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虐待を防ぐには 子どもが一時保護されるとどうなる?

記事公開日:2020年04月23日

児童相談所は、子どもを守るため、親の意思にかかわらず一時保護する権限を持ちます。子どもが一時保護されると、その親や子どもにどのようなことが起きるのでしょうか。実際に一時保護された経験がある子どもの話に耳を傾け、専門家を交えて一時保護の制度について議論します。

突然の通告で娘が保護された

中学1年生と小学2年生の娘を持つオクラさんも、子どもを一時保護された経験があります。

画像(オクラさん)

中学1年生の娘が一時保護されたきっかけは、夫の言動。「部屋を片付けろ!」「服を脱ぎっぱなしにするな!」と毎晩、娘をどなりつけ、怒りがエスカレートすると何十分も止まりません。

「片付けないなら、この家から出て行け!」ともみ合いになることもありました。オクラさんは、そのたびに「やめて!」と夫に言いましたが、その行為はおよそ2年続きます。

ある日、娘は連絡帳に「お父さんのいる家に、もう帰りたくありません」と書いて学校に提出しました。すると、学校が児童相談所に通告し、そのまま家に帰ることなくその場で一時保護されます。オクラさんは学校からの電話で娘が一時保護されたことを知りました。

画像(学校からの通告によって一時保護となる)

娘が一時保護されていた2か月、オクラさんは非常に不安な気持ちで過ごしました。その理由は、子どもの施設での様子を教えてもらえなかったからです。当時の様子を涙ながらに語ります。

「私にしてみれば子どもを拉致されたという気持ちだったんですよ。『子どもの様子はどうですか?』と聞いても、何も教えてくれないし。一日の流れとか、どういうふうにこれから過ごしていくのかもまったく教えてくれないし。下着とか着替えとかどうするんだと思って『持っていきます』と言ったら、『それはもう全部、施設のものを使用するから、いらないです』と言われて」(オクラさん)

なぜ児童相談所は保護者に説明しないのか。川並さんがその理由を説明します。

「可能な限りお伝えはしたいところなんです。ところが、子どもさんも一時保護所で少し元気を取り戻すと、反抗的な態度が出てきたりすることもある。そういうことをストレートにお母さんに伝えてしまうと、『あの子はやっぱり変わりませんね』『そんなこといってますか』と言って、余計に冷静になれない方もいる。決して、冷たくて情報を出さないわけではなくて、出したいんだけど出せないという状況もあるんです」(川並さん)

追い詰められた子どもを救った一時保護

怒りのスイッチが入ると、何十分も怒鳴り続ける父親。娘のさきさん(中学1年生)が別の部屋に逃げると、追いかけてきて、もみ合いになることもありました。当時の心境をさきさんが振り返ります。

画像

さきさん

「全部心にくるみたいな。体じゃなくて、体の中の気持ちが傷ついていったみたいな感じで。毎日、お父さんが帰ってくるのが怖いとか、お父さんが帰ってきたらどうしようとか、しゃべりたくないとか、気が重くなる。帰ってくるから夜が一番怖い。何回も死にたいと思って。自分も死にそうで怖かったけど、いつ私がお父さんを殺すかも分からないし。一番怖かったのは、自分が死ぬよりもお父さんを殺してしまうのではということだった」(さきさん)

さきさんは誰にも相談できず、2年近くひとりで我慢し続けます。しかし、限界を感じるようになり、誰かに助けを求めたいという思いがこみ上げてきました。そしてある夜、学校の連絡帳に「お父さんのいる家にもう帰りたくありません」と書きます。

翌日、先生に連絡帳を提出すると、それを読んだ学校がすぐに児童相談所に連絡。その日のうちに訪れた児童相談所の職員に、さきさんは3時間かけて父親とのことを話しました。職員は優しく話を聞いてくれたと言います。

「『今日は家に帰れますか』とか、『帰りたいですか』みたいなことを言われて。お父さんの顔を見るだけで怖いって言ったら、『ちょっと保護しますね』って、『児童相談所に行きましょう』みたいな」(さきさん)

一時保護の施設は個室で心細く感じたものの、父親がいる家よりは安心して過ごせました。

娘を一時保護されたオクラさんは、娘が帰宅できるようにするためにはどうすればいいのかを模索しました。児童相談所からは「家が安全でないと、娘さんを返せません。家を安全にするためのプランを出してください」と言われました。

画像(児童相談所からプランを求められるオクラさん)

そこでオクラさんは、家を安全にするためのプランをノートに書き始めます。

「ノートに『プラン5』くらいまでは書きました。その中には離婚という選択肢もなかったわけではない。でも、最終手段かなと思って。私の実家に帰らせる、転校するっていうのも考えましたけど、学校が嫌いなわけじゃないし、ひとつひとつプランを考えては削除して」(オクラさん)

プランを考えるうちに気付いたのは、「娘が頼れる場所がない」ということ。そこで、近所の人や学校の先生、地域の児童委員などに家の事情をすべて話し、何かあったら娘を助けてほしいとお願いしました。

さらに、一時保護されていた2か月の間に夫との別居も決断。頭を冷やし、振り返る時間を持つためです。オクラさんは娘の中学校時代の貴重な時間を早く取り戻すために、できることを何でもやろうと考えました。オクラさんは児童相談所への通告が、家族にとってプラスになったと振り返ります。

「児童相談所が介入したことによって、私自身も虐待と向き合って、それがなかったらここまでの行動をしてなかった、ここまでの情報も知りえることがなかった。子どもが勇気をもって学校に言ったこともそうですし、すべてがプラスだったと思っています」(オクラさん)

画像(相談して回るオクラさん(イラストイメージ))

そして2か月後、一時保護は解除され、さきさんは家に戻れました。

「今が一番幸せ。先生に相談してなかったら、もしかしたら自殺とか考えてたかもしれないし。お母さんがいなかったら、こういう生活もできてないし、命の恩人だと思ってる。全部お母さんに感謝みたいな」(さきさん)

目に見えにくい思春期の心の傷

オクラさんの家庭の話を聞いて、2人の中学生を育てているももさんは他人事ではないと感じています。

画像(ももさん)

「中1の娘がいるんですけど、似てるなと思います。娘は私に毎日、主人の悪口を言いますし、主人が帰って来る頃になると『気が重い』とか言ってます。オクラさんの話を聞いて、これはちょっと冗談でもないんだなと。もしかしたら悪い方向に発展してったら、うちだって同じようなことになると思いました」(ももさん)

児童相談所も務めた経験のある川並利治さん(金沢星稜大学教授)は、思春期の場合は親が子どもの気持ちを把握するのが特に難しいと語ります。

画像(金沢星稜大学教授 川並利治さん)

「心理的虐待ですので、傷あととかで目に見えることはないんですね。心の傷ってどのくらい深いのか分からなかったと思います。もうひとつは中学生ですので、思春期ですので、なおさら見極めづらかったんじゃないかなと思います。子どもってSOSを出しにくいんですね。出せないんです。例えば、『叩かれるのは自分が悪いから』と自分を自己卑下することによって、現実に何とか耐えようとするんですね。だけど、『あなたは悪くないよ、守ってあげるよ、大切だよ』と言い続けることが親として大事で、そうすることで子どもは本音を言ってくれると思います」(川並さん)

教育評論家の尾木直樹さんは、苦しんでいる子どもは勇気を持って助けを求めてほしいと言います。

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尾木直樹さん

「さきさんは、先生にSOSを出したのがすごく偉いなって思います。たとえば自分の担任の先生が頼りないなと思う人もいるかもしれないけれど、こういう問題には学校として対応するから安心して相談してほしい。そうすれば児童相談所に連絡が行ったり、専門機関につながったりしますから、SOSは発信してほしいなと思いますね」(尾木さん)

解決すべき学習面での問題

一時保護施設で2か月を過ごしたさきさんは父親から守られましたが、疑問に感じたこともあります。

さきさんは、学校から制服のまま一時保護施設へ行き、持ち物も制服も学校の教科書も、すべて預かられ、2か月の間、返してもらえなかったと言います。さらに、外出もできず、学校にも通えませんでした。

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保護施設のさきさん

「『いつ帰れるんですか』って施設の人に聞いたんですけど、『家が安全だと思えない限り帰らせられない』って言われて。お父さんとかは家でダラダラできるのに、私だけすごい過ごしにくい環境で、学校にも行けなくて遊べないから、なんであっち(父)が悪いのに私がこんな思いしないといけないんだろうって、ずっと思って」(さきさん)

一時保護中は子どもの安全を守るという理由から学校に行かせない施設がほとんどです。オクラさんはさきさんの学習が遅れることをとても心配しました。

画像(オクラさん)

「学習タイムというのがあるんですけど、その学年に応じた勉強ができない。新学期が始まったので新しい教科書を届けましたけど、それも全部没収されて見ることもできない。学校に復帰したときには即テストとかで、とても大変だったんですよ」(オクラさん)

こうした点は、最近、徐々に改善されてきていると川並さんは説明します。

「最近建設された一時保護所ですと、個別対応が重視されています。明石市は学校に通いたいという子のために、一時保護所から車で送迎をしています。新しい保護所はずいぶん改善されるんじゃないかと期待しているところです」(川並さん)

とはいえ、一時保護についてはそのような課題もあるので、そこに至る前に対処すべきと尾木さんは言います。

「一時保護の問題というのは、すごく難しい。だから一時保護に至る前の段階で、どのように私たちがつながって行けるのかとか、手を差し伸べることができるのかというのをね。そこがすごいポイントだなと気がしますよね」(尾木さん)

母親を救う新たな取り組み

一時保護になる前に手を差し伸べるにはどうすればいいのか。それを実践している施設があります。

NPO法人「だいじょうぶ」の理事長を務めている畠山由美さんは、栃木県日光市にある「親子の居場所」を運営。子育てに苦しさを感じている親子や家で安心できない子どものために、食事や洗濯、お風呂などの家事・育児支援を行っています。

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NPO法人理事長 畠山由美さん

「本来ならば、子育てをするときに助けてくれる旦那さんがいたり、おじいちゃんやおばあちゃんがいたり、兄弟がいたり、お友達がいたりする。でも中には『困った、助けて』って頼れる人がいない場合がある。それが一番問題だと思います。1週間に1回ご飯作らなくていいとかね。お母さんにとってはちょっと大変なときに支えてもらえるだけで、また育児できるようになるんですけれども、そういう助け手がいないのが大きな問題ですね」(畠山さん)

畠山さんが運営する「親子の居場所」では、子どもを見てもらうだけでなく親自身も頼ることができます。

例えば、預けた子どもを迎えに来た際、一緒に夕食をとって帰る親もいれば、ちょっと休みたいときには子どもと一緒にお昼寝をしてから仕事に行く親もいます。実際に「親子の居場所」を利用している保護者からは感謝の声が聞こえてきました。

「スタッフの人が『ひとりだと大変だろうから、今日お風呂入ってったら?』と言って、お風呂に子どもを入れてくれて。そのあと私も入らせてもらって。あとは帰って寝るだけとかは楽ですね。気持ちがもう、1回だけでも楽になります。すごく甘えさせてくれます」(「親子の居場所」を利用する母親)

小学4年の娘をもつうしさんは、親子が一緒に利用できる点に関心を寄せています。

画像(うしさん)

「お母さんと一緒、自分と一緒に参加できるっていいですよね、何かにつけ、子ども、お母さん、の集まりみたいな、ちょっと分断されるところがあるんですけど。一緒に行って、ちょっと休めるっていいですよね」(うしさん)

畠山さんの理想は、施設を母親にとっての「実家」のような場所にすることです。

画像(NPO法人理事長 畠山由美さん)

「決して家から切り取るとか、親から離すというイメージではなくて、『お母さんも一緒になってこの子を育てていこうね』という気持ちでやっています。旦那さんが帰って来るまでの間、不安だと言うので、一緒にご飯を食べたりとか。本当に『実家』なんですよ」(畠山さん)

ももさんも、頼れる場所があることの大切さを再認識したと言います。

「親は子どものこと一番に考えてるわけですよね。でもしつけと虐待は紙一重だったりする。子どもからしたらそう感じてるかもしれないと思ったら、そういう場所に頼ってみたり、相談してみたら道が開けるんじゃないかな。自分のためになるんじゃないかなと思いました」(ももさん)

家庭内の問題が深刻になる前に、困ったときは早めに周囲に相談して助けてもらうこと。そのために、日常から頼れる先を見つけてつながりを持っておくことが大切なようです。

虐待を防ぐには
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どう叱ればいいの?
もしものときの児童相談所
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※この記事はウワサの保護者会 2019年11月30日放送「シリーズ 虐待を防ぐには④児童相談所~子どもの一時保護~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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