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【特集】子どもの虐待(1) エスカレートする親の暴力

記事公開日:2020年02月11日

子どもたちの尊い命が虐待によって奪われ続けています。国によると平成15年からの15年間で虐待で亡くなった子どもは1306人(心中含む)。しかし、事故死とされたケースの中にも虐待と疑われるものがあり、実際にはその3倍~5倍ともいわれています。暴力や暴言をなぜやめられないのか?2018年に起きた虐待死事件を通して、親による虐待がエスカレートしていく過程とその背景を考えます。

両親からの虐待によって亡くなった5歳の女の子

2018年、虐待で1人の女の子が亡くなりました。

画像(結愛ちゃんが生前に書いた文章)

「もうおねがい ゆるしてください」

亡くなった結愛さん(5歳)が生前、書いた反省文です。父親は傷害や保護責任者遺棄致死などの罪に問われた裁判で、虐待の理由をこう証言しました。

画像(父親の証言)

「最初は(結愛に)口で説明していたがうまくいかず、怒りが増して暴力に向いていった。子どもの理想像から離れていると感じ、焦りやいらだちがあった」(父親)

父親の心の底には何があったのか。裁判で心理鑑定を行った山梨県立大学教授の西澤哲さんによると、7回にわたる面接から見えてきたのは強いコンプレックスでした。

もともと大手IT企業に勤めていた父親。仕事のストレスで嘔吐を繰り返し、適応障害となり、8年勤めた会社を退社。香川県で結愛さん親子に出会います。

画像(山梨県立大学教授 西澤哲さん)

「彼は、自分の社会人としての目標を見失ってしまった状態を、自暴自棄という言葉で表した。そういう心理状態の中で、結愛ちゃん親子に出会うわけですよね。理想的な親子関係になっていくことが、彼の次の生きる目標になったのだろうと考えています」(西澤さん)

父親は血がつながっていないことで、かえって理想の親子像にこだわりました。母親にのびのびと育てられた結愛ちゃんに、厳しいしつけをして、時計の読み方や九九など、5歳には難しい勉強をさせます。

「最初は言語による“諭し”なんですよね。『このようにしたら良いと思うよ』『こうすればこういう良いことがあるから』『お友だちがこういうふうに思ってくれるから』って。でも、結愛ちゃんは、思い通りにはしてくれない。彼はどんどん無力感を味わうわけですね。そうすると、支配性は強まっていく」(西澤さん)

画像(結愛ちゃんについての検証報告)

暮らし始めて1年しないうちに、近隣住民や幼稚園から虐待を疑う情報が寄せられます。さらに家から追い出された結愛さんに、あざやこぶのあるのを警察が確認しています。

「本人によると、最初はコントロールした暴力…結愛ちゃんに、これぐらいの恐怖を与えれば、思い通りに動くのではないかっていうような暴力。それが、だんだんと無効化(無力化)されていく。自分の関わりが無効になっていく。すると暴力も、どんどんとエスカレートして、コントロールが効かない暴力の爆発が起こってくると。そのように、プロセスが説明されている」(西澤さん)

理想の家庭を作りたいという努力がむくわれず、無力感にかられて暴力が激しくなっていきました。結愛さんのこめかみには殴られた跡がある、太ももにはあざがある、など虐待の報告が立て続けに児童相談所に寄せられました。

その後、香川県から東京都内へ転居した一家。1か月半ほどして結愛さんは亡くなりました。あばら骨が浮くほど病的にやせた体には、170以上の傷がありました。

「結愛ちゃんが亡くなるような暴力が発生するぐらいになっていた時には、結愛ちゃんは絶対に自分のことを好きにはなってくれないのはわかっていたし、自分も結愛ちゃんのことは好きにはなれないということはわかっていたと。そういう本人の語りから、自分の目標・理想が崩れたというのは明らかかなと」(西澤さん)

「自分のエゴを押し付けた私の責任だ。私が親になろうとしてごめんなさいという気持ちだ」(父親)

判決は懲役13年。父親は控訴しなかったため、刑が確定しました。

フラッシュバックで身動きがとれなかった母親

一方、母親は十分な食事を与えなかったなど、保護責任者遺棄致死の罪に問われました。

画像(母親の証言)

「夫から報復されるのが怖くて通報できなかった」(母親)

夫などからの暴力を受けた被害女性やその子どもをケアをしている「女性ネットSaya-Saya」代表 松本和子さんです。拘置所で母親と6回にわたり面会しました。年上の夫を頼る一方で、存在を否定し続けられていたと聞き、夫から精神的に支配されていたと考えました。

画像(女性ネットSaya-Saya 代表 松本和子さん)

「(母親は)わかってない、だめだな、と否定ばっかりされて、どう考えていいかわからない状況だったと話していた。徐々に徐々に彼に洗脳されていったのだというのがわかりましたね。だから彼がどう考えているかということを一生懸命探って、彼の答えだけが正しくて、私の答えはだめなんだと。彼の許可がないと動けないような状況にさせられていた人だと。」(松本さん)

母親の心理鑑定を行った精神科医の白川美也子さんは、心理士同行のもと母親と7回にわたり面談しました。母親は父親が娘を虐待するのを目撃し、身動きがとれなくなっていたといいます。

画像(精神科医 白川美也子さん)

「結愛さんがお腹を激しく蹴られた場面が今でもフラッシュバックしていると。目の前に見えてくる。それが取り調べの度に見えていて、今でもやはり思い出すと見えると話していたので、そこからPTSDの診断をつけました」(白川さん)

わが子が父親から虐待を受けているのに、なぜ母親は体を張って止められなかったのか。白川さんによると、PTSDになった人はFight(闘争)、Flight(逃走)、Freeze(凍りつき)の3つの反応を示す、という考え方から説明できると言います。

画像(トラウマ後の反応 3つのF)

「3つの、闘うか、逃げるか、固まるか、の中のフリーズ(固まる)という反応が起きていた。だから、まずその時に動けなかった。(父親が)結愛さんに何かするぞっていう態度を示すだけで、彼女がおびえて何も言えなくなっちゃうんですよね」(白川さん)

暴力の背景…父親が持つ“理想の親子像”

「理想的な父親であると周りから認められたい」という強い思い。父親を理想に駆り立てたのは何だったのでしょうか。臨床心理士・公認心理師の信田さよ子さん、評論家の荻上チキさんは次のように推測します。

画像(臨床心理士・公認心理師 信田さよ子さん)

「彼は父であることにすごく価値を置いていて、それは統率するもの、家族を統制するものであり、非常に利発なこの娘を成績良く育てて、誰からも認められて、いい学校に入れる、みたいなものが彼なりの娘に対する父親としての愛情だったのかなと思います。仕事では挫折を味わい、だからこそ家族で、というようなものがあったのではないかなと」(信田さん)

画像(評論家 荻上チキさん)

「多くの人たちがなんとなく理想とか規範とかあるべき姿っていうのを内面化していると思うんですね。この父親も本人ならではの理想や規範というものを持っていた。そういう意味では話の通じないモンスターのような存在ではなくて、むしろ理想や規範というものに自分も縛られ、そして他人をそれで縛り、なおかつ支配していったというふうに聞こえるわけですね」(荻上さん)

わが子にこう育ってほしい、という思いを持つことは特別なことではありません。実際に父親と会ったことのある西澤さんは、父親について、サイコパスやモンスターといった印象はなく、感情や考え方は普通の人に通じるものがあると感じたと話します。

画像(山梨県立大学教授 西澤哲さん)

「父親が言うには、自分には2種類の暴力がある、と。最初は結愛ちゃんに言うことを聞かせようとして、『この程度だったら恐怖を味わって言うことを聞くんじゃないか』という、コントロールの効いた暴力。ところが最終的にはそれが吹っ飛んでしまって、自分の怒りの感情にまかせて暴力をふるっています。その時には結愛ちゃんの状態とかを考える余裕は一切なくなっているだろうなと。もう怒りに飲み込まれて、というような暴力になっていったんですね」(西澤さん)

理想の親子関係が築けず、無力感を味わうことで強まった支配性、そして歯止めがきかなくなった暴力。父親がこのような状況に陥ったのはなぜなのでしょうか。

「暴力は、彼は無力感っておっしゃったけれど、ある種、自分が言うことを聞いてもらえなかったという“被害者感”から発生します。暴力というのは怒りと屈辱感、ある種の孤独感みたいなものが全部一緒になって発現されるわけですね。相手が大人だったら『もうやめろよ』と言いますけど、女性や子どもの場合は強く言い返せないとどんどん暴力が加速化していくんです」(信田さん)

DVと子どもの虐待との関係は

暴力がエスカレートしていく中で、母親も父親の暴力を止めることができませんでした。父親から母親へのDVがあったということも指摘されていますが、子どもの虐待とDVにはどのような関係があるのでしょうか。

画像(スタジオの様子)

「DVは、痛みとかそういうことじゃないんです。DVの本体は恐怖なんですよ。目の前で子どもがお腹を蹴られている。その時に私が何かを言うと、もっとこの子が蹴られるんじゃないか。もしくは、もっと私がやられるんじゃないか。さらなる暴力を呼び込むんじゃないか。そして、私にそんなことを言う資格があるんだろうか、という思いが交錯しながら、どこかで自分を責めながら行動に出られないという状況は、DVのある家族では一般的だと思います。母親は子どもに対してすごく罪悪感を持っているんです。それは止められなかったという罪悪感と、なんて情けない私、そして夫の言うことを聞けなかった私、という“トリプルの罪悪感”なんですね」(信田さん)

DV家庭における子どもの虐待につながるリスクは、DVのない家庭の2倍高いというデータがあります。子どもの虐待を生み出してしまうさまざまな背景について、私たちはもっと目を向けていく必要があります。

【特集】子どもの虐待
(1)エスカレートする親の暴力 ←今回の記事
(2)親が抱える困難
(3)虐待をやめるために親ができること
(4)元里子が受け継ぐファミリーホーム
(5)親や社会ができること

※この記事はハートネットTV 2020年2月11日放送「特集 子どもの虐待 なぜエスカレートしたのか ~親を追いつめるもの~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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