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ギャンブル依存症 その実態と支援のあり方

記事公開日:2018年05月07日

2018年4月27日、IR(カジノを含む統合型リゾート)実施法案が閣議決定され、依存症対策として日本人のカジノへの入場を週3回・月10回までとする案などが示されました。政府はあわせてパチンコなどを含めたギャンブル等依存症対策基本法の成立も目指しています。ギャンブル依存症はWHO(世界保健機関)が認める精神疾患のひとつでありながら、医療機関や回復施設の数は非常に限られており、日本ではこれまでギャンブル依存症の問題が見過ごされてきたのが現状です。ギャンブル依存症の実態を見つめ、真に求められている支援のあり方を探ります。

ギャンブル依存症は誰もが陥る可能性のある心の病

IRをきっかけに注目が集まるようになったギャンブル依存症。しかし、ギャンブル依存症は決して今に始まった問題ではありません。

山梨県に、ギャンブル依存症者が共同生活を送る施設があります。ここでは現在53人のギャンブル依存症者たちが「仲間」と互いに励まし合いながらギャンブルをしない生活を積み重ねることによって、ギャンブル依存症からの回復を目指しています。

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仲間の1人であるケンゴさん(仮名・22歳)がギャンブル依存症に陥ったきっかけは、大学時代に経験した「挫折」でした。小学校から大学までバスケットボールの選手だったケンゴさんは2年前、憧れだった大学バスケットボールの強豪チームに入部。しかし、強豪チームであるだけにやはりレベルは高く、ケンゴさんは試合に出られない辛さを味わいました。

そんなケンゴさんの心の空白を埋めたのが、生中継されるバスケットボール試合の勝敗を賭ける、海外の"ネットカジノ"。あらゆる嘘をついて親や友人に借金し、みるみるうちに総額1,000万円までに膨れ上がっていきました。

「ギャンブルをやるためにはお金を作らないといけない。お金を作るためにどうするか。ただそれだけで生きていた感じかなと思います。うつ状態にもなっていたので、最後は引きこもって外に出られなくなりました。自分がギャンブルでおかしくなっていることにも最初は気づけなかったし、そもそも『ギャンブル依存』症という言葉も知らなかった。」(ケンゴさん)

生活に支障をきたすようになってもギャンブルをやめることのできない、ギャンブル依存症。昨年秋、ギャンブル依存症対策のため、初めて国による実態調査が行われました。厚生労働省研究班の調べによると、ギャンブル依存症は全国で推計320万人。調査を行った久里浜医療センターの樋口進院長は、世界ではかなり以前から認められた精神疾患のひとつでありながら、特に日本ではなかなか国民の理解が得られていないという現状があると言います。

「ギャンブル依存数はもうアルコールに匹敵するぐらいいるかもしれないんですね。そういう方々が世の中にいっぱいいるはずだし、家族にもいっぱいいるはずなのに、パーソナリティがちょっとおかしいんじゃないかぐらいに考えられていて、病気だっていう風に思われていなかったんじゃないでしょうか」(樋口院長)

回復から社会復帰へ 求められるのは総合的な支援

「ギャンブル等依存症対策基本法案」では、カジノだけでなく既存ギャンブルをも含めた対策強化も行うとし、ギャンブルなどの依存症発症から生じる多重債務や貧困、自殺、虐待などさまざまな問題に対して対策を義務づけ、国や公共団体に対して相談支援等の充実を図るよう示しています。

全国に先駆けてギャンブル依存症に取り組んできた多摩総合精神保健福祉センターでは、薬物依存症の支援者や精神保健福祉士、国立精神疾患研究所の研究員ら外部の専門家も招いてさまざまな角度から支援先を探る取り組みを行っています。多摩総合精神保健福祉センターの山田課長代理は、ギャンブル依存症の支援について次のように説明しています。

「背景に『重複障害』といいますか、精神的な問題があったり対人関係上の問題があったりした場合は、単純にそれはギャンブルを止めればいいという問題ではなくて、その背景にある問題も含めて総合的なトータルな対応が必要になってきます。」(山田課長代理)

同じく多摩総合精神保健福祉センターの井上所長も、総合的な対応が必要となる以上、それなりの経験値を積んだ人材の養成が必要だと指摘。同センターでは今後、さまざまな専門家が有機的に連携し、総合的な支援を充実させることが課題になっているとしています。

一方、ギャンブル依存症者の回復には専門性とともに、長期的に支援するという覚悟が必要だと指摘するのは山梨の民間回復施設の施設長、服部善光さん。「ギャンブル依存症」という言葉が広まり、服部さんの回復施設では1年で相談が3倍に増えました。しかし、ギャンブル依存症専門の民間回復施設は全国でもわずか5か所しかありません。

自身もギャンブル依存症から回復した経験を持つ服部施設長は、国が示すギャンブル依存症対策の内容に対して、次のように意見を述べます。

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「予防対策とか、現時点でギャンブルをしてない人たちにとっては、入り口としてはすごくいいものだと思うんですけども、ただ回復支援の部分で見ると、ちょっと僕には分かりづらいかなというのは、正直なところですね。」(服部施設長)

ギャンブル依存症が発覚しにくいことは、「この生活から抜け出したい」と思いながらも自力ではSOSが出せない要因にもなっています。

ある日、服部さんの施設では、ギャンブルにのめり込んでいる息子と音信不通になっているのを心配した母親からの通報を受け、母親とともにその息子アパートへ向かいました。部屋にいたのは所持金もなく、ほぼ飲まず食わずだったユウさん(仮名・23歳)でした。

パチンコとスロットにのめり込むうちに500万円の借金を抱え、救い出されるまでの1か月間は「パチンコと盗みとお酒しかしてない」(ユウさん)生活。そのまま回復施設に入寮したユウさんは、母親と支援員が部屋に来た日のことを振り返り、次のように語ります。

「あの時は食べるものからお酒から、ギャンブル代を作るまで全部盗みというか、万引きで生活していましたね。自分ひとりじゃもうこの生活からは出られないというのが分かっていたので、母親が来て、ようやくここで、あの生活から抜け出られるのかっていう感覚がすごくありましたね。」(ユウさん)

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服部さんの施設では、毎日のグループミーティングのなかで、それぞれが自分の過去と向き合い言葉にしていくことで過去を振り返り、ギャンブルをしていない状態が続いた先の社会復帰を目指す回復プログラムを大切にしています。ユウさんもこのプログラムに参加することになりました。

「ギャンブルが止まってギャンブルのクリーン(していない状態)さえ続けばいいものではなく、それを止めた時に出てくるさまざまな本人自身の抱えている生きづらさ、人間関係とか、その生き方を変えていくという必要は間違いなくあるのかなと思います。それには実際、時間はもちろんかかりますし、これでいいというものは、やっぱり、なかなかないと思います。」(服部施設長)

さらに、回復プログラムを終えると、社会復帰に向けた話し合いを重ねます。回復プログラムを終え、自立を目指し、就職活動をしているケンゴさんはこう語ります。

「今、何社か面接させてもらって、やっぱ伝えているのは自分がギャンブル依存症ですっていうことを最初に話して、まあ、受け入れてもらえるかたちで面接をしてもらってる。ほんの一握りだと思うんですよね、そういう回復の場が与えられてるって。でなんか、ほかの人にも、なんだろう、チャンスというか、そういう場所があればいいのになってやっぱ、思いますね。」(ケンゴさん)

ギャンブル等関連事業者による自主的な取り組みとは

4月に政府が発表した入場料や入場規制などカジノの依存症対策は、「ギャンブル等関連事業者」の自主的な取り組みを求めるものとなっています。

ギャンブル依存症者の78%が最もお金を費やすと言われるパチンコ・パチスロ(厚生労働省研究班調べ)。パチンコ・パチスロホール組合全日本遊技事業協同組合連合会では現在、依存症の傾向にある人々への的確なアドバイスができる人材を育てるため、「パチンコ・パチスロ安心安全アドバイザー」という制度を設ける、相談先が書かれたポスターを店内に貼るなどの対策に乗り出しています。

しかし匿名を条件に取材に応じてくれたパチンコホールの男性社員は、対策の難しさについて次のように話します。

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「依存症であることは、こちらから見た目で判断することはやっぱり難しいところだと思います。(ポスターを指差しながら)ここに『1人で悩まず人で悩まずお電話ください。』と書いてありますよね。自己申告をしてくださいという話ですよね。ご自身で分かっていればこういう問題は起きないと思うんです。やめなきゃと思ってやめられるものでもないからこそ依存症なんでしょうし。」(男性社員)

男性は、以前からギャンブル依存症の問題が認知されていたことを肯定し、業界のこれまでの取り組みについて次のように指摘しています。

「やるべきことを業界がやっていなかったっていうほうが正確なんじゃないかなと。パチンコ業界としては、現実逃避してたというところがあるんじゃないですか、『自己の責任』に押しつけてたというのは。」(男性社員)

一方、パチンコ・パチスロホール組合全日本遊技事業協同組合連合会の副理事長は、法案に具体的な対応が示されず、ギャンブル等関連事業者の「自主的な取り組み」に委ねられることを、業界のこれまでの取り組みが認められた結果として前向きに捉えています。

支援現場からの声は届くか

ギャンブル依存症によって苦しい思いをするのは当人だけではありません。家族もまた大変な思いをするという現実があります。元バスケットボール選手ケンゴさんの母は、次のように心情を吐露しました。

「自殺とか考えてるんじゃないかなって恐ろしくなっちゃって。私もすごく孤独になっていくんですよね。相談しに行く場所が本当になかったです。」(ケンゴさんの母)

ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんもまた、法案にはギャンブル依存症に関わるあらゆる立場の人の声が反映される必要があると言います。

「産業側、行政、医療、当事者、家族といった人たちがテーブルについて、時間をかけて、対策を育てていくってことに、改めて向き合ってほしいと思っています。」(田中代表)

日本ではこれまで見過ごされてきたギャンブル依存症の問題。ギャンブル等依存症対策基本法案が、ギャンブル依存症者本人や一緒に苦しむ家族を救う手立てとなるために、今後、長期的な支援を具体的にどう実現していくのか。現場での模索は続きます。

※この記事はハートネットTV 2018年4月25日(水)放送「そこに本人や家族の声はあるのか~ギャンブル等依存症対策基本法案~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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