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【特集】発達障害アバター大集合(4) グレーゾーンの人が生きやすくなるには

記事公開日:2019年11月06日

特性や傾向はあるものの、発達障害と診断されるには至らない「グレーゾーン」の人たち。一見問題がないように見えるため、悩みや生きづらさを抱えていることを周囲に打ち明けても、なかなか理解されないと言います。語り合うなかで見えてきたのは、社会に合わせようと必死になる当事者の姿や、社会制度の遅れでした。

周囲とのズレにより仕事が続かない 利一さんのケース

仮想空間にアバターの姿で登場した6人の発達障害グレーゾーンの皆さん。悩みや生きづらさがあっても周囲に打ち明けられず、1人で抱え込みがちだと話してくれました。

そのなかの1人、利一さん(40代)は3年前、グレーゾーンと診断されました。対人関係が苦手など、ASDの傾向があると病院から言われたのです。

画像(利一さんのアバター)

利一さんは、こだわりが強く、1つのことにとことん集中する特性があります。とくに歴史が大好きで、地元の歴史を絵巻物にしてしまうほど熱中してきました。大学時代までは、周囲もその特性を「優れた個性」として受けとめてくれていたと言います。

画像(利一さんが描いた絵巻物)

ところが就職して社会に出ると、その特性が同僚とのコミュケーションを妨げることになりました。

「相手の出身地を聞いて、そこの歴史を調べて、次の日にその人に言ってみたり。だけど相手は歴史についてはまったく無関心だから、『へぇ』とか『ほぉ』で終わってしまう。だからキャッチボールにはならないですよね。長く勤めれば勤めるほどそういうズレが顕著に表れるようになった」(利一さん)

利一さんは、周囲との意思疎通がうまくできない自分を責め、転職を繰り返すようになりました。そこで過去の自分を見つめ直し、何が問題なのか探し出そうと考えました。子どもの頃からの出来事をたどって、苦手なことや欠点を洗い出したり、欠点を克服するために、人間関係を学ぶセミナーや、様々な心理療法も受けたり…。

画像(利一さんが書いた苦手なこと)

しかし結局、解決の糸口は見つかりませんでした。一方で、公的な就労支援を利用しようとしましたが、発達障害の診断がないグレーゾーンでは、適用されませんでした。

3年前、7度目の転職をして、現在は精密機器の製造工場で働く利一さん。しかしそこでも特性への配慮は得られませんでした。

そして同僚との関係を一層悪化させる出来事が起こりました。自分の仕事を早く進めるために、同僚の仕事にまで手を出して、勝手に作業してしまったのです。怒った同僚に怒鳴られ、利一さんはショックを受けました。

画像(実際の利一さん)

「自分がよかれと思っていたことが、相手にとっては真逆に取られてしまっている。だからなでもかんでも自分のやっていることに対して自信をなくすというか。ほかに方法があるなら教えてほしいですね、本当に」(利一さん)

社会に適応しようと必死になる当事者

ほかの当事者の皆さんは、利一さんの様子をどう見たのでしょうか。

けたけたさん(20代)は、衝動性が強い、マルチタスクが苦手など、ADHDの傾向があると病院から診断されました。現在は二次障害でうつを発症し、休職中です。給与が下がり、自主退職を勧められました。

画像(けたけたさんのアバター)

「自分も仕事を始めてから特性の悪いところが見つかった。その点が利一さんと共通しているので、とても他人事とは思えません。実際、私もそれで処遇を下げられた身なので、曖昧なグレーゾーンではなく、むしろ逆に黒(発達障害)だったほうが配慮とかしてもうことができて、もう少し精神衛生的にもよかったのではないかな、という気持ちが自分の中ではすごく強くあります」(けたけたさん)

げんぶさん(30代)は、興味の偏りがあり、対人関係が苦手です。社会に適応しようと、自分の興味に引きずられないために、自分なりの工夫をしています。

画像(げんぶさんのアバター)

「何かをする、結構大事なことをする前に、紙とかにメモで書いて、手順を頭の中で1回整理してから、作業や言葉をしゃべるようにはしてます。その準備をすることで心にも結構余裕ができるので、そういう対処の仕方をしてますね」(げんぶさん)

チャーミーさん(20代)は、少し前の出来事を忘れてしまうなどADHDの傾向があると、家族から指摘されています。

画像(チャーミーさんのアバター)

「僕の場合は、本当に短期記憶が弱くて、自分の記憶力というものが本当にあてにならないなというのを社会人2年ぐらいでかなり痛感しまして。たとえば商談に行って、30分なり1時間話して、店を出た瞬間に全部忘れている。そこで、商談で話したことを全部メモして、終わった段階で自分宛てにメールを送信して帰るという流れにしました。帰ってやらなきゃいけないことは全部メールボックスにある、終わったものから削除する、という感じでやり始めて。それでもだいぶ抜け漏れがあるんですけど、かなり減らすことはできたかなという気はしてますね」(チャーミーさん)

自分の特性をカバーするために人知れず努力しているチャーミーさん。他人からは「できる人」に見られているようです。一見外からはできているように見えるけれど、プライベートでは必死に努力するあまり疲弊しきっているという人は、けっこういるのではないか、と感じています。

発達障害に詳しい児童精神科医の吉川徹さんも、チャーミーさんのような当事者が多いと指摘します。

画像(児童精神科 医師 吉川徹さん)

「人一倍、気力や体力や時間を使えばできてしまうことって割とあると思うんですよね。体調がいいときにはできるとか。そうすると、自分も自分に対する期待も高まるし、周りの方の期待も高くなるし。それに応えようとしてやってると、どんどんどんどん、疲れてきちゃうというのは割と経験されている方が多いのかなという気はしますね」(吉川さん)

発達障害の複雑さに追いついていない社会

どうにか社会に適応しようと必死になっても、限界を感じてしまうこともあります。利一さんも限界を感じるなかで、ある変化がありました。

同僚とのトラブルでさらに追い詰められた利一さんは、改めて病院で診察を受けました。職場での人間関係に支障をきたしていることをふまえ、医師から発達障害の診断がおりました。

利一さんは今後、障害者手帳を取得し、障害者を対象にした就労支援を受けたいと考えています。

画像(医師からおりた診断結果)

「ずっと生きづらさは感じてきたままですし、そういった意味では社会的にはグレーゾーンではなくて、はっきり障害と言えるんじゃないかなと思います。手帳という『見える化』ができたというのがいちばん大きな変化だとは思うんですけど、そういう施設を利用させていただくことで、サポートを受けられるという点では、とても助かる部分が大きいと思っています」(利一さん)

利一さんは発達障害の診断がおりましたが、一方で「グレーゾーン」のままの当事者は、困っていても支援が受けにくい現状があると吉川さんは指摘します。

「医学研究のレベルでは、発達障害の1つ1つのいろいろな特性というのは、それぞれグラデーションであって、強い方から弱い方までいるということははっきりしてきているんです。でも実際の医療サービスや、福祉サービスについては、グラデーションで対応するための仕組みがまだ整っていないので、診断のある/なしで対応することになる。それでやっぱり皆さんすごく苦労されているというところはあるんだと思います」(吉川さん)

グレーゾーンのままでも生きやすい優しい社会へ

グレーゾーンの人たちがグレーゾーンのままでも生きやすくなる方法はないのでしょうか。

オムさん(30代)は、注意の欠如や衝動性の強さなど、ADHDの傾向があると病院から診断されています。2年前に発達障害グレーゾーンの当事者団体を設立した経験をふまえ、こう話します。

画像(オムさん)

「1つあるのが、無意識に自分と人を比べてしまうというところ。つまり、人に比べて自分がこれができないとか、ああいうのができたらいいのにな、とうらやんだりとか。そういう感情は自然かもしれないけれど、ある意味、自分を苦しめているのかなと感じます。なので、比べるのは常に過去の自分とか未来の自分と比べるというふうに、ちょっとだけ見方を変えてみると、私はすごく気楽になります。それでも、ときにひどく自己嫌悪に陥るときもまだあります。それはそれで、つらいと感じる自分を否定しないで、じゃあ、自分どうしていきたいのかな、というのを考えるようにはしてはいます」(オムさん)

まいこさん(30代)は、複数人との会話やテンポの速いやりとりが苦手だと病院から診断されています。今回の語り合いが始まったときは緊張している様子でしたが…

画像(まいこさんのアバター)

「いま、この場所にいるのはすごく居心地がいいと感じています。やっぱり職場にいると、違う自分にならないといけない、頑張ろうとするけどできない。それで、自己否定みたいなことになる。ここでは皆さんそれぞれ苦手な部分があるというのが分かって、共感しあえているこの場所がすごく居心地がよくて。多様性を認めてもらえる優しい社会、いろんな人がいるということをみんなが関心を持って、それをちょっとでも受け入れてもらえるような優しい社会になれば、もうちょっと生きやすくなるのかなって思います」(まいこさん)

なかなか表に出にくい、発達障害グレーゾーンの問題。当事者の皆さんが抱えている悩みや生きづらさを発信する機会が、これからも必要とされています。

【特集】発達障害アバター大集合
(1)自閉スペクトラム症とバーチャル空間
(2)自閉スペクトラム症のひとの困りごと
(3)グレーゾーン当事者が抱える生きづらさ
(4)グレーゾーンの人が生きやすくなるには ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2019年11月6日放送「シリーズ 発達障害アバター大集合 “グレーゾーン”のひと集まれ!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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