発達障害の中でも、こだわりの強さや対人関係が苦手などの特性があると言われる自閉スペクトラム症の人たち。しかし、バーチャル空間のなかではコミュニケーションがとりやすいということがわかってきました。そこで今回はバーチャル空間に番組セットを用意。当事者のみなさんにはアバターの姿で登場していただき、自閉スペクトラム症の人が抱えている困難についてお聞きしました。
今回、番組ではバーチャル空間に普段のハートネットTVの番組セットを作りました。出演者は、VRゴーグルをつけてパソコンの前に座り、バーチャル空間上のセットの中に入ります。こうした形をとった理由は、発達障害の人たちの中には、このようなバーチャル空間だとコミュニケーションがとりやすい人がいると、わかってきたからです。
発達障害は主に3つに分類されます。不注意や落ち着きがないなどの特性があるADHD、読み書きや計算が苦手なLD、人とのコミュニケーションが苦手という特性があるASD(自閉スペクトラム症)です。
※診断基準により定義が異なります。
今回、注目するのはASD(自閉スペクトラム症)の人たちです。実際にどのような困難を抱えているのでしょうか。児童・発達が専門の精神科医・樋端佑樹さんにもアバターの姿でご登場いただき、お話を伺いました。
「(ASDの人たちは)興味を持っているところ、見ているところ、感じているところが違うので、どうしてもズレが生じやすい。リアルタイムでのやりとりの流れについていくのも難しい。声の調子や、表情などいろんな他の情報に引っ張られちゃって、実際のコミュニケーションが難しいという方もいると思います」(樋端さん)
自閉スペクトラム症の人たちが抱えているコミュニケーションの難しさは、どのようなものなのでしょうか。
すずさんは9年前、自閉スペクトラム症の1つ、高機能自閉症と診断されました。
部屋に入ると、衣服やダンボール、本などがたくさん積み上げられています。なかには7年前の新聞もありました。すずさんはゴミの分別の仕方に強いこだわりがあり、片づけが進まないと言います。
「これはリサイクルプラですし、カタログ類は、本来は生協に返すものですし。これをそのまますぐに燃えるゴミの袋に入れるわけにはいきません。自閉のこだわりの特性が現れているのかもしれません。こだわりを曲げるのはつらいです。泣く泣くこだわりを曲げたこともしょっちゅうです」(すずさん)
すずさんは、市役所に勤めて20年になります。大学院で数学を学び、数字に強いすずさん。経理伝票の審査を任されています。
かつては、窓口対応の部署にいたものの、お客さんとの会話がうまくできず、異動となりました。相手の話を聞いて、その内容をすぐに理解することが難しいと言います。
「耳から入ってくる言葉だけですと、すぐに内容を理解することも難しいですし、とくに私の場合、聞いた言葉がドライアイスのように聞いた端からどんどん溶けてしまって…。その話を聞いた直後でさえ、一字一句再現することが難しい」(すずさん)
自分が言いたいことを伝えるのにも、整理の時間が必要です。
「言葉の組み立てに苦しみます。その用件を聞いてから、少なくとも、言葉として表せるように説明を作らないといけないので、そのときはものすごくエネルギーを消耗すると思います」(すずさん)
そんなすずさんが、楽しみにしていることがあります。インターネット上の仮想空間、セカンドライフです。
アバターの姿で発達障害の仲間たちと交流しているのです。コミュニケーションの手段は文字でのチャット。
J.J.さん「最近気分は安定しているんだけど、夜眠れないことが多くて、今日は16時起きをやらかしてしまいましたw」
すずさん「漢方オススメです!」
朋さん「私はハーブティを飲んでみたら、すとん!と眠れてしまいましたよ」
miuさん「( ..)φメモメモ」
仲間たちとの会話が進むにつれ、すずさんの顔からは自然と笑みがこぼれます。
「口で話すときほどタイミングを気にしなくて済むような気がします。あんまりタイミングがずれるとワケわかんなくなりますけど、1行2行出遅れるぐらいでしたら、大目に見てもらえることがほとんどのようです。やっぱり、耳で聞く情報よりも、目で見る情報の方が、自分にとっては処理しやすいのかな、という気はします。普段より断然楽です」(すずさん)
アバターの姿になると、いつもより本来の自分が表現できるというすずさん。自分のアバターの姿には猫を選びました。
「猫は、気ままに動く特性があるというようなことが書いてあったような気がするんです。だったら、自分はもう猫みたいなもんだなと。もともと空気を読むのが難しい、ということもありますし…。気ままに動くことが許されるんだったら、それが一番楽です」(すずさん)
現実では会話をするのが苦手なすずさんでしたが、バーチャル空間ではスムーズにコミュニケーションをとることができていました。
「現実だと相手の表情を読んだり、タイミングを見たりしなければいけなくて、それだけで疲れちゃうのですが、チャットだと本当に純粋に情報だけやりとりできるところがメリットなのだと思いますね。また、生身の自分をさらすのはすごくしんどい場合もあるので、そこでアバターがあると、少し楽になるのかなと思います。診察室でも、ぬいぐるみを持って来られる方がいたり、僕のところもぬいぐるみを置いていたりして、そちらに話してもらったり、ぬいぐるみ同士で話させたりみたいなことで、ずいぶんコミュニケーションがスムーズにいく方もいます。人形やアバターに、守ってもらえるという感じもあるのかもしれないですね」(樋端さん)
いま、自閉スペクトラム症の人たちがバーチャル空間上に集まれる居場所を作ろうという動きが始まっています。その動きに携わっているこーさんにも、アバターの姿で登場していただきました。
こーさんは3年前、自閉スペクトラム症のひとつ、アスペルガー症候群と診断されました。
「コミュニケーションとか予想外のことに対する対処が苦手なのが本来の自分なんですけど。そこを無理して頑張って合わせて、過剰にその環境に適応してしまって、表面上は適応しているように見えるんですけど、中身はストレスが溜まっているというような状況です」(こーさん)
こーさんは、発達障害の人たちの居場所を作りたいと、カフェで当事者が集うイベントをひらくなど、工夫してきました。しかし、こーさんの元には、「当事者が集まる場所に行きたくても、人づき合いが苦手で行けない」という声が数多く寄せられています。
そこでこーさんは、インターネット上で集える居場所を作ろうと動き始めました。バーチャル空間でイベントを開催できるサービスを使って、「オンライン当事者会」を開こうというのです。
どんな会にしていけばいいのか。この日は、賛同してくれた発達障害の友人と一緒に、仲間たちの意見を聞くことにしました。
こーさん「もしオンラインで当事者会があったら、何が聞きたい?」
「みなさんの発達障害と診断された経緯を知りたいです」
「お金の使い方、恋愛、ライフハック、を聞きたいです!」
「パニックになったときの対処法とか」
オンライン当事者会について、当事者から寄せられたたくさんの意見を目にしたこーさんは、期待に胸を膨らませます。
「すごく可能性があるなって感じています。リアルのコミュニケーションとか、今の一般の社会で求められるコミュニケーションみたいなところとは別のスタイルで、リアルに会うだけではないっていう選択肢になればいいなと思います。困りごととか、気分的に落ち込んでしまったときの対処法をみんなでアイデアを出して、『こんな風にしてます』とか聞けるといいかもしれないですね」(こーさん)
いよいよ動き出したオンライン当事者会。次回はその様子をお届けします。
【特集】発達障害アバター大集合
(1)自閉スペクトラム症とバーチャル空間 ←今回の記事
(2)自閉スペクトラム症のひとの困りごと
(3)グレーゾーン当事者が抱える生きづらさ
(4)グレーゾーンの人が生きやすくなるには
※この記事はハートネットTV 2019年11月5日放送「発達障害アバター大集合 自閉スペクトラム症のひと集まれ!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。