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リスクを学び、災害に備えよう!~避難するとき、自宅での備え~

記事公開日:2019年11月22日

もし大きな災害に遭った場合、障害のある人はどんな行動をとればいいのでしょうか。大災害ともなると、発生直後には行政などからの支援が届かないことも考えられます。いざというときに自分の命を自分で守れるように、どんな備えが必要なのか。視覚障害のある人のケースから、次なる災害に対する備えについて考えます。

気をつけたい災害のリスク

災害はいつ起こるかわかりませんが、起こった場合に備えて、危険箇所や避難場所などを事前に把握することはできます。そこで役に立つのが、自治体が作成したハザードマップです。

堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 点字図書館長の原田敦史さんは、ハザードマップの内容を知ることは、リスクを知る上で重要だと言います。

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原田敦史さん

「ハザードマップを一度確認しておくと、自分の住んでいるところにどんな被害があるのかイメージしやすくなります。2018年の岡山の西日本豪雨のときには、市が作成していたハザードマップと実際に浸水していたエリアがほぼ一致していた、ということがわかっています」(原田さん)

原田さんは、日本盲人福祉委員会や全国視覚障害者情報提供施設協会の役員としても活動し、視覚障害者の防災対策に長年かかわっている経験から、ハザードマップの内容は年々充実してきていると言います。

しかし、見えない、または見えにくい視覚障害者にとって、ハザードマップの内容を確認することは簡単ではありません。自分が住んでいる地域のハザードマップが気になるけれど、自分では確認したことがない、という方も多いようです。

全盲の城谷直人さんもその1人。城谷さんは中途失明で49歳。東京都江戸川区のマンションに1人で暮らしています。

江戸川区では2019年5月、水害に関しての詳細なハザードマップを掲載した大判のカラー冊子を作り、区内の全戸に配布しました。この冊子の表紙に書かれているのは、「ここにいてはダメです」の太い文字。

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江戸川区が配布したハザードマップの一部

実は江戸川区は、海抜ゼロメートル地帯がほとんどで、高潮や大雨などでは多くの地域が水に浸かることが想定されています。そして、避難先として、千葉や茨城、埼玉、神奈川、東京西部の浸水のおそれがない地域へ、と矢印が示されています。区内にとどまるのは危険、とはっきり書いたことで、大きな反響を呼びました。

城谷さんも気になり、ホームページの読み上げソフトで読めるところは読んだものの、ハザードマップそのものは読めません。詳しいことを聞くため、区役所に出向きました。

説明にあたったのは、江戸川区防災危機管理課統括課長の本多吉成さん。江戸川区の地勢を表した立体模型を実際に城谷さんに触れてもらいながら、河川の場所や地域の高低差などを説明します。

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説明を受ける城谷さん(左)と、江戸川区防災危機管理課統括課長 本多さん(右)

「城谷さんのお住まいの西葛西駅というのはここらへんで、隣が荒川、中川の堤防で、堤防よりも低い。西葛西の南側に区画整理をやった地区があり、そこがお住まいのところよりちょっと高くなっているのがおわかりいただけるかと思います。ここは大規模な水害が起こっても水没しないエリアになります」(本多さん)

本多さんは、このほかにも高潮と津波の違い、城谷さんが住んでいる地区の浸水の深さや時間、水害以外のときの避難所はどこが近いかなど、指で地図をなぞって詳しく教えてくれました。

水害の場合にとるべき避難行動とは

多くの地域が水に浸かるという江戸川区。では、浸水への備えはどのようにしたらいいのでしょうか。
本多さんと原田さんは早めの行動と、いくつかのケースを想定しておくことが重要と訴えます。

「大規模な水害が発生すると浸水もかなりの深さになりますし、浸水の継続の時間が長いことから、区民全体に広域避難を呼びかけています。障害者の方も含めて、ご自身で動ける方であれば、ぜひ日ごろから広域避難について考えていただきたい。台風や水害に関しては、何日か前から予想が可能になりますので、その段階で広域避難をしていただく。そのためには、事前に広域避難先を考えていただくことが必要になってくると思います」(本多さん)

画像(江戸川区ハザードマップ表紙)

「災害弱者の方が深夜に移動するのはなかなか難しい。そこで、あらかじめ被害が予想されるようなケースでは、早めに対応することが必要です。そのためには、広域避難でどこに逃げるのか、実家か、友人宅か、親戚宅か、ということを決め、相手にも事前にお願いしておく必要がある。災害によっては、自宅のほうが安全というケースもあります。日頃から複数の想定を持っておくことが大事です」(原田さん)

区役所を訪ねた城谷さんは、地震のときの避難所として、近所の小学校があると説明を受けました。そこで、自宅から小学校までの道順や距離、危険なブロック塀はないかなど、確認しながら歩いてみたそうです。

「初めて行きましたが、そこまで行けても、門がわからないと学校に入れないことがわかったので、少し歩行の練習をしなきゃと思いました」(城谷さん)

「ご家族で住んでいる人も含めて、1人で行けるかどうか確認をしてほしいですね。ふだんのルートが使えなくなることも想定し、できれば複数のルートを知っておきたい。門や入り口を知ることは非常に大事です。歩行訓練が受けられる方は、ぜひ受けたらいいと思います。避難所まで遠くて逃げられないという方も、人通りの多い通りまで1人で出られれば、そこからは誰かに手引きをお願いして一緒に避難することも可能かと思いますので、途中まで出る訓練もしていただければと思います」(原田さん)

自宅でできる備え

災害が起きたとき、避難所へ行けずに自宅で過ごさざるを得ないことも考えられます。その場合、どんなものを備えておけばよいのでしょうか。原田さんにお聞きしました。

・ガラスには飛散防止フィルムを
阪神淡路大震災のとき、割れたガラスの上を歩いて足をケガし、逃げにくくなったという方が多くいらっしゃいました。見えないとガラスを避けることも難しいので、スリッパや靴の準備のほか、ガラスが割れないようにすること、また、割れても飛散しないようにするのが大事です。

・簡易トイレ、携帯トイレ
ホームセンターでいろいろ売っています。凝固剤と袋がセットになっているものなどが手軽で、水がなくてもトイレを使うことができます。1日平均5回トイレに行くとすれば、1週間分で1人35個。値段的にも1つ100円から500円くらいです。

・非常食の中に、気分があがる高級な缶詰やチョコを
非常食の中に、高級な缶詰など、好物を入れておくと、災害で気分が落ち込んだときに、少し気分をアップさせることができます。また、災害直後はアルファ米などはなかなか食べる余裕がないので、ちょっと高級なチョコなどで日持ちするものがあると、前向きにもなれます。

・家族の写真
家族とはぐれてしまった場合に、見えないと1人では探すことができませんね。誰かに頼んで探してもらうためには、家族の写真がとても大事です。最近は携帯、スマホで撮ることが多いですが、できれば、プリントしたものを持っておくといいですね。

画像(城谷さんが準備した防災グッズ)

視覚障害のある人については、「お住まいの地域の点字図書館などに利用者登録をしておくこと」がとても大切だと原田さんは言います。

「地域の点字図書館などに利用者登録をすること。その時に携帯電話の番号もあわせて登録することが非常に大切です。避難所では携帯しかつながりませんよね。これまでの災害でも、携帯電話を登録しておいたことで、発災から早い時期に支援につながった例が多くあります。携帯電話の登録をしたかどうか忘れてしまったという人は、すぐにでも点字図書館に電話して、確認していただきたいと思います」(原田さん)

いつ起きるかわからない災害。だからこそ、積極的にリスクを学ぶことが、備えの第一歩と言えそうです。

※この記事は視覚障害ナビ・ラジオ 2019年9月29日放送「特集 リスクを学び、災害に備えよう!!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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