ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

虐待を防ぐには ひとごとではない子どもの虐待

記事公開日:2019年11月20日

近年、注目されることの多い子どもの虐待。国や自治体も緊急に対策を進めている一方で、親に対する厳しい批判の目も向けられています。番組には「虐待はひとごとだとは思えない」という切実な声が…。虐待を防ぐにはどうすれば良いのか、必要な支援策について、親の立場から考えます。

虐待はとても身近な問題

子育て世代の親が気になる問題のひとつ、虐待。
「虐待する親に怒りが収まらない」「子供を産み育てる資格のない親が多い」など、親を批判する声がある中、番組には「批判や規制をするだけでなく、子育ての現実も分かってほしい」という声も届いています。

3人の子育て中で、長男は足に障害があるマルベリーさんと、8年前に妻を亡くした後、3人の息子の子育てを一人で担ってきたライオンさんは「虐待はひとごとではない」と感じているといいます。

画像(マルベリーさんとライオンさん)

マルベリーさん「子どもが生まれる前までは、自分が感情的に怒る人間ではないと思っていて、虐待とか、自分と全く無関係な話かな、と思っていたんですけど…。長男は障害がある子なので、人よりも子育てが大変な状況だということは、生まれてからじゃないと分からない状況だったりして。誰しも最初に思っていたものとは違う状況に陥ってしまうのかなと思いました」

ライオンさん「妻を亡くしてしまったんで、そこからもうすごいストレスが出て。今まで頭の中、仕事しかないでしょ。家事とか子育てって、女房でしょ。でもそれを担うわけでしょ。『えっ』っていう感じから始まりましたから。もう自分の感情が抑えられないときがありました。子ども好きだったので、“子ども好き”、イコール、“子育てできる”と思ったら大間違いというのを1人で育ててたら気づいたんです」

また、育児をしていく中で、親の体調不良や、些細なことの積み重ねが大きなストレスになり、子どもに強くあたってしまっていた、と悩みを抱えている親たちも。

画像(コチョウランさん/ささいなことが積み重なりストレスに)

「朝の仕度が大変なのが何日も続いてイライラしているときとか。宿題出してなくて 学校から連絡が来ちゃって。特に何って感じではないですけど、何日かそういうのが続いて、それでキレてしまったり」(コチョウランさん)

自分の人間関係でストレスを抱えていた時、子どもに強く当たってしまったというポピーさん。

画像(ポピーさん)

「自分自身が精神的に追い詰められてた時は、本当に可哀想な事したかなって思ってた時期もありました。その当時は、この状況をなんとかしなくちゃっていう思いで、もがきました」(ポピーさん)

虐待が起きる背景や支援のあり方について研究している、日本女子大学 社会福祉学科教授の林浩康さんは、特殊な家庭が虐待を起こすわけではなく、一見、一般的な家庭でも孤立した育児や経済的な不安などが引き金となり、虐待につながる可能性はあると言います。

画像(虐待がおこる要因(虐待→子どもの保護は必要、養育困難→在宅で専門的な支援が必要、一般家庭→孤立化・ワンオペ育児・経済的な不安・子どもの特性など))

「報道されているような、死に至るような虐待は誰しも起こりうるものではない。ただ夫婦関係のストレスや、夜泣きが激しい、医療的なケアが必要だとか、そういうストレス要因が弱い立場にある子どもに向かっていくっていうことはありうる。あとで後悔しながらも、自分の行動が統制できないという状況に追い込まれることは、誰しもあると思います」(林さん)

画像

日本女子大学 社会福祉学科教授の林浩康さん

そのため林さんは、虐待を予防するためには一般的な家庭を支援することも必要だと考えます。

育児が困難だと感じる状況とは?

虐待の背景にはどのような要因があるのでしょうか。
哺乳類の親子関係や愛着行動について、脳科学の視点から研究をしている理化学研究所脳神経科学研究センターの黒田公美さんは、子どもへの虐待の罪で服役中の男女25名に詳細なアンケート調査を行いました。

すると虐待の背景には、夫婦の不仲や経済的な不安など子育て中のストレス、うつなどの親自身の精神的な問題、そしてつらい子ども時代を過ごした生育歴など複数の困難な要因が重なっていることが分かりました。

画像(理化学研究所脳神経科学研究センター 黒田公美さん 哺乳類の親子関係・愛着を研究)

「動物だったらひとつあっても子育てができなくなるような要因が、複数重なって、そういう事件に至るってことが分かったんですね。だからといって子どもを虐待していいってわけじゃない。そうなったら、とにかく親が自分の力だけで育児をするのは無理なときもあるのだと。物理的に親自身ができないってときは社会や周りが支援しなくてはいけない」(黒田さん)

配偶者との別離や病気など突発的な出来事で、子育てするのが難しくなる状況に追い込まれる可能性は誰にでもあります。虐待を行った親を「自己責任」と言って支援をしないでいると、そのしわ寄せは子どもにきてしまうと、黒田さんは指摘します。

かつて日本の多くの家庭では、両親だけでなく、祖父母や親戚も一緒に暮らして子育てをしていました。近所づきあいも盛んで、お互い気軽に子育てを助け合っていました。これが一変したのが「高度経済成長期」。団地など核家族向けの住宅が増え、男性の多くは会社や工場へ通勤し、子育ては主に母親が家庭という閉じられた空間で行うようになりました。

画像(イメージ:子育ては主に母親が家庭で行う)

子育ての負担が親に集中するなか、起きたのがオイルショック。経済が低迷し、児童手当の受給者がより限定されるなど、国からの経済的支援も期待できなくなりました。政府は「子どもの養育は家族の責任で行うよう努力すべき」という方針を打ち出し、社会全体にもそうした考え方が定着していきます。時代とともに孤立してきた子育て環境が、親を追い詰めていきます。

「育児ができないってことを周囲に言えない、『親として失格だっていうレッテルを貼られる』そういうスティグマ意識ってすごく強化されてるんじゃないかな。一方で、親の作品のごとく子どもをとらえる意識も強まっている。それが非常に過剰な責任感に行きつく場合もあるのではと思います。とくに日本の場合、ベビーシッターなんか子育ての手抜きだっていう意識を持っているかもしれないですよね」(林さん)

しかし、子どもを預けることは手抜きではなく、子どもにとって必要なことだと林さんは言います。

「預けるっていうと親側の都合のようですが、実はそうではなくて、預けられることで子どもの発達も促される。多様な人にかわいがられる必要性が子どもにはある。親だけがかわいがる対象ではないという意識が非常に必要。でも現実には、家族に子育てを一身に背負わせている側面はすごくあると思います。親自身が楽になっていくように、子育ての支援をしなくてはいけない」(林さん)

育児の相談をしたくてもできない

子育てがつらいとき、自治体などの窓口を利用するという手もありますが、実際はなかなか利用しづらいという声があります。

中学1年の双子の男の子を持つコチョウランさんは、夫や実家に子育ての相談がしづらく、子どもに手をあげてしまいそうなときには相談窓口に電話をします。

画像(コチョウランさん、困った時は相談窓口に電話する)

「無料の電話相談があるので、どうしようもないときはかけるんですけれど、すごい混んでいるので。なかなかかからなくて。どうしても聞いてほしいときは30回とかかけてもつながらない。聞いてほしいので『かかれ』みたいな感じで、祈るように押しています」(コチョウランさん)

虐待に関する電話相談の件数は年々増加しています。しかし、相談員が不足し、十分に対応しきれていません。ある無料相談は50回に1回、児童相談所でも全国平均で5回に1回しかつながらないことも。

画像(電話がつながる確率 無料の電話相談50回に1回、児童相談所 5回に1回<全国平均>)

一方、相談はできたが、納得いく答えが得られなかったという人も。

「育児ストレスで大変だった時に、周りに相談する相手がいなくって、子どもにあたってしまい、警察沙汰になったことも多々あって。保健センターの方に相談しまして、『あぁこれぐらい軽いとまだまだ大丈夫だね』みたいな感じで言われたこともありますし、よくありそうな相談の手引きみたいな、本にでも載ってそうなことしか返ってこなかったので、自分の中ではスッキリしませんでした」(キヌアさん)

公的機関の支援員でも、専門的な経験を積んできた人とは限らないといいます。
2年、3年で転勤を繰り返すような行政の仕組みの中では、初めて児童福祉士の仕事をする、ということが小さな自治体ではよくあり、専門職を維持していくことが難しい、と黒田さんは言います。

子どもへの虐待の問題は注目される一方で、悩む親への支援体制が整わないのはなぜなのでしょうか。

「見えないもの、例えば子どもの心の傷、親の辛さとか。そういう心理的な支援に対するリスペクト、重要性がやっぱりまだ十分に日本の行政には行きわたってないと思うんですね。例えば日本の医療って言うのは非常に質が高くて、骨折なんかすれば一晩待たされることなく、すぐに診てもらえるんです。でも、人間の心に対する、深い理解に基づいた福祉のあり方が、やっぱり欧米に比べると少しまだ遅れているんじゃないかなって思います」(黒田さん)

画像(黒田さんと林さん)

子どもへの虐待の問題は、一方的な親への批判だけではなく、社会全体で支援を考えなければいけない時期にきているのではないでしょうか。

虐待を防ぐには
ひとごとではない子どもの虐待 ←今回の記事
どう叱ればいいの?
もしものときの児童相談所
子どもが一時保護されるとどうなる?
“ちょうどいい”しつけで親も子もハッピーに

※この記事はウワサの保護者会 2019年5月25日放送「シリーズ 虐待を防ぐには①~親も助けてほしい~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。
※「#もしかして…虐待を考える キャンペーン」 詳しくはこちらのサイト

あわせて読みたい

新着記事