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【特集】子どもの虐待(3) 虐待をやめるために親ができること

記事公開日:2020年02月12日

子どもへの虐待。児童相談所への相談件数は年々増え続け、年間16万件に迫っています。番組にも虐待に悩む親子の声が多く寄せられています。ある40代の夫婦は、3年前まで、息子への虐待をやめられずに苦しんでいました。夫婦はなぜ虐待をしてしまったのか。どうやってやめていったのか。長い年月をかけて虐待から脱していった家族のあゆみをたどります。

想像以上に手がかかる子 虐待の始まり

今回、自分たちの体験をきちんと語って共有したいと取材に応じてくれた家族。母のメグミさんが息子を産んだのは27歳のときでした。

かわいいと思ったのもつかの間、間もなく、想像以上に手がかかる子だと気づきました。何をしても激しく泣き叫び、寝かしつけるのに2時間かかる。夜泣きは毎晩10回以上。しかし夫は夜勤で不在。頼れる人はなく、来る日も来る日も夜を徹してあやし続けました。

2歳になっても、夜泣きは続きました。さらに強い偏食や、かんしゃくにも悩まされるようになりました。

そしてついに、息子を叩くようになってしまったのです。このとき、メグミさんには虐待という意識はなく、気がつけば手を上げているという状態でした。

画像(イメージ)

「息子の泣く感じがすごく私を責めている感じがして。すごく攻撃されてる気がしてたんですよ」(メグミさん)

3歳になってもまだ夜泣きが続きます。指示がまったく伝わらない。こだわりが強く、思い通りにならないと泣き叫ぶ。そんな日ごろの様子から、息子には発達障害の疑いがあるのではと考えました。

救いを求めて、メグミさんは地域の子育て支援課に相談に行きました。しかし、保育園での様子を見た臨床心理士の答えは「問題ありません。健常です。」というもの。

息子は言語の発達が早く、周囲からは問題があるようには見えなかったのです。

「他の子どもたちと同じように育てなければ…」。さらに追い込まれていったメグミさん。虐待はますますエスカレートしていきました。

しかし、それでも息子の行動は変わらないまま。メグミさんは子育てに自信をなくし、外に出ることもできなくなりました。その後、娘の出産が近づき、息子の子育ては、主に夫のケンジさんが担うようになりました。

「(息子の子育ては)本当に大変で。今まで妻がこれをやってたんだというのが驚きで。もう絶対無理だと思って」(ケンジさん)

子育てのしかたがわからず、言うことを聞かないと、つい怒鳴ってしまったケンジさん。妻と同じように手を上げるようになっていきました。

画像(イメージ)

虐待の要因になったもの

虐待やDVを受けた人のカウンセリングに長年携わっている臨床心理士・公認心理師の信田さよ子さんです。子どもの泣く姿が自分を責めている、攻撃しているように感じるという母親の心理状況は、珍しくないと言います。

画像(臨床心理士・公認心理師 信田さよ子さん)

「虐待に関わってる者からすると、本当によくある発言なんですね。『一生懸命やっているのに…』と、相手がわずか0歳であっても自分の言うとおりにならず、泣き止んでくれないと、『この子は自分をバカにしてるんじゃないか、攻撃されてるんじゃないか』と思うことがあるんです。そういう気持ちになった時は、自分でもまずいと思ったほうがいい。助けを求めるチャンスだなって思ってほしいですね」(信田さん)

訪れた転機 発達障害の診断と息子からの問いかけ

家族に転機が訪れたのは息子が小学校に入学して間もなくのころでした。

授業中、座っていられず、立ち歩いてしまうという指摘を学校から受けました。そこで、発達の専門医の診察を受けることにしたのです。

画像(相談するメグミさん(イメージ))

結果は、発達障害。自閉スペクトラム症とADHDでした。

「そのときに、基本的にこうしてあげるといいですよという紙を2枚もらったんですよ。そこに『指示は短い言葉で』とか、『怒ったりするのは逆効果』というのが書いてあって。やっとこれで始まったって。これでなんとかしていけるんだって思いましたね」(メグミさん)

ようやく、息子との関わり方を相談できる相手が見つかったのです。その後も、医師や臨床心理士から、問題が起きたときにどう対処したらよいか学びました。

まず、親が落ち着くこと。
怒らず、1つ1つ優しく教えること。

しかし、その多くは当時のメグミさんにとって難しいことばかりでした。

「できませんって。すごくキレているときに、このまま本当に殺しちゃうかも、っていうぐらい、私すごく怒りを感じているんですって言いました」(メグミさん)

それを聞いた臨床心理士から、今は子どもを支援できる状態ではないと告げられました。そして、ある言葉をかけられました。「まずはお母さんが満たされることをしましょう。外に出かけて好きなことをしてみてください」と。

最初は驚いたメグミさんですが、週末を利用して、昔から好きだった文具や雑貨を扱うお店をフリーマーケットなどに出店。楽しいと思える時間を過ごすことで、自分を取り戻していきました。

発達障害についても積極的に学ぶようになりました。親向けの勉強会には夫のケンジさんも参加。他の親たちと交流しながら、息子の特性への理解を深めていきました。

「前だったら、ただ頑固で、融通が利かない子だと思っていたのが、実はすごく真面目だから、物事に真剣に取り組んでいるからこそ、そうなんだということがわかったり。そうやって行動の1つ1つを見ているうちに、愛着が湧いてきた」(ケンジさん)

それでも、思わず叩いてしまう、暴言をぶつけてしまうという行動を完全にやめることはまだできませんでした。

そんな自分たちを見つめなおすきっかけが訪れます。息子が小学校で、毎日のようにクラスメイトを殴っていると学校から連絡があったのです。

ケンジさんは厳しく叱り、「なぜ叩くのか?」と問いただすと、思いもよらない答えが返ってきました。

「『どうして叩いちゃいけないの?』って聞かれて。『えっ、いや、だって叩いたら駄目でしょ』と言いながら、自分(親)たちも叩いてることに考えが至って。愕然としたんですよね」(ケンジさん)

これまで、子育てのために仕方ないと思ってきたことが、実はやってはならない暴力なのだと気づかされたのです。2人は暴力と暴言をやめると、息子の前で宣言しました。

「両親が、私たちも叩くのをやめるから(あなたも)やめようって。本当?と思ってた。本当にやめられるの?あなたたち、とは思ってましたね」(息子)

宣言を確実に実行するため、夫婦で話し合ってルールを決めました。

息子に手を上げてしまいそうになったときには、冷静な方が、相手を止める。それでも怒りが収まらない時はその場を離れる。

画像(メグミさんが息子への不満を書き込んだノート)

メグミさんが1人でいる時は、息子への不満をノートに書き込むことにしました。暴力や暴言を、息子に向けないためです。

画像(メグミさんが息子への不満を書き込んだノート)

何度も失敗を繰り返しながらも、1日1日と手をあげない日を増やしていきました。両親が必死で暴力をやめようとする姿に、息子の気持ちも変わっていったと言います。

「『私たちもやめる』って言い出して。それで本当にやめた時にちょっと信頼感が出はじめたかな。有言実行したって感じ」(息子)

そして息子が11歳の頃。両親の暴力をふるってしまう衝動も収まりました。

息子は今は14歳。自分の意見を臆せず伝え、両親もそれに耳を傾けます。

「自信はないですよ、ただ努力し続けているので。とにかくもう『あの頃に戻りたくない』ということを意識し続けている。10年後、20年後、息子が子どもを持った時にどうなるか。そこまでずっと変わらず続けていくことかなと」(メグミさん)

虐待をやめるために大切なこと

虐待がなかなかやめられず、子どものふるまいからようやく自分たちの加害性に気づいた夫婦。評論家の荻上チキさんは、虐待をやめるためには外部とのつながりが大切だと指摘します。

「家族だけの関係性の中で暴力が進んでいく状態から、子どもの先生からお子さんが暴力的だと指摘されて、親御さんもカウンセリングなどを受けて、外部からのモニタリングが少しずつ入るようになった。一般的にも、外部のケアの目とつながって、周りからいろんな道具をもらうことがしやすい社会を作ることが、とても重要になると思います」(荻上さん)

信田さんは、同じ悩みを持つ親たちとつながることも効果的だと話します。

「グループを作っていろんな機会でつながり続ける、何かあったら聞いてもらうっていうことが、本当に大事だと思います。専門家じゃ及ばない知恵が生まれるんです。本当に私たちも感服します」(信田さん)

画像(スタジオで話す信田さよ子さんと荻上チキさん)

そして「虐待をしない」ことを続けるには、親が自分自身を観察することも必要だと言います。

「毎日やるべきこととしては、セルフウォッチング。危険な状態になったなと気づけるかどうかは大きいです。自分をいつも観察して、このままいくと危ないなというときに、ちょっと席を外すとか、冷蔵庫を見に行くとか、スマホを見るとか、2秒間深呼吸するとか。時間の流れを中断する“タイムアウト”がすごく大事ですね」(信田さん)

虐待をする親も実は苦しんでいる。そのことから目をそらさずに、周囲も、親自身も、虐待をやめるためにはどうしたらいいのかを真剣に考える必要があるのです。

【特集】子どもの虐待
(1)エスカレートする親の暴力
(2)親が抱える困難
(3)虐待をやめるために親ができること ←今回の記事
(4)元里子が受け継ぐファミリーホーム
(5)親や社会ができること

※この記事はハートネットTV 2020年2月12日放送「特集 子どもの虐待 虐待をやめるまで 親子の軌跡」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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