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手話で楽しむみんなのテレビ!「昔話法廷」 編

記事公開日:2020年02月14日

NHKの人気番組に手話をつけて放送する「手話で楽しむみんなのテレビ!」。2019年8月には、昔話や童話・民話、名作を豊かに語る読み聞かせ番組「おはなしのくに」と、熱烈なファンが多い「ドキュメント72時間」に手話をつけて放送し、大きな反響がありました。そして2020年2月。あらたに2つの番組に手話をつけて放送します。今回はそのうちのひとつ、「昔話法廷」制作の裏側に密着しました。

画像(ろうの出演者動画)ろうの出演者インタビュー

異色の法廷ドラマが手話放送に

耳の聞こえない“ろう者”が監修し、ろう者による手話とバラエティに富んだ演出で届けるエンターテインメント手話番組「手話で楽しむみんなのテレビ!」。あらたに制作した2つの番組のうち、最初に放送するのは「昔話法廷」です。

この番組は、「三匹のこぶた」や「カチカチ山」といったおなじみの昔話をモチーフに、裁判員の視点から「もし昔話の主人公たちが訴えられたら?」という設定で描く異色の法廷ドラマ。今回は「さるかに合戦」をもとに、硬い柿をぶつけて子ガニの家族を奪った猿が、死刑に値するかどうかを問いかける内容です。

前回の手話放送は初めての挑戦ということもあり、何度も試行錯誤を繰り返した監修者と番組スタッフ。今回はスムーズに進むかと思いきや・・・「おはなしのくに」や「ドキュメント72時間」とは異なる課題にいくつもぶつかりました。

最初に制作陣を悩ませたのは、手話表現する、ろうの役者さんの衣装です。「おはなしのくに」では、ろう者もきんたろうの衣装や着物姿で登場するなど、元の番組との一体感を大切に、演出をしてきました。

ところが、もともとの「昔話法廷」に出演する猿やカニは、リアルな造形マスクを身につけ、人の顔が見えないように擬人化されたもの。あえて無表情にすることで、見ている人の想像力に訴える演出になっており、その印象的なビジュアルは放送当時、SNSでも話題になりました。

画像(「昔話法廷」に登場する、無表情な子ガニと猿)

一方、手話では、会話をする上で表情は大事な表現のひとつ。まゆの上下やほお、あごの動きなどが意味を持っており、欠かすことができません

手話表現者の“人の顔”が前面にでてしまうと、「昔話法廷」の世界観を壊してしまうのではないか、議論になりました。

そこで考えたのが、手話表現者の表情はしっかりと見えながらも、もとの雰囲気に限りなく近づけたマスクを着用しての出演でした。そのために、オリジナルの猿とカニのマスクを作成した会社に再び依頼。番組と並行して、マスクの制作も進めました。

画像(制作途中の猿とカニのマスク)

手話の邪魔にならないよう、出演者にあわせてサイズの微調整なども行いながら、約1か月かけて、猿とカニのマスクが完成!出演者がどのような姿になっているかは、ぜひ番組でお確かめください。

議論を重ねた「償う」の手話表現

もうひとつ、監修者や出演者、番組スタッフが何度も議論を重ねたのが、番組のテーマを伝える上で重要な「償い」「人でなし」といったことばの表現です。

「さるかに合戦」裁判で描かれるのは、猿が子ガニの母や妹たちに硬い青柿をぶつけて、死亡させた事件。罪のない子ガニ家族の命を奪った「人でなし」の猿に死刑を求刑する検察側に対し、弁護側は家族を持ち、深く反省している点を主張して、「生きて償うべき」と訴えます。

でも、そもそも「償う」とは、何を意味するのでしょうか?

お金を払って埋め合わせをする。行動で補う。あるいは相当する罰を受けるなど、人によってさまざまな意味を持つあいまいなことばです。同様に「人でなし」も非情や冷酷など、ことばから思い浮かべるイメージは人によって異なります。

番組のテーマを伝える上で重要なことばを、どのような手話で表現するのか? 監修者や出演者は、打ち合わせ、リハーサル、そして収録当日も何度も議論を重ねました。

画像(裁判官、弁護士、検察官の3役を演じ分けた髙島さんと監修者)

出演者が語る番組の見どころ

命をめぐる判断を見る人に問いかける「昔話法廷」。出演者たちは、正解のないテーマや登場“人物”の感情を表現するために、どのような工夫をしたのでしょうか? 子ガニ役を演じた今井彰人さんと、被告の猿とその妻の2役を演じた數見陽子さんは、次のように話します。

「もとの昔話法廷では、子ガニが声を震わせて話すシーンがあります。聞こえる人は、声のトーンから子ガニの心情を察しますが、そうした場面では手話を震わせて表現したり、反対にまくしたてるように話しているシーンでは、手話のスピードも早めたりしています。そうした手話表現の工夫で、子ガニの心情を伝えられたらと思いながら、演じました」(今井さん)

画像(子ガニ役を演じた今井彰人さん)

「日本語では償いということばからは、状況に応じて、その人なりにさまざまな『償いかた』をイメージしますよね。でも、手話で表現するときは毎年、お墓参りをするとかお金を払うなど、具体的な情報を説明する必要があります。今回の放送を見て、ぜひ子どもたちにも『自分だったらどう判断するか』を考えてもらえたらと思います」(數見さん)

画像(猿役を演じた數見陽子さん)

弁護人と検察官、さらに裁判官の3役を演じ分けたのは髙島良宏さん。髙島さんも『償う』の表現に悩んだと言います。

画像(収録中の髙島良宏さん)

「『償う』ということばは、本当にたくさんの意味を持っています。命を奪ったことを償うには、自分も同じように死ななければいけないのか。命には命を差し出すしかないのか。それが償うということなのかを何度も話し合い、見ている人がわかりやすく、物語の意味にそった手話にするために、議論を重ねて表現を決めました」(髙島さん)

法廷を舞台にした今回の手話放送。ドラマの進行役でもある裁判員を演じた竹村祐樹さんは、日常生活ではあまり使わないことばの表現に注目してほしいと話します。

画像(収録中の竹村祐樹さん)

「たとえば被告人ということばは、日常生活ではあまり使いませんよね。ふだん使わないことばをどのような手話にすればわかりやすいかを考えて、表現しています。また、『言う』という表現ひとつとっても、手話では手の向きによって、相手が言っているのか、自分が言っているのか、意味がかわってきます。聞こえる人には、そうした手話ならではの表現にも興味を持っていただけるとうれしいですね」(竹村さん)

<動画>ろうの出演者インタビュー





大人だけでなく、子どもたちにも、命について考えるきっかけにしてほしいとの思いが込められた今回の手話放送。制作陣がこだわりぬいた猿やカニの姿とともに、ぜひお楽しみください。

ハートネットTV「手話で楽しむみんなのテレビ!~“昔話法廷”編~」は2020年2月19日(水)再放送2020年2月26日(水)放送。

聞こえる子どもと聞こえない子どもが「さるかに合戦」裁判について話し合う様子は、2020年2月22日(土)の「ろうを生きる 難聴を生きる」で放送します。

どうぞお楽しみに!

「手話で楽しむみんなのテレビ!動画集」はこちらから

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