ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

【特集】首都直下地震が起きたら(2)避難に必要な備え

記事公開日:2019年12月04日

障害のある人が避難するためには、どのような備えが必要なのでしょうか。それぞれの障害に合わせて備える方法や、災害発生時に役立つグッズの紹介とともに、どんな障害であっても欠かせない「人的支援」についても考えます。

日頃から必要なものを備える

首都直下地震が起きたら、障害のある人が実際に避難する場合、どんな備えがあればいいのでしょうか。日頃から必要なものを備えている男性を取材しました。

武蔵野市に住む安東博さん(60歳)です。脳性まひ・車いすユーザーでヘルパーが24時間、生活を支えています。

画像(ベッドに横になる安東博さん)

かつて岡山の障害者支援施設で生活していた安東さん。95年の阪神・淡路大震災や2000年に起きた鳥取県西部地震を経験しました。

「(鳥取県西部地震では)3畳ぐらいのところで排尿介助をしてもらってたんです。僕の左横には洗濯機とその上に乾燥機が置いてあって。かなり揺れている状態だから慌てて車いすをバックさせた」(安東さん)

安東さんは14年前から東京で自立生活をしています。いつ起こるか分からない災害、日頃からの備えを欠かしません。

電動車いすの後ろには、ハザードランプをカスタマイズ。非常時に自分の存在を周囲に知らせることができます。車いすの下には電源をつけました。携帯電話の充電やUSBで稼働する電気毛布に使用できます。

常に持ち歩いているリュックには、身体を拭くための衛生用品。そして尿取りパットも常時15個用意しています。1週間分の薬と、過去10年分以上のお薬手帳もあります。

画像(安東さんがいつも持ち歩いている防災グッズ)

ほかにも防水用品など全部で20種類以上のグッズがぎっしり。なかでも大事にしているのが、自治体で配布されたヘルプカードです。

「ここに僕の必要な情報が入っています。(僕の)取説ですね」(安東さん)

薬のある場所や車いすの動かし方について、災害時など、初めて会う支援者に必要な情報を伝えるために用意しています。

当事者のニーズを洗い出すヘルプカードとチェックキット

安藤さんのヘルプカードには、必要なものや要望、できることなどがまとめてあります。
たとえば、コミュニケーションの重要事項として、「私に用があるときは直接言ってください。関係があることは私を抜きに決めないでください」と書いてあります。また、避難生活で自分にできることとして、「障害者への助言や通訳的なこともできると思います」とありました。

画像(安東さんのヘルプカードを一部抜粋したもの)

発達障害(ASD:自閉症スペクトラム障害)がある菊地啓子さんと、視覚障害(重度の弱視)がある吉本浩二さんは、安東さんのヘルプカードについてどんな気づきがあったのでしょうか。

画像(菊地啓子さん)

「障害があるからといって必ず、何もかもできないということじゃなくて、ふだんから自分の必要最低限、これがあれば安定的に暮らせるっていうシンプルな状態を把握しているというのはすごく大事なこと。あとは、ご自身ができること、私もそうなんですけど体自身は元気なら動くわけですから、人にどういったことができるか、ということをきちんとまとめることは大事だなと思いました」(菊地さん)

画像(吉本浩二さん)

「ヘルプカードを準備できていなくて。私は視覚障害なので、相手の方がどこにいるのか見えないんですね。だからそのとりあえず声を出して、『声をかけてください』ということとか、そういったことを書いておくといいのかなって思いました」(吉本さん)

評論家の荻上チキさんは、ヘルプカードのように自分の状況を発信することは大事だと言います。

画像(評論家 荻上チキさん)

「こういったことをまとめたことによってニーズが分かって、何を備えなくちゃいけないのかということが分かります。人によって書くべきものが違うと思うんですけど、何が書けていないのかということを考えることが防災につながると思います」(荻上さん)

自分の備えについて何が足りないのか確認するためのキットもあります。車いすユーザーで、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の硯川潤さんが開発しました。

画像(硯川さんが作ったキット)

※「障害者のための災害対策チェックキット」は、記事の末尾にあるリンクからダウンロードできます。ぜひ、ご活用ください。

このワークシートでは、まず「わたしの身体」、「わたしの生活」というふうに、自分が日常どういう障害があって、それをどうモノや人的支援で補って暮らしているのかを、網羅的に考えることから始めます。

画像(国立リハビリテーションセンター研究所 硯川潤さん)

「私を含めて、障害者の方って自分の何らかの身体の機能の衰え、不具合を、モノ、ないしは人による介助などで補って暮らしているんですね。ところがいざ災害が起きると、そのどれかが使えなくなってしまう。そういうものが使えなくなるんだったら、こういう対策が必要だろうという対策を洗い出す、そういう役目を持ったキットです」(硯川さん)

災害発生時に役立つグッズ

災害時、いろいろな役立つグッズがあります。

画像(災害発生時に役立つグッズ)

【コミュニケーションや情報収集に役立つもの】
・絵で言葉や気持ちを伝えるカード
・筆談ボードや耳マークのグッズ(聴覚障害があることを支援者に知ってもらうため)
・家族写真(とくに視覚障害のある人が家族と離れて被災した場合、周りの人に家族の顔を知らせて、探してもらうのに役立つ)

【移動・交通】
・手袋やスリッパなどの履物(ガラスなどでケガをしないため)
・メジャー(車いすが道路を通れるのか、道路の状況が変わったときに事前に測るため)

【飲食・健康・排泄】
・食べ物や水など
・簡易トイレ、オムツ
・ぬいぐるみやお気に入りの毛布(環境が変わっても気持ちを落ち着かせられる)

発達障害のある菊地さんは、スタジオにもお気に入りのぬいぐるみを持参していました。緊急事態や緊張が続いている場面で理解が追いつかなくなったときに、気持ちをリセットするために必要なのだと言います。

人的支援も不可欠

役立つグッズをそろえることも大事ですが、一方で、人的な支援も欠かすことができません。万全の備えをしているように見える安東さんも、人的支援については不安があると言います。

安東さんが暮らす地区には、障害のある人や1人暮らしの高齢者など、災害時に支援が必要な人が30人ほどいますが、支援者の多くは高齢。災害時に支えることができるのか、不安を抱いています。

画像(座って話す安東博さん)

「確認に来られる方は高齢で、その人がブロック塀が倒れているところを通ってくること自体が本当にできるかどうか。僕が逃げられないところに、確認にお年寄りが来ること自体が無理だと思う」(安東さん)

安東さんは万が一のときは地域の支援が必要で、自治体の避難行動要支援者名簿にも登録してあります。しかし解決策はまだ見つかっていません。

地域とのつながりをどう作っていくか。福祉防災学が専門の同志社大学教授・立木茂雄さんは、障害のある人だけでは難しいと言います。

画像(同志社大学 教授 立木茂雄さん)

「つながりを作ることも、障害のある方だけに任せるのではなくて、たとえばサービスを利用しておられるのであれば、サービス等利用計画という、さまざまな公的なサービスとつなぐことはされますよね。あわせてですね、お隣近所といざというときのために関係性をつないでいただくことまでも含めたサービス等の利用計画ですから、そこまで踏み込んでいかないと。いざというときには孤立してしまう方が出てくる」(立木さん)

硯川さんは、地域からの支援についてはほかにも課題があると話します。

「障害をお持ちの方が何を必要とされていて、発災時にどういう支援が必要かというのをきっちり割り出すのって、ものすごく専門性がいることなんですね。防災のことも知らないといけないし、障害についてももちろん知っておかないといけない。そこの部分の人材育成みたいなことが今後、社会のなかで重要になってくると思います」(硯川さん)

災害時に障害のある人を支援するためには、当事者、行政、周りの地域が一緒になって考えていくことが必要です。

【特集】首都直下地震が起きたら
(1)「避難できない」をなくすために
(2)避難に必要な備え ←今回の記事
(3)避難経路と避難所での課題
(4)誰も取り残さない防災

※この記事はハートネットTV 2019年12月3日放送「誰も取り残さない防災 首都直下地震が起きたら 前編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事