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「産後うつ」こうして発見、悪化を防ぐ

記事公開日:2020年01月17日

出産した母親の10人に1人がかかるとされる「産後うつ」。重要なポイントになるのは、「早期発見」です。これまで、産後うつが発症する時期は個人差があるとされてきました。しかし近年の国の調査では、出産から2週間後をピークにした、およそひと月の短い期間にリスクが高まることが分かってきたのです。こうした時期に産後うつをどう発見し、悪化を防ぐのか。その取り組みを取材しました。

母親を襲う「産後うつ」

泣き止まない赤ちゃんをあやしたり、3時間おきに授乳したりと、出産後、特に初めての子育てを経験する母親にとっては生活が一変し大きなストレスにさらされます。また、産後すぐはホルモンバランスが急激に変化するため、精神の安定を崩しやすく産後うつの症状が出ることもあります。
症状が悪化した場合、感情のコントロールが難しくなり子どもに危害を加えてしまう恐れもあるのです。
産後うつを経験したある女性は、息子が生まれた直後、イライラすることが多くなりました。

産後うつを経験した女性:
「ふたりきりの時に泣かれると、何を対処していいか、わからなくて、おろおろするばかりで。子どもに追い詰められているような気がして…」

それでも、育児書通りのスケジュールをこなさなくてはと頭がいっぱいになり、心身共に疲れ果てていったと言います。

画像(産後うつを経験した女性)

産後うつを経験した女性:
「自分のことも息子のことも、どうしていいか、わからなくて、買い物の途中で横断歩道とか、高架下をのぞいて、抱っこしながら、ここから落ちようとか、いろいろ考えてしまった」

ポイントは“産後2週間”

こうした母親たちの異変に早くから気付き、治療につなげていく先進的な取り組みが東京 世田谷区で始まっています。

まず、早期発見を担うのが、産婦人科医院です。
出産後の健診は、生まれてから1か月が一般的ですが、そこでは2週間後に行なっています。

赤ちゃんの成長を見るだけでなく、チェックシートを使って、母親の精神状態も確認しています。はっきりした理由もなく不安になったり、恐怖感を覚えたりしていないか。10の項目について細かく答えてもらいます。

助産師:
「2週間、おうちに帰ってみて、どうでしたか?」

画像(母親に話しかける助産師)

健診に訪れた母親:
「夜、なんでかわからないけど、全く寝てくれないときは、寝てくれ!って。それ以外は(大丈夫)」

チェックシートへの回答を細かく検討し、産後うつのわずかな兆候も見逃さないようにしています。

健診に訪れた母親:
「1週間のあたまに入ったくらいで、あれもこれも聞きたいというのが増えた。このタイミングで1回(健診が)あったのは、自分としても助かった」

この2週間健診によって、出産から間もない母親の2割近くに産後うつの兆候が見られることがわかりました。

精神科医との連携

世田谷区での取り組みの最大の特長は、こうした早期発見だけでなく、精神科医とも連携していることです。

画像(医師、助産師、保健師が参加する会合)

毎月開かれている会合には、区内の産婦人科医や助産師、保健師のほか、精神科医も参加しています。診療科の違いを越えた繋がりで母親を救おうという全国的にも珍しい試みです。

産婦人科では、母親の異変に気付いても治療は行えません。
そこで、検診や自宅訪問などでうつの兆候が見られた母親たちを、精神科へスムーズに紹介できる仕組みにしました。

画像(国立成育医療研究センター こころの診療部 立花良之医師)

国立成育医療研究センター こころの診療部 医師 立花良之さん:
「産科だけで、メンタルヘルスが不調なお母さんのケアは完結しない。多職種がサポートしていくことが重要」

この仕組みに参加している世田谷区内の精神科クリニックでは、産婦人科医や保健師から紹介された女性たちを多く受け入れています。

週に1回、クリニックに通っている女性がいます。

画像(クリニックに通っている女性)

産後、夫も母親も全面的にサポートしてくれましたが、不安感は日に日に増していったと言います。

クリニックに通う女性:
「すごく恵まれた環境だったのに、私ひとりが不安定だったので、保健師から、この病院を紹介されて」

女性は、精神科の医師の診察を受け、授乳中でも服用できる薬を処方してもらいました。今では、症状を抑えることができています。

画像(クリニックおぐら 精神科医 生田洋子さん)

精神科医 生田洋子さん:
「お薬の使い方にも注意がいりますし、産後のうつは『時間がたつと治る』と思われていて、だからそれまで待とうという空気があって、早い段階から必要に応じて、いろんな連携がとれれば、わりと芽が小さいうちに断てる」

さらに、このクリニックでは、受診に訪れた母親が子どもと一緒に利用できるデイケアも行っています。

画像(デイケアのようす)

臨床心理士や看護師が常駐し、親子に寄り添いながら精神面に気を配ります。
女性は、臨床心理士にささいなことも相談することで、育児を楽しむ余裕が出てきたと言います。

クリニックに通う女性:
「ここに来てよかった。イライラすることもあるけど、元気に過ごしている」

この取材を通して痛感したのは、うつの悩みを1人で抱えて悪化させたり、自然に治ると思って手を打たずに放置したりしたケースがあまりに多いということです。
また、助産師などに話を聞くと、精神科を紹介しても抵抗感を抱く母親が少なくないほか、育児を優先する責任感の強い母親ほど自分の治療を後回しにしがちだといいます。

家族など周囲の人は、精神科への受診を本人の意思に任せるだけではなく、一緒に受診することを促したり、場合によっては本人に代わって医師と面談したりすることも必要だと感じました。世田谷区のような取り組みがほかの地域にも広がることが期待されます。

取材:野田綾記者(ネットワーク報道部)

※この記事はハートネットTV 2017年6月27日(火)放送「おはよう日本」けさのクローズアップを基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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