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2019年の福祉を振り返って 障害者福祉の課題と展望

記事公開日:2019年12月29日

2019年も障害者をめぐるさまざまな出来事がありました。それらのニュースを日本障害者協議会代表の藤井克徳さんとともに振り返るとともに、2020年に何が注目されるのか?障害者福祉の課題を考えます。

画像(藤井克徳さん) 【藤井克徳さん】
日本障害者協議会代表。障害の種別を横断して、権利擁護に長年取り組んできた。自身は視覚に障害がある。

引き続き注視すべき旧優生保護法問題

――旧優生保護法のもとで行われた強制不妊手術について、4月に「一時金支給法」が成立。その金額が320万円に。

藤井:結論から言えば、原告を含め、被害者の多くは満足していないと思います。法律ができたことは評価したいし、みんなが待ち望んでいたことです。ただ320万円という金額に多くの問題がある。例えば薬害エイズが4500万円、ハンセン病は、800万~1400万円。交通事故の生殖機能を失くした場合には、最低1000万ですんでね。こういった面から見ても、この金額は不十分です。金額以外にも「一時金支給法」という法律の名称も問題です。本来は、きちんと検証することを内容に明記したり、補償の対象を配偶者まで広めたりするべきでした。内容は全く不備と言わざるを得ません。

――5月には、仙台地裁が「旧優生保護法は憲法違反だった」という判断を示したものの、賠償は認めず、原告の訴えを棄却しました。

藤井:判決は「憲法にはたしかに違反している、しかし原告等の請求権は棄却する」という、大変わかりにくいものでした。私としては、司法の場で、「個人の尊厳を謳った憲法に違反する」と明言してほしかったと思います。と申しますのは、これは、知的障害者、精神障害者に被害が集中しています。つまり、ものを言いにくい人たちの問題でもあるわけで、従来の法律や慣行では裁ききれない、非常に深い問題を含んでいます。原告らの特徴や特性を配慮して判決を出してほしかった。非常に残念です。

原告控訴し、2020年1月20日から仙台高等裁判所で控訴審が開かれます。この問題は、日本の障害者政策史上、おそらく、最悪の問題でしょう。国の障害分野、あるいは人権分野の基準値にも影響するだけに、成り行きを見守っていきたいと思います。

旧優生保護法 旧優生保護法(1948~1996)のもとで行われていた障害者の強制不妊手術。
関連WEB記事:旧優生保護法ってなに?

どうなる?障害者雇用の水増し問題

画像(藤井克徳さん、宇野和博さん)

――次に、国の機関などによる障害者雇用の水増し(※)問題のその後について。問題の発覚後、障害者を対象にした試験が2回行われ、昨年度は754人、今年度は244人が合格。内訳は、精神障害63.1%、身体障害36.5%、知的障害0.4%。競争率は約19倍の難関でした。各省庁では法定雇用率2.5%の達成に向け、試験とは別に非常勤職員での採用も進めています。人事院では、3回目を実施するかどうかは、雇用率の推移や各省庁の意向を踏まえて判断するとしています。

藤井:まさに、前代未聞の水増し雇用。言い換えれば、雇用率を「偽装」したわけで、政府がどう対処するのか注目していました。今のところ、採用試験はやっているということで、今後も続けてほしいと思います。

ただ、2回目の採用試験の結果を見ると、たとえば、知的障害者は244名中1名です。今の、能力検定試験自体、知的障害者にはあまりにもハンデが大き過ぎます。障害者雇用というのであれば、入り口の検定制度自体を見直していくことも求められます。

―― 今の試験制度では、本当に障害者を採用したいのか、という印象があります。

藤井:そうですね。試験制度に加えて、「仕事の質」も考えなくてはいけない。「数字合わせ」でなく、働くとは何かということ、障害を持った人の生き甲斐や働き甲斐。働き方の質を含めて、民間に先駆けて国が率先して検討してほしいし、私たちも注視していく必要があると思います。

※障害者雇用の水増し 2018年、厚生労働省は、中央省庁の8割にあたる行政機関で合わせて3,460人の障害者雇用を水増ししていたとする調査結果を発表。
関連WEB記事:なぜ起こった? 国の障害者雇用水増し問題

重度障害のある議員誕生

―― 今年7月の参議院議員選挙で、重度の障害のある議員が2人誕生しました。

藤井:障害分野からすると、たいへんな朗報です。これまでも、堀利和さんなど、障害のある議員はいらっしゃったけれども、舩後議員はALS、木村議員も手と下半身の麻痺、いわば、重い障害を持った議員ですね。これは憲政史上おそらく初めてであり、国会の向き合い方も問われてくる、非常に大事な意味を持っている当選だったと思います。

――参議院議員の任期は6年ですが、この5か月あまりでも、いろいろな動きがではじめています。

藤井:お二人とも、議員活動を続けていく上で、労働施策と福祉施策の一体展開を求めています。労働への支援は、登院(一般で言う通勤)や、書類整理、ものを書くことなど、議員活動を続ける上で必要なことへの支援。それに加えて、福祉施策での生活面への支援、たとえば食事やトイレなどへの支援も必要です。後者の生活面への支援は福祉施策で、障害者総合支援法にありますが、前者の労働の場面、国会議員として働く場面では使えません。お二人とも「縦割り行政を破ろう!これが自分たちの最初の仕事だ」として頑張っていますが、なかなか壁が厚く、職場である参議院が、重度訪問介護費用を出すことで暫定解決しました。年を越えてこの問題はさらに表面化していくと思います。そういう問題は実は前からあり、私も含め多くの視覚障害者も職場が通勤支援の費用を出しています。以前から雇用施策と福祉施策の一体展開が求められていましたが、お二人の当選でクローズアップされました。今後も注目されます。

画像(藤井克徳さん、宇野和博さん)

忘れてはならない「津久井やまゆり園」事件

―― さて、2020年に注目されることとして、1月8日から裁判が始まる「津久井やまゆり園」事件があります。事件から3年、どのような点に着目なさっていますか?

藤井:19人の障害を持った人が亡くなり、27人が傷を負う大変な事件でした。この事件の本当の理由や、事件に至った経過、被告人の個別的な要因、彼を事件に駆り立てた背景要因についても究明してほしいと思います。

植松被告は事件を起こす直前に、衆議院議長宛に、「重い障害者は不幸しか作れない」という手紙を書いています。彼の優生思想はどの段階で培われたのかということ。

被告が育ってきた社会はちょうど平成期にあたります。事件までの26年間は、生産性や効率、速度、これらの価値基準が一番上位だったんですね。そういった風潮のなかでは、生産性のないものは劣るものだという考え方や価値観がありましたし、彼以外の人にもそういう影響はあったと思います。 3月にも判決がでる見通しですが、裁判でどこまで真相が究明されるか、しっかり見ていく必要があると思います。

――裁判の結果が出たら終わりということではありませんね。

藤井:犠牲者に報いるためにも、この問題を新しい議論の出発点にしていくこと。これまでの社会の流れは「上へ、上へ」だった。その、上に伸びた分、今度は、横の広がり=社会や地域の在り様、他者とのつながりや優しさ、文化などを考えるスタートラインにしてくこと。これが、この事件の大事な視点だと思います。

2020年の展望

画像(藤井克徳さん、宇野和博さん、高山久美子さん)

―― 2020年は、なんと言っても東京オリンピック・パラリンピック。何に期待されますか?

藤井:国家的な大きなイベントですし世界の祭典。とくにパラリンピックにはとても注目しています。優れた技や大きな記録には惜しみない拍手を送りたい。その一方で、高揚感だけには浸れないと思います。やはり、多くの障害者が置かれている状況から見ると、このオリンピック・パラリンピックを、1つのバネにしていきたいという思いがあります。例えば、駅のホームドアやユニバーサルデザインタクシーなどが、もっと進んでいくように、あるいは、使い勝手がいいように。

ホームドアもまだまだ少ない。今、東京では、480駅あるうちの2割は利用客10万人以上で、その中でホームドアの設置があるのは4割。10万人以下の駅では、設置率2割。全国平均では8%でしかない。こういった点もオリ・パラと一緒に進めてほしいですね。

――その他、2020年に気になることはありますか?

藤井:障害者差別解消法の改正があります。また、社会保障全体として、全世代型の社会保障改革も、年明けの国会で議論が本格化する見通しです。これは、障害者側からすると、給付減、サービスの減、あるいは負担増ということを心配されていますので、しっかり目配りをしていく必要があるだろうと。

こういった改正や改革にあたって、私たちは国連の障害者権利条約をベースに置くことが肝要です。条約の視点から考えれば、おのずと方向は出るはずです。そして、その障害者権利条約ですが、日本にとっては、2020年に大きな動きがあります。日本が権利条約を批准したのが2014年の1月、実は今年、初めて、国際舞台で国連がジャッジメントを下します。権利条約の進捗状況を審査して、その審査状況に評価を加えるんです。2020年の8月、ジュネーブでその場が設けられます。これについても、日本の障害分野全体として注目してほしいと思います。とっても、大事な2020年だと思います。

画像(藤井克徳さん)

※この記事は、2019年12月29日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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