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“SOGIハラ”って何?

記事公開日:2018年04月27日

「SOGIハラ」という言葉を知っていますか? LGBTがセクシュアルマイノリティーの人たちを指すのに対し、すべての人が持つ性的指向・性自認を表す言葉が「SOGI(ソジ)」。そのことに関して差別や嫌がらせ(=ハラスメント)を受ける“SOGIハラ”について、社会はどう向き合えばいいのか考えます。

LGBTとSOGI どう違う?

先日、10年ぶりに改訂された広辞苑に、「LGBT」という言葉が初めて掲載されました。

LGBTとは、L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダーを意味する言葉で女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、生まれたときに法律的/社会的に割り当てられた性別とは異なる性別を生きる人のことを言います。トランスジェンダーは、心の性別と体の性別が一致しない人のことを指す医学上の診断名「性同一性障害」よりも広い概念で、当事者が自分たちの生き方にプライドを持ち、名乗るときに好んで使われることが多い言葉です。

しかし広辞苑ではこの言葉をひとくくりに性的指向に関わる言葉として説明。当事者などから間違っていると指摘が相次ぎ、版元の岩波書店は訂正する事態になりました。

そうしたなか、新たにSOGI(ソジ)という言葉が使われ始めています。SOとはセクシュアルオリエンテーション(性的指向)のことで、好きになる相手の性を指します。GIとはジェンダーアイデンティティで、自分自身を男性と認識するのか女性と認識するのか、あるいはどちらとはっきり決められない、どちらでもないなども含みます。いわゆる「心の性」と呼ばれるものです。

では、LGBTとSOGIとの違いは何でしょうか。セクシュアルマイノリティーの人権問題などに関わる弁護士の寺原真希子さんは、SOGIという言葉の意義をこう説明します。

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「LGBTという用語は、LGBTの人々を一つのカテゴリーとして括り出すために、その人が特別あるいは特異な存在という風に印象付けてしまうという懸念がありました。これに対してSOGIとは、すべての人が持っている、それぞれの性的指向あるいは性別に対するアイデンティティを意味します。この言葉を使うことで性的なあり方の問題をすべての人が自分の問題として捉えることができるという側面があります。」(寺原真希子さん)

さらに、SOGIから派生した「SOGIハラ」という言葉もあります。SOGIにハラスメントをつけた造語で、セクシュアルマイノリティーの当事者の人から最近生まれた言葉。発案の中心となったのは、「なくそう!SOGIハラ」実行委員会の松中権さんです。

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「マタハラという言葉が出てきたとき、認知度はほぼゼロでした。でも3年で認知度は90%以上になった。SOGIハラも同じように、今まで『LGBTの人への差別はダメだよね』と言っていたのを『そういうのをSOGIハラって言うんだって』と置き換えることで、話題にしたり、使う人が増えればと思い、ハラスメントという言葉を使いました。」(松中さん)

これもSOGIハラ! 無意識に傷つけていることも

「SOGIハラ」とは具体的にどういうことを指すのでしょうか。

大学生のづんたさんは、ゲイである自身の体験をもとに、漫画を描いています。づんたさんの漫画の主人公はゲイであることを隠している男子高校生。学校で、仲間たちが同性愛者をからかう場面に出くわします。

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友人A「ラブラブだな~、実際おまえら、ホモなんじゃねえの~」
友人B「おい! 気持ち悪いこと言うなよ!」

言葉を失う主人公。しかし、本音を口にすることができません。

主人公「…そ、そうだよな、ホモとか気持ち悪いよな!」

づんたさん自身も中学高校時代に、こうした経験を数多くしてきました。

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「仲間はずれにされるっていう恐怖がすごい強いので、『ちげーよ』とか『ホモ気持ち悪いよ』って言ってると、本当に(自分が)気持ち悪いものだって自己暗示をかけちゃうというか、自分も思い始めちゃって。その場しのぎだったつもりが、自分を傷つけていることになっているのは後で気付きました。」(づんたさん)

番組にはこんなカキコミも寄せられました。

「私は女性が好きな女性です。友人のライブに行ったとき、体つきが男性で服装は女性らしい格好をしたお客さんがいました。それを見た友人2人が「あの人絶対ゲイだよ。気持ち悪いね」って話していて、ショックで言葉を返せませんでした。2人にとっては、遠い他人に言ったのかもしれないけれど、私にとっては目の前で自分のことを『気持ち悪い』と言われた気持ちでした。」(目覚まし時計さん)

「幼少期から、言動が普通の男女とは違ったようで、オカマとからかわれてきました。学校には行きたくありませんでしたが、理由を親から聞かれても答えられませんでした。そんななか、テレビに出ている同性愛者に対して、父親が『気持ち悪いなぁ』と心底嫌そうな顔で発言するところを目の当たりにしました。ショックでした。『周囲にも家族からも自分は気持ち悪い存在なんだ』と。そして、『僕が親から愛されるには、僕がゲイじゃないというのが絶対条件なんだ』と。」(まあ坊さん 東京都 30代)

多くの当事者がカミングアウトしていないなか、周囲はまさか隣に当事者がいるとは思わず、こういったことを茶化したり、笑いのネタにしたりということが日常的に行われているのです。

まず変わるべきは教育現場

SOGIハラは家族や知人・友人間だけでなく、教育の現場でも見られます。

「自分は、女性の体だけど心は男寄りで。でも完全に男でもないです。中学のとき、制服や遠回しに先生に言われる“女の子らしく”がとても嫌でした。勝手に『あなたは女性』、だから『制服はセーラー』、『女の子らしく足を閉じて座り、言葉も穏やかに』と指摘されたって、僕は女じゃない。問答無用に男女に判断された制服を着せられる、それ自体ハラスメントのように思います。」(ふよクラゲさん 神奈川県10代)

寺原弁護士は、「統計上ではどの学校、どのクラスにも一定数のセクシュアルマイノリティーの子どもたちがおり、学校側の理解が不足していると、そういった子どもたちが取り返しのつかないダメージを負ってしまう」と指摘。文部科学省はこの点について、2015年に「セクシュアルマイノリティーの子どもたちの心情に配慮した対応をすべき」という通知を各学校に出しています。

評論家の荻上チキさんは、こうした背景には、“女性あるいは男性はこうあるべき”という社会の規範意識が学校や家庭で教師や親の口から伝えられたり、友人間で広がっていったりすることで、そこから外れる人たちを攻撃するような価値観が子どもたちに広がってしまう可能性がある、と警鐘を鳴らします。

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「例えば、テレビなどでセクシュアルマイノリティーの人をいじったり、笑いのネタにしたりする番組を見た子どもが、それをまねすれば笑いがとれるんだと間違った学習をしてしまう。そうした子どもに対して、大人がそれを訂正してあげる、そういった言葉で人を傷つける可能性があるんだよ、と教えてあげることが大切だと思います」(荻上さん)

大人こそがいじりなどに加担してしまうこともある現状。まずはそこから変えていく必要があるのです。

SOGIハラかも? そんなときどうする?

「SOGIハラ」という言葉で、初めて自身が体験してきたことがハラスメントだと知ったという声もあります。

「小学校の頃からおカマとからかわれていたり周りにネタにされてきました。社会人になった今でも、そういったいわゆるホモネタはあります。それも、はぐらかしたり、ごまかしたりしています。今、それがハラスメントだと知って驚いています。私からすると、人と接すれば起きる当たり前のことで、ハラスメントだとはちっとも考えていなかったからです。もちろん気分は悪いですし、思春期にはとても悩みましたが、それは変わっている自分が悪いと考えていました。」(ゆうぼくさん、埼玉県20代)

セクハラやDV、マタハラが社会に浸透していったときと同じように、SOGIハラという言葉によって社会が問題を認識し、被害者自身が我慢しなくていいということに気がついてエンパワメントされることの意義は大きいと、寺原弁護士は強調します。

ではさらにもう一歩進み、SOGIハラをしないために、また“SOGIハラかも”という場面に遭遇したとき、私たちはいったい、どう行動すればいいのでしょうか。

荻上さんは、SOGIハラに遭遇したときの対応として、次のような方法を挙げています。

●まずは自分自身がSOGIハラに加担しないこと。もしSOGIハラじゃないかと人に指摘されたら、自分の考えを振り返ってチェックしてみる。

●SOGIハラかもという場面に遭遇しても、場の雰囲気や上下関係などでその場で指摘したりできない場合は、スイッチャー(※)の役割をしてみる。
※スイッチャー:話題を変えたり、場の空気を変えたりする人のこと

●当事者が攻撃されている場面では自分は攻撃せず、当事者が帰るときに「さっきの嫌じゃなかった?」などと一声かけることで、皆が敵じゃないよと当事者に伝え、「シェルター(避難所)」になる

さらに、「LGBTについての嫌悪や悪口をネットに書いたりせず、他者に言わないことを積み重ねていくことだけでも差別を減らすことにつながる」と荻上さん。

ひとくくりにはできないSOGIハラ。セクシュアルマイノリティーの人たちだけの問題ではなく、すべての人に通じる問題だと認識することが、最初の一歩になるのではないでしょうか。

出演者から

「セクシュアルマイノリティーの人は、自分が悪いと思って自分を苦しめてほしくない」

松中権さん
「なくそう!SOGIハラ」実行委員会

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「セクシュアルマイノリティーの方には、とにかく自分に非があるとか、自分が悪いと思って自分を苦しめてほしくないですね。自分を守れるのは自分。SOGIハラの場面に遭遇したときに、『これはSOGIハラなんだ』と思うだけでも、ワンクッション心の中で置くことになり、自分を守ることになると思います。周りにセクシュアルマイノリティーの人がいると思っている人は増えているので、カミングアウトや直接抗議することができなくても、そういった空気を共有し、SOGIハラだと声を上げたり、声をかけたりすることができることは増えていくと思います。そして、『まさか、自分の発言や行動がハラスメントになっていると思っていなかった』という人も多いので、加害者を減らすためにも、SOGIハラの被害を受けている人だけでなく、みんなが共有できるSOGIハラという考え方を共有できたら良いなと思っています。」

「知識がなくても尊重したい、問題を理解したいという気持ちを持って、恐れずに話題にして欲しい」
寺原真希子さん
弁護士

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「東京や大阪の弁護士会が、セクシュアルマイノリティーの方々を対象にした電話相談窓口を設置しています。弁護士会以外では『よりそいホットライン』というものがあり、心の問題にも対応しています。弁護士への相談というとハードルが高く感じるかもしれませんが、自分の悩みが法律問題になるかどうか最初から分かっている人は少ないです。実際、電話相談でも法律問題に該当するのは1、2割。自分の悩みが法的な問題ではないと分かるだけで安心できるケースもあるので、まずは気軽に電話してほしいと思います。一方で、セクシュアルマイノリティーでない人も、知識がないからと問題を避けるよりは、その人を尊重したいという意識を持って話すことが大切だと思います。同じ「失言」でも,そういった意識を持っている人が発した場合とそうでない人が発した場合とでは、受け取る側の感じ方が違ってきます。知識がなくても、尊重したい、問題を理解したいという気持ちを持っていれば、セクシュアルマイノリティーの方々にとって,またそうでない人にとっても,その人らしく生きやすい社会へと近づいていくのではないかと思います。」

※この記事はハートネットTV 2018年2月1日(木)放送「WEB連動企画“チエノバ” “SOGIハラ”って知ってますか?」を基に作成しました。

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