性暴力の被害者たちが声を上げはじめています。2019年4月から、毎月11日には性暴力被害にあった当事者や支援者たちが街頭でスピーチする“フラワーデモ”が全国各地で開催されています。一方で、誰にも話せずに苦しみ続けている性暴力被害者がいます。家族や身内による性虐待や、被害者が男性の場合です。当事者たちの苦悩を届けるとともに、被害者のケアをどうすればよいか考えます。
性暴力の被害にあった人や、周囲の人たちが街頭で思いを伝えるフラワーデモ。全国各地に共感の輪が広がっています。群馬に住むみづきさんは東京でフラワーデモを見て、自分の地元でも開こうと動きました。きっかけは2つのことでした。
「自分が性暴力を受けたことによる、PTSD(外傷後ストレス障害)という病気から快復したいということがひとつ。もうひとつは、私には幼い娘がいますが、娘たちが被害者にも加害者にもならない保証はないなと、この社会を見て思って。2人の子どもを守るためにも、社会を変えないといけない。まず自分にできることは何かということで、フラワーデモを開こうと思いました」(みづきさん)
最初は不安でしたが、今では開催した手ごたえを感じています。
「やる当日まではすごく不安で怖かったです。今でも11日を迎えると不安になります。だけど参加してくれている方のなかで、『やってくれてありがとう』という声が思った以上に大きかったので、やってよかったと心から思っています」(みづきさん)
東京のような都会だけでなく、地方でも広がりを見せることは当事者にとって力になると、評論家の荻上チキさんは考えます。
「各地域で開くということは、自分たちの住んでいる場所を変えるということでもある。性暴力の多くは、知っている人、身近な人、家族であるとか友人であるとか、そうした人から受けることが多い。そうすると、自分の身近な世界、この世界を平和にする、安全にするという活動を重視することが必要になってくる。そういった意味では、各地域で声を上げやすくするのも大事です」(荻上さん)
番組に寄せられた声のなかには、周りの人にはまだ話しにくい、話せないという人たちの声もたくさんあります。
「小学校低学年のころ、毎夜寝室に兄が入ってきて私の布団の中を覗いていました。下着を下げられ、寝ている私の下半身を兄が見ていました。当時は兄の行為の意味が分からず、誰にも言いませんでした。成人してから『実は』と過去の話を家族にすると、『昔のことだから許してやってほしい』『大したことじゃない』と流されました。誰にも言えずに抱えてきたことを流され、非常にショックでした」(30代・女性)
家族や身内だと打ち明けにくいという被害者の声。これを聞き、女優でタレントの秋元才加さんは、想像もつかない状況に困惑します。
「当事者にとっては大変なことで、性被害に遭われているのだから。家族だと、どう対処していいのか、はっきり答えが見つかりません」(秋元さん)
荻上さんは、身内で性被害が起きたときの家族の心理を分析します。
「身近で起きたからこそ、正常性バイアスというか、『それくらい大したことない』とか、『そんなはずはない』ということで、被害者の告白を制止する。あるいはなかったことにする、あるいは小さなことにするという力が働きます」(荻上さん)
表に出にくい被害には、男性の被害もあります。
40代のヒロシさん(仮名)は小学生のときレイプ被害に遭いました。小学校4年の夏休みにまったく知らない男性から性的虐待を受け、自分自身を責め続けています。
「性虐待を終わって男性が自分の耳元のところで、『お前がやったことは悪いことなんだぞ』と。『これを人にしゃべったら警察に捕まるぞ』と言われて、言っちゃいけないことなんだなと。子どもの頭だと単純に、自分は悪いことしたんだなって納得するしかなかったのかなと思いますけど」(ヒロシさん)
今もそのときの光景が目に浮かび、性的なものへの拒否感を持ち続けてきました。家族や友人には、今なお被害のことを話せずにいます。
「もう自分のなかで解決してごまかしていく。事が事なので、なおかつ男性なので、『男なのに』とかってあるじゃないですか。だからその行動自体を自分で納得させて、『自分が悪かったんだ。だからしょうがないよ』って。忘れる努力だけはずっとしていますけど、忘れられないですね」(ヒロシさん)
公の場では話せないというヒロシさんが、多くの人に知ってほしいことを語りました。
「理解してくれる人が本当にいるのであれば、話して楽になるのだったら、話したいですよね。家族だったりとか、周りにいる友達だったりとか。実際に男性でもそういう被害に遭うということを身近に感じてほしい。それに尽きるしかないと思うんですけど」(ヒロシさん)
男性の被害にも目をそむけてはならない。誰にも話せないというヒロシさんの思いに、荻上さんは自身の経験から共感します。
「女性は13人に1人が強制的な性交を受けた経験がありますが、男性も67人に1人がそういった経験があると言われています。声を上げづらいということだと、僕も学生時代に同意なき性交というものをされた経験がありますが、それを友人に話せないでいました。ただ、さまざまな性被害を訴えている仲間たちの姿を見て、自分も実は昔こういったことがあったんだと(話せました)」(荻上さん)
そして、周囲に伝えることで救われる人がいることも知りました。
「自分の場合は抗拒不能の状況、意識がない状況での1回の強制性交だったので、一度の被害を訴えることにある種の躊躇みたいなものが働いていました。それは、『この程度で言ってもいいのだろうか』というものでした。でも、それを仲間に言うと、『その程度とか、これくらいという言葉は使わないでくれ』と。それは自分を苦しめるし、むしろそれを言ったほうが救われる人がいると、すごく励ましてくれました。だから、『私もこういった経験があるから、社会を変えたい』ということを次々と言いやすくしていくこと、それが非常に困難であることと、それを変えることが大事であることは実感しています」(荻上さん)
秋元さんも多様性の時代だからこそ、誰もが声を上げても恥ずかしくない環境にあると言います。
「このご時世、男だからとか女だからとか、いろいろなジェンダーがあるので、男性は特に『男らしく』ということがあると思いますが、そういうことなくしっかりと声を上げて、それは恥ずかしいことではないと思います」(秋元さん)
フラワーデモの発起人の1人で、作家の北原みのりさんには、多くの人たちに知ってほしいことがあります。それは、被害者の声を受け取った人が性暴力についてもっと知ることです。
「被害者は、今までずっともがきながら伝えようとしていました。だけど、それを聞く力が私たち社会の側になかったのだなと、突きつけられています。今問われているのは、聞いた声を私たちがどのように受け止めるのか、それを考えたいです。もうひとつは、被害は暴力的な中で行われるよりも、笑いながらとか、ふざけながらとか、渦中にいると暴力とは分からない中で行われることが多いです。加害者自身も『ふざけていたのに』『遊びだったのに』『恋愛だったのに』と思ってしまう。だから、性暴力はどのような暴力なのか、私たちが知っていくことが大切だと思います」(北原さん)
これから社会はどうあるべきで、何が加害者をなくして被害を減らすのか。荻上さんは、まずは社会全体で議論が必要だと主張します。
「来年に刑法を改正するかどうかということで注目をされています。法律をどうするのか、あるいは社会が相談を受ける体制をどうするのか。そうしたことも議論が必要だと思います」(荻上さん)
そのうえで、今後は声を受け取った私たちの側が問われていると考えます。
「多くの被害者の声を少しずつでも聞き続けるということ。北原さんも話されていたけど、声なき声が声になりつつある面もあるが、それを無視するか、それとも聞いたうえでどうするのかということが社会で問われていると思う。こうしたひとつひとつの声に耳を傾けたうえで次の社会を、これをなかったことにせず、どうするのかという話し合いの場を設けなくてはならないと思います」(荻上さん)
最後に、番組に届いた声を紹介します。
人として大切であろう“性”の部分が性暴力によって揺るがされる時、同じく大切な“生”も揺さぶられることを、多くの人に知ってもらいたいです(ゆきさん)
性暴力やあらゆる暴力や差別に遭ったみんなへ。あなたのせいじゃない。悪いのは加害者と、わかろうとせず知らないふりをする残酷な人々の態度だ。(南檸檬さん)
あなたは悪くないよ。だから自分を責めないで。だれか信頼できる人に相談してほしい。きっと、1人は味方がいるよ。(sunaさん)
ハートネットではこれからも、勇気を持って声を上げた人たちの声を受け止め、より良い社会にしていく方法を考えていきます。
【特集】性暴力はいま
(1)デジタル性被害 終わりのない苦しみ
(2)未成年が陥るデジタル性被害
(3)声を上げはじめた被害者たち
(4)みんなに知ってほしいこと ←今回の記事
(5)みんなに“もっと”知ってほしいこと
※この記事はハートネットTV 2019年12月11日放送「性暴力2 生放送 みんなに知ってほしいこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。