査結果が分からないグレーな期間に独力で適切な対処ができるかどうかが、とりわけ重要だと感じたと言います。

「感染の疑いがあっても行政が支援に動けるのは陰性か陽性か判明してからで、それまでは施設内で頑張るしかない。感染の疑いがある人を介助した職員は濃厚接触者となりシフトにも入れられなくなるので、マンパワーも減ります。そうした中で何とかするしかない。これまではクラスター化するなど最悪の場合に孤立無援の「陸の孤島」になると思っていましたが、このグレーな期間にそれに近い状況が起こることが分かりました。そうしたことも想定してマニュアルなど事前の想定を高める必要があると強く感じました。」(中村さん)

今回の経験を経て、中村さんは、施設が孤立するのを防ぐために、日ごろからいざというときに備えて行政や地域と対処の方法を相談しておくことが重要だと感じたと言います。今後は、今回生じた課題を市や保健所などとも共有していくとのことです。

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