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新型コロナ 視覚障害者への影響(3)文化活動の危機を乗り越えるために

記事公開日:2020年05月26日

新型コロナウイルスの影響により、視覚障害者の文化活動も危機に瀕しています。イベントの自粛、映画館や劇場の休館などで、音楽家や演劇人、音声ガイドの人たちなどが厳しい状況に追い込まれているのです。そんな中でも今できることを模索し、文化の灯をつないでいこうとする現場の取り組みを紹介します。

苦境に立たされる音楽家たち

視覚障害のある人たちの中には、音楽を生業としている人も大勢いますが、イベントやコンサートの中止によって、収入の減少や将来への不安、そして応援してくれる人たちから離れざるをえないつらさを抱えています。

「亮太が行く!」のリポーターで、和太鼓奏者の片岡亮太さんや、小中学校を中心に体験型の出前授業を行っているドラマーの佐藤尋宣さん、シンガーソングライターの板橋かずゆきさんは今の状況を次のように話します。

「ドミニカ共和国でのコンサートや和太鼓指導のツアーなど、9月末までに予定していた国内外でのすべてのコンサート、講演などへの出演が延期またはキャンセルとなりました。それに伴い、大幅に収入が減少しています。今回のような事態が発生したとき、僕たち当事者も含め、皆で必死に守っていかなければ、文化芸術の灯はあっという間に消えてしまう、とても危ういものであることを痛感しました。そうしたなか、SNSでの演奏動画には喜びの声を多く寄せていただきました。演奏家として、誇りを持ってこれからも活動を継続していかなければと強く思います」(片岡さん)

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和太鼓奏者 片岡亮太さん(撮影:岡本裕志)

「3月からの講演、演奏の仕事はすべてなくなりました。仕事があることで自分自身の存在価値を知ることができて、仕事はお金だけじゃなく、生きがいにもなっているんだと気づくことができました。自粛が解除されたとしても、今まで通りの演奏活動や講演活動ができるのか不安ですが、なるべく物事を深く考えすぎないようにしています。ドラムレッスンの再開を楽しみにしていますという生徒のみなさんのメールで頑張ることができていますし、オンラインでの演奏活動も考えています」(佐藤さん)

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小学校で出前授業を行うドラマー 佐藤尋宣さん

「3月から、全てのライブや講演会が中止または延期になりました。今後についてはまったく見通しがつきません。もちろん乗り越えてステージに立てる日を目指していますが、もう3か月以上、人前で歌ったりしていないので、正直、怖いです。今後もこのようなことが起こる可能性もあるので、その対応など考えて実行していかなければならないと、日々考えています。今回のことで、たくさんの方々に支え応援していただいていることを改めて実感しました。」(板橋さん)

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シンガーソングライター 板橋かずゆきさん

目標を失い、不安の中にいる音楽家のために何ができるかと考え、オンラインでミーティングを始めた人がいます。今年、75歳になったヴァイオリニストの和波たかよしさんです。

和波さん自身、5月末に予定していたイタリアでの演奏旅行が中止となり、心のやり場がなくなりました。しかし後輩の音楽家たちも苦しんでいることを知り、ミーティングを呼びかけると、大学でホルンを学ぶ学生から第一線で活躍する演奏家まで、10人近くが集まりました。今は週に1度のペースで顔を合わせています。

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ヴァイオリニスト 和波たかよしさん(撮影:井村重人)

「情報交換で気持ちを共有しています。みんな仕事がキャンセルになったとか、1人暮らしで久々に人と話して嬉しかったという人、そんな話をするだけでも、気持ちが楽になっていきました。結局、一番慰められたのは僕自身だったかなという気がします。同じ音楽を仕事にしている者たちが集まれたのは、とても良かったと思いましたね」(和波さん)

オンラインミーティングに参加した音楽家たちは、大先輩の和波さんがいち早く行動したことに、大きな力を得たと話していました。音楽家として今できることは何か、和波さんはこう語ります。

「音楽というものは人類の宝物だと思っていて、我々音楽家は、それを演奏でよみがえらせる大切な仕事をしている。自分たちがそういう仕事に携わっていることに誇りをもって、その気持ちを見失わないようにしてほしいですね。コロナはいずれ終息する。その時にどんな活動ができるのか、一人一人が問われることになると思います。だから、時間があったらとにかく練習しようよと。自分もそうありたいし、後輩たちにもそれを望みますね。」(和波さん)

今こそ「対話」にこだわりたい

視覚障害者がアテンド(案内役)を務めるエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」も大きな影響を受けています。

これは真っ暗闇の中、目の見える人たちがアテンドに導かれてさまざまな体験をするというもので、1988年にドイツで生まれ、日本では1999年から行われています。しかし、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて開催がすべて中止になりました。

「開始以来、初めて存続の危機にある」と率直に語る、代表の志村真介さん。しかし、多くの人から励ましの声が届いています。

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ダイアログ・イン・ザ・ダーク 代表 志村真介さん

「『このプロジェクトがなくなるのは社会的損失だから、絶対なくさないで』といった声や『収束したらすぐに体験しに行くので、どうか頑張ってください』など、この20年間の積み重ねで社会になくてはならないものになってきているとみんなが実感しています。これがスタッフの勇気につながっています。」(志村さん)

経営的に厳しい状況にありながらも、志村さんたちは、3月から無償で、新たな取り組みを始めました。休校中で自宅待機を余儀なくされている子どものための、オンラインスクールです。視覚障害のあるアテンドと子どもたちがオンラインで学び合うというもので、日本全国はもちろん、海外からも参加者がありました。

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オンラインスクールの様子

「年齢や地域がバラバラなのに、対話型の学習が始まっているんですね。まるで暗闇の中で助け合いながら、だんだんチームが醸成されるような感じでした。会ったこともない友だちと協力して、たとえばアテンドに漢字を教えるとか、手話で表現してみるとか。自分1人ではなく、協力し合うとお互いがわくわくするということがわかりましたね。学習自体のあり方がダイバーシティで、盲学校の子どもたちや、不登校、ひきこもりの子どもも参加して、ずいぶん豊かな時間が持てました」(志村さん)

このオンラインスクールでの経験を経て、新たな活動に踏み出していきたいと志村さんは考えています。

「今回わかったことは、これまで『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』の“ダーク”にこだわりすぎていたということです。これからは暗闇にこだわるだけでなく、“ダイアログ”、つまり対話にこだわり続けようと思います。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』から『ダイアログ・イン・ザ・ライト』へ。明るいところでも対等に人と人が出会って対話できる。目の前のリアルな人たちだけではなく、オンラインでも参加できるような、バーチャルとリアルを重ねたようなことができないかと思っています」(志村さん)

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ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドのみなさん

コロナによって人と人の距離が離れ、差別や分断という人間の一番弱い部分が出てきている、と指摘する志村さん。これからの時代は「対話」が重要になると語ります。

「考え方が違う人と対話していくうちに、自分の考え方が少し変容してくる。相手の考え方を受容していく。それによって、お互いが成長していくと思うんですね。言語的な対話だけではなく、あらゆる対話をこれからやり直す時代になるのではないでしょうか」(志村さん)

ミニシアターの灯は決して消さない

2016年に誕生した東京都北区の「シネマ・チュプキ・タバタ」は、ユニバーサルシアターというスタイルで、誰もが一緒に楽しめる映画を上映してきました。視覚障害者には音声ガイド、聴覚障害者には日本語字幕、そして設備面でも車イスが入りやすい工夫をしている映画館です。

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シネマ・チュプキ・タバタ

コロナウイルスの感染拡大とともに客足が落ち、3月末にはほとんどゼロに。緊急事態宣言後の4月9日からは休館せざるをえなくなり、代表の平塚千穂子さんは、一時は閉館することも頭をよぎったと言います。しかし映画関係者が支援に動き、平塚さん自身も寄付やサポート会員を募ったところ、予想以上の反響に驚いたと言います。

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シネマ・チュプキ・タバタ 代表 平塚千穂子さん

「今まではサポーターが60人くらいだったのですが、休館して緊急支援という形で呼びかけたあと、3倍くらいの人数の方がサポーターになってくださいました。『このシアターで見るのが楽しみでした』『絶対なくさないでください』などのメッセージもいただいて力になりました」(平塚さん)

多くの人がシネマ・チュプキを支えてくれていると気づいた平塚さん。5月からは、映画監督や配給会社が作ったウェブサイトで、映画のオンライン配信も始めています。

「配信とはいえ映画をお届けできて、トークショーで制作者と観客を結んだり、観客同士がオンラインで感想を語りあえたり、映画館本来の仕事ができるようになって、スタッフも元気になりました。コロナが収束して再開をしたら、さらに活気のある劇場として、残っていく事をイメージしています。」

緊急事態宣言は解除されても、感染のリスクと隣り合わせの不安は続きます。そんな時代だからこそ、文化の力を忘れずにいて欲しい、と平塚さんは言います。

「テレビやSNSではネガティブなニュースばかりが流れてきて、暗い気持ちになっていきます。実際そういうことを知るのは大事ですが、希望や勇気をイメージすることも大事。先が見えずに暗くなってしまいがちなときにこそ、映画を見て笑ったり、感動したりしていただきたいと思います。人はご飯を食べて息をするだけで生命は維持できても、いきいきとは暮らせません。そこは目に見えないものの力、文化というものが大事だと思います」(平塚さん)

※この記事は、2020年5月17日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

新型コロナ 視覚障害者への影響
(1)仕事と暮らし
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