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【特集】首都直下地震が起きたら(1)「避難できない」をなくすために

記事公開日:2019年12月04日

もしも首都直下地震が起きたら、その時あなたはー?番組には障害のある人たちから「たとえ大地震が起きても避難できない」という声が寄せられました。避難を諦めないために、障害のある人たちは、どんな備えや支援が必要なのでしょうか。

大地震が起きたら 障害者の不安

今後30年の間に、震度6以上の地震が70%以上の確率で発生する可能性が高いとされる東京。

東京都内で1人暮らしをしている吉本浩二さんは、視覚障害(重度の弱視)があります。予想される首都直下地震に戸惑いを隠せません。

画像(吉本浩二さん)

「なんの心構えもできていなくて、もし本当に地震が起きて逃げなきゃいけなくなったら、私、視覚障害があるので、この白杖を持って逃げることぐらいしか考えられてないです」(吉本さん)

吉本さんのように、まだ防災対策ができていない人は少なくありません。

そこで、地震が発生した場合にどのように対応すべきか、地震発生時から避難するまでの初期の行動について考えていきます。

画像(地震発生時の図)

2019年12月の第1週、NHKでは、「体感・首都直下地震ウィーク」として様々な番組で防災・減災について取り上げました。東京23区を震源とする最大震度7の直下型地震が12月の平日、午後4時4分に発生した場合を想定しています。想定される被害は、建物の倒壊、火災や液状化現象、交通やライフラインの寸断などです。

札幌在住で2018年に起きた北海道地震の経験がある菊地啓子さんは、発達障害(ASD:自閉スペクトラム症)。もしこのような大地震が起きたとき、どんな不安があるのでしょうか。

画像(菊地啓子さん)

「普段から私、毎日が災害みたいな感じなので、まずは冷静になること。1度大きい揺れを体験しているんですけど、何が起きたかをまず受け止めて理解するのに時間がかかったので、もともとそういうパニックには慣れているけれども、何が起きて、じゃあどうすればいいか、というところまで切り替えられるように、と思います」(菊地さん)

避難ができない 震災経験者の声

障害のある人は、さまざまな制約があるため、避難するには困難が伴います。

画像(リポーター 千葉絵里菜)

脳性まひで電動車いすを使用しているリポーターの千葉絵里菜さんは「私の周りでは避難できないんじゃないかという声がとても多い」と話します。

実際に、障害のある人が震災でどのような体験をしたのか、千葉さんが取材しました。

2018年9月に起こった北海道地震。44人が亡くなったこの地震では、障害者が避難できない事態が相次ぎました。

画像(ケース1 停電でエレベーターが止まり、マンションから出られなくなる)

道内全域で、大規模な停電が発生したため、エレベーターが使えなくなり、部屋に閉じ込められた人がいました。

「停電じゃんみたいな。ああ、エレベーター動かないんだ、みたいな」(門馬裕喜さん 先天性関節拘縮症・電動車いすユーザー)

画像(ケース2 玄関の荷物が崩れ、家に閉じ込められる)

さらに倒れた荷物が玄関をふさぐなど、自力では外に出られなくなってしまった障害者も。

「正直怖かったですけど、もうあとは発見を待つしかないと思って」(佐藤成二さん 横断性脊髄炎・電動車いすユーザー)

石森祐介さん(34)は脳性まひで電動車いすユーザーです。宮城県東松島市で東日本大震災を被災しました。家族と暮らしていた自宅で地震に遭い、津波から避難することができずに命を落としかけたと言います。

画像(石森祐介さん)

震災当時の石森さんの自宅は海から2キロ。その家は津波で浸水し、解体されて更地となっています。

千葉さん「地震が来たときは、どう感じられていたんですか?」
石森さん「いろいろ考える余裕も何もなかったと思いますね」

自力では逃げられず、家族の帰りを待っていた石森さん。地震から45分後。帰宅した母と祖母の助けを借りて、避難を始めると・・・。

「ちょうどそのときに津波が来て、自宅の玄関から水が入ってくる様子が見えたので、これはもう外に出れないなっていうのはすぐわかりました。手遅れでしたね」(石森さん)

東日本大震災では、逃げ遅れたり、避難できなかった障害者が多く、その死亡率は住民全体の死亡率の2倍に上りました。

石森さんは家族に手伝ってもらいながら、自宅の2階に避難。何とか一命をとりとめました。

画像(震災の体験を語る石森祐介さん)

「家で1人でいてもおかしくない時間帯と日にちでしたので、もし1人で仮に震災があって被災していたら、たぶんパニックになって水死してたか、凍死してたかのどちらかだったかなって」(石森さん)

普段から備え、常に避難を意識しよう

障害を理由に避難をあきらめる人を出さないためには、どうしたらよいのでしょうか。

番組には、避難するときに迷うという声がたくさん寄せられています。

「隣にいる人とも会話が難しい難聴です。ひとつの言葉もわからない不安を抱えての状況を想像すると避難は難しいです」(恭子さん 女性)

「避難をあきらめています。電動車いす、エレベーターが止まると脱出不可能です。加えて酸素が大量に必要な私は酸素濃縮器が2台必要です。いろいろハードルが高くて無理そうです」(ゆきさん 北海道 女性 40代)

「台風19号でも、東日本大震災でも、食物アレルギーをもつ子とその家族は避難所にいけませんでした。炊き出しも原材料表示をお願いすることが難しいと感じます」(ひろさん 福島県 女性 40代)

発達障害のある菊地さんは、災害時だけでなく、被災後の生活にも不安があると言います。

「熊本地震で被災した人も、それから私自身も体験したことですけど、健常の方が普段自由にできたことができなくなることのストレスとかを、精神疾患とか私たちみたいな感覚的な難しさがある人は、すごく敏感にキャッチしやすい。災害そのものには驚かなかったとしても、ほかの人のストレスを大きいあおりとして受けて、それがすごく長期的には寝ることもできないストレスになるかなと思います」(菊地さん)

避難の判断が難しいという声に、福祉防災学が専門の同志社大学教授・立木茂雄さんは、とっさの判断には普段からの備えが必要だと話します。

画像(同志社大学教授 立木茂雄さん)

「判断というのは、実は2種類あります。1つは初めての体験の場合、熟慮の判断のプロセスが働きます。『これだけでは十分じゃないから、もっとこの状況をはっきりさせよう』と、もう1度情報の入手、というように繰り返しが起こってしまいます。行動が起こるまでにものすごく時間がかかってしまう。もう1つの判断のプロセスは、直感による判断です。直感をいかにして早く作動させるか。直感というのはまるでスイッチのようなもので、そこを押すとアクションが起こる。けれども、この直感を働かせるためには、普段から準備をしておいて、どんな脅威があり、どんな備えを普段やっていて、とっさに何をしたらいいのか、ということが自動で発動するような備えをしておかないと、直感は動かない。ここがポイントだと思います」(立木さん)

そして、避難する際の判断のバロメーターとなるのが情報です。防災無線、緊急速報メール、自治体のSNS、テレビやラジオ、災害時に立ち上がる災害用伝言ダイヤル(171)などのほかに、身近な人との情報交換や安否確認などもあります。

こういった情報をどう活用していけばいいのか、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の硯川潤さんにお聞きしました。

画像(国立障害者リハビリテーションセンター研究所 硯川潤さん)

「たくさんの種類の情報が一挙に押し寄せてくるので、日常的に『こういう場合だったらこうかな』というシミュレーションを頭の中でしておかないといけない。直感は、日常どう考えたか、ということに支えられて初めて災害時に発動するものだと思うので、こういった情報をきっちり取捨選択するためにも、日常的な習慣の中で、我々は考えておかないといけないと思います」(硯川さん)

地震は突発的に起こります。だからこそ、いつ地震が起きてもいいように普段から備え、常に避難を意識しておくことが大事になってくるようです。

【特集】首都直下地震が起きたら
(1)「避難できない」をなくすために ←今回の記事
(2)避難に必要な備え
(3)避難経路と避難所での課題
(4)誰も取り残さない防災

※この記事はハートネットTV 2019年12月3日放送「誰も取り残さない防災 首都直下地震が起きたら 前編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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