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【特集】子どもの虐待(2) 親が抱える困難

記事公開日:2020年02月11日

虐待によって子どもの命が絶たれるケースがあとを絶ちません。親はなぜ、暴言や暴力で子どもを苦しめるのでしょうか。ある調査で浮かび上がってきたのは、親もさまざまな困難を抱えて苦しんでいるということ。親は何に苦しみ、どんな支援を必要としているのか。専門家とともに考えます。

研究から見えてきた“親が抱える困難”

埼玉県和光市にある理化学研究所。脳神経科学研究センターの黒田公美さんが率いる親和性社会行動研究チームでは、虐待をした親たちがおかれていた状況についての研究が進んでいます。

調査の対象は、主に子どもが死亡するなどした虐待事件で、実名報道された親たち。受刑中の100人以上に手紙で協力を依頼し、成育歴、精神疾患の有無、事件当時の子育て環境など、400問以上の質問に答えてもらいました。

画像(医学博士 黒田公美さん)

「とくに重大な児童虐待の、その養育者側(親・加害者側)の調査というのは非常に少ない。養育者側から見てどういう支援を求めているのか、どういうことで当時困っていたのか、ということがはっきりしないといけないと」(黒田さん)

画像(調査結果)

調査の結果、親たちは複数の困難を抱えていたことがわかりました。幼少期に自身が虐待を受けた、親が不在だった、などの逆境体験がある人は58%、精神科通院歴や依存症などのある人は71%。また、90%以上が子育てする環境に大きなストレスを抱えていました。

画像(黒田さんの調査の結果)

その内訳を見ていくと、子どもの健康問題、再婚に伴う課題、貧困やDV、ひとり親であることなどの困難が複合的にからみあっていました。

虐待加害者の回答の一つを、許可を得て見せていただきました。ネグレクトによって子どもを餓死させた母親が、事件当時のストレスについて記述しています。

画像(虐待加害者の回答)

夫が育児に協力しない、不在がち、飲酒、束縛や言葉の暴力・・・。

「夫はあまり育児に協力しないし、経済的な問題が大きくあった。病院の支払いが滞っていたりすると、もう病院に行くのが難しくなるんですよね。あと相談できる人がいない。そういう環境で結果的に1人の子どもが亡くなった。そしてこの養育者は、自分が育った環境が非常に大変な環境だった。自分が小さいときに、手足を縛られて風呂に沈められるみたいな状況で。でもそれをしたのは祖母なんだけど、その祖母が1番好きだったという状況でした。祖母との関係が一番よかったと。それ以外の人との関わりは、さらに悪い状況だった」(黒田さん)

もっとも強いストレスとしてあげたのが、子どもの頃、父親の再婚相手から受けた言葉でした。

「私はあなたのお母さんになるためにこの家に来たわけじゃないという、養母の言葉。それが本当につらかったんだと。あなたなんていらないっていうのが本当にこたえる。なかなかこの状況を本人が克服していくのは難しい。そこまで追い込まれていた人が非常に多いんだというふうに感じるわけですね。ですから、そこまで追い込まれるまでの段階で、どこかで公的な支援が届けられることが望ましいと」(黒田さん)

黒田さんの研究によって明らかになってきた、親が抱えるいくつもの困難。その中には、幼少期の体験もありました。子どもの心理臨床活動を行っている山梨県立大学教授の西澤哲さんは、幼少期の体験が、子どもの虐待に与える影響は大きいと言います。

画像(山梨県立大学教授 西澤哲さん)

「子どもの頃の逆境体験と言われますけれど、とくに『あなたのために来たんじゃない、あなたなんていらない』という親による子どもの存在価値の否定は、心理的虐待によるトラウマとして非常に強い影響を与えると思います」(西澤さん)

困難を抱えた親が暴力から抜け出すためのプログラム

臨床心理士・公認心理師の信田さよ子さんは、複合的な困難を抱える親たちが暴力から抜け出すためには、自分が困難を抱えていることを自覚することが必要と言います。

画像(臨床心理士・公認心理師 信田さよ子さん)

「自分は困難の中で生きてきて、なおかつ今、育児の困難のただ中にいると。だからこういう困難があるので、これをどうしたらいいのかと、当事者である親が問題意識を持つことが必要ではないでしょうか。そのためには、家族を閉じられたものではなくて、家族を開いて、家族の外部からの支援を受けることが必要だと思います」(信田さん)

困難を抱える親たちに対する支援にはどのようなものがあるのでしょうか。

東京都内にあるNPOでは家庭内などでの暴力被害をなくす教育プログラムを行っています。
週末、ここには家族に暴力にふるってしまうという男性たちが集まります。

画像(アウェア代表 山口のり子さん)

「自分がDVしたことに自覚がまったくない人でも、仲間の話を聞いていると、仲間に対しては『あなたそれDVですよ』と言えるんですよね。『あの人がそう言うのなら、そうかもしれない』とか、『あの人が言っていることは本当かもしれない』と内省・内観をする、自分を振り返ることができる人は少しずつ気づきを重ねて変わっていくことができるんですね。加害者男性たちには本当に助けが必要です。助けの場なんです、ここは」(アウェア 山口のり子さん)

このプログラムに1年近く通っている男性に話を聞くことができました。

「(以前は)子どもが悪いことをすればたたいていい、自分は悪くないとか、視野が狭い状態ですよね。子どものことが自分のことのように思ったりとか、自分が全部を世話していかないととか、組み立ててあげないとだめとか、思っていたところがあるんですかね。(ここで自分自身の暴力に向き合ってからは、)人に対して尊重する気持ちを持つようになったりとか、子どものことで言えば、子どもの人生があると思うようになったり、今はサポートに徹していきたいという気持ちでいます」(プログラムに通っている男性)

自分の暴力に気づき、それによって変わるためには何が大事なのでしょうか。信田さんは次のように説明します。

「一言では言えないんですけど、1人や1対1というよりグループがすごく必要ですよね。それからもう1つはやっぱり正直になるってことでしょうかね。無理に反省していますとおっしゃる方は、そんなには変わらないんですよ。最初は『やっぱり納得できない』とか、『これは暴力じゃないと思います』と言う方もいますが、正直に自分の考えを言って、そのグループに参加している人たちからの反応や支えとか、見方を知ることで変わっていくっていうことができるんじゃないかと思います。(プログラムは)処罰的ではなくて、傾聴というか、ちゃんとおっしゃったことを聞き、そしてこちらの言うことを伝えるという、どちらかというと治療というよりも教育的なグループです。ですから加害者プログラムというのは、『正直であることが良い』『ここに参加するだけで良い』『私たちもあなたたちを尊重します』という雰囲気の中でやっていきます。それが、加害者が変わっていくために最低限、必要な条件だと思います」(信田さん)

虐待に向き合っていくための考え方

子どもへの虐待から浮かび上がってきた、親が抱えるさまざまな困難。私たちは虐待という問題に対し、どのように向き合っていくべきなのでしょうか?

画像(評論家 荻上チキさん)

「この社会では、育児に関わるあらゆることを『家族という関係だけで完結しなさい』というメッセージが非常に強い。日常の生活の一部あるいは全部を共有して支援しあう関係のことを“ケア関係”と言いますが、こうしたケア関係を家族というリソースだけにお願いしている状況になっている。でもそうした状況だと、本人が自分の抱えている問題を自分たちで気づいて、自分たちでSOSを発信して、それで支援につながるところまで頑張りなさい、ということになってしまっている。そうではない状況を作るためには、たとえばメディアでSOSの発信の仕方を伝える。あるいは気づいたときに周囲が連絡する手段を伝える。または、行政の仕組みや相談システムを鍛えていく。そうした発想を持ってケア関係を“開いて”いくということも必要になると思います」(荻上さん)

「DVにしても子ども虐待にしても、加害者は家庭の中で非常に力を持った強力な存在ですよね。でも一歩引いてみると、社会的にはすごい弱者なんですね。社会的に弱者であることが暴力に向かわせている要因になっているので、そういった社会構造の問題とか、そういう点にも着目する必要があるんじゃないかなと思っています」(西澤さん)

「私たちが、こういう事件があったときに、私たちとその加害者の人たちはつながっているんだ、他人事ではない、という目で見ることと、それからもう1つは、あまり世代間連鎖っていう言葉で、『虐待された人は虐待しちゃうんだ』と決めつける考えは私はなくすべきだと思っています」(信田さん)

【特集】子どもの虐待
(1)エスカレートする親の暴力
(2)親が抱える困難 ←今回の記事
(3)虐待をやめるために親ができること
(4)元里子が受け継ぐファミリーホーム
(5)親や社会ができること

※この記事はハートネットTV 2020年2月11日放送「特集 子どもの虐待 なぜエスカレートしたのか ~親を追いつめるもの~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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