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セクシュアルマイノリティーの子どもたち 学校現場の取り組み

記事公開日:2018年05月01日

セクシュアルマイノリティーなど多様な“性”の自覚により揺れ動く子どもたちに、学校ではどのような対応がなされているのでしょうか。子どもたちにとっての駆け込み寺となっている養護教諭によるさり気ないアプローチの実例や、入学前に学校関係者と専門医師と本人家族を含めた話し合いをもったケースなどから、子どもたちが自分らしくいられるための取り組みについて探ります。

性に悩む生徒の心に寄り添う養護教員

性に関する生きづらさを抱えている子どもたちの成長をどう支えていくことができるのか。

セクシュアリティーの悩みを打ち明けることができずにいた生徒と向き合ってきた、ある高校の先生を取材しました。

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養護教諭の服部なつさん(仮名)は、セクシュアリティーに悩む生徒と出会い、考え方が大きく変わりました。「1クラス40人在籍していればセクシュアルマイノリティーの子どもが1人はいるかもしれない」ということは知識としてはありましたが、身近な問題だとは感じていませんでした。

そんななか、出会ったのが海斗さん(仮名・19)。海斗さんが2年生のときに知り合いました。現在は男性として生活する海斗さんですが、当時は女子生徒として通学。服部さんは当初、性別のことで悩んでいるとはわかりませんでした。

海斗さんは、気持ちが不安定で自傷行為を繰り返し、やがてその苦しみを服部さんに訴えるようになります。苦しみの原因がはっきりしないまま1年が過ぎたある日、事態が動きました。

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ふだん穏やかな海斗さんが、女子生徒同士の口論を見て、感情をむき出しにしてひとりの女の子を守ろうとしていたのです。その様子が気になった服部さんは、「どうしてあんなに怒っていたの?」と声を掛けました。すると海斗さんは「その子が好きだから。」と打ち明けてくれました。
養護教諭の研修を通して、同性に好意を持つ子がいることを知っていた服部さんは、その気持ちを自然に受け止める会話を交わしました。それにより、海斗さんは一歩踏み出すことができたのです。

「高校へ入る前から周りと違うことに悩み、ひとりで抱え込んでいたけれど、初めて自分の性別に違和感があることを話したんです。一番大きなきっかけは、『女の子が女の子を好きでもいいんじゃない』って言われたこと。この人だったら大丈夫だって思うようになりました。」(海斗さん)

悩みを打ち明けることができた海斗さんは、男性として生きたいという気持ちも表せるようになり、自らを傷つけることも減っていきました。

服部さんはこれをきっかけに、あるものを保健室につくりました。それは、セクシュアルマイノリティーに関する本やDVDを集めたコーナーです。

「そういう子たちに見てもらうきっかけになるように置き始めました。気になっていた子は『実はね…』って言いながら、『これどういう意味?』『自分はこんなだけど大丈夫かな』って話をしてくれる。本当にきっかけづくりとなる場所ですね。」(服部さん)

大切なのは、教師による正しい理解とポジティブな姿勢

スクールカウンセラーの経験もある臨床心理士の佐々木掌子さん(現在は明治大学文学部准教授)は言います。

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「思春期というのは、自分が『性別違和なのか? 同性愛なのか?』と、まだ漠々としている状況なので、『男なの? 女なの?』と突きつけず、大らかに対応していけたらと思います。海斗さんのケースも、先生から寄り添う言葉があって本人も打ち明けられた、いい流れではないかと思いました。私がスクールカウンセラー時代にやっていたのは、図書館司書の先生と保健室の養護の先生と3人で話し合い、図書室と保健室の廊下の掲示板に一問一答の悩み相談の掲示をしたこと。『自分は男だけれども男の人が好きになる。これはどういうことなんだろう』という悩みも入れておいて、スクールカウンセラーから『男の人を好きになるのも素敵なことですね。カナダやオランダでは同性で結婚することができます。日本もそうなるといいですね』と回答する。少なくとも保健の先生と司書の先生とスクールカウンセラーは、そういったことに対してポジティブな姿勢だと示したいと思い取り組みました。」(佐々木さん)

また、セクシュアルマイノリティーのメンタルヘルスの問題に詳しい、宝塚大学看護学部准教授(現在は教授)の日高庸晴さんは教員のための研修の重要性を訴えます。

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「海斗さんのケースでは、養護教員である服部さんが、知識があったのが良い結果につながったと思います。セクシュアリティーの問題を扱うときは、大前提として、性別違和と同性愛(性的指向)、その両方を正しく認識することが大切です。また、学校ではいじめや不登校などの問題もあるわけですが、その背景に性的指向や性別違和の可能性を考慮する。ですが、大学など教員の養成機関で同性愛や性別違和について学んだ人は1割にも満たないのが実情です。教員養成機関の段階で必修科目として学んでいただく、あるいは教員になった後に現職研修などで考える場をつくるということを、すべての自治体で恒常的に行う仕組みができないかと考えています。」(日高さん)

入学前の話し合いで学校生活がスムーズに

苦痛を感じる前に早くから周りが環境を整えたことで、学校生活を順調に送る子どももいました。

中学2年生のYさんです。生まれもった体の性は女性ですが、学校へは男子として通っています。「男の子として生きたい」という本人の希望に周囲がきちんと向き合ってきました。

Yさんは、小学校の入学式にスカートをはくことを嫌がったものの、そのとき母親は性別への違和感があるとは思っていませんでした。そして、小学校4年生の頃、ある出来事が起こりました。

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Yさんとよく会話を交わす養護教諭が、外で遊んでばかりいたYさんに、「男の子なんじゃない?」と冗談で言うと、突然保健室へ来なくなってしまったのです。

「養護の先生が、『もしかしたら女の子っていうよりも男の子の心があるのかな』と心配して電話をくださって。本人に聞いたら、『女の子と手をつなぎたい』『付き合うなら女の子と付き合いたい』って返ってきたんです。家庭を持つことが無理なんじゃないか、社会に出ても好奇な目で見られるんじゃないかとすごくショックでした。」(母親)

学校の先生から「思春期に入る前に、相談できる場所を」とアドバイスを受けた母親は、すぐに専門の医療機関を探しました。

そのときから通っている精神科のクリニックで、Yさんはさまざまな相談をしてきました。小学校高学年のときに「中学へは男子の制服で通いたい」と訴えると、医師の勧めで、進学する中学校へ早めに相談に行くことにしました。

入学前の2月、校長の呼び掛けで中学校での生活について話し合う会議が開かれました。メンバーは、校長を中心とした学校関係者とYさん親子。さらに校長の依頼で主治医も同席しました。そこで性別によって分けられているさまざまな項目について、ひとつひとつ本人の希望を聞き、対応を考えていきました。

「着替え、トイレ、英語の授業のなかで『he』と呼ぶか『she』と呼ぶかなど。初めてのことなので医師の先生にもご指導をいただき、細かいところまで本人の了解をきちんと得て、相談や準備を進めるアドバイスをいただけたので非常にありがたかったです。」(当時の校長)

さらにもうひとつ、校長が行ったことがありました。生徒や保護者への説明です。一緒に進学する他の小学校の6年生、中学校の先輩たち、そして保護者に、Yさんが男子の制服で通うことを事前に話し理解を求めました。

「『男らしく』『女らしく』ではなく、『自分らしく』」。非難する声は上がりませんでした。

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希望通り男子の制服で中学校へ通うことを、学校の友達も自然に受け入れました。部活が同じ野球部の男の子、クラスの女の子。Yさんはいつも、男女関係なく一緒に過ごします。

「すごく生活しやすい状況をつくっていただいたと思います。普通に生活している、普通の子でいられて。それが一番いいことだと思いますね。」(母親)

多様性に対応できる学校、そして社会へ

多様性に対応できる教育現場が理想と言うのは、臨床心理士の佐々木掌子さんです。

「このケースは、子どもたちのニーズに学校が丁寧に具体的なところまで応えようとしているところが素晴らしいと思いました。ただ、他の性別違和を持つような子どもたちにとっては違う方法がいいかもしれない。平成22年に文部科学省が全国の教育委員会に、『性別違和を抱える生徒や児童の心情に配慮した対応を』と通知を出していますが、それはとても大きいこと。同性愛の子どももいるし、性別違和はないけれども性役割にはすごく嫌な気持ちがある子どももいるなど、非常に幅があるので、そういった多様性をすべて含めて教育現場が対応できるようになるといいなと思います。」(佐々木さん)

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日高庸晴さんも、授業のなかで性の多様性を伝えていくことが重要と話します。

「セクシュアルマイノリティーの子どもたちに、性的指向に関して肯定的なメッセージをきちんと伝える環境が必要だと思います。保健の授業で、異性を好きになる人もいれば、同性を好きになる人もいるし、あるいは男女両方とも好きになる人もいれば、男女両方ともそんなに性的に感心を持たない人もいるということを、きちんと先生方が伝えていただければと思います。他の授業でも、社会科で『歴史上の人物で誰々さんは…』と話題にしたり、英語などでも最近の同性婚の流れについて触れてみたり、ホームルームでの課題にしてみるなど、いろいろな取り組みができると思います。性のありようは多様であるということを前提に、学校教育がされていくようになればと考えています。」(日高さん)

「自分らしく生きていきたい」と願うあらゆる子どもたちを、どうやって支えていけばいいのか。今回は、セクシュアルマイノリティーの子どもたちが養護教諭や医師のサポートを得て、いきいきと生活できるようになった実例をご紹介しました。あなたの周りにも参考になる好例があれば教えてください。お便り、メールでお待ちしています。

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※この記事はハートネットTV 2013年6月4日(火)放送「第2回 セクシュアルマイノリティーの子どもたち ―成長を支える―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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