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避難所生活への不安 ~誰も取り残さない防災(2)~

記事公開日:2019年11月27日

東日本大震災では、避難のときに誰かの手助けが必要な「要支援者」たちが逃げ遅れ、亡くなっていたことが明らかになりました。さらに、避難できたとしても、障害のある人にとって避難所生活にはさまざまな困難が伴います。2015年9月、関東・東北地方を襲った豪雨災害で起きたことを検証しながら、何ができるのかを考えていきます。

避難所で直面する困難

障害のある人や高齢者は、避難所にたどり着いてからもさまざまな困難に直面します。
避難所生活への不安の声は、当事者アンケートでもたくさん届いています。

「避難所に行っても聞こえないため、役所の人などの案内指示がわからない」(聴覚障害・63歳・女性・奈良)

「避難所に行ったため、その後の精神状況が不安定となり、後の生活が困難になる可能性を心配する」(発達障害・鳥取)

「風邪でも命取りになる難病なので、大勢の人が集まる場所は危険も高まる。家の中にいられない状態なら、庭や公園や車の中で過ごすと思う」(難病・呼吸器ユーザー・24歳・男性・愛知)

そこで、国が全国の自治体に呼びかけたのが、「福祉避難所」の整備です。専門のスタッフや、それぞれのニーズに対応した設備を整えるなど、要支援者でも避難生活が送れるよう配慮されています。

番組が2016年に行った自治体向けのアンケートでは、「一か所でも指定している」と答えた自治体を含めると、9割を超える自治体が福祉避難所を整備していると答えています。

しかし、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の硯川潤さんは、福祉避難所にも不安を感じています。

画像(硯川潤さん)

「特殊なものを使って生活していると、自分の家の中が一番自分の体の状況にフィットしているんですよね。なので、もう根本的な欲望、欲求として自宅にずっと居続けたい、というのがあるんだと思います。もうひとつは、そういう特殊なものが、福祉避難所に行って手に入るかどうか。もしかしたら手に入るかもしれないし、入らないかもしれないし、そもそも情報が出てない」(硯川さん)

機能していない福祉避難所

国が全国の自治体に呼びかけて整備された福祉避難所ですが、災害のときにどれくらい機能しているのでしょうか。

2015年9月、関東・東北地方を襲った豪雨災害で被災して、浸水した自宅から救助された斉藤哲雄さんと純子さんは市の体育館に身を寄せました。ホッとしたのも束の間、新たな困難が待ち受けます。避難してきた人たちで混雑する体育館は、ともに視覚障害があるふたりにとって、歩くことさえままならない状況でした。

画像(斉藤哲雄さんと妻の純子さん)

「炊き出しがあるでしょ。外。つゆ物は持ってくるの大変なんですよ。うどんとか煮物とかこぼれちゃう、斜めになっちゃう。目が悪いからここまで持ってくるの大変だった」(純子さん)

最も大変だったのがトイレです。毎回誰かの手を借りなければたどり着けなかったため、何度も我慢したと言います。

こうした事態に備え、常総市は5つの高齢者施設と1つの障害者施設との間で、福祉避難所の役割を担ってもらえるよう、協定を結んでいました。

しかし斉藤さん夫妻が福祉避難所に移れたのは、災害が起きてから3週間後。なぜこれほど時間がかかったのでしょうか。

実は、福祉避難所の協定を結んだのは、防災を担当する安全安心課でした。一方、日頃から障害者への支援を担当しているのは社会福祉課。両者の間で情報共有が不十分だったため、障害のある人を福祉避難所につなげることができなかったのです。

さらに、福祉避難所の役割を担った施設からは、新たな課題が指摘されています。

斉藤さん夫妻を受け入れた障害者支援施設かしわ学園の園長、中川哲人さんは協定を結んだものの、どれぐらいの人を受け入れるのか、介助にあたるスタッフをどう確保するかなど、詳しいことは何も決められていないと言います。

画像(中川哲人さん)

「(災害時に)50人とか、もしも100人来てしまったらば、確かにかしわ学園としてはもう、手の打ちようがないというふうな状況にはなると思います」(中川さん)

常総市では要支援者のニーズにより細やかに対応できるよう、体制を整えていきたいとしています。しかし、社会福祉課の担当者は問題点も感じているのが現状です。

「とりあえず結んでおこうという流れでやってきた弊害が出ている。真に本当にこういった場合はどうしようというのを検証しながら作ったものでないので、現実になったときに、何それっていう話で、なってたというのが現実ですね」(常総市社会福祉課担当者)

国立障害者リハビリテーションセンター研究所の硯川潤さんは福祉避難所の必要性を感じていますが、現状のあり方には疑問を持っています。

「障害者、高齢者に特化したハードというのは必ず必要になってくるとは思うんですけど、今のそろえ方が正しいのかは疑問があります。例えば、私は頸髄損傷という障害種別ですが、一緒の障害種別で、ほぼ一緒のレベルでも、ちょっとした具合の違いで、使っている物とか必要なサポートって全然違う場合があるんですよね。なので、どれくらいの、どういう人が利用するかをわかってない状態で指定することって、本当は無意味なんですよね」(硯川さん)

さまざまなニーズに福祉避難所が対応できないかもしれないという点は、自治体側も気付いています。2016年にNHKが行った自治体向けのアンケートからも明らかです。

「高齢者への対応についてはある程度整っていると思うが、障害者の対応ができていない」
「障害種別ごとの収容先の区別は行っていないため、不十分な点がある」
「要支援者の声を聞くなどの配慮を行っていないため、完全にニーズを満たせていないものと考える」

問題点を解決するカギは、日頃から要支援者と話し合うことだと、同志社大学教授 立木茂雄さんは提案します。

画像(同志社大学 教授 立木茂雄さん)

「解決策は声を聞くことなんですよ。話し合うことなんですよ。それが個別の支援計画というもので、この方はどんな支援が必要なのかというのは発災前から聞いていたら、福祉避難所でどんなタイプのものをどれくらい用意しなきゃいけないのかというのは、個別の計画を積み重ねていったら、全体の量が見えてくるんですね。そんな形で本来は進めなきゃいけない」(立木さん)

誰も取り残さない防災 要支援者1800人の声から
(1)災害時の備え
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(3)大災害に備え、一人一人ができること

※この記事はハートネットTV 2016年3月5日放送「誰も取り残さない防災~要支援者1800人の声から」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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