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新型コロナ 視覚障害者への影響(2)福祉施設と盲学校

記事公開日:2020年05月19日

新型コロナウイルスの感染拡大により、全国に緊急事態宣言が出されました。視覚障害のある人の暮らしや支援の現場でも、困難な状況が続いています。休止を余儀なくされた通所施設や感染のリスクと向き合いながら当事者の暮らしを支える居宅支援事業所、そして休校が続く盲学校の現場の声を伝え、今を乗り切るために必要なことを探ります。
※この記事は、2020年5月3日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

休止を余儀なくされる通所施設

新型コロナウイルスの影響で休止せざるをえない福祉施設が増えています。東京で約80人の視覚障害者が通っていた「東京視覚障害者生活支援センター」もその一つです。病気や事故のために失明した人が、自立した生活を送ったり、働いたりするための訓練を行っていましたが、緊急事態宣言が発令される前日の4月6日から休止しました。利用者の多くが公共交通機関で通っていて、移動には手すりなどを触ることが欠かせないため、感染のリスクが高いと考えたからです。福祉施設の役割と感染の危険性とを天秤にかけた、苦渋の決断でした。

いまの福祉制度では、利用者が通った日数に応じて、施設への報酬が支払われる仕組みになっています。そのため休止してしまうと収入がなくなり、経営は非常に厳しくなると施設長の長岡雄一さんは言います。

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東京視覚障害者生活支援センター 施設長 長岡雄一さん

「4月はほとんど収入がありません。長期化すると、かなり厳しくなるだろうな、と思います。雇用調整助成金の活用も考えていますが、できれば休止前の3か月とか前年度の利用率に合わせて、収入を何割か補償してくれないかなと思います」(長岡さん)

厚生労働省では通所施設が休止した場合、自宅待機する利用者に一定の支援をすれば、報酬を認めるとしています。しかしその基準が市区町村によってちがうため、利用者が広範囲から通ってくる施設の場合、使いづらい制度になっていると長岡さんは言います。

こうした状況に対して、弁護士で全盲の大胡田誠さんは、福祉施設が存続するための支援を、行政が早急に検討することが必要だと訴えます。

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弁護士 大胡田誠さん

「仮に福祉施設がなくなったら、コロナが終わっても視覚障害者はどこで訓練するのか、どうやって生活をしていくのか。非常に困難な状況が続いてしまいます。コロナが終わったあとに福祉施設が残るためにどうすればいいのか。どのような予算を充てればいいのか。これは国や行政が真剣に考えていただきたい問題です」(大胡田さん)

「最後の防波堤」・居宅支援事業所

通所施設が休止せざるを得ない状況では、ホームヘルプや同行援護(※1)など、自宅での暮らしを支えるサービスが重要になってきます。

※1 同行援護とは
視覚障害のために移動が困難な人の外出に同行して、目的地に向かうために必要な情報提供や安全の確保、外出先での代筆・代読など必要な援助を行う障害福祉サービスです

大阪でホームヘルプや同行援護のサービスを行っている、日本ライトハウス居宅支援事業所「てくてく」主任の林田純子さんは、通所施設に通えなくなったために、視覚に障害のある人たちの歩く機会が減り、日常の会話もなくなって、健康状態が悪化したり、孤立したりすることを心配しています。利用者の健康を守ろうと、事業所全体で手洗いやうがい、消毒、「三密」の回避などの感染予防を徹底した上で、安全な場所の散歩などを呼びかけました。さらに、感染が疑われる場合でも、検査場所に1人で行くことが困難な場合などには、職員がサポートにあたると決めています。

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同行援護の様子

「『最後に残るのはヘルパーだよ』というのは早くから事業所のみんなで共有しています。利用者さんが感染症であるかわからない状態でも、あるいは陽性の判定が出ていたとしても、私たちは行かないといけないんだよ、という危機感を持って、じゃあその時にはどうしようかな、ということを考えつつ、日頃のサービスには当たらせていただいています。」(林田さん)

福祉の現場は、スタッフの強い使命感によって支えられています。しかし、そうした現場の思いに頼りっぱなしではいけない、と弁護士の大胡田さんは言います。

「多くのヘルパーのおかげで視覚障害者が暮らしていけるとあらためて思いました。しかし「思い」だけでは持ちません。感染予防のための物資や情報の支援、それに危険手当のような報酬体系など、現場のヘルパーを支え、報いる仕組みを、国が作って欲しいと思います」(大胡田さん)

休校が続く盲学校で

全国の盲学校も、他の多くの学校と同じように、長引く休校で学習や友だちとの交流をどう支えていくかという課題を抱えています。そうしたなか、石川県立盲学校ではインターネットによるビデオ会議の仕組みを使った休校中の児童への支援を始めました。盲学校としては全国的にも珍しい先進的な取り組みです。

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ビデオ会議を使った朝の会

「今は児童とビデオ会議の仕組みを使って朝の会を行っています。朝の会では挨拶や健康チェック、なぞなぞ、簡単な体操を行ったりしています。そのほか、個別の学習支援を行って、学校から渡したプリントでわからないことを質問してもらったり、解説したりしています」(石川県立盲学校 教員・岩沼見奈さん)

それまでの電話だけのやりとりと比べて、子どもたちの反応が大きく変わったと語ります。

「学校のように対面している実感が持てるので、とても笑顔が良く、楽しく行えています。ビデオ会議でつながったあとは家庭学習での意欲が増して、メリハリのある生活リズムにつながっていると感じています。声だけではなく、その時々の子どもの反応や表情を見ることができて、私たちも楽しくやりとりができています」(岩沼さん)

「てんpal」で子どもを支える

視覚障害のある子どもへの支援として、大学の研究室では「てんpal」という取り組みを始めました。「てんpal」は、点字の「てん」と英語の「pal(友だち)」を組み合わせた造語で、特別支援教育を学ぶ大学生と、視覚に障害のある子どもたちが点字で文通するというものです。広島大学准教授の氏間和仁さんが、「盲学校が休校中で、子どもが時間を持て余している」という保護者からの要望を受けて始めました。

学生自身の実践的な学びにもなりますが、本当の狙いは、子どもたちが点字を好きになることだ、と氏間さんは言います。

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点字の手紙を打つ大学生

「盲学校の生徒数が減少しているため、ふだん点字で学んでいるお子さんは、学校で1人とか2人で取り組んでいます。そこでお兄さんとかお姉さんの年代の人たちと点字で交流することによって、世の中を見る範囲も広げられますし、何より楽しみのひとつになったらいいと思います。点字を使って遠い空間、広島にいる人ともつながれるという経験を通じて、いろいろなことにチャレンジするきっかけになったり、点字を学ぶことに自信を持っていただけたらいいなと思います」(氏間さん)

「てんpal」が休校中の楽しみになったという親子がいます。石川県立盲学校・小学部4年生の柴田理央さんと、母親の久子さんです。点字の手紙が届くと、理央さんは「まるでお姉ちゃんが私の家に遊びに来てくれたみたいで、すごく嬉しい!」と喜んでいるそうです。

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点字の手紙を読む柴田理央さん

母親の久子さんのメールです。

「休校中でも点字を読み書きする能力が落ちることがなくなります。娘は『コロナのせいで休校になったけど、コロナのおかげでお姉ちゃんと知り合えた!いつかお姉ちゃんに会いに行くぞ!』と言って、石川から広島までの地図を触ったり、広島にまつわるニュースを気にしています。文章問題が苦手だと相談したら攻略法を教えてくださり、その通りに解いたら答えられたと言ってました。人と繋がる手応えを感じているようです。」

新型コロナウイルスの感染が拡大して学校が休校となったとき、久子さんも理央さんも先が見えない不安の中にいました。しかし盲学校の先生や友達とビデオ会議で再会し、「てんpal」という新たな出会いも得たことで、いまを乗り切る希望が生まれてきたと言います。

「今、お互いを守るソーシャルディスタンスがルールとなってしまって、人とつながり関わる大事なことが希薄になってしまいました。けれどそんな時だからこそ、見えない相手を感じて思いをはせる子に育てたいです。文通はそんな一役を担っていると思います」(久子さん)

※この記事は、2020年5月3日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

新型コロナ 視覚障害者への影響
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