『セルフ・ネグレクト』とは、生活環境や栄養状態が悪化しているのに、それを改善しようという気力を失い、周囲に助けを求めない状態を指します。“ゴミ屋敷”や“孤立死”の原因とも言われています。『セルフ・ネグレクト』に陥るきっかけは、配偶者や家族の死のほか、自分の病気や仕事を辞めるなどさまざまで、年齢に関係なく陥ると考えられています。その実態を取材しました。
2016年11月、岐阜市の住宅で70代の夫婦と、40代の息子の遺体が見つかりました。
両親は死後2か月、息子は死後1週間ほどが経過。
死因は病死か餓死とみられています。
73歳の父親は定年退職。
息子は引きこもりの生活を続けていました。
数年前から父親には認知症とみられる症状があらわれ、周囲の人たちとの交流もほとんどなくなったと言います。
近所に住む人:
「どんな生活をしているとか、私も含めて地域の人もご存じない」
支援が必要な家族がいるという情報を得た地域包括支援センターは、2016年9月から、介護サービスの申請を促すため何度も訪問しました。
しかし、会えたのは2回だけ。
そのときも親子は支援を断り、それ以上、行政は対策を取りませんでした。
包括支援センターの職員:
「無理に申請をしても、いろいろ署名も書いて頂かなければいけないので、いらないと言われてしまうと、そこからは進めないのが現状」
かつてセルフ・ネグレクトを経験した60代の女性です。
長年、認知症だった父親の介護に追われるうちに周囲との交流が途絶えていきました。
10年前に父親を亡くし、そのショックに加え、自らも糖尿病のために視力が低下、外出を控えるようになります。
セルフ・ネグレクトを経験した女性:
「週に2回、生ゴミを出す曜日があるんですけど、行きはなんとか所定の位置に置けたのに、帰り(目が見えなくて)自宅がわからなくなって情けない思いがしましたね、外へ出ちゃいかんのかなって。生活するだけでいっぱいで」
次第に生活環境が乱れ、家はゴミであふれていきました。
しかし、周囲への遠慮から助けを求めることができなかったと言います。
セルフ・ネグレクトを経験した女性:
「(近隣の人との交流や会話は)なかったかもしれない。私の方から働きかけることはできなかった」
さらに糖尿病が悪化し、地域包括支援センターの職員から治療をすすめられましたが、本人は深刻な状態だという自覚がなく、断ってしまいました。
専門家は、この女性のようにセルフ・ネグレクトになった人は、社会からの孤立が続く中で、次第に判断力が低下し、命が危険な状態になっても自覚できないと言います。
東邦大学看護学部 教授 岸恵美子さん:
「セルフ・ネグレクトと本人が思っている方は、ほとんどいないと思う。自分からSOSを出さないので、多くの事例は埋もれていると考えている」
2年前、女性は自宅で倒れていたところを、訪問した支援センターの職員に発見され、一命を取り留めました。今も生活に手助けが必要なため、介護施設で過ごしています。
こうした中、行政と住民が一体となってセルフ・ネグレクトの原因となる“孤立”を未然に防ごうという取り組みを取材しました。
人口およそ11万人の岐阜県多治見市。
いたるところに掲げられた孤立死ゼロを目指す協力隊のプレート。
市の呼びかけで、新聞配達や保険会社など86の業種が住民の見守りを行うため結成しました。
協力隊の1人、30年近く新聞配達を続けている永冶佳一(ながや・よしかず)さんです。セルフ・ネグレクトなどにつながる変化を見逃さないよう心がけています。
見守りを続ける中で、いち早く異変に気づき、住民の命を救ったことがあります。
協力隊 永冶佳一さん:
「新聞がたまっていて、出かけているかなと思って、一日様子を見て、次の朝、2階の窓が少し開いていて電気がついていて、これはちょっとおかしいなと思って市役所に電話した」
連絡を受けた市の職員が布団の中で倒れている高齢の男性を発見し、救急者で搬送。
男性は意識を取り戻しました。協力隊が結成されてから2年半で、3人の命が救われました。
セルフ・ネグレクトについて内閣府が2011年に全国の市町村に調査した結果、およそ1万1000人と推計されています。
しかし、当時は4割の市町村が回答せず、しかも同じような調査はその後行われなかったため、専門家は実際にはもっと多くの人がセルフ・ネグレクトになっている可能性があると指摘しています。
まずはより詳細に実態を把握し、支援する仕組みを作っていくことが必要ではないでしょうか。
取材:小尾洋貴記者
※この記事は、おはよう日本2017年2月14日(火) 放送 けさのクローズアップを基に作成しました。情報は放送時点でのものです。