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“依存症”からの回復【後編】 新たな家族支援「CRAFT」とは?

記事公開日:2019年10月07日

本人だけでなく、家族をも巻き込んでしまう“依存症”。早い段階で家族が依存症に気づき、対応を変えることができれば、回復の可能性が高まります。そこで、いま注目されているのがアメリカで開発されたCRAFT(クラフト=コミュニティの強化と家族トレーニング)というプログラムです。CRAFTを実践している医療機関を取材し、依存症の新たな支援について考えます。

新たな家族支援「CRAFT」

長年にわたり依存症の治療に取り組んできた、徳島・上板町の藍里病院。副院長の精神科医・吉田精次さんがCRAFTと出会ったのはいまから10年前。当時、吉田さんは依存症の人の家族をどう支援すればいいか深く悩んでいました。本人が治療を受ける気がない場合、困っている家族を目の当たりにしても手の出しようがなかったのです。

画像(藍里病院・副医院長、精神科医・吉田精次さん)

そんなときに吉田さんが見つけたのが、アメリカで開発され、画期的な成果を上げていたCRAFTでした。

画像(家族向けテキスト「あなたの大切な人にもう飲ませないために~小言や懇願、脅しの代わりに」)

CRAFTでは7つのプロセスを通して、本人を治療につなげるための正しい知識と対応を学んでいきます。なかでも最も重視しているのは、コミュニケーションスキルの改善です。そこには家族が本人に対し小言を言ったり、説教したりせずに関わる方法とその効果が示されていました。

画像(「藍里病院におけるCRAFTの効果」の円グラフ。経過観察14%、定常改善24%、治療開始62%(2013年2月~2014年7月))

藍里病院にも導入したところ、これまで治療を拒否していた人の60パーセント以上が治療に結びついたという結果が出ています。

CRAFTを受けた圭子さんのケース

CRAFTとはどのような方法なのでしょうか。マンツーマンの個別プログラムを受けた圭子さん(仮名)のケースをご紹介します。

画像(勉強会に参加している圭子さん(仮名))

圭子さんが息子の薬物依存に気づいたのは2年前。すぐに息子を叱りつけ、やめるように説得しましたが、聞く耳を持たず、次第に手に負えなくなりました。どうすれば息子が治療を受けてくれるのかを考えたすえ、圭子さんがたどり着いたのがCRAFTでした。カウンセラーの臨床心理士・小西友さんと一緒に考え、息子との関係を改善するために最初に実行したのは、小言をできるだけ減らすことでした。

画像(臨床心理士・小西友さん)

「何かあったら叱りたいし、注意したくなるのは当たり前だと思いますが、そればかりになってしまうと、聞く側は反発してしまったり、耳を塞いでしまったり。まずは話をできる関係になるというのを狙いに」(小西さん)

小言を減らした効果は意外に早く現れました。2回目のセッションのときには、それまで食事以外に顔を合わせることのなかった息子が、一緒にテレビを見て話をするようになったのです。親子で過ごす時間をもっと増やすために息子にどんな言葉をかけるか2人は話し合いました。

「『こんな時間がとれてうれしいな』『一緒にテレビ見たり、まったりした時間がうれしいな』みたいな。小西さんに書いていただいたメモを見て、口で練習、復唱しながらやってたんです。でも実際、本人が前にいると、その言葉がすんなり出てこなくて、ただニヤニヤしているだけで終わってしまったんですけど。ただ、そのニヤニヤしているのを見て、彼もニヤってした感じで、すごくうれしかったです」(圭子さん)

CRAFTでは本人をどのように治療に結びつけていくかについても学びます。圭子さんは、息子に治療を進めるタイミングや、誘い方について、小西さんと何度も話し合いました。

「『お母さんがこちらに相談に来てすごい楽になったよ』って言って、『もし悩んでいるんだったら1回相談に行ってみる?』っていう言い方で誘ってみますか、ということを教えてくださいました」(圭子さん)

圭子さんがCRAFTを始めた1月後、息子もようやく病院で診察を受けました。現在も通院を続け、薬物に手を出さずに暮らしています。

「いまではアルバイトも始めて、穏やかな生活が過ごせています。以前以上にコミュニケーションも良くなったし、いまは幸せだなって思います」(圭子さん)

CRAFTのコミュニケーションスキル

国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦さんは、CRAFTを次のように説明します。

画像(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 松本俊彦さん)

「依存症は本人が気づくよりも先に周りが困る病気。また、本人はとにかく治療を受けたくないというのが、基本的な病像です。そのなかで一番影響力のある家族に、本人をその気にさせるようなコミュニケーションをしていただくことを具体的に伝えるプログラムだと思います」(松本さん)

CRAFTのコミュニケーションスキルは、1,肯定的、2,「私」を主語にする、3,理解を示す、4,責任を共有する、の4つで構成されています。

画像(CRAFTのコミュニケーション・スキル)

1, 肯定的 「お酒を飲むあなたは嫌い」→「お酒を飲んでいない あなたが好き」

「『お酒を飲むあなたは嫌い』と言われると、『嫌いなんだ』というふうに反発しますよね。そこでむしろ良い部分のことを言う。『お酒を飲んでいないあなた、とてもいいね。すてき』と言ってあげる。その方が本人には伝わりやすいし、聞く耳を持ってくれます」(松本さん)

2, 「私」を主語にする 「酔っている姿を子どもに見せたくないから、控えろよ」→「酔っている姿を子どもが見るのは、私はとても悲しい」

「『あなた』を主語にすると命令口調になります。『お前なぁ』とか『あなたはね』と言われると『批判されるな』と必ず身構えます。依存症の人たちは命令されるのがとても嫌です。だから『あなたをコントロールするつもりはないよ、でも私が思うのは勝手だよね』というスタンス。本人に相手の主張がスッと伝わりやすい。『酔っている姿を子どもに見られると私は悲しい』と自分の気持ちを軸にして言うことがとても大事です」(松本さん)

3, 理解を示す 「今日は飲まずに帰ってきなさい」→「仕事が終わったら飲みたくなるよね。我慢するのは大変だと思うけれど、早く帰ってきてくれたら私はうれしい」

「『飲まずに帰って来てほしい』と言うだけではなく、『確かに仕事が終わった後はストレスもあるし、癒しのために一杯飲みたくなる気持ちはわかるよ』と示してあげて、『でも自分たちとしてはこういう風にしてくれるとうれしい』と伝える。相手の立場を少し理解してあげている感じの言葉を投げかけることですね」(松本さん)

4, 責任を共有する 「なんで飲むの!」→「飲まずにいるために、私にできることある?」

「ご家族の心情を考えれば、家族の責任みたいな言い方をするのは嫌だと思いますが、本人が心を開きやすくするためにはただ責めるだけではなくて、『あなたがお酒を飲んだり、薬を使ったりする背景には私にも少し責任があるよね。だから何かできることないかしら』という投げかけです」(松本さん)

1~4のスキルによって、家族のコミュニケーションを改善していくことが重要です。
しかし、家族にとってこれらのスキルは我慢を要するもので、簡単ではありません。「散々な目に合わされてきた相手に対して、なぜそこまでしないといけないのか」と感じる家族もいるかもしれません。松本さんは、「そう思うのは当然」と理解を示しながらも、一歩踏み込んだ対応が必要だと言います。

「家族が一番に願っていることは『本人がアルコールや薬物を止めること』のはずです。にもかかわらず、本人に伝わっていたのは自分の憤りや怒りだけ。そこで、ご家族に『一番伝えたいことが、一番効果的に伝わる技術を使いましょう』と伝え、交渉術のプロのようになっていただく。それが本人の回復の近道だということを伝える方法なのです」(松本さん)

圭子さんのケースでは、CRAFTを始めたことでコミュニケーションの通路ができました。松本さんは、この通路が今後、本人に思いを伝えることに役立つと言います。

「家族の思いが本人に伝わりやすいコミュニケーションのあり方に変えていくことが一番大事。最終的にこのプログラムが目指しているのは、まず1つは『本人が治療につながること』、そして何よりも重要なことは『ご家族が笑顔を取り戻すこと』です。家族が病めば病むほど、依存症は猛威を振るう。ですから家族が元気になるということが非常に大事で、CRAFTはそれを重要な目的の1つに挙げています」(松本さん)

今後の家族支援

依存症の治療法として注目されているCRAFT。しかし、日本ではCRAFTを学べる機会や施設はまだ多くありません。今後、依存症の家族支援に必要なのはどのようなことなのでしょうか。

「相談窓口の充実、それから相談を受ける側のスキルの向上が必要だと思います。依存症からの回復は、まずは家族の相談から始まります。それからもう1つ、家族は非常に恥ずかしいという気持ちを持っています。その気持ちに援助者側が十分に配慮する必要があるし、さまざまな啓発活動を通じて『依存症になることは決して恥ずかしいことではない』と伝えていくことが必要だと思います」(松本さん)

「薬物依存症は病気であると、広く社会に知っていただくことが必要だと思います。まだ現在、刑罰で終わらしているという状態で、治療や福祉が諸外国に比べたら30年も遅れています。ですから、治療施設ダルクや、医療機関、相談機関がどんどん行きやすく、相談できるような体制に整うと助かると思います。そして、家族が必要な知識や対応を身につけるのは時間がかかるので、家族会などの自助グループに通い続けることが大事です」(全国薬物依存症家族連合会理事長(当時) 林隆雄さん)

画像(全国薬物依存症家族連合会理事長(当時) 林隆雄さん)

依存症は病気であり、個人の人間性や親の育て方の問題ではありません。そして正しい理解や支援があれば回復することが可能な病気です。依存症への理解を広げ、回復しやすい仕組みを作っていくことが求められています。

“依存症”からの回復
【前編】家族の苦しみと回復への道
【後編】新たな家族支援「CRAFT」とは? ←今回の記事

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※この記事は福祉ビデオシリーズ『“依存症”からの回復』(NHK厚生文化事業団・制作)「第3巻・家族を支える」を基に作成しました。

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