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手話放送プロジェクト(2)収録の裏側に密着!

記事公開日:2019年08月27日

NHKの人気番組に手話をつけて放送する、「手話放送プロジェクト」。2019年7月、NHKのスタジオで収録が行われました。監修や出演もろう者が行うこの番組。いったいどんな内容になるのか、プロジェクトの裏側をご紹介します。

手話を通じた新しいテレビの楽しみ方

海外の舞台では、ろうの俳優や聞こえる手話通訳が1人の役として劇中に組み込まれた、感情豊かに表現している演目が多くあります。このプロジェクトでも、エンターテインメントとして楽しめるよう、監修をろう者に依頼。出演するのも、ろう者です。

監修の廣川麻子さんが、このプロジェクトについて語ってくれました。

画像(監修の廣川麻子さん)

「字幕だけではやはり細かい状況、雰囲気、ニュアンス、強弱、スピード感が伝わりにくい面があります。ですけど手話の場合ですと、体全体で表現します。ですから言葉の速さ、強弱、まさに喜怒哀楽といったものが伝わりやすくなります」(廣川さん)

今回のプロジェクトで手話をつける番組は、昔話を個性的な出演者が一人芝居で演じる『おはなしのくに』。子どもに大人気の長寿番組で、取り上げるのは渡辺直美さんが演じる「きんたろう」と、壇蜜さんが演じる「つるのおんがえし」です。そしてもうひとつが、熱烈なファンの多い『ドキュメント72時間』。取り上げるのは、とある老人ホームの3日間に密着した回です。

今回制作を担当するのは、ろう、難聴、聞こえる人で組まれた合同チーム。声だけでなく、音楽をどう伝えるか? 聞こえる・聞こえない、手話を日常的に使う・使わない、それぞれの立場から意見を出し合います。

画像(会議の様子)

自身が難聴の長嶋愛ディレクターはこのプロジェクトの狙いをこう話します。

画像(長嶋愛ディレクター)

「今回の番組は聞こえない人だけのために作っているのではなくて、新しいテレビの楽しみ方みたいなのをやりたくて。ろう者の人にも『今までより番組が楽しくなったな』って思ってもらいたいし、聞こえる人にも、『こういう番組の楽しみ方があるんだ』と見てもらえたらいいなと思っています」(長嶋ディレクター)

「おはなしのくに」の音楽をどう表現するか

新しいエンターテインメントを目指すという今回の試み、試行錯誤は続きます。
この日は、出演者が初めてカメラ前に立つリハーサル。通常の手話通訳とは大きく異なる演出で、役に応じた衣装をつけて演じます。「きんたろう」役を担当する、ろう者の馬場博史さんは、赤い前かけを身に着けて演じます。馬場さんの動きを見ながら、監修の江副悟史さんが細かくチェック。

画像(監修の江副悟史さんと、きんたろうを演じる馬場博史さん)

表情、手話のスピード、視線の方向。ワンカットワンカット、手話による綿密な打ち合わせが続きます。音楽や効果音は、手話と小道具を組み合わせた表現をすることにしました。担当するのは、ろう者の竹村祐樹さんです。

きんたろうが相撲をとるシーンでは、聞こえる人にはなじみ深い「相撲太鼓」の音が入っています。相撲だとすぐに分かり、場面により入り込むことができる音表現です。そこで、竹村さんに太鼓を叩きながら登場してもらうことにしました。しかし、今回、目指すのはエンターテインメント。ただ叩くだけではなく、竹村さんも馬場さんの動きにあわせて、見合って寄って…と、まるで相撲に参加しているかのような動きを取り入れました。

さらに工夫したのは物語の最後の音楽表現です。立派な侍になった金太郎のバックで流れるBGMを、まずはどんな曲調なのか、聞こえない人たちに聞こえるスタッフが説明します。

聞こえるスタッフ「きんたろうのテーマを、楽器を変えて壮大に聞こえるようにしている。いかにもラストっぽいよ」
長嶋ディレクター「ほかの音楽より、ここだけなんとなく可視化したほうがいいんだろうなっていうのは何かあるんだけど、その理由が説明できなくて」
聞こえるスタッフ「そういうこと、最後だから、盛り上がるところだから」

そこで生まれたアイデアが・・・

江副さん「指揮者のピシッと終わるときのいちばん最後の最後、音楽が終わるときのイメージ。小澤征爾さんのイメージですね」

ラストシーンは竹村さんに、タキシード姿で指揮棒を振ってもらい、壮大な音楽がかかっていること、物語が高まりの中、幕を閉じることを表現してもらいました。

画像(竹村さんがタキシード姿で指揮棒を振る、物語の最後のシーン)

「ドキュメント72時間」あの主題歌が手話に

『ドキュメント72時間』では、「きんたろうのテーマ」以上にスタッフが表現方法を悩んだ音楽がありました。松崎ナオさんが歌う番組のテーマソング「川べりの家、」です。

聞こえる人にとっては、番組タイトルを見ると、まっさきに歌詞やメロディが思い浮かぶほど印象的な楽曲。番組にとって欠かせない要素になっています。今回のプロジェクトでもこの曲を、どのように表現するのがいいのか、何度も打ち合わせを重ねました。そして、たどりついたのが、松崎さんによる歌と手話の融合です。

元の『ドキュメント72時間』では、通常、松崎ナオさんの姿は映し出されません。しかし、今回は音楽の世界観が少しでも伝わるよう、松崎さんに出演してもらい、そのすぐ隣でろう者のダンサー、emiさんが手話とダンスで曲を表現することにしたのです。

生まれつき聞こえないemiさん。収録にあたっては、「川べりの家、」の歌詞を何度も読んで楽曲のイメージを膨らませる一方で、手話通訳者に曲のリズムを把握するための映像を作ってもらい、手話とダンスの練習を重ねてきました。

そうして松崎さんとemiさんがコラボしたすばらしいパフォーマンスの撮影も無事終了!延べ3日間に及んだ『手話で楽しむみんなのテレビ!』の収録が終わりました。

画像(松崎ナオさんとemiさん)

収録後、松崎さんとemiさんは、今回の収録をこう振り返ります。

「今回いちばん難しかったのは、手話とダンスをリズムにあわせることでした。松崎さんの歌詞はさまざまな解釈、受け取り方ができると思いますが、私なりの歌詞のイメージを手話とダンスで表現しました。放送を見ていただいた方に、少しでも『川べりの家、』のメロディを感じてもらえたり、こういう表現もあるんだと知ってもらえたらと思います」(emiさん)

「元の『ドキュメント72時間』で曲が流れるときも、放送の内容や映っている映像によって、私自身、受ける印象が変わるんです。だから、手話とダンスがついた映像を見て、自分がどんなふうに感じるのか楽しみですし、この番組を通じて、たくさんの方に曲に触れていただけるのがすごくうれしいです」(松崎さん)

試行錯誤を重ねて、声や音楽はどのように表現されたのか。ぜひ番組を見てお確かめください。『手話で楽しむみんなのテレビ』は2019年8月28日(再放送2019年9月4日)に放送します。どうぞお楽しみに!

手話放送プロジェクト
(1)手話の新たな可能性を目指して
(2)収録の裏側に密着! ←今回の記事
(3)放送を終えて。番組に込めた思い

※この記事は2019年8月17日(土)放送 ろうを生きる 難聴を生きる「手話で楽しむみんなのテレビ!」での取材を基に作成しました。

手話放送「おはなしのくに」、こちらからご覧になれます。

「手話で楽しむみんなのテレビ!動画集」はこちらから

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