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外国人労働者の子どもたち 不就学ゼロを目指す取り組み

記事公開日:2019年11月08日

自動車関連の製造工場が集まる岐阜県可児市。市立蘇南中学校では、全校生徒900人のうち、外国人は150人。外国人生徒の支援に力を入れてきましたが、途中で学校に来なくなる生徒があとを絶ちません。今後5年間で最大34万人の新たな外国人労働者を迎え入れようとしている日本。増え続ける外国籍の子どもたちを、どう支えればいいのか。蘇南中学校に密着しました。

増え続ける外国籍の子ども

自動車関連の製造など多くの工場が集まる岐阜県可児市では、90年代から日系ブラジル人・日系フィリピン人などの外国人労働者を積極的に受け入れてきました。その数は増え続け、いま、人口10万のうち8千人に達しています。

画像(可児市の外国籍住民数のグラフ)

県最大の工業団地に隣接する市立蘇南中学校では、外国人生徒がこの10年で3倍に増加。全校生徒900人のうち150人に上り、学校は増え続ける外国人生徒の支援に力を入れてきました。

朝8時、登校時間が過ぎると静かだった蘇南中学の職員室が一変します。学校が独自に雇った4人の通訳が、まだ登校していない外国人の生徒に連絡をとるのです。この日は19人が無断欠席していました。生徒指導の竹内幸正先生は授業の合間を縫って、連絡の取れない生徒の家に1軒1軒出向きます。

画像(生徒指導主任 竹内幸正さん)

「基本はやっぱり来てほしいんですけど、とにかくちゃんとご飯をたべておるかとか、困ったことがないかとか、そういうようなことを中心にまず確認してからっていうことですね」(竹内さん)

ある日、1年以上不登校が続いていた日系フィリピン人生徒の両親が、子どもを退学させたいと相談にやってきました。

画像(学校に相談する両親)

母親「授業がわからないから、ここよりフィリピンの学校の方がいいって。本人が学校に行くのが嫌なのです。退学するしかありません。来日する前は問題なく勉強していました」
教頭「お母さんお父さんも一緒にフィリピン行くんですか?」
母親「彼の面倒は、祖父母が見る予定です」

日本の憲法では外国人に就学義務がないため、学校側には退学者を引き留める権限がありません。しかし、先生たちは粘ります。

画像(フィリピン人生徒の両親と面談する先生たち)

教頭「本当に辞めちゃって、いいですか?向こうで学校に、フィリピンの学校に行きたくないって言うことは、大丈夫かな…?」
母親「私がこちらにいるので、息子にも一緒にいてほしいんです。でも私自身、まだ決断できていないんです。息子本人がどうしたいのか、話をしてくれないと」
父親「問題は時間なんです。3時間残業をして、帰宅するともう9時か10時です。家から帰ると息子はパソコンの前です」
母親「朝は忙しいし、(息子と)話す時間はありません」

子どもと向き合う時間がないと嘆く両親。学校とは話し合いを続けることになりました。
可児市で働いている外国人労働者の多くは、派遣社員です。工場や介護など、深刻な人材不足を抱える職場を支えています。日系人は日本への定住が広く認められているため、最初は出稼ぎでも、あとから家族を呼び寄せて日本で暮らす人が増えているのです。

「不就学ゼロ」を目指す可児市の取り組み

可児市で外国人の子どもたちの「不就学」が問題化したのは2000年代初め。居場所がなく引きこもる、非行に走るといった実態が市の調査で明らかになりました。

2004年、可児市は全国に先駆けて外国人の「不就学ゼロ」を目指すと宣言。独自の対策に乗り出します。その対策の目玉が、来日した子どもたちが最初に通う施設「ばら教室」。費用は無料で、日本に早くなじめるよう、日本語だけでなく、日本の習慣や、学校のルールなどを3か月かけて学びます。

画像(ばら教室KANI)

ばら教室を修了すると、地元の小学校・中学校の普通学級へ。そこでもサポートは続きます。その中心が「国際教室」です。

画像(可児市の教育システム)

蘇南中学の国際教室では、教室でつまずかないよう、入学から2年間に限り、特別な補習を受けられるしくみになっています。少人数での個別指導で、ひとりひとりに合ったカリキュラムが用意されます。

画像(国際主任 鷲見靖子さん)

「母国ならそれなりにできていたのに、日本語になって、何を聞かれているのかわからない。先生、何を話しているのかわからない、何が書いてあるのかわからない、っていう状態になったら、私できない人なんだって感じることが増えてきて、自己肯定感をなくしていく。自分の力でなんとかなっていく人は頑張っていけばいいけれど、やっぱり支援が必要だと思うんです」(国際主任 鷲見靖子さん)

可児市はこうした取り組みを「子どもたちの未来への投資」と位置づけ、市の予算から年間8千万円を投入して支えています。手厚い取り組みで、進学率も向上し、蘇南中では外国人生徒の8割が高校へ進むようになりました。

しかし、不登校や長期欠席がなくなったわけでありません。蘇南中でも毎年十人ほどの生徒が退学し学校から姿を消しています。

突然呼び寄せられ、日本にも両親にもなじめない

ある日、生徒指導主任の竹内幸正先生に、1人の女子生徒の母親から相談が持ち込まれました。今年4月から1度も登校できていない、中学3年生のダーナさん(仮名)です。

画像(ダーナさん(仮名))

母親「どんな親でも子どもには学校を卒業してほしい。私は卒業できませんでした。教育を受けている人といない人では全然違う。(教育は)一生残るものだよ。誰にも奪えない自分だけのもの。それを理解して卒業してほしい」

担任「来たいな、と思っていてもめんどくさいなという気持ちが勝ってしまうのか。他に理由があるのか。前、先生には、学校じゃなくて帰国もしたいということもいったやろう」

ダーナさん「教室で退屈なの。話せる人がいない。話す相手がいない。授業が理解できない。やっても意味ないと感じるの」

竹内先生は、ダーナさんが学校に行きたい、という気持ちがあるのではないかと思い、「特例として国際教室からもう一度やり直していいから学校に来ないか」と呼びかけました。フィリピン人の友達がいる国際教室にもう一度通えることになり、ダーナさんに笑顔が戻ります。フィリピンで祖父母に育てられたダーナさんは、日本に出稼ぎに行った両親から12歳のときに突然呼び寄せられました。しかし、親にも学校にもなじめずにいました。

画像(生徒指導主任 竹内幸正さん)

「親としては、自分が先に日本に来て、生活の基盤を作って、子どもを迎える準備ができたから、よし子ども一緒に生活しようっていって、呼び寄せるんだと思うんですけど、そんな状態で思春期を迎えた子どもたちが、一緒に住み始めてお父さんとお母さんと、良い関係を築けるかというと、それはうまくいかないこともありますね。抱えている困難さが、一筋縄ではいかないので、みんなで協力して、大人が関係諸機関も含めてやっていかないと、やっぱりうまくいかないと思うんですよね」(竹内先生)

面談の翌日、学校に姿を見せたダーナさん。約束通り、1時間目は国際教室で竹内先生の国語の補修です。この日、机を並べたのは同じフィリピン人の3年生でした。

画像(ダーナさん)

「国際教室に行くと、フィリピンみたいだなって楽しい。フィリピンに帰りたいけど、お母さんが駄目って。だからしょうがないですね」(ダーナさん)

2時間目は、日本人に交じっての普通授業。3年生になって初めてクラスメイトと顔を合わせました。しかし、周りの子どもが笑っている中で、ダーナさんの表情はこわばったままです。2時間目を終えた休み時間、ダーナさんが職員室に現れ、家族の事情で早退したいと言います。竹内先生が母親に確認するため派遣会社に電話すると、母親はダーナさんを家に帰さないよう伝えます。

このあと、教室で続けて授業を受けたダーナさん。しかし、この翌日、ダーナさんは再び欠席。その後も登校できていません。

通いたくても通えない子どもも 支援の模索が続く

学校に通いたいという気持ちがあっても、家の事情で通えない子どももいます。中学3年生のマリアさんは、3歳のときに来日。日本語にも学校にもすっかり慣れました。しかし、去年から学校を休むことが増えています。

画像(マリアさん)

この日の放課後、自宅を訪ねてみると、マリアさんは去年生まれた姪っ子の子守りをしていました。夜勤が多い母親に代わり、マリアさんがことあるごとに面倒を見ていると言います。

画像(マリアさんの母親)

「本当はもう勉強しないといかんでしょう。来年で高校(受験)だから。でも(姪を)面倒見るのがいないから。しょうがない。仕方がない」(マリアさんの母親)

夜9時。高校受験を控えるマリアさんにようやく自分の時間がおとずれます。

画像(子守りをするマリアさん)

「高校とか、ちょっと自分の成績が悪いので高校に入れるか不安なんですけど。私が大学卒業して、ちゃんと世界に活躍する仕事に入って、お母さんにいままで育ててくれたお金とか生活とか全部恩返ししていきたいって思っています」(マリアさん)

蘇南中では、「国際教室」を希望する生徒の数が増え続けています。学力もばらばらで、きめ細かい個別指導が必要な子どもたち。今後さらに数が増えていくことは確実です。不就学ゼロへの取り組みを続ける可児市。蘇南中で起きていることは、全国の学校がこれから直面する未来です。子どもたちの未来のために、何ができるのか。教育現場の模索が続きます。

※この記事はハートネットTV 2019年9月18日(月)放送「カム・バック・トゥ・スクール~外国人労働者の子どもたち~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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