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発達障害の診断 その2 子育てが難しい子どもについて考える

記事公開日:2019年10月28日

少子化の時代になって、子どもの数は年々少なくなっています。8割近くの子育て世帯で子どもは1人か2人であって、多くの親が子どもと向き合う初心者です。そんな中、わが子が育てにくいと感じて、思い悩む親も少なくありません。なぜ自然に言葉を話すようにならないのか、なぜ予測できない行動をとるのか、なぜ気持ちを通じ合わせることができないのか。そんなときに、発達障害をめぐるさまざまな声が聞こえてきます。子育ての中心に置くべきは何なのか。小児科医の榊原洋一さんと考えます。

医師の診断を妄信しない

その1では、自閉スペクトラム症の診断に過剰診断・誤診が増えていることをお伝えしました。そのような事実を知ると、保護者の医師への信頼性が薄れるかもしれません。しかし、小児科医の榊原洋一さんは、「医師を信頼していただけるのは大変ありがたいですが、もともと発達障害は、定型発達との境界線があいまいで、早急に結論を求めると、誤診が生じやすいことを前提に考えていただく方がよいと思います。医療機関を受診する際には、障害があるかどうかの診断にこだわるよりも、子どもへの接し方やサポートの仕方を相談するぐらいの気持ちでいてほしい」と話します。

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小児科医の榊原洋一さん

いま榊原さんのような専門医の元には、子育てで苦労している保護者の方々が診断を求めてやってきます。発達障害であってほしくないという不安な気持ちがある反面、発達障害であれば子どもの不適応は自分の子育てのせいではないので、ホッとできるという気持ちも合わせもっていると言います。親の中には、たとえ診断が誤診だったとしても、支援や療育の機会が得られるので問題ないと考える人もいるようです。

榊原さんはそのような親の気持ちはよくわかるとしながらも、子育て不安を解消したいという思いと、診断結果の真偽とは分けて考えるべきだと言います。子ども本人にとっては、医学的な診断名が下るというのは、重大な問題だからです。

「発達障害の診断名は軽いものではなく、日本社会では子どもの人生の進路を大きく左右することもあります。例えば、自閉スペクトラム症という診断名が付くと、保育園や幼稚園で入園を断られる場合もあります。就学の際には教育委員会から、普通教育ではなく、特別支援教育を受けるように促されることもあります。日本はインクルーシブな教育環境をめざしていると言いますが、発達障害の早期発見・早期支援が促進されることで、むしろ地域で暮らす子どもを障害のあるなしで分ける傾向が強まっているというのが現状です」(榊原さん)

親にしても、自閉スペクトラム症と診断されて専門機関の支援を受けるようになると、一時的に子育ての苦労から解放されたように感じるかもしれませんが、今度は障害を意識した子育てが求められることになります。また、学校の教員や他の保護者に自分の子どもに対する理解を働きかける必要が生じる場合もあります。正しい診断に基づいているなら適切な対応ということになりますが、過剰診断や誤診に基づくものなら、たんに子育ての新たなストレスを増やすだけになります。

「医療機関で発達障害の診断を下されたとしても、診断名に納得がいかなかったり、時間をかけて十分吟味されたものではないと感じるのなら、他の医師の診断によるセカンド・オピニオンをぜひ求めてほしい」と榊原さんは話します。

発達障害にまつわる誤解

榊原さんは、発達障害の研究と医療に長年携わり、著作や講演活動を通じて啓発活動も行ってきました。近年の認知の広がりには成果を感じていますが、一方で発達障害をめぐって、正確な知識ではなく、誤解が広がっていることに戸惑いも覚えているそうです。

いまもっとも気になっているのは、発達障害という言葉があたかも診断名であるかのように流布していることです。発達障害は、注意欠如多動症、自閉スペクトラム症、限局性学習症の3種類の独立した障害の“総称”に過ぎません。3つの診断名は、それぞれ医学的に異なった脳機能障害によって起こることが明らかにされていて、その特徴も治療法も違っています。

しかし、多くのメディアが「発達障害の人はこだわりが強い」というように、総称と3つの障害の数ある症状のいくつかを漠然と結び付けるために、あいまいなイメージが広がり、個別の障害の理解が深まっていくのを妨げていると、榊原さんは感じています。例えば、こだわりの強さは自閉スペクトラム症の症状のひとつであって、他の障害の症状ではありません。また、それは一般的なレベルではなく、「こだわりの程度や対象が異常」として特徴づけられるものです。

厚生労働省のホームページや専門医が監修する家庭向けの医学書などには、3つの障害について詳しく書かれたものがあります。子どもをサポートしていくためには、あいまいなイメージに振り回されることなく、それぞれの障害の医学的な特徴を踏まえて子どもの成長を見守ることが大切だと言えます。

発達によって障害が乗り越えられる

「発達障害は個性の凸凹である」という言い方も広がっていますが、これも誤解を生むことになると、榊原さんは否定的です。障害者差別を避けるためによく使われる表現ですが、障害を個性という“固定した特性”にたとえてしまうと、「発達によって障害が乗り越えられることがある」という事実が見えなくなってしまうからです。

例えば、注意欠如多動症には、「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特徴が見られますが、抑制機能の発達が追い付いてくる小学校の高学年になると多動はかなりおさまってきます。多動以外の症状も、治療の有無にかかわらず思春期以降は軽快すると言います。注意欠如多動症の子どもの20~30%は思春期以降には症状がなくなり、約半数の子どもは症状が大幅に改善し、日常生活での支障はほぼなくなるとされています。

医学的には、これらの現象を英語で「outgrow アウトグロー」と表現するそうです。一般的な意味としては悪癖や悪習が成長とともに自然消滅していくことを表します。だからこそ、ある一時点の検査だけで発達障害という診断を下すのには慎重でなければならないのであって、子どもの発達に寄り添う姿勢が必要とされるのです。

画像(おもちゃで遊ぶこども)

榊原さんのところでセカンド・オピニオンを受けた子どもの中に、3歳半まで言葉が出ず、意思疎通が難しかった子どもがいて、自閉スペクトラム症という診断を受けていました。発語が遅れると、知的障害や自閉スペクトラム症を疑われることがよくあるそうです。

私たちは言葉が出ないというと、言葉の表出だけを思い浮かべますが、榊原さんは、たとえおしゃべりができなくても、名前を呼ぶと振り向いたり、言葉の内容に反応することができるなら、言語理解はできているのであって、やがて言葉は話せるようになると言います。その子どもも自然と言葉が出るようになり、いまでは母親との会話も成り立つようになり、自閉スペクトラム症が誤診であったことが明らかになりました。

榊原さんは、発達障害のある子どもであっても、細かく見ていけば、変化は日々起きていて、症状も移り変わっていくと言います。発達障害の早期発見・早期支援が求められるのは、発達障害を治したり、症状を改善させるのが第一目的ではなく、子どもがストレスを感じないように支えるためではないでしょうか。私たち大人が向き合うべきなのは障害ではなく、子ども自身の育ちそのものなのだと思います。

執筆者:Webライター木下真

発達障害の診断
その1 早期発見にともなう誤診の増加
その2 子育てが難しい子どもについて考える ←今回の記事

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