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セクシュアルマイノリティーの子どもたち 学校生活の悩み

記事公開日:2018年05月01日

男性・女性という枠組みを超えて、体の性、心の性、恋愛対象など、さまざまな面から考えられるべき「多様な“性”」。体と心の性が一致する人や異性愛者よりも少ないことから「セクシュアルマイノリティー(性的少数者)」といわれる人々は、人口の3~5%、学校でいうとクラスに1人はいるといわれています。子どもたちが、学校生活の中で受けるさまざまな傷や心の葛藤。対応に悩む教職員も少なくなく、子どもたちの心のケアが待たれます。

セクシュアルマイノリティーとは

性別というと、私たちは男性と女性という2つの枠組みで考えがちです。しかし、人には生まれもった「体の性」、自分自身の性別をどう認識しているかという「心の性(性自認)」、さらに好きになる人の性別「恋愛対象(性的指向)」などの要素があり、その組み合わせは実にさまざまです。

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体の性が男で、心の性も男、恋愛対象が女性である人がいる一方、生まれたときの体の性は男でも、心の性は女のため、女性として生活していく人もいます。こうした、生まれたときの法的・社会的な性別と異なる性を生きる人を、“トランスジェンダー”と呼びます。
他にも、同性を恋愛対象とする“ゲイ”や“レズビアン”、男女どちらも恋愛対象とする“バイセクシュアル”という人もいます。さらに、こうした枠組みでは表現できない場合もあります。
(図では便宜上、それぞれの要素が男性か女性かの2つしかありませんが、人の性を決める要素は必ずしも男か女というわけではなく、人によってはその中間などあり方はさまざまで、グラデ-ションです。)

こうした人たちは、体と心の性が一致する人や異性愛者よりも少ないことから、「セクシュアルマイノリティー(性的少数者)」と呼ばれています。日本の場合、学校では1クラスに1人はいるとされます。

子どもたちを支える外部相談施設の存在

セクシュアルマイノリティーの子どもたちはどんな問題に直面しているのか。ある相談施設を取材しました。

2012年に誕生した、NPO法人が運営する「SHIPにじいろキャビン」(横浜市)。平日の放課後や学校が休みの日などに無料で開放され、セクシュアルマイノリティーの若者が年間千人以上訪れます。仲間と出会え、悩みを相談できる場として、子どもたちは学校にあるパンフレットなどで知り、訪ねてきます。

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同性の女の子が好きだというNさん(17)は、学校の友達にはそのことを話せなかったと言います。Nさんが同性を好きだと気づいたのは中学生の頃。以前は友達にも話していましたが、ある授業をきっかけに隠すようになったそうです。

「私が『同性愛者でもHIVとか性感染症になるんですか』って質問したら、先生は『なるよ、でも同性愛者って気持ち悪いよね』って軽蔑するような感じで言って。すごくショックで、怒りで涙が出てきちゃいました。私が女の子を好きなことを『レズビアンでしょ、気持ち悪い』って言われるんじゃないかって、そのときから思うようになりました。」(Nさん)

施設を運営するNPO法人の代表・シンジさんも同性愛者です。「SHIP」を始めてから、悩みを抱えた多くの子どもたちと向き合ってきました。

「学校とか家だと、どこか隠しているわけですから、常に緊張している感じだと思うんですね。周囲の友達とも話ができなくなってしまう。そこが一番の問題だと思うんですよ。ちゃんと周りに話ができて、受け入れてくれて、居場所があればいいんですけども、居場所がなくなるのはすごくかわいそうなことですよね。」(シンジさん)

自分の居場所を見つけられず、危険な体験をする子どもも少なくありません。

Yさん(18)は、中学生のときに同性を好きだと自覚しましたが、話せる相手を見つけられずにいました。インターネットのコミュニティに参加したり、同性愛者向けの掲示板を使ったりするなどして、そこで知り合った男性たちと交際。異性愛者の多い学校や家庭では話せない悩みを理解してくれる相手との出会いに喜びを感じたこともありました。でも、知り合った相手からメールがしつこく送られ、身の危険を感じたYさんは、悩んだ末に学校の保健室へ行き、そこでSHIPの存在を知りました。

「親身に話を聞いてくれて、シンジさんの経験談も聞いて、だんだん自分はひとりじゃないと感じるようになってきましたね。自分の体を大切にしようと思えるようになって、それ以来掲示板は使っていないです。」(Yさん)

理解不足な教師の存在

男性として生まれ、心の性は女性、現在は女性として生活する佐藤かよさん(モデル・俳優)は、学校での経験をこう語りました。

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「私も、小中学校のときに先生から言われた何気ない一言がグサッと突き刺さったことがあり、十数年経った今でも鮮明に覚えています。先生は絶対的な大人でもありますから、学生時代にそういう言葉を受けるとそれがベースになる。中学時代、ある日私がいないときに、先生がみんなに『わかっていると思うけど、佐藤さんは病気だからね。わかってあげてね』と言っていたと友達から聞いたんですね。病気という言い方が、ちょっとショックでした。それ以降、先生には本音は言いにくくなりましたね。『そうじゃない』って言いたいけれど言えない気持ちは、その当時ならではかなと思います。」(佐藤さん)

セクシュアルマイノリティーのメンタルヘルスの問題に詳しい、宝塚大学看護学部准教授(現在は教授)の日高庸晴さんは言います。

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「セクシュアルマイノリティーであることを周りに話せない背景にはいろいろな事情があると思いますが、ひとつには学校での情報のあり方が大きい。1999年以降、ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にした調査を定期的に実施し4万人から回答を得ていますが、学校で同性愛やセクシュアリティーについて習ったかの問いには、今の10代の50%は一切習っていないと回答しています。さらに、否定的な情報や同性愛は異常だという情報提供を受けた人は23%おり、肯定的な情報を受けた人よりも多い数字です(調査の数字は2013年6月時点)。
それが『こういう自分じゃダメなんじゃないか』と考えてしまい、結果的に傷ついたり、自尊感情を低めてしまうことにつながっていくのではと考えています。本来は教育相談、教育委員会、心の健康センターなどの窓口で対応すべきところですが、そこでセクシュアルマイノリティーや性の多様性について想定されておらず、むしろ壁になっている。『SHIP』のような場所にたどり着けた人たちはとてもラッキーで、多くの人たちは支援を受けることができていない。どこに『助けてほしい』と声を上げればいいかがわからない現状があるのです。」(日高さん)

いじめに遭った“心の傷”が今も

声を上げることができず、心に傷を負ったまま大人になった人も少なくありません。

体の性は男性で、今は女性として生活するみわさん(28)は、大人になった今も、10代のときの経験に苦しめられています。小学校へは男子として通いはじめましたが、3年生のとき「女っぽい」とクラスメイトからいじめられるようになりました。中学校に入ると、男性という性別に違和感を持ちはじめ、女子の制服を着たいという気持ちが次第に強くなっていきました。

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誰にも相談できないまま、3年生のある日、クラスメイトの制服を持ち帰ってしまいました。「女性として生きたい」という気持ちを、行動でしか表せなかった中学生のみわさん。しかし、そのサインに周囲が目を向けることはありませんでした。

高校へ進むと、さらに深刻な問題に襲われます。陰湿ないじめです。知らない間に女子の制服を鞄に入れられ、盗みの犯人にされる嫌がらせを2回も受けました。さらに、教師がみわさんを相談室に閉じこめ、服を脱がそうとするなどの暴力をふるったのです。そのまま犯人にされ、無期限の謹慎を言い渡され、退学へと追い込まれていきました。

みわさんは、今も精神的に不安定で働くことができずにいます。高校でのいじめや暴力から12年経ちましたが、精神科への通院が欠かせず、3年前には睡眠薬を大量に飲んで自殺を図りました。子どもの頃、学校で受けた傷から抜け出すことができずにいます。

「いつまでこんなふうに死にたいって気持ちまで落ちるのかなとか。一生こんなふうに思っていくことになると、実際仕事を始めたとしても、会社側にも迷惑かかりますし。いっそ死んだ方がいいのかなって考えちゃう。」(みわさん)

自殺を考える子どもたちに教師ができること

みわさんだけでなく、実際に自殺を考えたことがあるセクシュアルマイノリティーは少なくありません。岡山大学のジェンダークリニックの調査では、性同一性障害で受診した患者の6割近く、日高教授の調査でもゲイ・バイセクシュアル男性の65.9%の人が自殺を考えたことがあるとの結果が出ています。さらに約14%の人は、実際に自殺未遂の経験があるという調査が出ています。

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「セクシュアルマイノリティーの問題について、先生方も頑張って前向きに取り組んでいこうという学校が増えてきている。その一方で、みわさんの経験のようなひどい対応の学校がないとは決して言えません。学齢期にいじめ被害に遭った子どもたちというのは、特にセクシュアルマイノリティーでは多いので、ずっと尾を引いていく。先生方に話を伺っていると『知れば知るほど、どう対応していいか不安だ』とか『かえって傷つけてしまうんじゃないかと、躊躇しちゃう』と言う方もおられたんですが、ひとりの人間としてどう対応していくか、そこに立ち返ることなのかなと感じています。」(日高さん)。

ひとりの人間としてどう対応するか。佐藤かよさんも、その意見に同意します。

「先生方には、ゲイとかレズビアンとか、いろんなセクシュアリティーがあることは置いておいて、生徒それぞれをひとりの人間として見てあげて、『そんなこと、どっちでもいいじゃん』って言えるぐらいの前向きな考えで接してあげてほしい。先生にとってはほんの数年間のことかもしれないけれど、子どもたちにとっては一生続いていくということを理解してほしいと思います。」(佐藤さん)

学校ではクラスに1人はいるとされるセクシュアルマイノリティーの子どもたち。「目の前にいるかもしれない」と想像できれば、傷つけてしまうような言動はもっと控えられるのではないでしょうか。そんな“ほんの少しの想像力”につながるよう、ハートネットでは今後もセクシュアルマイノリティーについて取り上げていきます。

※この記事はハートネットTV 2013年6月3日(月)放送「第1回 セクシュアルマイノリティーの子どもたち ―現状―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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