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【特集】子どもの虐待(5) 親や社会ができること

記事公開日:2020年04月01日

2020年2月、ハートネットTVでは“子どもの虐待”を特集しました。総合テレビ「あさイチ」でも今回は、視聴者から寄せられた声をもとに、虐待をなくすために親や社会はどうすれば良いのかを専門家とともに考えます。キーワードは「親の理想と子どもの個性」「しつけと虐待の境界線」「親の孤立」の3つ。親の孤立を防ぐための新たな仕組みも紹介します。

「親の理想と子どもの個性」のギャップ

今回の「特集 子どもの虐待」から、こう育ってほしいという“親の理想”と“子どもの個性”のギャップに親がいら立ってしまい、虐待につながっていく過程が見えてきました。

視聴者からこんな声も寄せられています。

「社会に恥じない子どもにするために子どもたちには「このレールから外れてはいけない」と子どもたちの個性や気持ちを無視し続けて、自分の気持ちばかりを伝えていたことに気がつきました」(じょんさん 30代 女性 兵庫県)

「恥じない子どもにするために」という親の理想は、あくまで「親の側の期待」だと公認心理師・臨床心理士の信田さよ子さんは指摘します。

画像(公認心理師 臨床心理士 信田さよ子さん)

「理想というとすごく良いことみたいですが、“親個人の期待”だと思わないといけない。“期待している”のと“理想を行使している”のはやっぱり違いますよね。親の期待に沿うためにすごく頑張ってきたっていう方多いんですよ。それは正義ではなくて、親の側の期待なんだと私は言いたいですね」(信田さん)

とはいえ、親が子どもにまったく期待しないのは難しいもの。評論家の荻上チキさんは、期待を持つこと自体に問題があるわけではないと言います。

画像(評論家 荻上チキさん)

「期待にはレベルがいろいろあって、こう育ってほしいという大きな期待から、親の邪魔をしないでほしいという小さな期待まで、いろいろな期待があります。一般的な期待を抱くなということではなくて、自分の期待と子どもの現実を折り合わせるのが難しくなるとストレスが生まれ、それか虐待の一歩にもなりうると。そうしたことにまずは気づいていくことが重要です」(荻上さん)

一方で、子どもに理想や規範を押しつけてしまうのは、親だけの問題ではないという声も届いています。

「電車で騒ぐ子どもに『きちんとしつけをできない親が増えたわね』と眉をひそめる人。そんな風に言われたくなくて子どもの行動を良しとされるものにしなきゃという焦りや強迫感になりました」(ほのさん 40代 女性 埼玉県)

周囲からの「親が子どもをきちんとしつけるべき」というプレッシャーが、親を子どもに対して厳しくなる一因になっている――タレントで1児の母の眞鍋かをりさんは、同じような経験があると言います。

画像(タレント 眞鍋かをりさん)

「うちの子は人一倍落ち着きがなくて、外でソワソワすると、『ちゃんとしつけができてない』って周りから思われてるんじゃないか、と。実際に言われたこともありますし。そうすると、ちゃんと厳しく言わなきゃいけないのかなとすごく葛藤します」(眞鍋さん)

公共の場や学校など、社会から向けられる厳しい目。しかし信田さんは、親がそのすべてを背負い込む必要はないと言います。

「規範を守るように育てる全責任が親にあると思わないことです。子どもにいろいろに言ってもその通りにできないですよね。それが全部親の責任と風に考えると、すごくプレッシャーになる。社会の側ももう少し寛容になるべき。全部を親1人、それも母親1人で背負い込むのはすごいプレッシャーだと思います」(信田さん)

「しつけと虐待の境界線」の曖昧さ

虐待を考える上でひとつの鍵となるのが「しつけ」です。これまで取り上げたように、しつけの延長線上で子どもに手をあげてしまうというケースが多くありました。教育上必要なしつけと、子どもを苦しめてしまう虐待は、境界線が曖昧です。

どんなことが虐待にあたるのか、荻上さんに整理してもらいました。

画像(スタジオで語る眞鍋かをりさん、信田さよ子さん、荻上チキさん)

「虐待防止法などの法律では、手をあげる、子どもに対してご飯を与えない、不必要に声を荒げて相手を威嚇する、相手のトラウマにつながるような様々な仕打ちをするなど、身体的な暴力だけではなくて、ネグレクトや心理的なストレスを与えることなど、幅広く行動ごとに虐待が定義されています」(荻上さん)

一方で、しつけと虐待についてはこんな声も寄せられています。

「手を出すことを我慢できないというわけではなく、何度説明しても『ダメ』と言ったことをやめないので最終手段として手を出してやめさせる。子どもには自由に自分らしく生きて欲しいけど、自由だと学校など外で他の人や先生に迷惑をかけてしまう」(ポリーさん 30代 女性 山口県)

子どもが周囲に迷惑をかけないよう口で言っても通じない場合に、しかたなく用いる「最終手段としての体罰」という考え方。眞鍋さんはその体罰も避けていると言いますが…

「体罰、私はやらないって決めているんですけど、ただ、叩かずに行動をコントロールするのは本当に根気と時間がいります。頑張っているんですけど、結構葛藤します。『ママは叩かないけど、これ以上やると鬼になるよ』と結局子どもを脅しちゃって…。何が正しいんだろう…と」(眞鍋さん)

こんな声も寄せられました。

「興奮して落ち着けなくなって、静かに言い聞かせる事が出来なかった時だけは大声で威嚇するように叱った事もありました」(いかたま母さん 50代 女性 岐阜県)

子どもをちゃんとしつけたい、でも体罰はだめ・・・。そんな八方塞がりに陥っている親に必要なのは、「知恵とリソース」だと荻上さんは言います。

「体罰や虐待についての研究では、体罰には百害あって一利なし、教育効果は短期的にも長期的にもないと言われています。体罰以上に効果がある指導方法がある、けれどもその指導方法が多くの教育現場や親御さんに届いていない。なので、こうすればより良く相手に伝わりますよ、という知恵のストックを伝えていくことが重要なんです。もう1つは、親だけが(子どもの面倒を)見るには根気や努力でカバーしなきゃいけないリソース不足、体力不足が出てくる。そのあたりをたとえば地域の手に委ねる。あるいは様々な教育リソースを増やせば(親)本人だけが対応しなくてもいい状況を生めるわけですね。これは一朝一夕にできませんが、体罰を超えたレパートリーがありますよというアナウンスメントは今すぐにでも始めることができます」(荻上さん)

では、親自身が、暴力を振るわずに子どもをしつけるために、手軽にできる方法は…?
視聴者の皆さんから寄せられたアイデアの一部です。

子どもに手紙を書いて伝える
なぜ怒っているかを文字で書くことで、冷静になって伝えられる

叱るときには、あえて敬語で言う または ロボット口調で話す
敬語は、よそよそしく距離をとった言い方になる。自分と子どもの距離をとって客観的に話すと、子どもも納得しやすい

普段の様子を動画で撮影する
俯瞰カメラを置いて撮ると、客観的に自分の行動を見ることができる。子どもの行動を画面を通して見ると、困った行動でも可愛く思えてくる、という声も。

皆さん様々な方法で、子どもと距離をとったり、自分を客観視して、苛立ちを抑える工夫をしているようです。

「親の孤立」を防ぐための取り組み

虐待をなくすためには親の孤立をどう防ぐかというのも重要な課題です。

「今、小3と年長の子どもがいます。孤立感、私も感じていました。今もです。主人も頼ることができず、実家も遠く、相談できる友だちもいません」(はなさん 30代 女性 広島県)

親の孤立を防ぐため、気軽に相談できる機会を増やそうという民間の取り組みが、大阪で始まっています。行政に相談しにくいときに、主婦や地域のお店の店員など地域の身近な人が悩みを聞くというものです。

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大阪の子育て支援団体が開いている相談の場

母親「(息子が)抱っこマンなんですけど、ごめんなと思いながら『いま無理』と言ってしまって」

相談役「(息子さんは)上手に成長してるよ。すくすくと」

母親「そうやって励ましていただいてなんとかやっております」

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きくでマーク

こうした相談に積極的にのる人たちが目印につけているのが、「話を聞くで~」という意味の「きくでマーク」です。児童虐待死ゼロを目標に子育て支援団体が中心となって活動しており、「きくでマーク」をつけている人は現在1000人以上。団体では、今後も「きくでマーク」の協力者を増やしていく予定です。

行政による新しい子育て支援の制度も全国で始まっています。静岡県島田市では、2019年4月から子どもを持つ家庭を支える仕組みが大きく変わりました。

母親が妊娠すると、母子健康手帳を手渡す際に、親子の支援を担当する保健師が決められるのです。母親の妊娠期から子どもの就学前までを、担当保健師が切れ目なく支援する「ネウボラ」と呼ばれる仕組みです。

画像(ネウボラの仕組み)

これまでは、妊娠、出産、育児と担当者がバラバラでしたが、それを一本化しました。虐待が起きてからではなく、“何も起きていない”時からつながりを作っておくのが狙いです。担当する保健師は、必要に応じて家庭を訪問します。

この子育て支援を受けている、2019年10月に2人目を出産した角田景子さんです。

画像

保健師の訪問を受けている角田景子さん

「外に出る機会がほとんどない場合は、ほんとに孤立状態で。自分の心も閉じていってしまう、そういうなかで『この方とずっと一緒に歩んでいけるんだな』っていうのが、私の心の支えになっています」(角田さん)

何も起きないうちから親を見守るというこの取り組み。虐待をなくしていくために、これからどんなことが求められるのでしょうか。

画像(スタジオの様子)

「(暴言・暴力など)自分がもしこうしたら“子どもがどう感じるのか”という視点は忘れないでもらいたいですね。もう1つは子どもの育つ力を信じる。そしてもし何かまずいなと思ったらちゃんと『ごめんね』とフォローして。そう言えば回復できると、もう少し強調してもいいと思うんですね。取り返しがつかないことはないから、そこは安心してもらいたいなと」(信田さん)

「虐待という最後の点だけに着目するのではなくて、そこに至るプロセスに着目することが必要になります。ネウボラのように、より前からアプローチすることが必要だというふうになってきた。これを社会の価値観として定着させて制度を増やしていくことが必要不可欠だと思います」(荻上さん)

虐待をなくすために親や社会はどうすればいいのか。ハートネットTVでは引き続き考えていきます。

【特集】子どもの虐待
(1)エスカレートする親の暴力
(2)親が抱える困難
(3)虐待をやめるために親ができること
(4)元里子が受け継ぐファミリーホーム
(5)親や社会ができること ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2020年2月25日放送「子どもの虐待(4)反響編 なくすためにできること」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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