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誰もが過ごしやすいクラスとは?

記事公開日:2020年05月26日

多くの学校で、先生たちが、発達障害のある子どもをどう支援し、クラスの中で共に学んでいく場をどうつくるか、さまざまな模索をしています。発達障害のある子どもを持つ保護者と、多くの子どもたちをみてきた専門家が、誰もが過ごしやすいクラスについて考えます。

困惑を招く行動には理由がある

発達障害のある子どもを育てていると、学校によって対応の差がかなりあったり、普通級を希望しても支援級しか受け入れができないと言われるなど、保護者の悩みは尽きません。児童精神科医の髙岡健さんは、発達障害は子どもの中に“障害”があるのではないといいます。

「一番大事なのは、発達障害というのは、子どもの中に障害があるのではないということです。子どもと周りの世の中との間の“壁”のことを障害と呼ぶんだという、そこが重要だと思います。だから、発達障害に関するサポートは、周りとの壁をどう低くするか、できれば壁をゼロにしていく方向で考えるというのが何より大切です」(髙岡さん)

親子がどんな壁を体験し、それを低くしていったか、語ってもらいました。
母親のシャチさんは、9歳のむつみちゃんと14歳のみずきくんを育てています。長男のみずきくんは、自閉スペクトラム症とADHDの診断を小学1年生のときに受けました。特性のひとつとしてIQが高く、歴史や時事問題に興味があり、自分で学ぶことが好きです。

画像(みずきくん)

幼いころのみずきくんは泣きだしたら止まらず、夜中に起きてしまうこともたびたび。シャチさんは育てづらさを感じていました。小学生になると学校で問題を起こすことが増え、2年生になるとそれまで泣き虫だったみずきくんは、突然周りの子に暴力をふるうようになります。

親や先生から見れば問題行動ばかりだったみずきくんですが、そこには理由がありました。

「長いこといじめられっ子のポジションにいて、小学校に入って、つらさがピークにきて。だから、自己防衛するようになりました。攻撃側に転ずることで、弱者じゃなくなる。自分を守りたかった」(みずきくん)

さらに、みずきくんは教室からよく逃げ出すことがありました。それも周囲のからかいから身を守るためです。そのようなとき、みずきくんは先生にどうしてほしかったのでしょうか。

「逃げたときは追いかけたりしないこと。落ち着くために逃げているのだから、誰かに来られると困る」(みずきくん)

3年生になり、いじめてくる子たちとは別のクラスになったみずきくん。担任も変わり、みずきくんは暴力もふるわず、教室にいられるようになりました。

「担任の先生が説教が分かりやすいんです。簡潔に、理路整然と言う。実際にやらせて、分かるようにしてくれた」(みずきくん)

たとえば、みずきくんが習字で名前を書くための細い筆を忘れたとき、先生は怒らず「普通の筆で名前を書いてごらん」と書かせました。すると筆が太すぎて細かい文字がまったく書けず、細い筆がなぜ必要なのか理解できたのです。

しかし、小学6年生のときに再びいじめる子と同じクラスになり、それからは学校には行っていません。みずきくんにとって、どのようなクラスならよかったのでしょうか。

「一番いいのは、いじめがないこと。あとは、勉強が進んでいる子はどこまでも進めて、分からない子はとことん教えてもらえるクラス」(みずきくん)

当時のみずきくんは言葉にできなかっただけで、多くのことを考えていたのです。しかし、母親のシャチさんは、かつてはみずきくんを受け入れられなかったと振り返ります。

画像(シャチさん)

「小学校2年生のときには、『普通』であってほしいと思っていました。彼のことをずっと受け入れられないでいたんですけど、年数を経て、6年生のときはもう生きてればいいかなと。学校に行かなくなって落ち着いてきたら、笑うようになったんですよね。この子の笑顔を久しぶりに見たときに、『そうか、笑っていられることが一番だな』と思って、それからは吹っ切れました」(シャチさん)

みずきくんの「教室から逃げ出しても追いかけたりしないこと」という言葉。児童精神科医の髙岡健さんは、その希望をかなえるために、学校に「安全な場所」を作っておくことが必要と言います。

画像(児童精神科医 髙岡健さん)

「逃げても、どこへ行くかさえ把握できれば、学校の先生は安心です。ですから、最初から安全な場所を作っておくことが一番大事だと思います。全員に対して、いつでも自由に使っていいんだと最初から伝えておくわけです。そして、行くときには快く送り出して、帰って来たときには大歓迎するということが決まっていれば、逃げ出しても問題ありません」(髙岡さん)

教室をさまざまな子どもにとって快適な空間にする取り組み

「安全な場所」を自分たちで形にした公立小学校の特別支援学級があります。子どもたちが自ら設計し、段ボールなどで作りました。中に明かりもともせて、入り口を閉めると真っ暗になります。気持ちが高ぶったり不安になったりしたときに、この中でゆっくり落ち着くことができるのです。

画像(子どもたちが段ボールで作った「落ち着ける場所」)

学習するスペースにも、過ごしやすい工夫があります。たとえば、人目が気になるという子どものために、周囲の視線を遮る仕切りを作りました。

画像(仕切りのある学習スペース)

教室の椅子にも配慮があります。揺れる椅子や、大きなボール、しっかり支えられる椅子などいくつかの種類から、自分で使いたいものを選ぶことができます。

画像(さまざまなタイプの椅子)

このクラスの特長は、子どもたちひとりひとりが「自分はどんな場所、どんな道具があれば過ごしやすいか」を考えて、それを形にしているところです。個人の学習スペースの様子もそれぞれ全て違います。

この取り組みは2019年度から始まったばかりですが、以前は学校に行けなかった子が、この場所ができたことで通えるようになりました。落ち着ける環境で少しずつ自分を出せるようになったのです。

一人一人の子どもを尊重する授業

「誰もが過ごしやすい場所」というハード面だけではなく、「お互いを認め合う学習」というソフト面を磨いている学校もあります。東京渋谷区の千駄谷小学校の3年生の担任、橋本靖子先生は一人一人が尊重され、自分で考えて行動できるクラスを作ろうと取り組んできました。

朝、子どもたちが教室に来ると、椅子を丸く並べはじめます。1時間目の「サークル対話」はこの形で始まり、クラス全員でさまざまなことを話し合います。誰もが本音で話し、相手のことを知り、お互いを認め合うことが目的です。

画像(「サークル対話」の様子)

話し合う内容は子どもたちが決めます。この日は、係の仕事について話し合うことになりました。

クラスのみんなに手品を披露するマジック係が夏休み以降は活動していないのでは、というテーマです。子どもたちの話し合いは活発に行われました。

マジック係の児童「みんなはさ、(マジック披露を)強制的にされるのは嫌だとか言うじゃん。だったら、やろうと思えなくなっちゃうのよ。マジックを作るのにはすごい時間がかかるっていうのをみんなには分かってほしい。僕は僕で今も誰にも種明かしされないように(マジックを)考えてる。仕事をしてないわけじゃなくて考えてるだけなの」

男子児童「だったら人に誤解されないように何週間に1回やるとか期間を決めてくれれば、強制的にならないと思います」

女子児童「改善点をまとめると、誤解されないように少し工夫をするっていうことだと思います」

3時間目の算数の時間では、計算問題をみんな一斉に解きはじめましたが、立ち歩いている子がいます。

画像(算数の時間の様子)

これは、自分がどうやって問題を解いたのかを子どもたち同士で教え合う「学び合い」。この方法で、配慮が必要な子も授業に参加しやすくなりました。

「じっとしていられない子は、ずっと話を聞いていることもつらいんですよ。学び合いというスタイルだったら、自分で動いていいじゃないですか。フィットしていると思います」(橋本先生)

教えられる子だけでなく、教える子もこの方法で理解が深まったと言います。

「実際やってみると想像以上に難しかった。教えるって、自分と違う人にも分かりやすくということだから、相手が考えることに合わせるのが難しい」(女子児童)

橋本先生は、この取り組みの効果を実感しています。

画像

橋本靖子先生

「計算や漢字がとても苦手なお子さんがいますが、この取り組みを始めるまでは取り残されていました。でも今のスタイルで友だちに親切に教えられて、子どもの言葉で教えられるからすごくストンと落ちるらしくて、その子は自分でもできるようになりました、さらに自分でも教えにいって、課題をクリアしました」(橋本先生)

そのほか、漢字の書き取りなどの課題を終わらせたら、あとは自分でやりたい学習に取り組める自立学習の時間も子どもたちに人気です。

誰もが過ごしやすいクラスを作るために

長女と長男が自閉スペクトラム症のよつばさんは、千駄谷小学校の取り組みが子どもの特性をいかしていると言います。

画像(よつばさん)

「動き回ることをマイナスにとらえるのではなく、逆手に取る。それをいかせると、ほかの子たちも『実はこれ苦手なんだよね』とか、違う意見も言いやすくなりますよね」(よつばさん)

発達障害について知りたいというもみじさんは、周りにいる人のヒントになると言います。

画像(もみじさん)

「娘の友だちで発達障害の子がいて、特別扱いされてるみたいな不満があったらしいんです。今までは(向き合い方を)どう伝えればいいのかなと思っていたんですが、一人一人に目を向ければいいだけというのが分かって、娘にも伝えようかなと思います」(もみじさん)

髙岡さんは、サークル対話の効果を上げるためには、信頼関係の構築が必要だと考えます。

画像(児童精神科医 髙岡健さん)

「サークル対話というのは、最初からだとなじめない子どもも絶対いると思います。サークル対話の条件としては、基本的に子ども同士の信頼関係が成立していたり、子どもと先生の間の信頼関係が成立していたりするという基盤があってはじめて活用できると思います。こういう経験を積んでおくと、不幸にもいじめのような事態が始まったときに、子どもたちの力で解決していくことにつながると思います」(髙岡さん)

少し視点を変えれば、誰もが過ごしやすいクラスができるはず。一人一人の子どもの思いを知ることがそのヒントになります。

※この記事はウワサの保護者会 2019年11月9日放送「誰もが過ごしやすいクラスって?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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