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正しく知ってほしい!きつ音のこと

記事公開日:2020年05月12日

幼児期には20人に1人が発症する「きつ音」。成長とともに出なくなるケースが多いと言われています。では、子どもたちのつらさ、保護者の悩みはどのようなものなのでしょうか?きつ音の子どもを持つ母親の葛藤と、周囲の人たちはどのように接すればよいのか、事例とともに考えます。

学校生活に苦しさを感じている きつ音の子ども

「きつ音」には、同じ音を繰り返して発する「連発」、音を伸ばして発する「伸発(しんぱつ)」、そして言葉が出づらい「難発」の、3つの症状があります。幼児期には20人に1人が発症しますが、成長とともに出なくなるケースが多いと言われています。

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きつ音の症状

みけねこさんの娘、小学5年生のじゅねさんは、言葉が出づらい難発の きつ音です。思い通りに話せないことで、学校生活に多くの困難がありました。例えば、音読では一度言葉がつかえると、焦ってさらに出づらくなります。いま一番の悩みは、学校の友だちとのコミュニケーションです。

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じゅねさん

「友だちはちゃんと、すらすら言えてるけど、自分はちょこちょこつまずいてるから。仲間外れにされるんじゃないかと心がパニックを起こす」(じゅねさん)

幼稚園の頃は明るくて声も大きかったじゅねさん。ものおじしない性格で、いつもクラスのまとめ役でした。しかし、自分の きつ音に気付いてからは、少しずつ消極的になっていきました。友だちの名前を呼ぶことすら、ためらうようになったのです。最近では、学校にも少し行きづらさを感じています。

「学校に行きたくないなって。学校に行きたくないから、夜にこのまま時間が止まってほしいなって思っちゃう」(じゅねさん)

母親のみけねこさんには、じゅねさんは可能性があるのに、きつ音のため自分からその可能性を狭めてしまっているように見えます。

「しゃべりたいのに『つっかえちゃうんじゃないか』と不安が先に立って、結局手も挙げられない。発言もできないし、発表もおっくうになってしまうという、悪循環なんですよね。経験もまだまだいっぱいできるだろうに。本当はこういったことをやってみたいというのも、自分から辞退しているのかなって思う」(みけねこさん)

画像(みけねこさん)

自分から身を引いてしまう、きつ音の子どもたち。消極的になってしまう原因について、自らも きつ音で悩んだ経験のある九州大学病院の菊池良和さんが分かりやすい例え話で説明します。

画像(九州大学病院 耳鼻咽喉科 医師 菊池良和さん)

「話し方のことを言われると、本人が『僕しゃべれていないんだな』ということで、話したい気持ちが減っていくんですね。私もそうなんですけど、きつ音の人ってずっと『私は今どもってる』って考えていないんですよ。どちらかというと、話したいから話すわけだから。
例え話でよく言うんですけれど、『あなたのお箸の持ち方が変だね』っていうことをいっぱい言われると、自分はこれ食べたいのに、こんなことを言う親とご飯食べるのは嫌だとかね。そうなってくるわけで」(菊池さん)

親が抱える悩み

番組に寄せられたアンケートでも、子どもが きつ音で悩んでいるという親から多くの声が届きました。

「きつ音が出るたびに言い直しをさせてしまいました」

「子どもの言葉を我慢できずに先取りして、子どもを落ちこませてしまいました」

子どもとの接し方で後悔していることがあるというのは、長女に きつ音があるたけのこさんです。

画像(たけのこさん)

「(きつ音がある娘の)話を聞いてると『何を言いたいのだろう』と思って。私自身イライラしてしまうときもあって。伝わってこないときに強く言ってしまったことも正直あるので。余計に長引かせることをしちゃったなと思って、とても後悔してはいるのですけど」(たけのこさん)

きつ音に悩む親子を支援している関西外国語大学准教授の堅田利明さんは、きつ音について話し合える場が大切だと語ります。

画像(関西外国語大学 堅田利明准教授)

「きつ音のある子どもさんって一見するとすごく元気だし、なんとかやれているし、まあ大丈夫だろう、そんなふうに見えちゃうんですね。でも(子どもは)不安があって。(きつ音の)話し方をみせてしまうとみんなから注目されるのではないか。できるだけ出さないようにしている。親にとっても、どうしてあげたらいいのか分からない。そういうことが話し合える場ってとても大事なのですね」(堅田さん)

大切なのは悩みを話し合える場所

堅田さんが重要と考える、きつ音の悩みを和らげるために話し合える場。すでに取り組んでいる場所があります。きつ音に悩む親子のためのイベント『きつおん親子カフェ』です。参加者と運営者は きつ音がある当事者とその家族で、9年前から年3回開催してきました。

代表の戸田祐子さんは、次男の侃吾(かんご)さんに きつ音があります。相談相手がいなくて苦しんだ経験から、同じ悩みがある人たち同士、不安なく交流できることを目標にこのイベントを立ち上げました。

画像(『きつおん親子カフェ』代表 戸田祐子さんと次男の侃吾さん)

「きつ音のある子どもが、自分が1人じゃないよと思える場を作りたかったというのがあります。あと、きつ音のある子どもの親も、仲のいいお母さん友だちに きつ音のことを相談しても、『気にすることじゃないよ』と、悩みを分かってもらえない。子ども同士も出会えるし、大人も出会える場を作りたかった」(戸田さん)

イベントではまず、遊ぶ時間をたくさん設けることで、お互いに話しやすい雰囲気を作ります。そして、少人数に分かれてのグループトーク。先輩がリードして、あるがままの話し方で日ごろの悩みや思いを語り合います。中学1年生のはるきくんが打ち明けたのは、校内放送で話さなければいけないときの怖さです。

「きつ音だったから、できるだけ(校内)放送のない委員会に入ろうとしたんですよ。で、保健委員に入ったんですけども、入った年から(校内)放送が始まってしまって、ちょうど運悪く。(校内)放送のときが怖かった」(はるきくん)

時には笑いも起こるイベントのあと、はるきくんは充実した様子で感想を語ってくれました。

画像(はるきくん)

「相当話せたと思います。学校でなにか壁にぶつかったりしたときは、きょう話したことを思い出して、乗り越えていこうと思いました」(はるきくん)

イベントでは親同士のグループトークもあります。親も子どものきつ音とどう向き合えばよいのか、複雑な思いを抱えてきました。しかし、参加した保護者は思いを語り合える場があることで、気持ちが楽になると言います。

「自分だけじゃなかったので、肩の荷がおりました。(きつ音を)治そうではなくて、きつ音のこの子を今後どのように向かわせようかという方に、方向転換していこうと思いました」(参加した保護者)

子どもと親の双方が救われる取り組み。悩みを話し合える場に参加することの意義を堅田さんが訴えます。

「きつ音のある方に対する支援もとても重要ですが、実は親御さんの支援も同じくらい重要なんですよね。自分の子育て、子どもとの時間をあまり取れなかったこととか、それからしつけ、そんなことを原因じゃないかなと思ってしまうんですよね。でも親御さん同士が集まると、本当の安堵感ですよね。分かってくれている、この大きさというのは代えがたいものがあると思います」(堅田さん)

きつ音の子が安心して話せる環境を

学校でも、きつ音がある子どもたちが安心できる環境を作ろうと取り組んでいる地域があります。長野県松本市立の清水小学校です。この日、1年生の教室で行われたのは、「きつ音を理解する特別授業」。

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特別授業の様子

※映像提供 梓川診療所

授業では、同じ音を繰り返す“連発”の話し方は、苦しそうに見えて、実は自然で楽な話し方だと伝えています。周りがおかしいと指摘したり、からかったりすると、うまく話そうとするあまり、逆に言葉が出にくくなる“難発”などの症状に悪化してしまうと言います。

2年前からこの授業をすすめている言語聴覚士の餅田亜希子さんは、きつ音を意識せずに過ごせる教室を広めようと努めています。

「連発のしゃべり方で話すことで、しっかり自分の伝えたいことも伝えられる。その方法でコミュニケーションが十分取れているのであれば、みんなが認めてくれる環境の中では、きつ音の話し方はもしかしたら困りごとにならないかもしれない。そういう環境が きつ音の問題の根本的な、一番大事なところかなと思ったということですかね」(餅田さん)

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言語聴覚士 餅田亜希子さん

きつ音があることに悩んでいた1年生のしゅうくんは、授業のあと、友だちの接し方が大きく変わったと言います。授業中の発言も積極的になりました。

画像(しゅうくんに「味方になるよ」と伝える友だち)
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しゅうくん

「みんなが味方になってくれて、きつ音マネしてきた人とか止めてくれる。もっと学校に行きたくなった。それに、おかげで友だちもちょっと増えた」(しゅうくん)

清水小学校の取り組みを見て、きつ音の子どもを育てるみけねこさんとたけのこさんは、次のように話します。

「みんなが『味方になるよ』って。その『味方になるよ』という言葉が、すごいあの子のエネルギーになって、良い方に向かっているというのがよく分かる。」(みけねこさん)

「娘はとてもストレスをためて話をしているのだなと。頑張れと思って応援していたのですけど、そうじゃなくて、あのしゃべり方がしゃべりやすいんだということを、まったく逆のことを思っていたので。知ることができてよかったなと思いました」(たけのこさん)

堅田さんは、家庭でも保護者が正しい知識を子どもに教えることが大事だと語ります。

画像(関西外国語大学 准教授 堅田利明さん)

「大事なことは、『か、か、か』『こ、こ、こ』と出る人がいたら、いっぱい出した方がいいんだよねとみんなが知ってくれること。このことがとても大事なんだよと、保護者の方がまず知っていただいて、きちんと伝えること。これがスタートになってくると思いますね」(堅田さん)

きつ音の子が楽にコミュニケーションがとれる環境。これをいかに作ってあげられるのか。言いたいことをあるがままの話し方で話せる環境ができれば、みんなが過ごしやすくなるはずです。

※この記事はウワサの保護者会 2019年12月28日放送「気づいて!きつ音の悩み」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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