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新型コロナ どう守る?障害者の暮らし

記事公開日:2020年05月27日

新型コロナウイルスの感染の広がりが障害のある人たちの暮らしに大きな影響を及ぼしています。クラスターが発生した障害者施設や、ヘルパーの感染に不安を感じながら自宅で暮らす当事者、運営の仕方を模索している通所施設などの声から、障害のある人たちの暮らしをどうしたら守っていけるのか考えます。

入所施設での集団感染 北総育成園の取り組み

多くの人がともに暮らし、感染が広がるリスクの高い入所施設。もし集団感染が発生したら、どのように対応したらいいのでしょうか。

知的障害者70人が暮らす北総育成園(千葉県)では、3月末に大規模な集団感染が判明。入所者や職員、家族などを含め121人が感染しました。ほとんどの入所者が施設の中で療養しましたが、現在は、施設で治療を受けていた入所者全員と感染した職員全員の陰性が確認されています。経験をいかしてほしいと取材に応じてくれました。

施設では集団感染が判明した3日後、感染拡大を押さえ込むために「支援対策本部」が設置されました。

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北総育成園に設置された支援対策本部

千葉県の健康福祉部が中心となり、国立感染症研究所や、地域の病院の医師、看護師など、感染症対策に特化した人材が集められました。

まず行ったのが「ゾーニング」です。体育館を消毒して「クリーンゾーン」とし、支援対策本部を設置。感染者がいる居住スペースは「レッドゾーン」に。ここでは、スタッフは防護服を着用します。陰性の入所者もいるため、個室の中で過ごしてもらうよう対応しました。防護服を着脱する中間地帯は、「セミクリーンゾーン」としました。

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北総育成園で行われたゾーニング

そして新しい介助スタッフが入るごとに、感染症専門の看護師が防護服の着脱、消毒の方法などを徹底的に指導しました。

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北総育成園 医師・看護師等による回診

行政が中心となって動いたことで実現した、迅速な医療との連携。施設を運営する法人の理事・泉一成さんはその対応に救われたと言います。

「医療チームがすぐ来てくれたのは画期的で、本当にありがたかったなと思います。感染が拡大したときに、医療との連携がやっぱり必要だなと痛感しています」(泉さん)

一方で障害者施設ならではの課題も見えてきました。その1つが、入所者とのコミュニケーションです。対応にあたった看護師によると、入所者たちと打ち解けるまでに時間がかかり、施設の職員に様子を聞くにも、入所者への対応で疲れていたり、陽性で入院していたりしたため、障害特性をつかむまでに時間がかかったと言います。

感染対策の面でも課題が残りました。施設内での新たな感染を防ぐため、入所者たちに、個室の中で過ごしてもらうよう対応しようとしたものの、難しかったのです。

「入居者は個室で1日過ごすことに慣れていません。点滴を打っても、すぐに点滴の針を取ってしまう人もいますから、現場は本当に難しい状況だったと思っています」(泉さん)

こうした課題について、障害者福祉の現場に詳しい立教大学教授 平野方紹さんは次のように指摘します。

「障害特性の問題を踏まえながら感染対策を進めるには、一般的な感染対策だけだと不十分だと思います。障害特性を理解して、利用者の日々の生活を担っている職員と、福祉の専門家、感染症の専門家が連携して、医療と生活の両面で対応しなければいけない。そういう課題が今回、浮き彫りになったと思います」(平野さん)

画像(立教大学教授 平野方紹さん)

北総育成園では、もう1つ課題となったことがありました。「介助の人手不足」です。55人の職員で介助にあたっていたところ、感染の広がりなどで7人しか対応できない状況になってしまったのです。そこで今回は、同じ法人が運営する施設を一時的に閉鎖するなどして、応援の職員を派遣して何とか乗り切りました。
立教大学の平野さんは、こうした事態に陥ったとき、ひとつの法人だけで対応するのは難しい、と指摘します。このような人手不足に備えるための緊急対策が、4月に成立した補正予算に盛り込まれました。人手不足に困っている施設からの応援要請を受けて、都道府県がほかの施設と応援者の派遣を調整し、派遣するという仕組みに、国が補助金を出すという対策です。

画像(国の緊急経済対策 介護職員等の確保支援の仕組み)

さらに平野さんは、足りない人手を量的に補うことに加えて、福祉の専門家で編成されたDWAT(※1)を派遣して、混乱している状況に対してどうすればいいのかを判断して対応する、そういう質的な仕組み、支援も必要ではないか、と提言しています。

※1 DWATとは(災害派遣福祉チーム)
社会福祉士、介護福祉士など福祉の専門職で構成する災害時に障害者や高齢者を支援するチーム

ヘルパーの感染が不安 在宅生活の悩み

ヘルパーを利用しながら自宅で暮らす人たちも、感染リスクの不安を抱えています。

全身の筋力が衰える難病ALSを患う江東区の木村さん(仮名)は、ふだんは9人のヘルパーが交代で24時間の介助に対応していました。ところが4月、週3日、夜勤の介助を担当していたヘルパーの母親が発熱。

事業所は、ヘルパーから木村さんに感染させるリスクがあるという理由で、ヘルパーの訪問を一時休止しました。かわりに入れるヘルパーが見つからなかったため、木村さんの夫が不眠不休で対応しました。

画像(ヘルパーが訪問できなくなった木村さんのケース)

木村さんにヘルパーを派遣していたのは、江東区の訪問介護事業所、ALサポート生成です。代表の岡部宏生さんは自らもALSで24時間の介助を受けています。木村さんへのヘルパーの派遣を一時的に止めたのは苦しい決断だったといいます。

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ALサポート生成 代表 岡部宏生さん

「ヘルパーを感染リスクにさらすことと、患者さんを守ることのギリギリの葛藤のなかでの判断でした。ヘルパーさんは自分や家族への感染を心配しながら、(利用者に)感染させてしまわないかと心配しながら働いています。とくに今回はどうすればよいか、いつまでやればよいかがはっきりしないので不安です」(岡部さん)

このケースでは、ヘルパーの母親はPCR検査の結果は陰性でした。念のため、その後もしばらく訪問を中止しようとしたものの、木村さんの強い要望でまもなく支援が再開しました。

このように感染リスクがあるなかで介助する必要がある場合、平野さんは利用者とヘルパーの認識が大切だと言います。

「大切なのは、何をやることが大事なのか、何をやっちゃいけないのかを利用者とヘルパーがきちんと了解すること。そのためには医療スタッフの協力や連携が大事です。私が期待しているのは相談支援専門員(※2)、いわゆる支援のネットワークの要になる人たちです。医療スタッフとヘルパーがチームプレーを取れるように頑張ってほしいと思っています。そして緊急時に相談支援専門員の人たちがやるんだということをたとえば報酬で算定して認めるなど、バックアップしなければいけないと思います」(平野さん)

※2 相談支援専門員とは
障害のある人や家族の相談にのり、必要なサービスの利用を支援する

厚生労働省では、訪問介護の際の感染防止策を動画で紹介しています。
厚生労働省YouTube(MHLWchannel)『訪問介護職員のためのそうだったのか!感染対策』動画をご参照ください。

画像(訪問介護 感染予防のポイント)

出典:「訪問介護職員のためのそうだったのか!感染対策!」(厚生労働省)より

通所施設を利用する人への影響

日中、通所施設で過ごす人たちも感染リスクの影響を受けています。

豆腐の製造や、タオルを折りたたむ仕事などを請け負っている東京・町田市にある通所施設では、感染のリスクを避けるため、多くの利用者に自宅待機を要請しました。運営する3か所の施設で、定員180人のうちおよそ8割が要請に応じ、通所を控えています。

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通所施設の様子

しかし今、自宅待機を続ける利用者の暮らしに影響が出始めています。

知的障害と自閉症がある田中信太郎さん(37)は高校卒業後の20年間、日中は施設で働く日々を過ごしてきました。自宅待機を始めておよそ1か月がたち、生活リズムが大きく乱れていました。

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田中信太郎さん

日中、仕事で体を動かさなくなったため、昼夜逆転の生活になりつつあります。さらに、精神的にも不安定になり、とつぜん癇癪を起こすことが増えています。母・洋子さんは、信太郎さんが落ち着けるよう、常に近くにいると言います。

「こだわりがあって、そばにいるように要求されるんです。寝かせてはくれるんですけど、そんなに熟睡はできないですね。本当にきついなぁというときは、行くところ(通所施設)があるんだという安心感があるだけで頑張れますね」(母・洋子さん)

家庭での介助が難しくなった場合、利用者のよりどころになるのは通所施設です。このような通所施設について、厚生労働省は感染対策を徹底した上で事業を継続することを求めています。

一方で、利用者に対して密接な支援をする職員からは不安の声も上がっています。通所施設を運営する小野浩さんは葛藤を抱えながら、施設を開き続けています。

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小野浩さん

「小さな子どもや介護が必要な高齢の家族がいる職員にとっては、感染の不安だらけです。ですが、本当に困っていたら通えるようにしておくことがみんなにとっては安心だし、励みになる。ただ、できるだけ人との接触を避けるのがコロナ対策なのでご協力くださいと。その両立で行かざるを得ない」(小野さん)

通所施設が利用者のニーズと感染のリスクの板挟みとなっていることについて、平野さんはこう指摘します。

「通所施設は在宅生活を送る場合のバックアップとして絶対不可欠なもの、心のよりどころです。今回のような非常時にこそバックアップは必要なんです。その意味でも通所施設は地域生活を支える社会インフラだと位置づけて、経営的な問題を含めて、ちゃんと社会インフラとしての機能を発揮できるような措置が必要だと思います」(平野さん)

小規模グループホームの不安

たくさんの障害のある人がともに暮らす入所施設に対して、少ない人数で共同生活を送る暮らしの場が「グループホーム」です。グループホームの運営者からは、小規模なだけに、感染者が出た場合に対処しきれないのではないかという不安の声があがっています。

町田市で通所施設を運営する小野浩さんは、重度の身体障害などがある4人が暮らすグループホームを2か所運営しています。

住居の面積が限られているため、感染者が出た場合「ゾーニング」などの対応は難しいと言います。
また、重度の障害がある人にホテルなどに移ってもらったり、入院先をすぐに見つけたりすることも難しく、グループホームの中で職員が看護をするしか方法がないと言います。

「入院先が見つかるまではグループホームで看護ですね?と保健所に聞いたら「はい、そうです」と。入院ができなければ、感染覚悟で支援をするしかないんですね。今、うちのグループホームで用意できているのは、ノロ対策用の袖付きのエプロンとマスクとゴーグル。それと手作りのフェイスシールドを準備しました。そこまではしました。それを絶対に使わないことを望むだけですね。」(小野さん)

もし感染者が出たら、医療物資も十分ではない中、感染覚悟で支援するしかない。現場では、緊張感が途切れることはないと言います。

「障害のある人たちはちょっとした気候変動で熱が上がるんです。毎日、誰かしら37度5分以上出るんです。出た時点で「どうする?」ってその空気が走るんです。」(小野さん)

安心して暮らしていくために

障害のある人たちが、感染に備えながらも、安心して暮らしていくためには何が必要なのか。平野さんは2つのポイントをあげています。

画像(立教大学教授 平野方紹さん)

「1つは医療と福祉の連携です。都道府県レベルで、施設や法人の枠を超えた取り組みを真剣に考えていく必要があります。もう1つは、つらかったり苦しかったりしたら、遠慮なくSOSを出すこと。無理な自粛を求めているわけでありませんので遠慮なく声を発してほしいと思います」(平野さん)

長期化する新型コロナウイルスの影響。不安やストレスをため込まず、本当につらいときは周りの人に相談してみてください。ハートネットTVでは、これからも障害のある人たちの暮らしをどうすれば守れるのか考えていきます。

※この記事はハートネットTV 2020年5月19日放送「新型コロナ どう守る?障害者のくらし」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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